第二十三話 特技(スキル)のその先……
「ほう……他人の
「はい、師匠……」
今日、俺は一つの決意をして、師匠である宮守の爺さんに、自分が今扱える【女の子たちの
宮守の道場で俺と向かい合わせに座る師匠は、多少困惑した顔をしつつも俺の目を真剣に見つめながら答えた。
「なるほど……。
「まあ、そうっす……」
「それで? なぜその能力の事を、わしに告白したのじゃ?」
「それは……」
俺は、ここ数回の試練を経験して、今のままではいけないのではないのか? ――という不安を抱いている。
要するに、今までは女の子から得た
無論、自分でその方法を考えもしたが、やはりそういったものをよく知るであろう人物に聞いた方が早い。だからこその師匠への告白。
そもそも、試練の終わる一年の期限まで、実のところあと三か月ほどもない。悠長に構えている暇はないのだ。
俺がハーレム契約の部分は濁してその不安を語ると――、師匠は少し考えてから口を開いた。
「ふむ……、わしは異能に関しては専門家というほどではない。……しかし、武闘家としての視点から、その
「本当ですか?! 師匠!!」
「うむ……、最もお前が今扱える
「それなら……」
俺の言葉に師匠がその場から立ち上がって言う。
「余計な説明はいらぬ……武闘家ならば拳で語る……そうだな?」
「はい!!!」
俺は師匠と間合いを開けて立ち上がり、拳を握って構えをとった。
師匠は軽く頷くと言った。
「では……、まずは撃ち込んでくるがいい」
「……!!!」
俺はその右手の星を光らせながら師匠のもとへと駆けた。
俺の拳が無数の流星となって連続で走る。
「む……」
それを難なく避けていく師匠。
「……この動き。この撃ち込み方。まさしく……かなめ、か?」
「はい!」
俺のその返事に師匠が頷く。
<第一
司郎が扱う全スキルの基礎となるメインスキル。
かつて司郎自身も学んでいた宮守流古流空手の戦闘技術を獲得する。
かつて学んでいたがゆえに、最も司郎の体になじむスキルであり、司郎がこのスキルを使用する場合、明確に元のかなめよりも高い戦闘能力を発揮する。
「ふむ……、動きはかなめのものであるが……、もともとのお前の身体能力によってさらに洗練されておるな……」
そう師匠は呟くと――、次は師匠の方から拳を打ち込んできた。
「く……!!!!」
俺はその連続拳撃を、なんとか身体に掠らせつつ避けていく。――それを見て師匠がつぶやいた。
「ほう……、お前、我が拳の軌道を何とか読んでおるようだな。……今の連撃は、そうやすやすと避けられるものではないぞ?」
「……」
<第二
本来は優れた観察力によってそれをキャンバスへと写し取る技術。
かなめのスキルとの組み合わせによって、対象の力の動きや進む方向を読み取る能力へと昇華している。
あくまでも、対象の動きを読み取る感覚強化スキルであり、それを避けられるかどうかは本人の運動能力に依存する。
その師匠の攻撃を何とか避け切った俺は、師匠に向かって一つの提案をする。
「師匠……、次は指弾をお願いします」
俺のその提案を聞いた師匠は、一つ頷くと懐から節分豆の入った袋を取り出してくる。
そして――、師匠は指に豆を置いて弾いたのである。
バチ!!! バチ!!! バチ!!! ――
師匠が指をはじくたびに、小さな豆が弾丸のような速度で俺へと飛翔する。
俺はそれをその手でなんとかたたき落としていく。
「ほう……、飛翔物体への対応能力か?」
<第三
本来は優れた集中力によって高速で投げられるボールを撃ち返す技術。
かなめのスキルとの組み合わせによって、高速飛翔物体をその感覚でとらえる能力へと昇華している。
こちらも、あくまで感覚強化能力ゆえに、回避などは本人の運動能力に依存する。
師匠は袋の豆を一つを残してすべて弾き、残りの一つを口に放り込んでおいしそうに食べた。
「……うむ。ここまで見てきたが……。お前、今扱っているのは、それらのスキル以外にもあるな? 動きがあまりに正確過ぎる……」
「……はは、やっぱ師匠。見抜かれるか……」
<第四
得られる各種情報をもとに、次に取るべき行動を予測するスキル。
あくまでも、予測の材料となる情報が必要で、いわゆる超能力的未来予知ではない。
ただ、得られる情報の濃さによっては、それら未来予知すらしのぐ正確さで未来を先読みすることが可能となる。
かなめのスキルとの連動によって、敵の動作を先読みする戦闘感覚へと昇華している。
<第五
その思考速度を加速することで状況への対応速度を上昇させるスキル。
具体的には、周囲の動きが鈍く遅く感じるようになって、状況への素早い対応が可能となる。
かなめのスキルとの連動によって、敵の動作への対応能力をさらに引き上げる戦闘感覚へと昇華している。
「いま俺が並列的に使っている二つは、ほかの
「ふむ……、一つは先の先を読む先読み……、もう一つは思考速度を高めて各状況への対応力を上げる能力か……」
「そうです……、そして」
――次の瞬間、俺は師匠に向かって駆ける。師匠は至極冷静に迎撃すべく構えをつくる。
「む? ……動きが変わった?」
俺の攻撃を幾度か回避しつつ、師匠が驚きの顔を見せる。
俺はさらに師匠へ拳を数発走らせる。
「動きが……波のように変化しておる。これはまるで、二人の拳士を相手にしておるような……」
<第六
流派の違う刈谷流空手の戦闘技術を得るスキル。
司郎の身体能力的には、宮守流に比べて適応力が低い戦闘技術。
かなめのスキルによって得られる宮守流の動きに連動させて、捉えどころのない変幻自在の動きを生み出すことが出来る。
それでも、師匠には俺の攻撃は一つも当たらない。
まあ――師匠だから仕方ない話だが。
「ならば……」
次の瞬間、俺は師匠の脇を抜けてその背後へと疾走する。
その素早い動きに、師匠は初めて俺を見失った。
「死角へと入られたか……」
そう、その動きは相手の視線から死角を読み取り、そこへと身を隠すことで疑似的な透明化を果たす技術。
<第七
相手の死角に入り目標の首を瞬時に刈り取る暗殺技術。
本来は直接戦闘のためのものではない為、それを最大限に活用するにはおとりとなる者を必要とする。
かなめのスキルとの連動によって、相手の死角を読み取る戦闘感覚へと昇華している。
「隠密の技か……面白い!!!」
師匠の死角に入った俺の拳の連撃が師匠へと飛ぶ。
しかし、その攻撃すらあっさりと対応しきる師匠。
それは、まるで背中に目でもついているかのようで――。
「……だったら!!!」
ドン!!!!
俺は床を蹴って跳躍する。それは師匠に向かってではなく、側面の壁に向かって――。
ドン!!!!
そのまま壁を足場に俺はさらに跳躍する。――師匠の頭上を走り抜けた。
「三角飛び?!」
<第八
瞬間的に身体能力を向上させて、人間離れした運動能力を獲得するスキル。
正式な異能者であるアリスとは違い、肉体のリミッターを解除して能力を引き上げるために、限界値と制限時間が設定されている。
かなめのスキルとの連動によって、超人的格闘能力を得られる能力強化スキルへと昇華している。
「この動き……、肉体の枷を外したのか?!」
あまりに人間離れした動きにさすがの師匠も驚きの声を上げる。
俺はそのまま師匠の側面に降り立ち、師匠に向かってさらなる提案をしたのである。
「多影拳をお願いします!!」
「よかろう!!」
その提案を受け取った師匠は、その身に力を込めて俺に向かって疾走を始める。
――その身が無数に分身した。
「は!!!!!!」
気合一閃、俺は襲い掛かってくる無数の師匠へと拳を連続で放っていく。
そのうちのいくつかが師匠の残像を捉えて消滅させる。しかし――、
ドン!!!!!
さすがの俺も、完全には対応しきれずに師匠の拳をその身に受ける。
俺はそのまま後方へと吹っ飛ばされて、その場に倒れ込むしかなかった。
「惜しかったな……。感覚としては追いついていたようだが」
「はあ……、やっぱ師匠は強いや」
「その最後に使った
<第九
複数の感覚を得てそれぞれに対応することを可能とするスキル。
かなめのスキルとの連動によって、複数の敵の動きを正確に読み取る戦闘感覚スキルへと昇華している。
あくまで感覚スキルであるゆえに、それらに完全に対応できるかは戦闘能力次第である。
俺がそれを説明すると、師匠は深く頷いて言った。
「なるほど……。確かにお前の身には、異能に近い何やらが宿っているようじゃ」
「それで師匠……、いま俺が扱える
「うむ、よかろう……。お前が今扱える
「本当か?! 師匠……」
「……無論、基礎が出来上がっていても、それを使いこなすための修練は厳しいものになるだろうが……な」
「覚悟は……出来てる」
その俺の言葉に満足げに頷く師匠。
「ならば……、お前に、わが宮守流に伝わる
「
「ふ……、それは、わが宮守流古流空手の……、本来の使命をこなす為に、一部の選ばれたものにしか伝授されない秘技……」
その師匠の次の言葉に、俺は息をのむことになった――。
「宮守流……対天魔戦闘技法……すなわち【
◆◇◆◇◆
司郎が宮守翁と修行を初めて一か月後――、試練完遂までの時間が残り二か月に迫った頃。
司郎のハーレムに入っている少女たちは、彼女たちだけでかなめの部屋に集まって秘密の会議を開いていた。
「最近……司郎君……、暗くて思いつめた顔をしてる……」
そう言葉を発したのは日陰である。その言葉にかなめが答える。
「うん……、最近の司郎、修行に熱が入りすぎて、女の子にちょっかい出してないからね」
「それであんな風になっちゃうって……、本当に司郎君って根っからの女好きなのね……」
かなめの言葉に香澄があきれ顔をする。
「アレは、要するに女の子欠乏症ってやつだね……」
空が笑いながらそんな事を言う。
それを聞いてアリスが心底心配そうな顔をして言った。
「ちょっち、司郎君ってば……、根っからの変態さんが変態行為を無理に辞めたら、ああなっても仕方ないよ……」
「アリスさん……、それは本当に心配してるん?」
アリスのその言葉に、かなめが苦笑いしながら言った。
――でも、
「まあ、アリスの言いたいことはわかる……。司郎はやっぱエッチなことしてないと……ね。現状、司郎は精神的に無理なことしてるから、下手をすると変な方向に爆破しかねない」
かなめのその言葉に女の子たちは全員頷く。
正直、今の司郎は修行に打ち込み過ぎて、逆に心配になってくるほどなのだ。
ハーレムの皆ともほとんど話す機会がないし――、暗くどんよりした顔でぶつぶつと何かを呟いている状態である。
司郎の原動力はやっぱり、女の子と、エロなのである――。
それを無理に遠ざけている現状は、司郎を精神的に追い詰めるだけだと、その場の皆は理解していた。
――と、その時、藤香がその場の皆を見回して言った。
「それでは……、こういうのはどうでしょう? わたくしたちで、司郎君の気分転換をしてあげると言うのは?」
「気分転換? ……具体的には?」
かなめの問いに藤香は笑顔で答える。
「実は……、最近わたくしは市内に、室内プールを持ったビルを購入しまして。そのプールを貸し切りにして、司郎君をお誘いすると言うのは?」
「ソレって……、要するに私たちも水着を着てってこと?」
「はい……、そうすれば、少なくとも司郎君の目の保養と、十分な気分転換にはなるのではないでしょうか?」
「ふむ……」
かなめは少し考えてから頷く。
「まあ……下手にエッチなことするとか……、そういうものでもないし、いいアイデアかもしれないね」
周囲の少女たちも同意するように頷いている。
かなめはその場の皆を見回すと宣言をした。
「じゃ……次の日曜日に、司郎を誘ってみんなでプールに行こう! それまでにみんな水着を用意しておいてね?」
こうして、司郎の気分転換をするべくかなめたちは動き出した。
そのことが、あんな惨劇(?)に発展するとは知らず――。
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