第二十二話 動き出す影!

 俺がブリジットを異世界(?)から救い出して一週間が過ぎたころ、いつものように暗転空間に呼ばれ、縮んでしまった姫ちゃんと会うことになった。


「いや、本当に縮んだんだな……、って言うか分霊なんだから、別人として扱った方がいいのか?」


 俺がそう言うと、女神人形は小さく頷いて言った。


『そうですね……、私の事はとでも呼んでください。ある程度は同じ記憶を持ってはいますが、あくまでも天城比咩神アマギヒメノカミ様とは別人格ですので』

「ふむ……そう言う事なら。了解、ヒメ……」

『はい!』


 うむ――結構、というかかなり可愛い。ちびっこい人形だからそう感じるのだろうか?

 小さな手を振って返事する姿は、なかなか来るものがある。


「で? その本体である姫ちゃんはどうしたん?」

『わかりません』

「マジで?」

『はい……、何か理由があって、儀式の後を託すために私を生み出したのだろう、という事はわかるのですが……』

「それは……」


 その時、俺の心に何やら不安のようなものがこみあげてくる。

 まさか――女神ともあろう存在に、何かあったとは思えないが――。


『まあ……、とりあえず、ハーレムマスター契約のサポートは、私が引き継いだので安心してください』

「ああ……わかった」


 ――と、それまで黙って状況を伺っていたブリジット――、ミコトが言葉を発する。


「白柴犬……、司郎君って妙なことに関わっていたんだね」

「え…まあ、な」

「ハーレムマスターとか……、どこのなろ〇小説だよって思ったが……」

「はは……」


 俺はそれを聞いて苦笑いする。まあ――ハーレムがどうとか、普通はそう思うよね。

 ――ミコトは言う。

 

「でも……まあ了解。そんな事情があるなら、僕も君と付き合うよ……。僕みたいなのが役に立てるなら……」

「いや……お前って、本当自分を卑下しすぎだぞ? なんであの女子どもがお前をいじめの標的にしたのか、……本当のところを知らないんだろ?」

「ん? ……どういうコト?」


 そのミコトの疑問に、俺の代わりにかいちょーが答える。


「こちらとしても、いじめなんてことは見過ごせなかったんで調べてたんだが……。奴らの言い分は、要するにお前が目障りだったんだよ……、昔のお前はそこそこ周囲の男どもにモテてたんでな……」

「え……」

「まあただの嫉妬で……、連中の言い分は聞くに堪えない許せない話ではあるが……。ようはお前は、妬みの対象にされちまったって話さ……」


 そう……、結局、あの女子どもは、実力でも容貌でもミコトに勝てなかったから、直接的で短絡的な方法で彼女を排除しようとしたのである。

 そう思うと……若干彼女らも哀れと……、はさすがに思えないか。あいつらのせいでミコトは相当苦しんだんだし。

 

「要するに、お前は他の女子が羨ましくなって、妬ましくなるほどの美少女ってことだぞ?」

「う……、そんな事、面と向かって言われると……」


 俺のその言葉に顔を真っ赤にするミコト。

 まあ――、これから彼女がどうするかは、これから考える事だろう。

 不登校をやめるにしても――、連中によるいじめが復活する可能性は捨てきれないのだから。


「しかし……、結構今回は危ない状況だったみたいだな」

「ああ、あのブラゲは……、結局異世界に行けるものではなく……、魂を閉じ込めて喰らうだけの異能だったらしいし」


 俺の言葉にかいちょーが答える。


「結局……、アタシらじゃブラゲにログインしたシロウのサポートも出来なかったし……。完全に閉じた世界である以上、シロウが帰ってくるのを待つしかなかった」

「そう言う意味では……、ちょっと考え無しだったような気がするぜ」

「まあ……シロウが考え無しなのはいつもの事だが」


 そう言って笑いあう俺とかいちょー。まあ、試練に失敗してたら、笑い事では済まなかったが。


「……しかし、アレが試練じゃなかったら。俺も眠り病になって終わりだったのか?」

『その通りですね……、正直、司郎君は女の子の危機に考え無しに走っていくのは、止めたほうがよろしいかと思います』

「むう……」

『それが司郎君のいいところであるのはわかりますが……、もうちょっとご自分の将来を見据えて動くべきかと』


 それは、もちろんわかってる。――いつもかなめに言われてるしな。

 でも――、


「まあ……今回は結果オーライ、……って言うか、そう言えば奴が俺の事、特異点がどうとかって言ってたし……。もしかして、俺ってばそういうのを救える特別な人間だったりして……」

『それは……、ないです』


 ――思いっきり否定された。まあそうだろうね。


『……でも、まあ、ある意味でいえば正解だとも言えますね。なぜなら、貴方があの試練を乗り越えられたのは、これまでの積み重ねのおかげだとも言えますし……』

「へ? それって……」

『あの魂食いの異能は、特殊な幻覚を用いて異世界を生み出すタイプの異能です。あの異能の力によって、魂を侵食されて幻の異世界に閉じ込められ、精気を吸われてしまうわけですが、そうなるのはあくまで一般人のみです。……そうでないあなたは、あの異能の幻の異世界の侵食を完全には受けていませんでした。だからこそ異能をその内部から崩壊させることが出来たのです』

「……ちょっと待って? 俺が一般人じゃない? ……特技スキルが使える異能者だってこと?」

『一応……説明した方がいいでしょうかね? 今のあなたは、契約の効果によって魂の格……すなわちが上がっているのです』


 その時、かなめが反応する。


って……、女神に対して攻撃してもっていう話の?」

『その通りです……。司郎君は今、霊格が常人とは違うレベルまで引き上げられています』

「それって……、契約の効果なの?」

『はい……、そもそもこのハーレムマスター契約は複数の魂を接続するシステムですから、その中核にある司郎君の魂は接続された魂の影響をけて、霊格が上がってしまうことになります』

 

 そのヒメの言葉にかいちょーが口をはさむ。


「それって……ようはハーレム要員が増えると、司郎が魂から人間離れしていくって話か?」

『そうですね……。結果的にそうなってしまいます』

「それじゃあ、今のシロウはどのくらいなんだ?」


 そのかいちょーの言葉にヒメははっきりと答えた。


『今の司郎君の霊格は……、異能者レベルを超えて……。そうですね……妖怪レベルに達しています』

「プ……」


 そのヒメの言葉に周囲の女の子の誰かが噴出した。


「ちょっと!!! 誰だよ!! 今笑ったの!!!!!」


 俺がそう言って周囲の女の子たちを見るが、なぜかみんな俺を見ずにそっぽを向いている。


「そう……妖怪レベル……。それは……」


 かなめが何やらこみ上げるものを我慢しつつ言う。

 かなめさん? 君少し頬を引きつらせてないかい?


「妖怪エロガッパ……」


 ――不意に何処かの誰かがそう呟いた。その瞬間、女の子たちが俺から顔を背けて口を押える。


「ちょっと!!! 誰だよ!! 今、俺の事エロガッパとか言ったの?!!!!!」


 その場の女の子たちは全員俺から顔を背けて肩を震わせている。

 おのれ――。


『まあ……そういうコトで。今の貴方は、一般向けの異能には強い抵抗力を持っているんです。これは、今後の試練で大いに役に立つでしょう』


 ヒメがすこし苦笑いしながらそう俺に向かって言う。

 どうやら、俺は順調に人間離れしているらしい。――まあ、契約する以前からエロが絡むとそんな傾向があったような気がするが、まいいや――。


「……」


 周囲の女の子たちはいまだにこっちを見ない。――後で妖怪エロガッパとして、彼女らにお仕置きをしなければなるまい。

 ――俺はそう心の中で決意していた。


 

 ◆◇◆◇◆



 何処とも知れぬ闇の中――、一人の少女が正座をして首を垂れている。


「御屋形様……、涼音すずね……、ただいま参りましてございます」

「……ああ涼音よ、よく参ったな。今回お前を呼んだのは他でもない……」

「……それは、例の空白地帯の?」

「そうだ……、近頃、広域の認識阻害の天蓋によって、欺瞞されていた地域が発見された。その天蓋は、我々の意識すら阻害して、かの地域を長らく異能の空白地帯としていたのだが……」

「天蓋が解放されたことによって、異能に関する現象が急速に起こり始め……。不安定化していると……」

「その通りだ……。境界の守護者たる我々としては、その不安定化を見過ごすわけにもいかん。それに……」

「例の組織も動いているのですね?」

「そうだ……。かの組織もその地域に関しては、認識欺瞞によって空白地帯として放置してきた。我々と同様にその地域を確保するべく動いている」

「ならば……彼らより先んじて確保せねば……」

「その通りだ……、その地域に何があり、どのような理由でそのような状況下にあったかはわからぬが、最悪その根源をかの組織に確保された場合、我々とその組織のパワーバランスが崩れる可能性がある。そうなれば……」

「再び暗闘が始まって……」

「影の世界は再び争いの時代に突入する……。それだけは避けねばならぬ……」

「……了解いたしました。この涼音……、わが姓に誓ってかの地域を、我が組織の支配下におさめて見せまする」

「うむ……頼んだぞ」


 その少女は静かに頭をあげ立ち上がる。――そして、


(……わしの術式……、未来検索にて宿星を示すは……。そこに何が待つのかはわからぬが……。必ず使命は果たして見せる……)


 その身に羽織るは格子模様を肩に縫い付けた黒いジャンパー。

 腰まである長い銀髪に――、人では本来ありえないほどの深紅の瞳。

 その整った顔には老成すら見て取れる美しい少女――。


 彼女こそは――、


 

 ――播摩法師陰陽師衆・蘆屋一族――、

 その本部たる直属の法師陰陽師――、


 ――蘆屋あしや 涼音すずねであった。



<美少女名鑑その10>

名前:蘆屋 涼音(あしや すずね)

年齢:16歳(生年月日:1月4日 やぎ座)

血液型:O型

身長:147cm 体重:38kg

B:70(A) W:51 H:77

外見:腰まである銀髪の美少女。瞳が赤い。

性格:老人言葉で話す、まさしく老女のような落ち着いた性格の少女。

感情を表に見せることは少なく、何かとミステリアスな不思議少女。

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