第19話 嫁作ギャルゲー その2

『僕の名前は○○ ○○○。今日からこの私立双葉高等学校に通う高校生だ』

「導入はめちゃくちゃ普通のギャルゲーですね。…ギャルゲーなんて、嫁に勧められたDD○Cくらいしかやったことないですが」


コメント:それギャルゲーちゃう。ホラゲーや。

言霊 コトバ:地獄が始まってしまった。

コメント:↑恐ろしいこと言うなや。

コメント:この先生だから、アホな騒動にばかり巻き込まれてるんだろうなぁ。

コメント:待て。先生のこと割と何でも知ってるコトバ様が「地獄」とか言うんだぞ?

コメント:また目のない仏さんとか唐突に出てきたりするのか…(白目)

コメント:↑バカやめろ!!


よりエグいのが出てきます。

口が裂けてもそんなことを言えるわけがなく、僕はゲームのテキストを進めていく。

当たり障りのない自己紹介と意気込みが書いてる。

なんだ、「新生活頑張るぞ」って。こんなの1ミリも思ったことないわ。せいぜい「もう高校生かあ」くらいだったわ。

そんなことを思っていると、嫁をモチーフにした…というより、嫁をそのまんまイラスト化した少女が画面に現れた。

唯一違うことといえば、目が死んでることくらいなものだろうか。


『……久しぶり』

『はて。誰だっただろうか。知己の仲ではあるみたいだが、こんなに生気が感じられない少女に見覚えはない』

「未来の嫁のことボロクソ言いますね、コイツ」


コメント:コレ嫁さんかぁ…。嫁さん!?

コメント:目が死にすぎてない?

コメント:先生が嫁さんって言うことは、イラストは割とリアルまんまなのか。

コメント:頭に包帯しとる…。

コメント:これがどうなってクソガキみたいな性格の奥さんになったんだ…?

コメント:↑コレからわかるゾ。

コメント:キャラボ付きだけど、コレ奥さんの声?

言霊 コトバ:違う。変なとこで知り合い多いから、声優とか雇ってると思われ。

コメント:概要欄から販売サイト飛んだ。全員声優じゃねぇか!!

テラス嫁:ギャラもキッチリ払ってるで。残高吹っ飛んだ。

コメント:ガチでどんな交友関係してんの?


ここ5年は別居してたのだ。その間にできた友人までは流石に把握していない。

まさか僕の黒歴史いじりに本気出してくるとは思わなかったが。

そんなことを思いつつ、当時を思い返す。


『あまりの変わりように気がつかなった。

彼女の名前は真田 モミジ。中学3年の頃、親都合で離れてしまっていた僕の幼馴染だ』

「嫁は中学の一時期引っ越してましてね。

そこがまあ、排他的な農村でありまして。

姉妹ともども激烈にイジメられた挙句、階段から突き落とされた時に打ちどころが悪すぎて死にかけたって凄絶な体験までしたので、こんな有様になったわけです。

二人とも、変に隠すのが上手かったんで、親御さんもなかなか気づけなかったんですよ。

で、こんな村に居られないってなって、高校進学とともに蜻蛉返りしてきたわけです。

元に戻すのに苦労しました」


コメント:ヒェッ…。

コメント:先生の周りが地獄すぎる。

コメント:お前、前世で何したん?

コメント:↑教師やで。

コメント:違う。そっちの前世じゃない。

コメント:頭の包帯はその時の傷か。

コメント:そりゃ目も死にますわ…。

言霊 コトバ:信じられるか…?コレと同レベルの闇抱えたのがあと四人いるんだぜ…?

コメント:↑地獄か?


残念ながら現世である。

誰がマシとかない。全員が全員、育った環境のせいで社会に適合できないレベルでひん曲がっていた。

ウチの嫁なんて、その中でも特にメンタルが弱かったから、転校した一年で心が砕け切っていた。


『おい、○○。姉さんに何の用だ?

姉さんをそうも見つめるとは、姉さんの肌に汗の一滴でも幻視したのか?

汗フェチもここまで極まると気色悪いな、モルヒネでもやったのか?さっさと死ね』

『と。僕の目の前に、椛さんとよく似ながらも、凛とした印象を受ける少女が立つ。

彼女は椛さんの双子の妹、真田 百合。

目元にびっしりとクマが重なっているのと、頭を包帯で覆っている以外は、僕の記憶の中にいる彼女そのままだ。

が、昔よりも僕に当たりが強い。何故だろうか』

「今も強いですよ。塩対応じゃないですもん。岩塩対応ですもん。

まあ、ガチめのシスコンクソレズなんで、仕方ないかも知れませんが」


コメント:義妹の脳を破壊したのか…。

コメント:そりゃ塩対応にもなるわ。

コメント:会うたびにこのレベルの罵倒が来るとか、普通に心折れるんだが?

コメント:ちょい待て。奥さんの妹も頭怪我してるよな…?

コメント:あっ…。

コメント:クソレズは兎に角、敵意剥き出しシスコンにならざるを得ない理由はわかった(白目)。

コメント:まだ始まって10分も経ってないのに話が重すぎる…。

コメント:↑テラス先生がキャラクターの根幹部分を先にネタバレしたからな…。

コメント:コレ現実だったとかヤバすぎない?

コメント:コイツの青春、ハードモード過ぎるだろ。


全くである。なんで同級生がキャッキャウフフしてる横で、カウンセラーの真似事をしにゃならんかったんだ。

…思えば、当時の教師陣があまりにもボンクラすぎたのが教師という職を選んだキッカケだったのかもしれない。

優秀だったら自殺寸前まで追い詰められてる女が四人も出てくるわけがない。

美術部なんて、短期間に2回も命を絶とうとしたんだぞ。

じゃあ自殺を選ばなかったやつはマトモだったのかって?

画面の向こうでも殺意を剥き出してるクソレズな時点でお察しだ。

展開が読めている…というよりは、実際に体験している身として、ギャルゲーの皮を被った何かを前に辟易しつつ、ストーリーを進めていく。

と。しばらく歩くと、背の低い少女が、僕の髪を指差した。


『そこの方!入学早々に校則を破るなんて、どんなチャレンジャーですか!?

その微妙な金髪を元に戻しなさい!!』

『…地毛です。これ、証明書』

『え?…あ、ご、ごめんなさい…』

「懐かしい。いちいち説明するの面倒だったんで、2日目は地毛証明書のコピーを全身に貼り付けて登校しましたねぇ」


コメント:普通だったら「嘘乙」とかいうんだけど、先生だったらやりそうって思える。

コメント:先生も大概アホでは?

言霊 コトバ:割とみんな知ってるし、本人もあんまり恥ずかしく思ってないみたいだから弱みとしてカウントできない。

コメント:先生のメンタルが無敵すぎる…。

コメント:画像あったぞ。ボ○てで使い回しされてる。

コメント:↑それは草。


生徒会長の名前は…『佐川 マリ』か。どいつもこいつもバッチリ偽名じゃないか。

なんで僕だけ本名を晒されてんだか。

そんなことを思いながら、コメントを横目で見やる。

まあ、大喜利で使えそうな絵面ではあったな。全身に地毛証明書貼り付けたアホ。

まさか本気で使い回されてるとは思わなかったけど。

教室に入ると、「久しぶり」というテキストと共に、金髪を腰まで伸ばした少女が姿を現す。


『久しぶりって…、いや、昨日も会いましたよね?』

『あーそうだった!駅で会ったよね!』

『いえ、僕のバイト先で』

『そうそう!ファミレスで!』

『喫茶店です』

「あー、コイツ。コイツの自殺阻止、めちゃくちゃ大変だったんですよ。

嫁の自殺を止めてまだ一ヶ月で、足の骨も繋がってなかったんで、現場に向かうのだけでも一苦労でした。

この後に二人控えてるぞって当時の僕に言ったら、どんな顔するんでしょうね」


コメント:え?

コメント:は?

コメント:ヘイ、コトバ様。コレまじ?

言霊 コトバ:マジ。後遺症のせいで歩き方がちょっと変。手もよくよく見ると震えてる。

コメント:少なくともヒロインのうち四人は自殺図るのか…(白目)

コメント:ギャルゲーちゃう。鬱ゲーや。

コメント:コレ、やり直し効かない上に攻略本ナシの状態でやってのけたってマジ?

テラス嫁:↑マジやで。

コメント:コイツの人生クソゲーでは?


人生なんて、だいたいクソゲーだろ。

使うコントローラーもバラバラだし、使える技もランダム。

右も左も分からない最序盤でレベリングを済ませないと詰むし、些細な失敗でクリアが不可能になる。

なんなら、特定のクリア条件もない。

ただ、僕のはゲームオーバー要素が多すぎるだけで、皆同じクソゲーをプレイしてることには変わりないと思う。

『徳川 ミコ』と名乗る少女のテキストを流し読み、そんなことを思っていると。

場面が変わり、部活見学の時間になった。

まだキャラクター紹介の段階であるためか、行けるのは美術室のみ。

カーソルもそこから動かせない上、他の場所がブランクになっている時点でお察しだ。

美術室に訪れると、一人の少女が一心不乱に絵を描いている一枚絵が画面に映る。

このゲーム初の一枚絵、コイツでいいのか?

そんなことを思いつつ、僕はボタンを押した。


『………なに?戻ってきたの?』

『戻ってきた…?』

『…ああ、新入生か。

少し待って。もうちょっとで完成するから、感想を聞かせて欲しい』

「美術部はほぼ全員が幽霊で、真面目にやってんのこの人だけでしたねぇ。

絵は上手かったんですけどねぇ…。絵は」


コメント:この絵のテイスト、なんか見たことある。

コメント:こないだ個展やってた『ヨイヤミ フチロ』じゃないか?それっぽい。

コメント:↑誰それ?

コメント:↑めっちゃすげぇ画家。億の絵とかザラにある。不気味なテイストが特徴。

コメント:見てみた。地雷系の女が好みそうな色合いが多いな。

テラス嫁:正解。フチロちゃんやで。因みに、この絵はこのゲームのためだけに描いてもらったヤツな。

コメント:↑天才の無駄遣いやめろ。


億の値がつく絵を、こんなクソゲーで公開するな。

そんなことを思いつつ、『吉澤 ウミ』と名乗る少女と軽くやり取りを交わす。

ここから始まる地獄を前に、僕は深いため息を吐いた。

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