第二十一話 勇者ミコトの帰還!
――あれから何時間経ったのだろうか?
時計がなく、時間経過がわからない異世界の草原で俺は途方に暮れていた。
いま俺が立っているのは、さっきまでいた天城市ではありえない広大な大草原。
FWOのログインボタンをクリックした瞬間、俺はこの大草原の中心に飛ばされて、あてどなく彷徨い歩く結果となった。
空にはふたつの太陽らしきものがあり、いつまでたっても夜に変化する気配がない。
それは明らかに名も知らぬ異世界――、現実世界でないファンタジー世界そのものだと思えた。
「マジ……どうしよう。ここに来てからやっと気づいたが……」
ぶっちゃけ、どれほど広さがあるかもわからない異世界で一人の友人を探す行為は、砂漠で一つの特定の砂粒を探すのと同じではないのか?
それはあまりに途方もない行為であり――。
「せめて町とか……城とかないのか?」
俺は空を見上げてそう呟いた。
――と、不意に何やら嫌な気配を感じて俺は周囲を見回す。
案の定、背後にソレはいた――。
「……」
そこにいたのは、不定形のゼリー状物体。
ただ、目らしき黒丸が二つあり、プルプル蠢いているのがかなりキモイ。
「うん……、たぶんこれって、ゲームの最初期の敵……
俺がそう言って苦笑いしていると、そいつは粘液上状の身体には似合わない軽快な動きで飛び掛かってきた。
「うお?!」
俺は慌ててその場から飛びのく。その敵の攻撃は見事に外れた。
「RPGみたいに戦えってか?! この……」
俺は素手でそいつを殴ってみる。しかし――、
「うわ……手ごたえが全くない……! って言うか微妙に暖かくてキモ!!!」
そいつは、今度は俺の番とばかりに襲い掛かってくる。
なんかの武器がないとこいつは倒せないのか? ――俺はその場から逃走するしかなかった。
俺はそいつの二回目の攻撃をかわすと背を向けて走り出す。しかし、動きが遅そうな外見に似合わない動きで、俺の事をそいつは追いかけてきた。
「いや! なんだよ!! どこまで追いかけてくるんだよ!! こういうのって少し追いかけたら消えたり……」
――まあ、この異世界が現実と同じ仕組みなら、RPGのごとく簡単に逃走はできないよね。
俺はそんなことを考えつつ無心で全力疾走をする。
「っていうか……、足早すぎだろ、初期の敵みたいな外見のくせして!」
いつまでも追跡してくるそいつの気配を背に感じながら、俺は無心で逃げるしかなかった。
そして――、
「あ!!!」
それは不意に目前に見えてきた。――それは、明らかに人工的な石の壁。
「街?!」
俺はやっと人が居そうな景色を目撃する。そのおかげで俺は萎えかけていた気力を取り戻した。
「あそこに駆け込めば!!!」
俺はその街を目指して全力疾走する。しばらくすると、その石壁に一つある巨大な扉の前に二人の人影が見えてきた。
「おい!!! とまれ!!!!」
そいつらは全力疾走で近づいてくる俺に向かって叫ぶ。
それは顔すらわからない全身鎧をガチガチに着込んだ鎧の兵隊。
俺は彼らに向かって言葉を返した。
「助けて!!!! 追われてる!!!!」
その俺の言葉に、その鎧の兵隊は手にした短槍を構えた。
「おまえ!! 俺の背後に隠れろ!!!」
そう言って俺のもとへと駆けてくる兵隊たち。
おれは彼らの背後に走っていって身を隠した。
「……魔王軍の残党め!!! いまだ人を襲うとは!!!」
兵隊たちはそう叫んでその手の短槍で敵を迎撃する。
その鋭い刃を何度も突き刺し、敵を細切れに解体していく。
俺はただその光景を見守るしかなかった。
「ふう……もういいぞ」
しばらくすると、そう言って兵隊が俺の方を振り返る。
俺は頭を下げて感謝をした。
「すみません。助かりました」
「いや……魔王軍の残党から人々を守るのは俺たちの仕事だからな……。君が無事でよかった」
「魔王軍の残党……」
俺は
「いや……、ありがとうございました。正直町が見当たらなくて途方に暮れてたもんで」
「ふむ? 町が見当たらないと? 地図も無しに旅をしてきたのかい? そう言えば君……」
何やら顎に手を当てて俺の事をじろじろ見る兵隊たち。
「君は……なにか……。ふむ?」
兵隊たちはそう言いながら二人で顔を見合わせている。
何かマズいかな?
「君のその服装……見たこともない形状と素材の靴……。まさか……」
「なにか?」
俺は冷や汗をかきつつそう答える。そんな俺に向かって兵隊たちは言った。
「勇者様の真似をしているのかな? 勇者ミコト様のファンなんだね?」
「え?!」
俺は兵隊さんのその言葉に驚きの声をあげた。
勇者ミコト?! ――ソレって――!
「君の恰好は……異世界人である勇者様の服装を真似て作ったんだろ? そうか……だからこの町に……」
「どういうことです?」
「ん? 知らない? 君は勇者ミコト様がこの町の宿屋に滞在しておられるから、それを見に来たんだろ?」
「勇者ミコト?!!! ……命?!!!!」
まさか――と俺は思った。その勇者ミコトがあの
俺は兵隊さんたちに向かって詰め寄る。
「その勇者様に合うことはできるんですか?!」
「ああ……、憩いの小鳩亭という宿屋に滞在しているから、そこに行けば会えると思うぞ? ただ、現在彼女は魔王討伐に成功した帰り道でお疲れになっているから、そこら辺を考慮して無理に会うのは控えたほうがいい」
「……大切な話があるんです!!」
「ふむ……よくわからんが。まあそこまで言うならこの町に入れよう」
兵隊さんたちは締まっている街門を押し広げる。そして同時に言ったのである。
「マルバスの街にようこそ!!!! 旅のお方!!!!!」
◆◇◆◇◆
「これはマズったかもしれん……」
現実世界では小鳥遊空がそう言ってパソコン画面を見つめていた。
FWOへとログインした後、司郎はそのまま意識を失って――、今は同じ部屋のベッドに寝かされている。
代わりに机に座ってパソコンをいじっていた小鳥遊空は、しばらくいろいろなサイトやログイン画面を確認した後、そのように呟いたのである。
「なにかあったの?」
心配そうな顔でかなめが空に聞く。空は頷いて答えた。
「このFWOって、オンラインって名がついているくせにPVP要素のない、一本筋ストーリーのポチポチゲーみたいなんだよ」
「それが……どういうコト?」
「わからないかい? PVP要素って言うのは他のユーザーとの交流要素の一つ、その交流要素自体があるように見えないうえに、ストーリーが一本筋ならほぼ各ユーザーごとに独立したゲームという事になる」
「ん? ソレって……」
「うん……各ユーザーごとに独立したゲームなら、一つのゲームに複数人がログインしてもそれぞれが出会うことなく、独立したゲームという事になって……」
「あ!!!! 司郎がログインしても……、命さんの異世界に行けない可能性があるって?!」
「その通りだよ……、下手するとこのまま司郎は、いない命を探して異世界を探すとかいう話になる可能性が……」
「でも……これって異世界への扉を開くためのゲームでしょ? なら、同じ世界に転移するんじゃ?」
「うん……、そう言う解釈も可能ではあるんだが……、なんか心配になってな……」
かなめと空は顔を合わせて考え込む。――と、その時、
『大丈夫ですよ! 今司郎君は命さんと再会しています!!』
不意に女神の声が響いてきた。
「女神?! ……って」
かなめが声の主の方を向いて驚愕の表情を向ける。それもそのハズ――。
「なんか……妙に縮んでないかい? 女神様?」
空が苦笑いして女神を見つめる。
その通り、目の前の女神は、手のひらサイズのディフォルメ人形の姿をしていた。
――女神(?)は答える。
『まあ……仕方がないです。私は最近生まれたばかりの
「分霊って……、本物の女神はどうしたんだ?」
『それは……私もよくわからないです。私を生んですぐに、どこかへと出かけてしまわれて……』
「むう? よくわからんが……、行方不明?」
『まあそうですね……』
少し暗い顔で女神人形は呟く。
空は先ほどの女神人形の言葉の意味を問う。
「……まあいいや。それで、シロウは命さんに出会えたんだな?」
『ええ……そうです』
「ならば……さっきのアタシの考えは取り越し苦労か……」
『……そうでもないですが』
「え? それはいったいどういう意味だい?」
空のその疑問に女神人形が答える。
『このゲームは……』
それから女神人形が語った真実に、かなめと空は驚きの表情をつくる。
「それが真実なら……」
空は暗い顔でパソコンの画面を見つめる。
「……でも、シロウの奴を信じるしかない」
ただ眠り続ける司郎の顔を見つめて空は呟くのだった。
◆◇◆◇◆
「司郎……君?」
彼女とは、これまでの苦労とは裏腹に、簡単に再会することが出来た。
宿屋の一回にある酒場で、果実飲料を飲んでいる彼女は俺を見て驚きの顔を浮かべる。
「命さん……、いやブリジット……」
「!!!」
その俺の言葉に命は身体をビクリと震わせた。
その時の彼女はその身に銀色の鎧を身に着け、腰にきれいな装飾の長剣を下げていた。
――それだけではなく、その周囲の席には、様々な服装をして武器を携えた者たちが、彼女が見つめている俺に不審な目を向けている。
「勇者様? この人はお知り合いですか?」
周囲にいる者の一人、悪らかにファンタジーゲームの僧侶っぽい格好の女性が、そう命に語り掛ける。
命は頷いて言った。
「ああ……僕の現実世界の……」
その言葉を聞いた周囲に者たちが可笑しそうに笑い声をあげる。
「なんと!! 御冗談を!!! 伝説において、現れる異世界人の勇者様はミコト様だけです!!! それ以外の勇者が現れようはずはありません!!」
「……でも」
俺の顔を見て命は困惑の表情を向ける。
俺はとりあえず、本来の要件を言った。
「ブリジット……、現実世界に帰ろう」
「!!!」
その俺の言葉に彼女は顔を引きつらせる。
ソレを周囲で聞いていた連中が口々に口を開く。
「なんだ? 勇者様に訳の分からんことを!!!」
「現実世界に帰える?! 勇者様はこれから、魔王を倒したその栄光をもって王となって、世界を導かなければならないのです!!」
「どこの馬鹿か知らないが……、変な言葉を吹き込むな!!」
その言葉に顔を引きつらせたたままの彼女は――。
「待ってみんな……、彼と話をさせて」
「しかし……」
「お願い……」
その彼女の真剣な表情に、連中は黙り込む。
彼女は俺に向かって言った。
「司郎君……、いや、白柴犬……。僕の事を……」
「ああ、ブリジット……、迎えに来たんだ」
「……なんで」
「なんでって……当たり前だろ? 俺はお前の……」
「ごめん……」
不意につらそうな表情で俺を見つめる命。
「……僕は帰れない。帰りたくない」
「なんで?!」
「それは……、この世界の人たちに必要にされているから」
「ブリジット……」
命は言う。
「現実世界に帰っても……、僕は誰にも必要とされない。それどころか辛い目に合う……。でも……。この世界の人たちは僕を認めてくれた……。僕を信じてくれた……、僕はこの世界でこれからは生きていく……。必要とされる人たちのために……」
「ブリジット……」
「だからごめん……。僕は帰れない……、白柴犬……、迎えに来てくれたのに……」
「でも……」
俺は彼女の本来の肉体が死にかけている事実を語った。それはすなわち……。
「今を逃したら、帰りたくなっても現実世界に帰れなくなるぞ!!」
「……」
俺のその言葉に一瞬ためらう表情をした命だが――、首を横に振ってこたえた。
「……もう嫌なんだ。現実世界にはいたくない」
「ブリジット……」
はっきりと拒絶されてしまった。
俺にはそれ以上出る言葉はなかった。
「わかったか? 異世界人を名乗るお前」
「そうです……。ここまで嫌う現実世界などに帰る必要はないんです」
「どれだけ現実世界がひどい世界か、よくわかるな……」
口々にそう俺を責める周囲の連中。
それを彼女は止めることもなく、ただ目を瞑って黙っている。
――ああ、これ以上は――、
俺は思う。
彼女はひどいいじめを受けてきた。それで不登校になり、現実世界に絶望していた。
そんな彼女の気持ちを無視して、現実世界に連れ帰ることが本当に正しいのか?
おれは無言でその場を去るしかなかったのである。
◆◇◆◇◆
宿屋の外に出ると俺はため息をついて空を見上げた。
結局俺は何をしに来たんだろう――。おそらくこのままでは現実世界の彼女は終わる。
でも――、
(もし……この世界に必要とされて。それで生きていけるなら……)
彼女にとってそれは幸福なのかもしれない。――そう俺は考えた。
「しかし……、俺が異世界人だって、最後まで連中は信じなかったな……」
――と、その時、俺の頭に疑問が沸き起こる。
そう言えば連中の一人が言っていた。
異世界からの転移者――、勇者は一人だけだと。
「ん? でも、これって異世界だよね? 過去に何人か行方不明者がいるんだから……」
過去に転移してきて、そのまま居ついた人間が複数いないとおかしくないか?
その疑問に思い至った時――、俺は背筋が寒くなる思いがした。
(もしかして……
俺がそう考えた時――、俺はいつの間にか、たくさんの人間に囲まれていた。
「そう言うことか……」
◆◇◆◇◆
空は女神人形の言葉に驚きの声をあげる。
「じゃあ……やっぱりこのゲームで転移する異世界って……」
『そうです……、このゲームは異世界への扉を開くモノではありません。ログインした人間ごとに異世界をつくって閉じ込める異能です』
「そうか……一人のユーザーごとに、転移者ごとに世界が生まれる? それじゃあ司郎は?」
『司郎君はいわばイレギュラーで、試練の女の子と関わることのできる特殊能力がありますから』
「ああ!!! だから特異点として、命さんがいる異世界へと転移出来たと?」
『そして……、この異能にはある特徴があります』
「それは?」
『この異能は……、いわば
「!!!!」
『私の先代……
「そうか……だから、あの噂って……。女神の流した噂も含まれてて……」
『そうです。噂の一つ、
かなめたちはただ驚くほかなかった。
◆◇◆◇◆
「勇者様」
不意に僕は僧侶ミランダから言葉をかけられる。
「現実世界に帰ったりしませんよね?」
「それは……、もちろんだよ。あんな世界……」
そう、帰るつもりは毛頭ない。この世界には、僕を信じて心を許し……、そして必要としてくれる人たちがいるのだ。
でも――、
そう僕はあの司郎君のつらそうな表情を思い出す。その瞬間、僕の心は激しい痛みを得た。
でも、もし彼の話が本当なら――、この想いは振り払わなければならない。
そうだ――僕はこれから、この世界で幸福を手にするんだから。
――と、不意に宿屋の外から争いの音が響き始める。
僕は何事かと立ち上がろうとした。
「大丈夫ですよ? 何も起こってはいません」
ミランダはそう言って笑顔で僕を見る。
いつも僕の事を気遣って笑いかけてくる――、その笑顔がなぜかのその時は冷たく感じた。
「でも……、何か外で……、魔王軍の残党モンスターとかだったら」
「何も起こっていません」
ミランダの顔に、笑顔が仮面のごとく張り付いている。
「ミランダ? 何を言ってるんだ? いつも率先して人々を助けようって……」
「誰も傷ついていません」
「いや……争う音が……」
「勇者様……」
その時、ふと嫌な予感を感じた。
まさかこの音は――。
「司郎君?!」
「行く必要はありません」
「そんな!!!!!」
やっと理解した。外から聞こえるこの音は――。
「なんでだ?! あの人は現実世界の人間だけど……、そこまでして排除するべき人じゃないよ!!」
「いいえ? 勇者様を現実世界などというところへ連れて行こうとしました」
「僕は帰らないって……」
「それ以前に、彼は……」
ミランダは笑顔を浮かべている。でもその姿は――。
「どうしちゃったの?! ミランダ!!! 君は博愛主義で……」
「勇者様……」
その時のミランダの笑顔を僕は一生忘れないかもしれない。
――僕は、その時になってやっとすべてを理解した。
「そうか、そうだったんだ……。初めから、本当はわかっていたんだけど……」
「勇者様……」
「この世界は……多分作り物だ……。君たちも、僕の事を気分良くするためのエキストラ……そうなんだろ?」
「勇者様!!」
「そうだよ……、そもそもこの世界の人間は、僕に欠片も悪意を向けなかった。モンスターは襲ってきたけど……、人間たちはみな僕を認めて、その存在を喜んでくれた」
――でも、そんなことは本来ありえない。
「心のある人間なら……、僕を見て少しも悪意を持たないなんてことはない。強い力を見て恐れ、或いは嫉妬して、心の本の片隅には悪意を持つものなんだ」
だから――、
「これは僕が望んだ世界なんだね? そうやって僕が傷つくことのない完全なる世界」
「勇者様……、そんなことはありません。この世界の人間はみなあなたを慕って……」
「本当に?」
「そうです……。そもそも、貴方に悪意しか向けない現実世界など……、そのほうが歪んだ悪魔の世界なのです」
「……」
「だからもう振り払ってください……。現実世界になど帰らないと」
僕はその言葉を受け取って――。
「そうだね……」
「そうですよ、勇者様……現実世界など捨ててしまいなさい」
「いや……そう言う事じゃないよ」
「?」
「確かに、現実はつらいさ……。いじめられるから死んでも帰りたくないんだ」
「なら……」
「
「え?」
「あの人は……白柴犬は……、司郎君はそれでも僕を迎えに来てくれた。こんなことになって……命を失う危険があるって言うのに」
そうだ、僕は初めからわかっていたのだ。この世界に来ることがどういう意味なのか。
幻のブラゲの噂の一つ――。
それは、体のいいただの自殺――。
「勇者様……」
不意にミランダの顔から笑顔が消える。そして――、
「もう留めるのは無理みたいですね?」
「ミランダ……」
その表情にははっきりと悪意が見えた。
(そうか……そうだね。この世界は異世界じゃないんだ……。結局、僕に迫ってくる悪意のある現実の一つに過ぎない……)
――でも。僕は思う――。
(もしそうであって……、異世界が別にあるのだとしても……、僕はもう異世界に行こうなんて思ったりしない)
だって――、現実世界に悪意しかないのだとしても。
僕の事を傷つける者しかいないのだとしても。
あの人がいる世界が――、
司郎君のいる世界が、僕にとって何より素晴らしい世界なのだから――。
「ごめんねミランダ……」
僕は腰の長剣を彼女へと向けた。
その光景を見たミランダは――、それまでとはうって変わった、悪意のある表情で笑う。
「ははは!!! 馬鹿なのですか? 勇者様……、その剣は魔王殺しですが、所詮はこの世界で生み出されたもの……。だから……」
不意にその長剣が手から消え去る。それだけでなく――、
「勇者の鎧も?」
「フフフ」
身に着けているすべての装備が消滅していく。
それらは結局――、
「俺様の作った幻だよ……」
不意にミランダの口調が変わる。
「もうそろそろ……特異点も処理できたか? ならば次はお前だよ、勇者様……」
「それが……本当の君」
「そうだがどうした? この空間に閉じ込めた獲物が、余計なことを考えないように監視していたんだよ」
「……」
「まあ……、もうちょと精気を吸いたかったが。まあいい……、余計なことにならないうちに、お前を殺す……」
僕はその場に項垂れる。結局、僕は大事な人を犠牲にして、心中しただけになった――。
ただただ、司郎君の事を想って僕は涙を流す。
「ごめん司郎君……」
僕がそう呟いたとき。それに答える声があった。
「いいよ……、俺たちはダチだろ?」
――それは確かに司郎君の声だった。
◆◇◆◇◆
ミランダ――、いや
外でNPCたちに切り刻まれて死んだはずの俺が、なんと無傷で現れたからである。
「ばかな?! なんで?」
「ちょっと手間取ったが……、まああの程度は軽いぜ」
「く……」
悪魔がその手をあげると。酒場の中の人々が武器を手に立ち上がる。
「司郎君!!!」
俺の耳に命の叫びが届く。俺は星の輝く右手を振ってこたえた。
「大丈夫……」
俺はそれだけ答えると酒場内を一気に駆ける。
その疾走に巻き込まれて数人のNPCが吹き飛んだ。
悪魔はその光景に驚きの声をあげる。
「な??? なんだ? なんでだ? なんだよこの強さは……。このNPCどもは、今強さの設定を最大にしてるんだぞ?」
「ん? そうなの? この程度で?」
俺のその返しに悪魔は答える。
「今、NPCどもは、その一体一体が現実世界の世界チャンピオンクラスの戦闘能力になってるんだぞ?! なんでそれに囲まれてここまで……あ」
「ん?」
俺の顔を見て、一つの確信を得たような――そんな顔をする悪魔。
「お前……そうか。そもそも俺の術式に抵抗して? ……でも、普通の一般人の霊格では絶対不可能な……」
「何を言ってるかわからんが……。とりあえずブリジットは返してもらうぜ?」
俺は他のNPCをぶっ飛ばしつつそいつに近接する。
そして――、
「悪いな……これで終わりだ」
そのまま高速の回し蹴りをそいつに向けて放ったのである。
◆◇◆◇◆
その蹴りを受けた瞬間、電子の悪魔の術式はほどけて壊れる。
それによって、構成されていた異世界は崩壊し、その閉じ込めていた魂も元の肉体へと帰還していった。
その崩壊を感じながら電子の悪魔は考える――。
(奴は……あの特異点は……、人間ではない……。人間ではなくなっている……)
人間でないなら当然、人間向けの術式はほとんど効果を表さない。
だからこそ、そもそもあの特異点に対しては、NPCの強化すら無意味であったのだ。
(……ああ、余計なことに首突っ込んでしまった)
電子の悪魔は後悔する。そして――、
その身を構成するプログラムごとこの世から消滅していった。
――第八の試練、攻略完了。
<美少女名鑑その9>
名前:無津呂 命(むつろ みこと)
年齢:16歳(生年月日:8月22日 しし座)
血液型:AB型
身長:165cm 体重:59kg
B:88(D) W:61 H:89
外見:ぼさぼさ髪の不登校少女。
性格:根っからのゲーマーでパソコンマニアでもある。
複数のパソコンを同時に操作する特技を持ち、電子関係に極めて高い適応能力を示す。
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