第82話 パニックの終わりと代償

「うおりゃあ!!」

「回避」

「ちっ!」


 大ぶりな一撃をセラとリントはそれぞれ避けつつ、互いを警戒しながら遠慮の無いトロンの攻撃を加えようとする。

 その近くでは。


「ハッ!」

「くっ」


 ティアとユフィによる高速の戦闘が行われていた。

 目にも追えないほどのスピードでの切り合いであるため、巻き添えを負わないように近くで待機している与人には状況がよく分からないでいた。


(どうしてこんな事になったんだろう)


 与人にやれる事と言えば情報の整理程度ではあるが、仲間同士で戦っているという状況に頭が回らないでいた。

 攻撃の余波があちこちに屋敷に被害をもたらす中、結局与人は何も出来ずにただ立っていた。


「おりゃ! 与人の旦那を渡せ!」

「拒否。マスターは我々と来る事になっています」

「お前ら。その言葉、正気になった後で後悔しても遅いからな」


 そのような会話をしながらも、リントは若干ではあるが焦っていた。


(ちっ! 牛を静めようにも隙を見せればゴーレムにそこを突かれる。だがこのまま状況が続くのはまずい)


 下手に時間を掛ければ気絶させた他のメンバーが騒ぎを聞きつけ此方に来るかも知れない。

 だが流石にドラゴンの力を持つリントと言えど、この二人を相手に短期で決着がつけるとは思ってはいなかった。


(他に決定打があれば……ん?)


 リントは一瞬動きを止めると、何かに頷き始める。


「なるほど。そうなると一番邪魔なのは!」


 そう言うとリントはトロンに突撃をする。


「おっ! 来るか!」


 トロンはその様子を見ると迎え撃つために渾身の一撃を振り下す。


「甘い!」


 リントは突如停止し、後方から隙を狙っていたセラに蹴りを浴びせる。


「! 驚愕」


 そう言いつつもセラは何とかリントの蹴りを斧で受け止める事に成功する。

 だが、リントはそれを見てニヤリと笑みを浮かべる。


「!!」


 セラはリントの狙いに気づき、急いで態勢を立て直そうとするが時既に遅し。

 リントは目の前から消え、セラを襲ったのはトロンの一撃であった。

 セラは声を上げる事もなく、屋敷の外まで弾き飛ばされるのであった。


「おっし! まず一人!」


 障害が一つ消えた事に喜びを表すトロンであったが、一方でリントは与人を抱えながら断言する。


「ああ。そしてこれで終わりだ」


 そう言うとリントは床に拳を突き立てる。

 リントのパワーに耐えきれる訳もなく、床は音を立てながら崩壊していく。


「うおっ!?」

「っ!!」


 その崩壊にトロンは勿論、ティアに隙を狙われ突き落とされたユフィが二階から一階に叩きつけられる。


「ちょっ! 大丈夫なのかこれ!?」

「心配するな。この程度でどうにかなる奴らでは無い」


 リントは長らく使用していなかった翼を使いつつ崩壊の心配のない場所に与人を降ろす。

 壁を跳ねながら崩落を免れたティアが合流する。


「これにて終了、かな?」

「だな。後は時間が経てばいい」

「え? 逃げた方がよくない?」


 そう与人が聞くと、二人は苦笑しながら説明をしだす。



「ラン殿。アナタの失策の一番の原因は毒の類いが効かない者がいる可能性を考えなかった事です」

「え? ……あ」


 ストラの説明にランは何かに気づいたように声を上げる。


「そうです。媚薬が原因だと判明した時、ヒュドラであるサーシャ殿には事前に協力を依頼しました。……同じく効かなかったであろうユニ殿は爆睡していましたが」


 呆れたようにモノクルを弄りつつストラは説明をしだす。


「今頃、暴れていたメンバーは麻酔で動けなくなっているでしょう。この様な事を実行するならば、事前にサーシャ殿を対処か仲間に引き入れるべきでしたね」

「……あはは。やっぱりストラ先輩のようには上手く行かないね」


 そう言いながらランは屋敷に向かって歩き始める。


「あーあ。お兄ちゃんに謝らないと」

「それだけでは済まないですよラン殿」

「……え?」


 ランの心底不思議そうな顔を見ながらストラは一枚の紙を取り出す。


「屋敷の修理代、被害にあったメンバーのケアに掛かる費用、リント殿とティア殿への働きに対するボーナス。諸々含めて……最低でもこの程度は払って貰わないと」

「ちょっ!? 壊したの私じゃ無いよ!?」

「元々の発端はラン殿なのですから、払うのは当然です。それと皆と一緒に壊した屋敷の修繕をしてもらいますので、そのつもりで」

「あ、あはは……」


 それらを聞いたランは夜空を見上げながら、こう言うのであった。


「やっぱり、向いて無いな。私」



 こうして、一つの媚薬から始まった騒動はその言葉と共に幕を下ろしたのであった。




 あとがき

 少し駆け足となりましたが、この事件のお話はこれにて終了です。

 次回からはまたメンバーを絞っての旅路となります。

 始めから新キャラと久しぶりのキャラが!?

 次回以降もお楽しみに!


 感想や意見、レビューは励みになりますので無理強いはしませんが是非来て欲しいです!

 よければお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る