第十八話 異なる世界、信じる想い
俺がそいつを殴り飛ばした瞬間、俺の心を支配していた
その事で、敵である女が意識を失ったことを知った。
(ふざけんなよ……、俺に女を殴らせやがって……)
俺は心の中で悪態をつく。正直、命を狙ってきた相手であろうが、女性を殴るのには心の奥から湧き上がる不快感が拭えなかった。
「よくやったな……司郎」
不意に、そう言う老人の声が俺の耳に届く。
俺は少し緊張をしながらそっちを向いた。
「……む、師匠? あの石礫って、やっぱり……」
「フム……余計なお世話であったか? お前ならその程度の事、当然出来たであろう?」
「……いや、師匠ほど
「ほう……最近のお前は、それほどの修羅場をくぐっているという事か……」
「……」
俺は黙って師匠に――宮守の爺さんに頭を下げた。
正直、あの瞬間、あの指弾がなければ、ミリアムちゃんが助かることはなかった。
師匠には、いつも以上に頭が上がらなくなるだろう――。
【指弾】
それは、地面に落ちている石ころなどを指で弾いて目標を打撃する、宮守流に伝わっている戦闘技術の一つである。
直接殴るのに関して精神的な抵抗があった俺は、その訓練だけは今も続けている。
もっとも、師匠のごとく手に直接当てるなどの芸当は出来ない為、最後の切り札的な使い方すらできない、ほとんどお遊びのようなものであるが。
「お爺ちゃん!」
かなめが嬉しそうに師匠の下へと走ってくる。
それを優しげな眼で見つめる師匠。
「かなめも……無事でなによりじゃ……。それにそこの……」
「……」
多津美ちゃんが緊張した表情で師匠を見る。
そう言えば多津美ちゃんは師匠と顔合わせするの初めてだったっけ――。
「しかし、このような状況に会うのは久しぶりじゃな……」
「このような状況って……。そういえばお爺ちゃん? どうやってここに?」
そう――、この俺が倒した奴が、何か妙な方法で人払いをしたことは事実である。
どうやって師匠はここにやってきたのか?
その問いに対して師匠は笑いながら答える。
「まあ……な。わしとて伊達に長く生きてはおらぬゆえに、昔このような手合いの相手をしたことがある」
「このような相手?」
「
「異能……、そう言えばコイツ……、魔眼がどうとか……異能がどうとかって……」
俺のその言葉に師匠は頷く。
「もっとも、そいつらは世界の深遠でも、比較的浅い領域に属するもので、正確にこの
「ソレってどういうコト? お爺ちゃん?」
かなめの質問にその答えを返す師匠。
「そこに眠っておる奴とその組織は、異能に関わってはいるが直接ではない……。要するに異能を操る組織と取引をして、その技術を道具として手に入れて活用しておるだけじゃ」
「コンピューターを扱って商売する組織と、コンピューターを作っている組織の違い……、みたいなもんか」
俺のそのたとえに師匠は頷いた。
「そ奴本人も異能を持ってはいるようだが……、わしがかつて相対した者のように完全に理論を理解して使いこなすものではない。俗にいう
異能者――、この世の中には不思議な能力をあ奴る者がいるらしい。――って、そう言えば俺もそこに含まれるのか?
「……それにしても……、司郎」
「ん?」
「お前の先ほどの動き……」
これはヤバイ――、俺はその時そう考えた。
師匠なら俺が現在持っている
そうなると俺は――、師匠にハーレムマスター契約と、かなめを自分のハーレムに入れた――、という事を話さなくてはならなくなる。
――それは多分――、俺は死ぬ――。
「お前の動き……、それは明らかにかなめの動きと酷似しておるな?」
ほら見ろ!!! やっぱり!!!!
「無論、それだけではないようにも思う……。何やら複数の格闘家の動きを混ぜたような……」
師匠――、貴方はなぜそこまで見抜くんですか。
俺は全身から汗を噴出させつつ笑顔を作った。
「いや……、実はかなめや、そこの多津美ちゃんから……、ひそかに格闘術を習ってたんで……」
「……ふむ」
俺は師匠の目をなるべく見ないようにそう言った。
師匠はしばらく考えた後、ため息をついて言った。
「まあいい……、どのようなことに関わっているのかは知らぬが……、かなめが監視しておるなら大丈夫であろう」
「そ……そうっすね」
俺は苦笑いしながらそう答えることしかできなかった。
「で……そこの娘……。ミリアムであったか?」
「は……はい……」
突然話をふられてミリアムちゃんが身体をびくりとさせる。
師匠はそれに構わず話を続ける。
「おぬしの事情は、おぬしの母より聞いた……」
「え?!」
「……これからしばらく。宮守家でおぬしの身柄の安全を確保することとなった」
「それは……」
ミリアムちゃんは突然の話に、暗い顔で言い淀む。しかし――、
「これはおぬしの母の為でもある……、母に迷惑はかけたくあるまい?」
「ん……」
その言葉にミリアムちゃんは頷く。
今回襲撃されたことで、組織とかいうところにミリアムちゃんの事がばれているのは事実である。
ならば師匠の側ほど安全な場所はない。
「……安心するがいい。そこの女を交渉材料にすれば、かの組織とも上手な交渉が出来よう。おぬしの安全が本当に確保できてから、母のもとへ帰ればよい……」
「わかり……ました」
ミリアムちゃんはそう言って師匠に頭を下げた。
これからミリアムちゃんの将来に何が待つかはわからない。――でも、師匠たちが味方に付くならきっと良い方向に転がるはずだ。
――俺はそう心から信じて笑った。
◆◇◆◇◆
状況がひと段落して、師匠と別れた直後――、俺たちはいつものごとく暗転空間にいた。
「よう! 姫ちゃん!! やっぱミリアムちゃんは試練対象だったのか?」
『……』
「ん? どうしたん? 姫ちゃん?」
『いつもの司郎君で安心しました』
「そう? いつも俺はこんなんだぜ?」
『……司郎君は、結構心が図太いですね』
「はは!!! それ褒めているようには聞こえないぞ?!」
『無論、褒めてはいません』
姫ちゃんはそう言って俺に笑顔を向けた。
――と、状況がいまいちつかめていないミリアムちゃんが声を発する。
「これって……どういう」
『それは、今からしっかり説明いたしますよ!!』
姫ちゃんはそう言って、ミリアムちゃんにすべての事情を話し始める。
ミリアムちゃんはしばらく静かに聞いた後、俺を見て言った――。
「私がシロウくんのハーレムに入る? そうしないとシロウ君が死ぬ?」
『その通りですよ!』
俺の代わりに姫ちゃんが答える。
その言葉にミリアムちゃんは頷いて言った。
「よくわからないけど……わかった。シロウくんを助けられるなら……構わない」
そう言って――いきなり。
「ちょっと!!! ミリアムちゃん?! なに服脱ぎ始めてるの?!」
ミリアムちゃんの突然の行動に、かなめが慌てた声をあげる。
ミリアムは無表情で返す。
「ハーレムって言うから……そうじゃないの? 私は初めてだけど、シロウ君なら……構わない」
「いや……、とりあえず服は脱がないで……。あくまで便宜上だからね?」
かなめは苦笑いしながら言う。――むう、惜しい。
ガス!
かなめに蹴られた。――痛いです。
「……って。実際ハーレムなんだから、俺ってばそういうコト要求してもいいよね?! 本当なら」
「ふ~~~ん……。そんなにエッチなことがしたいの?」
かなめが少し頬を赤らめながら睨む。――ほかの女の子たちも、微妙に顔を赤くしてるように見える。
――かなめは言う。
「もし……、本当に手を出すんなら……。あんたは私たちへの責任が発生するわよ? 絶対に逃れられない重い責任が……」
「む……」
「一対一の、普通の恋愛ならお互いの責任だけど……、現代で一夫多妻……ハーレムを実現するなら、当然そう言う話になるんだから…。その覚悟はあるの?」
「俺は……」
さすがにその女の子達の真剣なまなざしにたじろぐ俺。
しかし――、
「俺は……当然覚悟してるさ……。女の子を絶望から救いたいって思いは事実だが……。俺だって男だ……、みんなとエッチなことしたい!!!!」
「……」
「……そのためなら命だってかける!!」
その言葉に――、かなめをはじめ、すべての女の子が笑った。
「……まあ、それが司郎なんだね。……なんたって健全な男の子だもんね」
「そう……ですね」
かなめと日陰ちゃんが可笑しそうに笑う。
「まあ……、破廉恥なのは初めから知ってたし……ね」
「それでこそ漢ですわ……」
香澄と藤香さんが笑いあう。
「全く……男らしい男だと言えるのかな?」
「……まあ、仕方がないですね」
かいちょーが苦笑いし、多津美ちゃんは楽しそうに笑った。
――そして、
「それでは……さっそく」
再びミリアムちゃんが服を脱ぎ始める。――下着姿になった。
「おお!!!!」
俺がそう叫ぶと、かなめの蹴りが飛んできた。
――いてえ!!!
「だからミリアムちゃん……。服は脱がない……、今の話じゃないから……、これから私たちが覚悟すべきことで……」
「私は覚悟完了ですが?」
「……ふむ。ミリアムちゃんって結構人の話を聞かないタイプね……」
かなめがそう言って笑い――、それにつられて皆も笑顔になった。
――果たして、これからの俺たちの関係がどうなるのか? それは全く分からないが――、
まあどんな結末でも、彼女たちの笑顔があるなら俺は大丈夫さ――。
『司郎君……。本当にいい彼女たちに巡り合えましたね。普通はこんな状況受け入れる女性はいません。ならば……』
「……ああ、わかってる。俺はきっと彼女たちの期待を裏切ることだけはしないさ」
そう言って俺は姫ちゃんに笑顔を向けた。
◆◇◆◇◆
皆が消えた後――私は考える。
もし私の本当の意図を司郎君が知ったら――、私を嫌いになるのでしょうか?
このハーレムマスター契約によって本当にもたらされる結果――、
それによって起こる最後の試練――、
今回、彼が異能に関わることになったのは、決して偶然などではない――、
私は恐れる――、本当の気持ちを押し殺して、皆を死地に追い込んでいることは何より辛い――、
それでもこの
ひとえに彼を信じているからである――。
――上座司郎――、私が最も未来を信じる男性――。
きっと彼なら――、
――きっと彼なら――。
そう心で彼を想いながら――、
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