第15話 教師コラボ その1
「今日もいっぱい加護を与えましょう!聖川 シェスタと!」
「いい加減挨拶を決めろと事務所にせっつかれてます、陽ノ矢 テラスです。
教え子にこのコラボのこと話したら『炎上確定演出』とか言われました。
いつも燃えてるんですけどね」
コメント:最近まで社会の地獄を見てきた連中だ、面構えが違う。
コメント:今も見てんだよなぁ…。
コメント:テラス先生、どう足掻いても挨拶が殺伐としそうって思うの、俺だけ?
コメント:せっつかれてんなら考えろw
コメント:もう燃え慣れてるやん。
コメント:前の職場ほどじゃない定期。
コメント:↑そんな定期ない定期。
コメント:お前らネットでキャンプファイアーでもするん?
キャンプファイアーに関しては、コトバさんにもおんなじこと言われた。
あの本性を見るに、シェスタさんはかなり過激な発言をするらしい。
ボヤ騒ぎ程度に留められたらいいな。
不倫とかやましいことしてないのに、なんで燃えるんだろうか。
…不倫出来るほどモテるわけではないが。
「早速、企画の説明行きますよ!
今回の企画はズバり!『教え子のヤバさ自慢大会』でーす!」
「燃えません?」
「大丈夫です!私は雪子ちゃんのヤバさを自慢するので、あなたはコトバさんのヤバさを自慢してください!」
「……コトバさんがコメント欄で暴れてますよ」
言霊 コトバ:やめろ!!やめろ!!!!
コメント:↑必死すぎて草。
コメント:雪子氏出てこなくない?
コメント:出てくると思ったんやけど…。
白百合 スノウ:やめてくれさいこれ以上恥を晒したくないです。
コメント:↑あ、来たわ。
コメント:もう手遅れやぞ。
コメント:はよ!痴態はよ!
コメント:生きがい。
…こんなくだらない経験談でも、誰かの生きがいにはなってるのか。
そんなことを思いつつ、僕はコトバさんのやらかしエピソードを吟味し始める。
一晩中語り明かせる程にネタがあるが、中には放送禁止用語が絡みそうなものもある。
どうしたものか、と頭を悩ませていると、シェスタさんが語り始めた。
「では、雪子ちゃんのやらかしその1!
『高2の時、小石を蹴りながら帰ってたら、あり得ないほど道に迷いまくって、二日くらい帰れなかった』!!」
「えぇ…?」
白百合 スノウ:ギャァアアアアアアッ!?
コメント:小学生以下で草。
コメント:バカやん。
コメント:↑シンプルな罵倒好きw
コメント:珍事に慣れてる先生でも困惑するくらいのやらかしw
言霊 コトバ:もうここで終わってくれ。
コメント:コトバ様のバカエピソードまだ?
「警察も動いたのよー」と呑気に言うシェスタさんに、僕は表情を引き攣らせる。
ウチの生徒に匹敵する残念さだ。
流石は秒速でフリー素材になった女である。
正直、折檻でもないのに教え子の痴態を晒すのは気が引けるが、同時に彼女へのこれまでの鬱憤が溜まっている自分もいる。
が。結局、僕の良心は鬱憤にあっさりと負けた。
「翌日授業あるくせにオールでカラオケした後に学校来たことが6回はありましたね。
その日の授業、全部寝てた上に、ノートに書いてるの『さくらんぼ』だけでした」
「…カラオケ?」
「カラオケ」
言霊 コトバ:楽しいからいいじゃん!!
コメント:↑教えてあげるね。普通、明日学校ある日にやるモンじゃないの。
コメント:バッカでぇw
コメント:一限入ってない大学生ならやるけど、高校生でそれやるのは猛者過ぎるw
コメント:さくらんぼの理由はわかるけど、選曲が四十路なんよなぁ。
言霊 コトバ:今のやつなんか変に難しい歌ばっかなんだもん!!
白百合 スノウ:↑禿同。
それは僕も同意する。今時のJ-POPは歌うのが難し過ぎる。
もっとシンプルな方がいい。
昔、動画サイトで流行ったみたいなメロディは好きだ。コトバさんもそういうのが好きだと言っていた。
が、しかし。だからと言って、次の日に学校があるとわかっててカラオケで夜を明かすのはどうかと思う。
「あとは…、一時間寝坊したのに気づかずに一限すっぽかして、二限目から何食わぬ顔で学校に来たとかもありましたね。
学校に来てから気づいたっぽいですけど、『最初からいました』的な態度でやり過ごそうとしてましたね。
二限目が担任してた僕だったんで、秒でわかりましたけど」
「あー…。遅刻してきたくせに申し訳なさのカケラも出さず、溶け込もうとしてる小賢しさ。わかります」
言霊 コトバ:オッケー視聴者。めっちゃ都合のいいタイムマシンの作り方。
白百合 スノウ:↑ンなモンあったら個人情報即バレとかせんわ。
コメント:ライプラで一番タイムマシンが必要そうな人らが言うと重い。
コメント:実質四人コラボ。
コメント:この中の三人、身バレしてるってマジ?
コメント:一人は完全にとばっちりやけどなw
ウチの生徒も誘うべきだったか。
そんなことを思いつつ、僕は話のネタに困らないどころか、話し切れるかどうかわからないほどにあるコトバさんの痴態を選別する。
下ネタ関連も相当にやらかしているが、やはりここは青少年に悪影響を与えない情報を出すべきか。
僕がそんなことを考えていると、シェスタさんが思い出したように声を上げた。
「あ、そうそう。身バレで思い出したけど、雪子さんってば、夏場の練習中に網戸を突き破ってすっ転んだ挙句、変なとこに引っ掛けたせいで服が破けて全裸になったことあるんですよ」
「…網戸突き破ったってことは、外出てますよね?」
「出てますよぉ。
ネットで『使える画像』とか言われて漂ってたの見たことあるわぁ」
白百合 スノウ:初耳なんだけど?
コメント:お世話になってます。
コメント:俺もお世話になってます。
コメント:ワイも。
コメント:↑使用者それなりにいて草。
コメント:どこで検索したら見れる?
コメント:フィルタリングなかったら普通に画像検索で出てくるぞ。
コメント:公衆の面前で中の人が裸体を晒したVtuber。
コメント:↑字面だけ見りゃ痴女やけど、事故なんよなぁ…。
白百合 スノウ:弾は何発いる?
コメント:↑ヒェッ…。
銃殺しようとしてる。
コトバさんよりも暴走が過激だ。
コメント欄が騒然とする中、シェスタさんが「そんな怖いこと言っちゃダメでしょ」と嗜める。
「元凶が何言ってんだ」と言いたいところだったが、僕が言えた話ではないので、次の話題を探した。
「…コトバさんのやらかしではないですが、水泳の授業が終わった後、服を全部盗まれてたことに気づいて早退した日ありましたね」
「その服はどうなったの?」
「翌日、生徒が持ってきた味噌汁の具になってたので、一緒に叱りました」
「……えっと、お汁粉の子?」
「お汁粉の子です」
言霊 コトバ:クソ寒かった。
コメント:↑水着で帰ったん?
コメント:電車通学って言ってたから、水着で電車乗ったんやろなぁ…。
言霊 コトバ:↑ママに迎えに来てもらったに決まってんだろダボハゼ。
コメント:汁物好きやなぁ…。
コメント:出汁と出汁とのマリアージュってかw。…ごめん笑えん。
コメント:普通窒息するで。
白百合 スノウ:意外といける。
コメント:↑貫禄が経験者のそれ。
濡れた水着で一時間くらいエアコンの効いた部屋にいても風邪ひかなかったんだよな、この子。
なんたらは風邪をひかないというが、割と本当のことなのかもしれない。
そう考えると、こんな飛び抜けたば…、個性的な人に会えたと言うのは、案外充実した教員人生だったのかも。
まずい。前職への未練が湧き出してきた。
現職にも愛着は出てきたが、やっぱり先生として働きたいとも思ってしまう。
別に授業がしたいってわけじゃない。人の青春に参加するのが楽しいのだ。
まあ、一度保身のために逃げちゃったので、戻る気はないが。
「個性的な子ばかり担当してたのね…」
「人間誰しも個性的です。
社会に出たら、大半の人がそれを披露する機会がなくなるだけで」
「それ、アイデンティティの保全って観点からすると致命的じゃない?」
「その中で現実と折り合いをつけ、上手く個性を出せる人が、人生を楽しめるんですよ。
web小説からアニメ化とか、最たる例じゃないですか?
ああいうのって社会人で書いてる人も多くいるわけですし」
そういや、社会人になって数年経った教え子が「デビューしました」と書籍を送ってきたことがあったな。
『怪獣転生』という、なんともシンプルなタイトルだったが、なかなかに面白かった。
自分を出したいと思うなら、執筆とかはいい趣味なのかもしれない。
そんなことを思いつつ、僕は次の話題を探した。
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