第76話 ザ・ミーティングダンス! いや別に踊らないけど
「名前を決めます」
屋敷の広間に集まった面々を見てストラが発した第一声がそれであった。
何も聞かされず集められた一同はその言葉に疑問しか出てこなかった。
「ストラ先輩。それじゃ全然分からないんですけど?」
「そうだぞ。アタイは頭が良くないんだからちゃんと説明しろよな」
ランやトロンから上がる抗議に動じる事もなくストラは淡々と説明を開始する。
「無論説明はします。我々も与人様を含めれば十五人の大所帯となりました」
「そうですね。『神獣の森』を出る頃は六人でしたから」
「……うん」
ユニとリルが懐かしむように会話するが、ストラは気にする事無く続ける」
「それはともかく。『マキナス』に滞在してそれなりの時が経ち、我々の顔も活躍も知られるようになっています。ですがいつまでもスローンとその一団では箔も付きづらくなります」
「ストラ殿。主殿は名を売るために活動している訳でないのでは?」
「それに主くんの名が世に広まるのはマズイんじゃないかい?」
ユフィとティアがそう質問すると今まで黙っていた与人が声を上げる。
「皆。聞きたい事も言いたい事もあるだろうけど、一回一回聞いてたら話が進まないから質疑応答はストラが話終えてから。っていう事で」
「主様がそうおっしゃるのでしたら」
アイナのその言葉を皮切りに全員が了承する。
ストラは与人に軽く頭を下げると再び説明を開始する。
「確かに。お二人の言う通り、『グリムガル』の事を考えれば葉山与人の名が世に知られるのは避けたい。ですが、ブラッド・アライアンス所属のスローンとしてなら話は別です」
「? どう言う意味だ?」
レーナに促されるとストラはモノクルをいじりつつ答える。
「ここにいるのは葉山与人ではなくスローンであるとする事で『グリムガル』への牽制となります。下手に手を出せば『ルーンベル』中に支部を持つブラッド・アライアンスだけではなく『マキナス』も敵に回しますから」
「なるほど。そのためにもスローンの名前を売りたいという事ですね」
カナデの言葉に首を縦に振ると、ストラは続きを話し出す。
「ええ。それに加えて与人様の目標である楽園を造るためには資金もですが強力なコネも必要になるでしょう。その為にも名は売らなければなりません、この件は与人様も承諾済みです」
「いつまでもエクサ王に頼ってるわけにもいかないしな」
「ここまでで疑問はあるでしょうか」
「挙手。一つ確認したいのですが」
セラが手を挙げて質問をし始める。
「理解。マスターをスローンとして有名にする理由と利点については理解しました。疑問。しかしそれと名前とどう繋がるのでしょうか? これまで道理でも違いはないように思われますが」
「あ、あの。私もよく理解できないんですけど……」
セラの質問にサーシャも同意する。
しかし予定調和のようにストラは落ち着いて説明を開始する。
「与人様に一人で名を上げる事が厳しい以上、我々がその分動かねばなりません。しかし今のままでは個人の名かブラッド・アライアンスの名でしょう。ですが我々が一つながりである事を意識付けられれば、それを率いるスローンの名も上がるでしょう」
「そうなれば支援も受けやすくなり、主の目的にも近づく。そういう事か」
「正解ですリント殿。……さて、説明すべき事は終わりました。もしこれに反対する方がいればどうぞ」
ストラのこの言葉に誰も異議を唱えなかった。
一定の効果あり、与人も承諾している。
それに与人の名前、例えスローンとしてだとしても名を上げる事に文句がある者はここには居なかった。
「……では、皆の理解も得られましたので本題。我々の一団、あるいはパーティーの呼称をこれより会議していきたいと思います」
「今までどうり与人の旦那が決めたんじゃ駄目なのか? 名前決めなんて頭を使う作業にアタイは必要ないだろ」
「いや、それぐらいは使おうよ」
ランに突っ込まれつつもトロンは文句を言い続ける。
「実を言うと自分も最初は与人様に決めて貰おうと思い打診しましたが、皆で決めたいと言われたので」
「こ、これは重要な事だし。皆と決めた方が愛着も出るだろ?」
「流石主様! とても良い意見だと思います!」
アイナから称賛を受けつつも与人の背中は冷や汗で濡れていた。
(い、言えない。ネーミングセンスに自信がないから皆で決めたいとか、絶対に言えない!)
皆も名前も何かから抜粋したり少し変えたりしたものばかりである。
自分のネーミングセンスを疑う与人にとってパーティー名を一人で決めるなど避けたい事態であった。
ただしリントやストラを始めとした察しのメンバーからは見破れており、ジト目で見られていた。
「という事もあり。何か案があれば意見を」
「はい!」
「……アイナ殿、何か」
自信満々に手を上げるアイナに非常に嫌な予感を感じつつも、無視する訳にもいかずアイナを促す。
アイナは立ち上がり咳ばらいをする。
もったいぶるその態度に全員が嫌な予感がよぎる。
そしてようやくその口が開かれる。
「名付けて! スローンとアイナのラブラブ「「「「「「「「「「「「「「却下!!」」」」」」」」」」」」」」ま、まだ最後まで言ってないのに!?」
「その部分だけでも自分なら投身ものですよアイナ殿」
「アイナ。流石にそれはない」
ストラと与人の言葉にアイナを除く全員が頷く。
与人にまで否定され落ち込むアイナは力なく椅子に座る。
「んん。さて気を取り直して、誰かアイデアはありますか?」
その言葉を皮切りに様々な意見が交わされた。
――騎士団と名乗るのはどうか
――いや、別に騎士じゃないだろう
――スローンと愉快な仲間たちというのはどうでしょう
――いくら何でも雑じゃない?
――意見。機構兵団というのはどうでしょう
――それはお前だけだろ
――……ラブラブ
――いい加減に諦めろ聖剣
こうして意見が交わされては否定され、三時間以上が経過しようとしていた。
「……決まりませんね」
散々に意見を出して疲れ果てた面々がテーブルに突っ伏している。
戦闘とは違う疲労感に全員が襲われる中で、リントがポツリと言う。
「まさか、全員がここまで名前付けが下手くそだとはな」
「だよね。名前を付けるなんて武器だろうとモンスターだろうとしたこと無いだろうしね」
「き、曲ならすんなりと書けるのですが」
それぞれが自身を無くす中で与人は未だに考え込んでいた。
「ウチも疲れたし今日はお開きにしない?」
「……その方がいいかもしれませんね。これ以上は案も出なさそうですし」
スカーレットの意見にストラが賛成したため場には弛緩した空気が流れる。
「何も意見が出ないだったら私のアイデアでもいいじゃないですか」
アイナがそうぼやいているとリントがツッコミを入れる。
「それで納得する奴などいないだろ」
「ここにいますけど」
「それは聖剣。お前が例外なだけだ」
「……例外か」
「いや主、別に見下してる訳では」
「ごめんリント! ちょっと待って! 何か思いつきそう!」
その言葉に全員が黙って与人を見つめながら待つ。
そして与人はゆっくりと口を開く。
「エクセプション」
「エクセ……何と?」
「エクセプション。例外って意味だ」
その言葉に全員が考え込む。
そしてリントが口を開く。
「悪くはないんじゃないか? ある意味相応しい言葉だろ」
「もう一ひねり欲しいよね。例えば集団的な意味を付けるとか」
それぞれが感想を言うがおおむね賛成の意味であった。
だがスカーレットの言葉に引っかかりを覚えた与人は少し考え、そして思いつく。
「それじゃ『エクセード』で、どう? エクセプションに群衆って意味のクラウドを混ぜた造語なんだけど」
与人が不安そうに皆を見渡すと、全員が笑顔で頷く。
それを確認したストラは最後にまとめに入る。
「それでは皆の同意を得たという事で、この時より我々は『エクセード』を名乗ります。各々その名に恥じない働きをお願いします」
その言葉に重なった同意の声が屋敷に響く。
こうして与人たちはこの日、『エクセード』としての一歩を踏み出すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます