第83話 運命を嘆く竜の嘆き

「他国への使者……ですか?」

「ああ。それをお前たちに任せたい」


 与人はエクサ王に王城に呼び出されていた。

 突然エクサ王に依頼された事柄に与人が戸惑う中で、一緒に話を聞いていたストラが疑問を口にする。


「失礼ですが人選を間違っているのでは? 保護下にあるとは言え我々は一介のギルド員です。こちらに一任する理由があるとは思いませんが」

「本来であればそうでしょうが、幾らかの理由があっての依頼です」


 エクサ王の隣で控えていたイプシロンがため息交じりに理由を語り始める。


「先日、ついに『グリムガル』から魔王討伐のために勇者……異世界からの者が魔界に旅立ったのは知っている事と思います」

「……はい。勿論」


 その事は大々的に『グリムガル』が告知していた事もあり、ユフィが以前から掴んでいた情報でもある。

 与人が万感の思いでそう答えるのに対し、イプシロンはあえて気にせず続きを話し始める。


「では、その人数が非常に少ない事も知っていますね」


 今回、魔王討伐に向かう勇者は全員で六名と『グリムガル』は公表している。

 当然のことながら『グリムガル』に召喚されたのはクラス全員であり、多くの与人のクラスメイトが居なかった事にされている。

 与人も最初その事を疑問に思っていたが、ストラは集められた情報からこう考察している。


「おそらく『グリムガル』は言う事を聞く者を手駒として残して置きたいのでしょう。その上で、本来の目的である魔王討伐を反抗的な者に押し付けた。そう考えれば一先ずの納得は出来ます」


 その事に関して与人は何とも言えない気持ちになっていた。

 当然『グリムガル』もそうであるが、目的も忘れ言いなりとなっているクラスメイトたちに呆れていた。


「ええ勿論。その理由も大まかな想像はしています」

「ならいい。『グリムガル』が何をしようと勝手だが、『スキル』持ちの手駒を複数人隠し持っているのは不快極まりねぇ」

「……王の言い方はともかく。この情報は六大国に数えられる国ならば掴んでいる物です。当然、それを良く思っている国はありません」


 エクサ王とイプシロンがそう言うのに対し、ストラは納得したように頷く。


「いやストラ。納得してないで説明を」

「かみ砕いて説明すれば、こちらにも転移者がいる事を『グリムガル』以外で共有。その上で共同して圧力をかける足掛かりにしたい。その為に我々が直接向かって欲しいという事でしょう」

「説明が省けるので助かります」


 イプシロンがそう言うのに対し、与人の方は不安が顔に現れていた。

 それを察したのか、エクサ王が安心させるように言う。


「安心しろ。別にお前に矢面に立ってもらおうとは考えてない。ただ足並みを揃えるために、協力してもらいたいだけだ」

「……与人様、どうなされますか?」


 ストラが与人にそう問いかけると、しばらく考えた後に与人がその問いかけに答える。


「分かりました。その依頼、引き受けます」

「そう言ってくれて助かる」

「失礼しますエクサ王」


 エクサ王はそう言ったタイミングで、ベータがやって来てイプシロンを交えて何かしらを話し合っていた。

 その間に、与人はストラに一言だけ伝えておく。


「ありがとう、ストラ」


 エクセードの頭脳として発言したい事や、どうすべきかはあったはずのストラ。

 だが、彼女はあくまで与人の考えを尊重する事を選んだ。

 その事に関して、与人は礼を言ったのである。


「仕える者として当然の事です」


 口ではそう言っているが、ストラが頬を若干赤らめているのに気づいた与人は笑みを浮かべるのであった。


「……ったく。面倒な」


 その一方で、ベータから報告を受けていたエクサ王はその顔に皺を増やす。


「悪いが今日はここまでにしよう。詳細は後日改めてと言う事で」

「何かあったんですか?」


 嫌々と言った様子のエクサ王の様子に、与人は思わず問いかける。

 それに対し答えたのは、僅かに表情を歪めているイプシロンであった。


「大した問題ではありませんよ。先日、新たに来た『グリムガル』からの大使が突然に謁見したいと申し込みがあっただけです」


 裏では様々な感情を抱えている『マキナス』と『グリムガル』。

 だが表面上は六大国にて同盟を結んでいるため、それなりに交流もある。

 その内の一つとして、新たに『グリムガル』から大使が『マキナス』にやって来たのである。


「そう言う訳だ。悪いが対処しないといけない」

「それは構いませんが、せめてどこに向かうかだけでもお教え下さいませんか?」


 下準備のためか、その事を確認したいストラにイプシロンがその国の名を口にするのであった。


「その領土のほとんどを砂漠が占める大国『ラサハ』。そこに向かってもらいます」



「で、どうだった主?」


 話し合っていた部屋の外で待っていた、護衛のリントが与人を出迎える。

 すぐに伝えようとする与人であったが、その前にストラが話始める。


「伝えるべき事はありますが、まずは此処を去りましょう。今は『グリムガル』の関係者と出会うべきではありません」


 ストラの発言を聞き、リントは何も聞かずに頷いた。

 与人としても異論は無いため、すぐに立ち去ろうとする。

 だが不幸な事に、それより先に向かう先から此方にやって来る一団があった。


「与人様。あくまで普通を装って通り過ぎるのを待ちましょう。例え向こうが反応しても、私が対処します」

「向こうが行動を起こしても私がいる。安心しろ」

「……ありがとう二人とも」


 気を使ってくれている二人に礼を言いつつ、与人は一団が通り過ぎるのを待つ。


「ん?」


 だが、その一団の先頭を歩いていた者が突然足を止める。

 与人は意を決して、その人物を見ると思わず声を漏らしてしまう。


「あ」

「主。一体どうし……」


 与人と同じくその人物の顔を見た瞬間、リントは絶句し固まってしまう。


「おお! やはり!」

「……お知り合いですか?」


 一同の反応について行けないストラはそう問いかける。

 未だ引きつった顔で固まっているリントの代わりに、与人が簡単に説明する。


「簡単に言うと、リントに求婚した事がある貴族さまだ」

「……申し訳ありません。何をどうすればそうなるのか分かりません」


 頭を抱えるストラを横目に、その人物は笑みを浮かべる。


「初めての女性もいるし、改めて自己紹介をしよう。この度、『マキナス』への大使となったアルフェン・アーノルド。そしていずれ赤毛の方の夫になる男だよ」

「……勘弁してくれ」


 リントは天井を向いて、そう嘆いたのであった。




 あとがき

 まさかの人物が再登場した所で今回はここまでとさせてもらいます。

 新キャラも登場させるつもりでしたが話の都合上、もう少し先となりそうです。

 では次回、新たな旅が始まります。

 果たしてメンバーはどうなるのでしょうか、お楽しみに!


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