第87話 戦略書ストラの事件簿? 解決編
「なるほど。クラリッサ殿の踊り子時代の衣装が何者かに盗まれ、状況を考えれば内部犯の可能性が高い。そういう事ですね」
「ええ」
ストラはクラリッサから聞いた話をまとめると、何事か考え始める。
その間にライアがクラリッサに質問する。
「何で国なり何なりに任せない訳? その方が手っ取り早いでしょ?」
「そうかも知れないけど、できれば大事にしたくないのよ。店の事もあるけど、無実の子が疑われるのは可哀想でしょ?」
「……ふーん?」
ライアは集められている従業員を見渡しながら、一言呟く。
「けど同時に犯人も庇ってる事になるけど?」
「それは……」
「ライア、それは流石に言い過ぎだと思うよ。まだ内部犯だと決まった訳じゃないし」
「……そうね。少し踏み込み過ぎた、ごめんなさい」
クラリッサが何も言えなくなっていると、与人がライアに注意する。
ライアは一瞬眉を動かしたが、自分でも思うところがあったのか素直に謝る。
「謝る事じゃないわ。アナタが言いたい事も分かるもの」
「じゃあ何で」
そうライアに問われると、クラリッサは従業員を見渡しながら説明する。
「ここにいる殆どは孤児だったり親に捨てられたりで居場所が無かったの。私も先代に拾われる前はひどいものだった」
「クラリッサさん……」
「そうね。単にまだこの中に犯人がいると信じたくないだけかもね」
「……」
「迷惑をかけてゴメンなさいね。やっぱり本格的に捜査してもらう事に」
「その必要は無いと思われますよ」
「ストラ? それにリルも」
話している間に外に出ていたのか、再び入り口に立っていたストラとリル。
「間接的な証拠は集まりました。後は本人の自白を取るだけです」
「速!?」
思わず与人がそう言うと、ストラは少し笑いつつ三人に歩いていく。
「そう大したものではありませんでした。証拠があちこちに付いていましたから」
「ご主人、僕も手伝った」
「それで……犯人は」
クラリッサが不安げにそう聞くと、ストラは申し訳なさそうに口にする。
「残念ですが。アナタの衣装をピンポイントに狙った事と、荒らされた痕跡が少ない事からやはり内部の犯行でしょう」
「……そう」
「ですが。任せてもらえれば事を公にする事無く解決してみせましょう」
「本当に?」
「ええ。その礼の代わりに、ここ最近の『ラサハ』の状況を事細かく教えて貰えれば」
「そんな事で良ければ、いくらでも」
「ちょっと。本当に出来る訳?」
ライアがストラに問いかけると、返って来たのは自信に満ちた声であった。
「言ったはずですよ。状況証拠は集まっています、あとは犯人が自白するように誘導するだけです」
従業員は一か所に集められており、その前方には店長であるクラリッサとストラが立っていた。
「皆、聞いて頂戴! これからこの人の言う事をよく聞いて、その通りにして!」
一斉に視線が向けられる中でストラは堂々と、ハッキリとした口調で指示する。
「では皆さん、これよりいくつか質問をさせてもらいます。当てはまらなければ後ろに下がってください。ちなみに嘘をついても見破れるので、そのつもりで」
ザワザワと一同が騒いだす中で、ストラはまず第一の質問をする。
「第一に、この犯人はこの店の構造を熟知ししています。荒らされた箇所が少ない事がそれを指しています。この店に来て一年未満の方は後ろへ」
この問いによって数人が後ろに下がったが、まだ二十人ほどが残っていた。
「ねぇ。本当にあんな質問で絞り込めるの?」
邪魔にならないよう店の端に待機しているライアがそう疑問を口にする。
それに対して与人は、リルの頭を撫でながら答える。
「ストラが断言するからには根拠があるんだと思うよ。今は信じて待とう」
「……信じて、ねぇ」
「何?」
「別に?」
それ以降、ライアは黙り込んでしまったため与人はストラの方に集中する。
「第二に今回の犯人は女性用の更衣室に入っていますが、数か所こじ開けています。目的の物はハッキリしてるのにも関わらず、です。よって入った事のない男性が疑われます。女性は後ろへ下がってください」
この質問で一気に半分以上が後ろに下がり、八名が残った。
ストラは畳みかけるように次の質問を繰り出す。
「第三に、調査したところによると鍵をこじ開けるのに犯人は簡易とは言え魔法を使っています。それもアイテムではなく自分の魔力で。この中で魔法が使えないものは下がってもらって結構です」
この質問により、六名が後ろに下った。
残るは二名。
どちらも若い男で、挙動不審になっていた。
「さて、犯人の動機ですが。金品を取らなかった事を考えれば、クラリッサ殿への歪んだ想いによるものでしょう。無害な振りをして、その内側では店長が隙を見せるのを夜な夜な」
「そんなんじゃない!!」
ストラの言葉に対して残っていた男の一人が、怒った声を出した。
周りがザワザワとする中でようやく自分の失敗に気づき、顔を青くする男。
「ち、違う。あ、あれは……」
「今の言葉は自白と同義です。あなたが衣装を盗みましたね?」
「く、クソォ!!」
自暴自棄になったのか犯人は隣にいた男にナイフを突きつけ、人質にする。
「動くな! 動いたらコイツを!」
「はぁ。一番愚かな選択をしましたね。痛い目に合わない内に止めた方が得策ですよ?」
「黙れ! そこをどけ!」
ストラは犯人の言う事に素直に従い、道を空ける。
犯人は人質を連れ店の入り口まで行くと、人質を突き飛ばし外へ走り出した。
「……さて、リル殿。出番ですよ」
「ん」
ストラにそう言われると、リルは男の後を追って外に出る。
「ふぅ」
「お疲れ様ストラ」
与人にそう言われると、ストラは軽く笑いを返す。
「ええ。予定通りに行き過ぎて少し不安はありますがね」
「けど本当に意味があったの? わざわざ犯人を外に逃がすなんて」
ライアの言う通り、犯人が逃げる所までがストラの立てたプランの一部であった。
ストラは外の方を向きながら説明する。
「リル殿が匂いであの男が犯人だと見破っていたので持ち物を確認しましたが、衣装は見つかりませんでした。犯行がバレた以上はどこに隠していようと、回収して逃げるハズ。探す手間が省けるというものです」
「何と言うか、推理小説みたいな展開だったな」
与人のその言葉に、ストラは吹き出しながら訂正を入れる。
「そんな高尚なものではありませんよ与人様。これは」
「狩り、ハンティングの下準備でしかありませんよ。本番はここからです」
あとがき
今回はここまでです。
自分にはミステリーの才は無いので、だいぶ簡易的な感じになってしまいました。
雰囲気だけでも味わってもらえればと思います。
では、次回をお楽しみに!
感想や意見はお気軽に!
皆さんの声が力になります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます