第84話 砂漠横断五人旅
六つの大国の一つ『ラサハ』は砂漠の国と表されるようにその領土の殆どが砂で覆われている国である。
住み難いが、攻められづらい。
そういった特徴もあり脈々と大国としての力を蓄えた『ラサハ』に向かう事になった与人たちは今。
「……暑い」
「与人様。ボヤいても何にもなりませんよ」
歩いて砂漠を横断しようとしていた。
隣を歩きつつ正論を言うストラに反論しようとする与人であるが、疲れもあり諦める。
ただでさえ歩きにくい砂地な上、容赦なく込み上げる熱により体力をどんどん消耗していく。
(……ついてない)
無論、与人たちも好き好んで砂漠を歩いている訳ではない。
最初は『マキナス』の正式な使者という事もあり、護衛付きのラクダによる移動であった。
だがモンスターの襲撃あり、付いて来てくれた護衛の殆どが怪我を負ったのである。
与人たちも対処したが、慣れない砂漠での戦闘という事もあり手間取ってしまったのである。
次の街から遠くが怪我人を放っておく事も出来ないため、ラクダを譲り護衛たちには引き返して貰ったのである。
(あとどれだけ歩けばいいんだろうか?)
遠くを見渡しても砂漠と陽炎しか見えないこの状況に与人の脳裏には最悪の事態が思い浮かぶが、それを察したようにストラから声が掛けられる。
「頑張ってください与人様。このペースなら夕暮れには次の街に着きます。……砂漠で夜を迎える訳には行きませんし」
与人は知らなかった事ではあるが、砂漠という場所は夜になると極端に冷えるのである。
そうなれば当然体調にも異変をもたらすので、一向からすれば何とか夜になる前に街に着きたい所であった。
「……ご主人。大丈夫?」
疲れが見え始めた与人を心配するように、先頭を歩いていたリルが声を掛ける。
だが声を出すのも億劫な状態なのか、手を軽く挙げただけの返事をする与人。
そんな状態の与人を気にしてか、ストラに話しかけるメンバーがいた。
「なぁ。与人の旦那、危なくねぇか? 何ならアタイが背負っても」
そう与人を心配するのはトロンであった。
その言葉に対してストラは心配そうな顔をしながらも首を横に振る。
「心情的にはしたい所ではありますが、これ以上トロン殿に負担は掛けられません」
そう返すストラの視線には、今回の同行メンバー全員分の荷物を背負ったトロンの姿があった。
「別に、旦那の一人や二人ぐらい」
「質量の問題を言っているのではありません。もし戦闘となれば戦力上、トロン殿にも戦ってもらわねばなりません。……言いたい事は分かりますね?」
もし会敵した場合、与人を背負っている状態でトロンが十分に戦えるかは怪しい。
メンバーが限られている状態で、トロンの戦闘力低下はストラからすれば見逃せない事であった。
「でもよぉ」
「本当に最悪の場合はお願いします。ですが、それは今では無い。そう言う事です」
「……分かったよ。お前もあんまり無理すんなよ」
そう言うトロンの目には、与人ほどでは無いが疲労が見え始めているストラが映っている。
ほぼ戦闘力皆無なストラにとっても、この砂漠越えは中々厳しいものがあった。
だが与人に余計な心配させまいとストラは弱音を吐く事も無く、ただ前を見る。
「問題ありません」
「ったく。何でアイツの為にそこまで頑張れるか、アタシには分かんないんだけど?」
そう言いつつストラに水を渡した人物を見て、ストラは苦笑いをしながら水を受け取る。
「厳しいですねライア殿。やはりまだ慣れませんか?」
ライアと呼ばれた人物はその言葉に返事する事も無く、そっぽを向く。
このライアという少女は、最近になって新たにエクセードのメンバーとなった擬人化仲間であった。
ただ彼女は戦う事以外はあまり興味がなく、与人に対しても大した感情は持っていない。
今回も一応は同行したが、何なら途中で帰る事も視野に入れている。
「フン。慣れてるとかの問題じゃない。あんな貧弱な奴の下に付くとか、ゴメンだから」
「各々の考えには口出しする気はありません。ですが与人様と敵対するという事が万が一あるのならば、それ相応の覚悟をしてください」
一切の冗談を込めていないであろう大真面目な口調で、ストラはライアに断言する。
口こそ挟まないがトロンとリルも気持ちは同じなようで、止めようとはしない。
「……っ!」
三人が発する気配にライアは一瞬、気圧されれる。
自分の実力に自信を持っているライアであったが、今この瞬間はどんなにしても勝てないだろうと思ってしまうほどであった。
「……」
「誤解がないように言っておきますが、抜けたいというのならば痛手ですが止めません。ただ敵対した時に覚しておくのと、筋を通してからにしてくださいね」
「……世話になっておいて黙って抜けるとか、無いから」
「なら構いません。申し訳ありませんが、水を与人様にも」
「何でアタシが……」
そう言いつつもライアは水を与人に渡しに行く。
すると一連のやり取りを聞いていたリルがストラに近づいてきた。
「本の人、いいの?」
「ええ構いません。もし自分がトップならば、抜ける事は許さなかったでしょう。ですが、与人様の意思を尊重すればコレが譲歩です」
「アタイは別にどっちでもいいけどな。もしアイツが本当に敵に回ったらどうする気なんだ?」
「決まっています」
トロンにそう聞かれたストラはなるべく良い笑顔で、答える。
「敵対した事を心の底から後悔するほど、圧倒的敗北を与えてみせます」
「「……」」
確実に本気なその言葉に、リルもトロンも何も言えなくなっていた。
そんな二人を気にした様子もなく、ストラは真面目な表情で続きを口にする。
「まあ、そうなる可能性は今のところ低いと考えていますが」
「……どうして」
リルが首を小さく傾げるのに対し、ストラは与人とライアを見る。
「ったく。あんまり無茶するんじゃない、弱いんだから」
「あ、ありがとう」
そこには文句を言いながらも与人を気遣っているライアの姿があった。
「意外と世話焼き体質だと思いますよ、彼女」
「はーん。口では何だかんだ言いながら、って言うやつか?」
トロンがそんな感想を口にしていると、リルの鼻がヒクヒクと動き始める。
「どうしましたリル殿」
「敵か?」
二人の言葉に首を横に振りつつ、リルは前方を見つめつつ答える。
「……本の人、牛の人。街が近い」
あとがき
今回はここまでとさせて貰います。
新たなる仲間、ライア。
彼女は何の擬人化なのか?
それは別の機会に明かされる事でしょう。
果たしてこの旅路で何が待ち受けているのか?
次回をお楽しみに!
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