第29話 嫁作ギャルゲーパート2with百目鬼 マナコ その3

「……う、ゔぅ、ゔゔぅぅ…」

「いつまで泣いてんですか」

「だっで、だっで、ごんな救いようのない話あるがよぉぉおお…!!」


コメント:ごめん、今回ばかりはマナコちゃん側に立つわ。おんもっっ。

コメント:嫁さんのも大概やけど、MAICもめちゃくちゃ重かった。

テラス嫁:旦那も似たような体験二回してる。

コメント:人生が地獄すぎる。

コメント:6人分の地獄をたった一本のゲームに凝縮するな。

コメント:ってか、個人の過去をこんなに赤裸々に語ってええの?

MAIC:もうインタビューで言ってるし、別にキミの口から語ってくれてもいいよ。

コメント:↑うわ出た。

コメント:本人来るのほんま草。

コメント:世界的アーティストがこんな配信に来るな。


常連の過去を軽く語ったところ、涙腺を殴られたのかと思うほどにぼろぼろ涙を流すマナコさん。

僕はソレをなんとか宥め、コメント欄のざわめきに目を向ける。

ああ、本人が来てしまった。

仮にも世界的アーティストとして活動している歌手が、こんな地獄を煮詰めた配信に来ないでほしい。

「コイツのことだから、ただの野次馬根性なんだろうな」と思いつつ、僕は日にちが進んだところで、その日付を確認する。


「あー…。この日は確か、常連と行動しなきゃダメな日ですね」

「…自殺じゃねぇよな?」

「違いますよ。そっちは2週間後です」

「そんな来週の予定を言うみたいに軽く言える字面じゃねぇんだわ。

…で、なんのイベントなんだ?」

「例の誘拐犯が懲りずにコイツ攫いに来るんです」

「そんな軽く言うことじゃねぇよ絶対!!」


コメント:なんでこんな狙われるん?

MAIC:私が完璧美少女だから。

テラス嫁:↑コイツの実家があり得へんほどのスーパー金持ちやから。

コメント:MAICのは冗談のつもりなんだろうけど、リアルでルックス強者だから否定できない…。

コメント:生まれながらに勝ち組かぁ。

コメント:うらやま。

MAIC:↑へー?ソレが原因で親友死んだ人にそんなこと言うんだー?へー?

コメント:ごめんなさい。軽率でした。

コメント:軽率でした。ごめんなさい。


発言には気をつけろ。無自覚に犯す罪ほど重い罪はないんだぞ。

そんなことを思いつつ、僕はカーソルを常連のアイコンに合わせる。

思い出の中とそう変わらない胡散臭い笑みを浮かべ、僕との行動を喜ぶ常連。

コイツ、気を許していない相手には、表情ですら嘘で固めるからな。

コイツのぎこちない表情を見たのは、このゲームに出てる面々だけじゃなかろうか。


『そういえば、もうすぐテストですけど、大丈夫ですか?』

『うん、大丈夫!パーフェクトに仕上げてるよ!』

『……中間全教科赤点の人から飛び出す言葉ではありませんね』

「…MAICって勉強できないのか」

「できないってか、やらないだけです。

暇さえあれば作曲してるようなヤツなんで。

……お、来ましたよ」


ハイエースに連れ込まれるイラストが差し込まれ、コメント欄が阿鼻叫喚に包まれる。

…今思い返しても、なんで僕も巻き込まれたんだろうか。

いや、目撃者にならないよう、一緒に攫ってしまえばいいやって思ったんだろうけど。

ロード画面を経て、柱に括り付けられた2人のイラストが画面に映った。


『いいか、お前たちは人質だ。

余計なことをしたら殺すからな?』

「あー、そうそう。人質ドラマのテンプレみたいな脅し文句でしたね。

コイツらの正体、なんと僕ん家の裏の家に住んでた家族なんですよ」

「もうお祓い行けよ」

「神職してるコトバさんの両親から『なんも憑いてない』って言われました」

「ソレはソレで余計に怖いわ」


コメント:なんにも憑いてなくて、これ…?

コメント:霊的な何かに巻き込まれてたほうがまだ救いようあった気がする。

コメント:コトバ様でも嫁さんでもいい。教えてくれ。先生の体って銃創ある…?

テラス嫁:↑アンタみたいなカンのいい視聴者は嫌いやで。

コメント:どんな人生送ったら現代日本で銃創なんて出来るんだよ。

コメント:今画面に映ってるぞ。

コメント:無知を晒してごめんやけど、銃創ってなに?

コメント:銃弾で出来た傷跡。

コメント:ヒェッ…。

コメント:割とやってるけど、こんなイベント見たことないんだが…。

コメント:発生条件激ムズだったりする可能性アリ。

テラス嫁:↑正解。一定以上の好感度ないと無理やけど、攻略情報抜きじゃ達成できん。

コメント:シビアな条件付きイベント多すぎんか、このゲーム…?

コメント:↑ソレを初見でクリアした猛者がここの主やで。

コメント:強い。


僕の人生をゲームみたく言うな。

…いや、ゲームにはなってるんだけど。

かつて撃たれた肩あたりが、ひどく疼いているような気がする。

コイツら、自分のトラウマをほじくり返してでも僕に嫌がらせしたいのか。

そんなことを思いつつ、イベント内にて選択肢が現れる。

これ、間違えたらゲームオーバーの可能性あるよな。正解知ってるけど。

僕はカーソルを「煽る」に合わせ、決定した。


『へぇ。無関係な少女1人を殺した上、懲りずにこんなことをするあたり、よくもまあ自分らの杜撰な計画がうまく行くと思えますね。

羨ましいですよ。その頭のおめでたさが』

『……口には気をつけろよ』

『ゔっ…!?』

「うぇっ…!?う、撃たれたぞ!?

大丈夫なのかよ!?」

「実際そうしましたもん。あの時、賭けられるものなんて、僕の命くらいですし」

『は、ははっ…。こんなガキに図星突かれて鉛玉ぶち込むとか、程度が知れますね…』

「いくら仲良いからって、覚悟決まりすぎてるよ、アンタ…」

「……まあ、この時は安全が保証されてましたし」

「へ?」


画面の中の僕が罵詈雑言を吐き捨て、誘拐犯たちを煽る。

と。銃声が響き、画面の中の僕が肩の痛みをありったけの語彙を振り絞って表現する。

…正直、「あり得ないくらい痛い」くらいしか思わなかったんだが。

それでも構わず、僕が息も絶え絶えにヘイトを自身に向ける。

瞬間。轟音のSEが差し込まれ、逆光に包まれた2人分のシルエットが、一枚のイラストとして差し込まれた。


『ウチのバイト2人を迎エに来マしター。

…死ヌ覚悟は出来てンダろォな?』

『姉さんに言われてるんだ。

「ゼリーも食えないようにしてやれ」って。

慈悲は期待するなよ、人殺し』

「…店長さんと、嫁さんの妹か?」

「正解。嫁が僕に発信機を付けてたらしくて、近場にいたゴリラ・ゴリラ・ゴリラ2匹を派遣してくれたんですよ」

「…スペックは?」

「1人は元傭兵、1人はプロ野球選手と同等の速度で石を連投するフィジカルモンスター」

「……それ、犯人死なね?」

「全治三ヶ月で済みました」


コメント:初手で投石して手ェ砕いてる…。

コメント:そんな速度で石投げられる妹さん何者だよ(困惑)

コメント:テキストからもわかるけど、店長の動きが手慣れ過ぎてる。

コメント:なんで場末で万年赤字の喫茶店なんてやってんだ?

コメント:こんなんリアルでおるん…?

テラス嫁:↑おる。

言霊 コトバ:↑いる。

MAIC:↑いる。

コメント:証人3人の説得力が凄すぎる。

コメント:嫁さん、発信機付けてたの?

テラス嫁:好きな人のことはなんでも知りたいやろ?ゴリラーズを呼んだのは「あわよくば死ぬか後遺症出ろ」って思ったから。

コメント:↑愛も殺意も重すぎる…。

コメント:重くなっても仕方ないことしたからな、テラス先生。

コメント:待て。安全が保証されてるってわかってて煽ったってことは、自覚があるレベルで日常的に発信機付けられてたってこと…?

テラス嫁:↑重ね重ねアンタみたいなカンのいい視聴者は嫌いやで。


犯人の方が可哀想になる勢いで蹂躙劇を繰り広げる2人に、マナコさんの喉から乾いた笑いが漏れる。

マナコさんとヒメさんは、同じようなこと出来そうな気もするが。

そんなことを思いつつ、僕はモノローグのテキストを進めた。

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