第20話 嫁作ギャルゲー その3

「ほーん…。ストーリーは基本的に恋愛パートと謎解きパートに分かれている…と。

……全部答え知ってますけど、大まかなミステリー要素、変えてますよね?」


テラス嫁:当たり前やろ。答えのわかっとるミステリーほどつまらんモンあるかいな。

コメント:え?これ、ギャルゲーでは…?

言霊 コトバ:↑ヒント。「怪談配信でぶっ込まれた『目玉のない女性の遺体』を先生は直視してる」。

コメント:あーね(白目)。

コメント:死体を見慣れてるってことでは?

コメント:↑ヒェッ…。

コメント:コイツ推理マンガの主人公か?

テラス嫁:↑いんや、ヒロイン枠。旦那の実家は探偵事務所。義母さんが弁護士。

コメント:オウフッ…。

コメント:役満じゃねぇか…。


失敬な。探偵って言っても、猫探しとか浮気調査だけだぞ。殺人事件なんて回ってこないに決まってるだろ。

誤解を招く言種はやめろ、と思いつつ、記憶を探ってみる。

小3、親友の飛び降り自殺に遭遇。PTSD発症。精神科にお世話になった。

小5、課外授業で登った山にて、熊にやられたであろうバラバラ死体を発見。心因性の拒食症に。しばらく点滴で栄養補給してた。

中1、嫁に騙されて心霊スポット巡りに付き合わされていたところ、事件性のある白骨死体を発見。この頃から、死体に何も感じなくなってきた。

そして、思い出すことすら億劫になるほどのエトセトラ、エトセトラ…。

……ミステリー世界の住人かな?

いや、笑い話じゃないんだが。高二まで治らなかったトラウマなんだが。


「で、今は恋愛パート、と。

…流石に細かい部分は覚えてませんが、双子と一緒に帰ることにします」

『ウチと帰る?…勝手にしぃ』

『姉さんに変なことをしてみろ。即座に警察に突き出すからな』

「この素っ気ない態度、懐かしい。

あ、もうこの時点で自殺の日取りも決めてたんですっけ?」


テラス嫁:言うなやボケ。引き摺り回すぞ。

コメント:「ヒロインと一緒に帰る」ってワクワクするイベントのはずなのに、悲壮感しか伝わってこないの何故?

コメント:↑ヒロインが死ぬ気満々だから。

コメント:コイツの青春おかしいよ…。

コメント:そりゃ性格捻じ曲がるわ。

コメント:教師時代はどうやったん?

言霊 コトバ:↑目玉無し殺人事件以外は特に物騒なこと起きなかったよ。

コメント:コトバ様が言うならそうなのか…?

コメント:いや待て。コトバ様、三年くらいしか世話になってないんだぞ?コイツ、十年は教師やってたんだぞ?

コメント:全然信用ならんやんけ…。

コメント:報道されん事件とかあるからなぁ。


余計なことを言わないでほしい。

コトバさんにそんなことを言っても無駄だろうな、と思いつつ、テキストを流し読む。

…全然喋らないな、この三人。いや、嫁は誰とも関わり合いになりたくないとか思ってたから、仕方ないのかもしれないが。

喋っても世間話くらいで、甘酸っぱい雰囲気はカケラもない。

ただただ「重苦しい空気」と言うことをありったけの語彙を振り絞って説明する主人公に、僕はため息を吐いた。


「この時の僕、『気まずっ』くらいしか思ってませんでしたよ?」

『じゃあ、また明日。…怪我が早く治るといいですね』

『……治らんよ』

「あー、これ『自殺するから治らない』とか思っての発言ですか。

あの時、こんなん言ってましたっけ?」


テラス嫁:言うわけないやろ、お前が勘付くやろが。演出に決まっとるわ。

コメント:↑勘付かれて自殺止められた人がなんか言ってる。

コメント:前々から旦那に当たり強いと思ったら、コレあれだ。ツンデレキャラの「ツン」の部分が出てるだけだ。

コメント:↑めっちゃ的確で草。

コメント:三十路のツンデレ…。需要ある?

コメント:人妻を足してみろ。めちゃくちゃある。

テラス嫁:↑ごめん、そういうのやめてもらえる?

コメント:アッハイ。

コメント:マジレスやん。


思うと、相当限界だったんだろうな。

そんなことを思っていると、場面は一気に変わり、2日目の放課後になった。

ステータスを見ると、少しだけだが、嫁と妹の好感度が上がっている。

一緒に帰るだけでも上がるのか。結構ハイペースだ。

ミステリー要素も入れたから、要点だけを詰め込む気だな、と思いつつ、「どこの部活に入りますか?」という選択肢の中から、美術部にカーソルを合わせる。

確か、「どっかの部活には絶対入れ」とかいう、今思い返しても謎の制度があり、適当に美術部を選んだんだっけか。

そんなことを思いつつ、出迎えた先輩のテキストを流し見る。


『美術部に入ったの?』

『はい。絵とかは描けませんが、先輩の絵が気になって』

『お世辞はいいわ。気味の悪い絵としか言われないもの』

『いえ、お世辞ではありません。絵のことは詳しくないですが、先輩の絵は好きです』

『……っ!いいね、君!私の絵の素晴らしさがわかるのね!?』

『え、あ…。まあ、いい絵だなと思います』

「『彼女の絵が気になった』ってのは、確かにありますね。この頃から闇の深いテーマを落とし込むのが上手かったです。

ま、顧問に軒並み『気味が悪いからダメ』とか言われて、コンクールに出せずじまいだったんですが」


コメント:無能やん。

コメント:億の絵にNG出すとか、節穴過ぎん?

コメント:いや、学生時代からそのレベルの絵を描けたわけじゃないだろ。

言霊 コトバ:↑個人のサイトで販売してたのは千万で売れたとか本人に聞いた。

コメント:節穴でしたわ…。

コメント:…あれ?コトバ様、ヨイヤミ フチロとも知り合いなん?

言霊 コトバ:奥さん経由で知り合った。ここにいるヒロイン全員めっちゃ仲良いよ。恋敵なのに。

コメント:は???

コメント:よし、腹を切れテラス。

コメント:今こそ輪切りになる時だ。

テラス嫁:ボロカス言うとる視聴者さんへ。控えたかんな?

コメント:↑ごめんなさい。

コメント:奥さんが強すぎる…。


余計な火種をぶち込んだ生徒には後で説教をしようと思う傍ら、先輩の絵を褒めちぎる。

この人、大人しそうな顔してるけど、自己承認欲求がバケモノ並みだからな。

それこそ、「自分の絵を認めない奴は全員死ね」とか素で思ってるレベルで。

まあ、彼女の家庭環境を鑑みれば、そんなふうになっても仕方ないのだが。

「吉澤 ウミの好感度が上がった!」というメッセージを流し読み、場面を切り替える。

映ったのは、レトロな雰囲気の喫茶店。

懐かしい。高校、大学と長い間働いていたバイト先だ。

ひょっとこの面を被った店長と、嘘つき女に迎えられ、懐かしさに目頭を抑える。


『やあ、○○○クン。今日も来てるヨ』

『やっはろー。○○○くん、待ってたよ』

『今さっき来たばっかデショ』

「あ゛ー…、なっつ…。僕、高校、大学とこの喫茶店でバイトしてたんですよ。

で、この女はそこの常連で、結構な頻度で弾き語りしてたんですよね。

今コイツどうしてるんですっけ?」


テラス嫁:こないだ映画の主題歌とかアニメのオープニングとかやってたやろ。

コメント:↑それやれるの、売れてる歌手か声優なんよ。

コメント:コイツらの交友関係イズ何?

コメント:あ、BGM変わったぞ。

コメント:…ん?あれ?この声、MAICでは?

コメント:↑挿入歌にMAICの未公開曲使ってるてよ。

コメント:マジで!?

コメント:また天才の無駄遣いしてる…。

コメント:コレが、個人制作のギャルゲー…?

コメント:先生の人生を生い立ちからまとめるだけで本出来そう。


だから、僕の黒歴史いじりに本気出しすぎだろ。

眉を顰めつつ、歌い終わった彼女と会話を交わしていると。

突如として、何かがぶつかるような音が響いた。


「あー…、この時、確かあれでしたね。

この嘘つき女が人間不信をさらに拗らせた、悪質ストーカー事件。

あーあー…。こんなことまで忠実に再現しなくていいのに」


コメント欄が阿鼻叫喚である。

それも無理はない。イラストには、黒塗りにはなっているものの、明らかに無惨なことになっている猫の死骸があったのだから。


「…これ、犯人コイツのクラスメイトだったんですよね。死骸投げつけたのは、僕が彼氏に見えたかららしいです」


瞬間。コメント欄から一斉に「ネタバレすんな!」と叱られたのは、言うまでもない。

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