第十七話 悪夢を越えて!
――あの男――、俺の母親が付き合っていた男は極めて暴力的な男だった。
事あるごとに――、不満があれば殴る――、
母が何らかの口答え――そう聞こえれば何でも――をすれば殴る――、
そして――俺が何らかの男の気に入らない行動をすれば――日常的に殴った――、
母は言う――。
「ごめんさい……、私が全部悪いの……」
男の言葉を何もかもを背負ってしまう母――、
愛してるから? ――いや、今の俺ならわかる――、
母は、何かが原因で狂っていたのだ――。
――日常的に繰り返されていたそれは、幼い俺に暴力行為への深いトラウマを刻み――、
その後、俺が小学校を卒業する年齢まで、日常的な悪夢として俺を苦しめた――。
――そんな俺が宮守の爺さんの期待に応えられるはずがなかった――。
少しでも他者を救えるようにと――、その身を鍛えようと、宮守の道場に通っていた俺だったが――、
ある日、宮守の爺さんにそのトラウマを見抜かれ――、その心の傷が完全に癒えるまで道場を離れることになった――。
――このことはかなめは知らない。
俺自身が爺さんに頼んで、黙っていてもらったのだ。
――しかし、今再び俺を悪身が襲っていた――、
やっと克服し、道場へと帰る気持ちが固まったこの時点で――。
◆◇◆◇◆
「魔眼?! そんなものが……」
女のその言葉にかなめが困惑の表情を作る。しかし――、
「かなめ先輩……、女神とか
「む……そう言えば」
多津美のその言葉はもっともである。
かなめは心を引き締め敵に対峙する。
「司郎……、アンタは下がってて!
それはきつい言い方だが、俺の考え方を理解しているからこその発言だ。
俺は
だからこそ、今の俺が自分たちの足を引っ張る足手まといだと、俺自身に自覚させることで、俺を引き下がらせようという事だった。
俺は唇をかんで引き下がらざるおえなかった。――かなめたちの足を引っ張って、彼女たちが傷つくなんて嫌だった。
その状況に、女が俺たちを嘲笑いながら言う。
「そこの少年は……、何らかの
「ち……」
多津美ちゃんが苦しげな表情で舌打ちする。
その姿を面白そうに見る女――。
「ほかの女たちは……、そこの二人はなかなかやるようだけど……、学生格闘程度と暗殺奇襲がメインのF1254との組み合わせでは、私を追い詰めることは不可能ね……」
ソレは全くの事実である。
それまでは、俺が相手の矢面に立って牽制し、隙をついて皆が攻撃するという形をとっていた。
それが崩れてしまった以上、下手をするとこの敵に各個撃破されかねない。
攻撃を受ける
「ふふ……もうそろそろ遊びはやめようかしら?」
不意に女がその手のナイフにあるトリガーを引く。
何やら液体が刃を伝って流れ出た。
「あ……、みんな下がって……、アレは
ミリアムのその言葉にその場の全員が息をのむ。
「……そうよ。この毒は少しでも掠れば死に至る……、そしてその死体からは薬物反応が出ないという
「……素手じゃ相手は無理……、みんな下がって……」
かなめは「でも……」と言いかけるが――、これ以上は俺だけでなく、自分たちすら足手まといになりかねない。
この場はそちらの専門家であるミリアムに任せるほかはなかった。
(クソ……このままじゃ……)
俺は舌打ちして考える。
これは不味い方向に転がっているのではないのか?
相手はミリアム一人でどうこうできるようには思えない。
俺が悪夢にさいなまれておらず本調子であるならあんな毒ナイフなど、その身に掠らせることも無かったろうに。
――と、不意にミリアムと視線が重なった。
なぜかミリアムが俺に向かって微笑んだのである。
その目を見て俺は、一つの確信を得る。
「ミリアムちゃん!!! 駄目だ!!!」
――俺は不意にそう叫んでいた。
◆◇◆◇◆
トモダチ――。
ソレは暗殺技術を教え込まれたあの組織にもいた――。
無論、それは学校での友達とは根本的に違う――、
同じ死線を経験する運命共同体のような相手――。
一緒に食事をしたり――遊んだり――、そんな一部の人間にとっての
――特に私は、
――でも、それでも――、トモダチと笑いあうことはあった――、ほんの些細なことが喜びだった――。
――ある日それが失われるその時までは――、
ある日、仕事から帰ったトモダチは、ボロボロの猫のぬいぐるみを持っていた――、
それを私にあげると言った――、
ソレは生まれて初めてのプレゼント――、当然私の宝物となった――。
しかし、ある日を境にトモダチは変わった――、
私を目の敵にし――、幾度も私の命を狙ってきた――。
私はいつもそれを撃退し――、でも殺すことが出来なかった――。
「なんで……」
いつも私はトモダチに語り掛けた――。何がトモダチを変えたのか?
その真実を、ある日強烈な心の痛みと共に知ることになる――。
その日、トモダチは私の大事な猫のぬいぐるみを奪った――、そしてそれを切り刻み、足で踏みつけたのである――。
その光景を見て、私はトモダチと――もう一緒に笑いあうことはないのだと確信した――。
だから私は――、
「ごめんね……」
すべてが終わった時、そうトモダチは言った――。
その時点になってやっと私は理解した――、これは組織による作為的な教育――。
私を完璧な暗殺者とするべく――、わずかな良心を砕きにきたのだ――。
――トモダチは、それが成功しないと私が処分されると聞いていた――、だから
あれ以降――、今の母に出会うまで私の心は停止していた。
あの時、私はトモダチがどうして自分の命を犠牲にしてまで、私を生かしたのか理解できなかった。
「ああ……」
でも、やっと理解できた。
友達はトモダチとは違うけど――、それでも私にとって命を犠牲に出来る――その価値のある存在であると、今の私は理解していた。
「ミリアムちゃん!!! 駄目だ!!!」
ひとりの少年の声が私に届く。
いつも私に話しかけてきた少年――、
私は他人との会話が苦手だから――、どうやって話したらいいかわからなかったから――、謝ることしかできなかったけど。
そんな私でも懲りずに話しかけてきてくれたヒト――、
そのヒトとその日常を守るためなら――、私はトモダチのように死のう――、
ソレは私の本当に望んだ結末ではないけど――、たとえ絶望だろうと受け入れる。
お母さんの言葉――。
「自分自身の夢を持ちなさい――」
ソレは意味が違うのだろうが――、今はソレを望む――、
――願いが叶うなら、少年と皆の中に自分が居れたらよかったけど――。
私は全速で敵に向かって走る――、奇襲による暗殺でない以上、私は返り討ちにあうだろう――。
でもその死までの瞬間には僅かではあるが猶予がある――。
ソレを利用し――奴のナイフを奴自身に突き立てよう――。
刹那の瞬間――、私は敵の正面に到達する――、ナイフが閃光のように走った――。
◆◇◆◇◆
その時、俺は一瞬何が起こったのか理解できなかった。
決死のミリアムが敵に突撃し、敵の毒ナイフがひらめいたのだが――、それは誰にも命中せず取り落とされた。
「……?!」
女が驚愕の目で自分の手を見ている。――
――と、その時、
「……司郎!! 何を腑抜けておるか!!!」
そう老人の声が俺の心に響いてきた。
「爺さん?!」
それは宮守の爺さん――かなめの祖父の声だった。
「まさか?! 結界を越える者が?!」
女はそう言って声の主を見る。
――その時、二つの閃光が女に向かって走る。
「この!!!!!」「そら!!!!!!」
それはかなめと多津美ちゃん。――二人の拳が女の身体を掠める。
「ち……」
女は毒ナイフをその場に放置したまま回避を行い、その場から飛びのいた。
――今しかない!! 動け!! 俺の身体!!!
フラッシュバックが止まらず――吐き気が襲う自身の身体を無理やり動かす。
――その背に俺の大切な女の子たちの声が届いてくる。
「司郎!!!!!!!」
俺は――昔を生きてるんじゃない!!!
あんな記憶――克服できなくてどうする!!!!
「おおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
俺はフラッシュバックを振り払うように叫ぶ。
――その瞬間、右手の星に光がともった。
「?!!!!!」
次の瞬間、女が驚愕の表情を作る。俺の顔が眼前にまで迫っていたからである。
「あ……」
それがその時女の発した最後の言葉になる。
俺の拳が光となって奔った――。
◆◇◆◇◆
夢――、私の夢――、
トモダチと普通に遊んで――、普通に笑いあう事――、
それはもはやかなわない願いだけど――、
でも――、私は生きるよ――、
――新しく出来た友達がそれを望んでいるから――。
――第六の試練、攻略完了。
<美少女名鑑その7>
名前:Miriam・J・Enfield(ミリアム・ジェイ・エンフィールド)
年齢:16歳(生年月日:11月17日 さそり座)
血液型:A型
身長:160cm 体重:47kg
B:79(B) W:58 H:84
外見:銀髪碧眼の色白美少女。
性格:無表情で感情がないかのように振る舞う。
実はかわいいものが好き。
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