第92話 商人との再会
「本当にすみませんでした!!」
「……でした」
遺跡の真ん中で与人とリルは二人揃ってホセ、そしてその護衛だと言う男たちに頭を下げていた。
その様子を見てホセは、笑いながら語りかける。
「いえいえ、この程度の行き違いなど何時もの事ですので。それに治療費も貰えるのでしたら、こちらから言う事はありません」
「は、はぁ」
そう言われた以上は無理に頭を下げるのも失礼だと思い、与人は顔を上げる。
あれから双方の誤解を解いて説明し終えるまでおよそ三十分が経過していた。
だが与人が後ろを確認すると、そこにはストラに本気で怒られているクラリッサの姿があった。
最初は軽率に攻撃していたライアも怒られていたが、先に解放されていた。
トロンはその様子も見ながら、周りをライアと共に偵察している。
「ふむ。それにしても……」
ホセはそう言いながら、与人を値踏みするように全身を見渡す。
リルが警戒感を露わにするが、気にせず観察し続けたホセは一言漏らす。
「随分と変わりましたな」
「変わった……ですか?」
与人がリルの方を見るが、どうやらリルもピンと来ていないようで首を傾げている。
「中々本人や近くにいると分からないものですかな? 以前とは雰囲気が違いますとも」
そう言うとホセは与人に耳打ちをする。
「ウォーロック殿から話は聞いております」
「「!!」」
それを聞いた瞬間に与人の身は固まり、聞き耳を立てていたリルは警戒感を強める。
「ご安心を。我らは商人ですので、金になる方の味方ですとも。それにグリムガルよりアナタの方が信用出来ますからね」
「信じていいんですね?」
「勿論。目先の利益のために信用を無くすような嘘は吐きませんとも」
与人はホセの目を見る。
百戦練磨の商人の本音を見破れるとは思っていないが、それでも嘘はついていないと与人は思えた。
「分かりました。信用します」
「ええ。今後とも我らゴールドラッシュをご贔屓に」
ホセはそう笑いながら言うと、与人の肩に手を置く。
「ともかく、その目的もあってか上に立つ者としての風格が少しずつ出始めている。そう言いたいのです」
「……だといいんですけどね」
「ご主人、頑張ってる」
リルにもそう言われ、少しではあるが与人にも若干そんな気がしてくる。
「それで、名の知れたギルドの長が何故このような所に?」
「あ、ストラ。説教は終わった?」
与人の後ろからホセに質問するストラに、与人は声をかける。
その問いに、ストラは疲れたようにため息を吐きながら答える。
「ええ。どうやら納得はしてくれなかったようですが」
ストラの目線の先を見ると、そこには遺跡に腰かけた不満げなクラリッサの姿が見えた。
「うーん。やっぱり幼い感じがするよな」
「状況が状況でしたし、スキルが不安定だったのかも知れませんね。調べようがありませんが」
「もう宜しいですかな?」
「あっ! ホセさんすみません。こっちから質問しておいて」
「いえいえ。それで我々がここにいる理由でしたな」
ホセはそう言うと、遺跡を見渡しながら質問してくる。
「皆さまはこの遺跡についてご存じで?」
「ルーンベルで最も古い。そう聞いてます」
与人の言葉に頷きながら、ホセは熱く語る。
「そう。だというのに様々な事が重なり、調査はされてはいない。それはつまり人の知らない物や情報が眠っている可能性があるという事!」
「つまり、この遺跡こそが目的であると」
冷静なストラの言葉に、ホセは自分が熱くなっていた事が分かり咳払いをする。
「そういう事ですな。定期的にここを訪れては調査をしているのですよ。まあ今まで成果はありませんが」
「なるほど」
「そう言うアナタ方は何をしに?」
「ああ。実を言うと」
与人はミーゴに向かうために最短のルート、その途中であるここを休憩地点にしていた事を話した。
「なるほど。確かに最短ならばここを通るのが正解でしょうな。丁度いい、我々もここで一晩過ごすとしましょう」
ホセがそう言うと、護衛の男たちはすぐに野営の準備を始めたのであった。
「いいんですか?」
「元々の予定時間を大きく超えてしまいましてな。万が一のために準備もしておりましたし、彼らも若い女性がいた方が元気が出るでしょう。よければ共に食事でもしますか?」
「ありがたい申し出ですが、こちらはともかくそちらにメリットが無いかと思われますが?」
ストラが疑うように質問する。
失礼にも取られかねない態度ではあったが、ホセは笑いながら答える。
「よい知恵者ですな。甘い話はまず疑え、商売でも基本ですとも」
「……本の人、すごい?」
「もちろん。面と向かって聞ける胆力も中々ですな」
「……」
どれだけ褒められようと、ストラがホセの警戒を解く気配は無かった。
ストラから見れば、商人は警戒すべき中でも上位に入る。
特にルーンベル中に支部を持っているゴールドラッシュは警戒しすぎても足りないぐらいであった。
「ストラ」
「……与人様」
だが与人がストラの肩に手を置きながら声を掛ける。
「さすがに失礼だし、疑うのなら後でもできる。今は好意に甘えよう」
「……」
「ダメか?」
「はぁ。その一瞬で隙を突かれるものですがね」
ストラが諦めたようにそう言うと、与人はホセに向かって頭を下げる。
「失礼しました」
「気にしてませんとも。先ほども言いましたが甘い話は疑うのが常ですからな。よい人を迎えられた」
「ええ。俺には勿体ない仲間です」
「……」
「本の人、顔赤い」
「気のせいです」
リルの言葉を両断するストラであったが、その頬に赤みが差していたのは誰の目からでも明らかであった。
「ははは! では準備を進めましょうか。もうすぐ夕暮れですから」
ホセの言う通り、既に太陽はだいぶ沈んでいた。
夜になれば一気に冷えるため、早く準備を始めた方が良い事は素人である与人にも理解できた。
「そうそう。言い忘れておりましたが」
準備を始めるために動き始めようとする与人たちであったが、ホセは思い出したように声を出す。
「何もこちらにメリットが無い訳ではありませんよ。ちゃんと利益はありますとも」
「それは……一体?」
与人がそう聞くと、ホセは笑いながらこう答えるのであった。
「それはもちろん。アナタ方からの信用ですよ。よい商売はよい信用から、それが自論でしてね」
あとがき
今回はここまでとなります。
如何でしたでしょうか?
果たして今後どうなるのか、今後もよろしくお願いします!
感想、意見、質問はお気軽に。
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