第二話 お嬢様は追っかけ?
「その結婚ちょっと待った!」
俺はそう言って結婚式会場のドアを開けた。
会場内にいる強面のオッサン達が一斉に俺のほうを見た。
「あ……どうも…。部屋間違えました」
そう言って扉を閉めようとすると…
「司郎…くん? なんで……」
オッサンどもの波の向こうから弱々しい少女の声が聞こえてくる。
会場の奥に
「なんデスか? 小汚い貧乏人が…
ここはあなたのようなモノが来るところじゃないデスよ?」
キザ男が嫌味たっぷりに言う。
俺はその男の言葉を無視した。
その隣の日陰ちゃんの目に涙の光が見えたからだ。
「……日陰ちゃん」
「……邪魔なんでその貧乏人をつまみ出せ」
強面のオッサンどもが一斉に立ち上がる。
「日陰ちゃんごめん。
俺…結婚式ぶち壊しにきちゃった」
俺はそういって、日陰ちゃんに笑いかけた。
―――――それは、ハーレムマスター第一の試練。
-----
「お? あれゴリっちじゃん?」
朝の登校中、俺は学校の玄関の前に、黒服でサングラスをかけた大男を見た。
「え? あれって?」
「ああ……。ありゃあ、大月家の御嬢さんのボディーガードだ。
めずらしいな、最近学校休みがちだったんだが」
「ふーん……。知り合いなの?」
「…ああ、ゴリっちは少し話したことある程度だがな」
(私は、大月家の御嬢様のことを言ってるんだけどね…)
かなめはつまらなそうな表情で大男を見ている。
すると、ゴリっちがこっちに顔を向けた。
「お~~い!! ゴリっち!!!」
俺がそう呼ぶと、ゴリっちがあからさまに顔をしかめた。
俺はそれに構わず、奴のほうに走って行った。
かなめがそれに続く。
ゴリっちと、その傍らに大月家の御嬢様”
「おれをゴリっち言うんじゃねえ」
開口一回でゴリっちはそう言った。
俺は笑いながら言う。
「何言ってんだよ。
ゴリっちの名前、ゴリラにそっくりジャンw」
「ゴリラじゃねえ!
三文字ってことしかあってねえじゃねえか!」
「ははは…どうでもいいじゃん、そんなことw」
「お前な…
御嬢様、こいつを一発殴っていいですか?」
「……半殺し…ぐらいに、して…あげてね…」
そこでやっと御嬢様が声を発した。
「うお!! ゴリっちも日陰ちゃんも結構エキサイティングだな!」
俺はゴリっちの拳から逃れるため、逃げの態勢に入る。
とりあえずかなめの後ろに隠れてみた。
「ちょ! 司郎! なに私を盾にしてるの?!
男としてサイテーよ?!」
「む? 君は…」
ゴリっちはかなめを見ると拳を下した。
「あ…どうも、刈谷…さん…でいいんですよね?」
「そうか…君が、あの宮守要さん…」
「? 私をご存じなんですか?」
「うん? …あ…ああ、ちょっとね…」
ゴリっちはそういうと、自分の背後にいるであろう主を見た。
すると、その主、日陰ちゃんが顔を真っ赤にしてかなめを見ている。
「!! み…宮守…か…」
「御嬢様? どういたしました?」
「……な! なんでも…ないです!!
早く教室行きましょう!!」
「は…はあ…了解いたしました。
それでは失礼」
日陰ちゃんは、まるでかなめから逃げるように学校に入って行った。
その場に訳が分かっていないかなめと、俺が残される。
「え…? なに?
私なにか彼女に嫌われることした?」
「う~ん…。
おそらく、俺にいつも暴力振るってるの見てて、怖がってるんだな…」
「そ…それは、そもそもあんたが悪いんでしょ?」
実のところ、俺は彼女が逃げて行った本当の理由を知ってるんだが…
それはかなめには言わないほうがいいだろう、日陰ちゃんも言わないでほしいだろうし。
俺はしつこくつっかかってくるかなめと一緒に、俺たちの教室へと向かった。
-----
その日の放課後、俺はある人と待ち合わせをしていた。
その手には”あるもの”の入った封筒がある。
俺が学校の中庭にある”伝説の告白の樹”を背に鼻歌を歌っていると、不意にその反対側に人影が現れた。
「……待ち…ましたか?」
「いいや?」
その人影からの声に、にこやかな顔で答える俺。
これはいつもの事、背後を確認しなくても”彼女”の気配を知ることはできる。
「……例の…モノは?」
「大丈夫、持ってきてるよ。
奴にも気づかれていない」
「よかった…」
背後を見なくても”彼女”の安堵の表情が理解できる。
「それではいつもの通り…」
「う~ん」
俺はしばし顎に手を当てて考えた。
「…またお金払うつもり?」
「……」
俺はそう言って首をかしげる。彼女ははっきりと頷いた。
「あなたに…貸しを…作るわけにはいきません。
それに、これは…我が家の家訓に…関わることでもあります」
俺は少しため息をついた後、手にした封筒を背後の”彼女”に渡した。
”彼女”は大切そうにその封筒を手にすると中身を確認する。
それは数枚の写真…。
「さすが…です。
表情がよく撮れています」
「まあね…」
その写真は、かなめの隠し撮り写真。
…と言ってもけっしていかがわしいものではなく、日常の喜怒哀楽をとらえた人物写真である。
「私もこれくらい…書けるといいのですが」
「今でもすごいでしょうに」
俺はそう言って背後の”彼女”に笑いかける。
”彼女”はまるで写真であるかのように風景や人物を描くことが出来た。
…しかし、彼女は…
「いいえ…私はまだまだです。
そもそも、あれはただの趣味で…」
(…本当にただの趣味なら、あれほど一生懸命になったりしないよね)
俺はその言葉を飲み込む。
”彼女”かそう言うのには”彼女”なりの理由がある、俺が突っ込む問題ではない。
俺は少し笑顔を消して言った。
「…絵のモデルくらい、本人に頼めばいいのに」
「そ…! それは無理!!」
「…かなめなら快く引き受けると思うけど?」
「わ…私が無理!! 言葉が出なくなる!!」
「…それは…、日陰ちゃんあがり症だもんね」
…そう、俺がかなめの写真を渡したのは、大月日陰ちゃんその人なのだ。
「私、いつも大事な場面で…しゃべれなくなる…。
これだけは…変えられない」
「それは…、俺が頼むのは?」
「それは…ダメ…」
「頑固だな」
俺はそう言って苦笑いする。
彼女はあがり症なくせに、基本的に頑固で必要ならテコでも動かないところがある。
「…とりあえず。いつもありがとう…司郎くん」
「いいよ、何より日陰ちゃんの頼みだし」
「フフ…」
日陰ちゃんはそう言って俺に笑いかける。
まあ、かなめには悪いが、俺としてはいいことをしたと感じた。
…と、不意に何やら殺気のようなものを感じて、俺の神経は痺れた。
「?!!!」
俺が周囲を見渡していると、どこからか怨霊のような声が響いてきた。
「し~ろ~う~」
「!!」
俺は顔を引きつらせながら空を見上げる。
その先、学校校舎二階の窓に、見知った顔が見えた。
「げ…」
「何が、げ…だ」
それは、まさしくかなめその人。
その視線の先には、日陰ちゃんが手にする自分の隠し撮り写真が…。
「あんた…そこで何してるの?」
「ははは…なんでしょうね?」
「…まあ、とりあえず。そこで待ってろ」
その声を最後に、かなめは窓から身を乗り出す。
そこは二階の窓である。
「ちょ…」
俺はあまりの事態に震え上がった。
彼女なら間違いなく、怪我も無しに着地できる。そして…俺を折檻するだろう事は明白であった。
「く…」
俺はその場から逃げようと身をひるがえす。しかし…、
「お嬢様に…何をしているかと思えば…」
「げ…ゴリっち」
「逃がさんぞ小僧」
いつの間にか背後にゴリっちその人がいた。
これは不味い…。
スタン!
不意に背後に音が響く。…これは、お終いだ。
「うん…」
俺は観念していつもの土下座態勢に入った。
「司郎…」
「小僧…」
俺は何か救いはないかと日陰ちゃんの方を向いた。
「あわわ…」
日陰ちゃんは、ただ慌てて縮こまっていた。
(…まあ、そうだよね)
俺はすべてを諦めて地面に頭をこすりつけるのであった。
-----
「そんな事、直接私に言ってくれればいいのに」
俺を十分折檻した後、俺から事情を聴いて、かなめはそう日陰ちゃんに言った。
「そ…それは…」
日陰ちゃんは、これまでにないほど顔を真っ赤にして言いよどんでいる。
これだからこそ、本人に話せなかったのだが…、それを知ってか知らずかかなめは笑顔で日陰ちゃんに話しかける。
「私なんかでいいなら、いつでも絵のモデルになるよ?
どっかの誰かさんみたいに下心はないだろうし」
「なんだよそれ」
俺は顔をボコボコに腫らしながらかなめに言う。
「…でも、なんで私?」
「…そ、それは…」
そう言う日陰ちゃんはさらに赤くなって縮こまる。
俺はその事情をしている。なぜなら写真を求められたはじめての時に、事情を聴いているからである。
本来なら本人の口から話すべきことなのだが…。
その理由とは…、
かなめの家は、大月家と負けず劣らずの名家である。
当然、同じ学校にいるのだから、そちらの事は噂であっても何もかもが耳に入ってくる。
自分とは正反対の性格を持つかなめを、日陰ちゃんはうらやましく思っていた。
自分のように言いたいことを言えず、大切な時にすら縮こまっている小心者の自分。
本当はなりたいものがあるのに、それをただの趣味だと嘘をついて生きている自分。
日陰ちゃんにとって、かなめの日々の生活は自分に素直な自由な生き方に見えた。
…初めは、そんな憧れ…、
でも…。
「…わ、私…」
目に涙をためながら日陰は小さく呟く。
俺はさすがに見ていられなくなって助け舟を出した。
「日陰ちゃんは…かなめみたいになりたいんだよ」
「え? 私みたいに?」
かなめのその言葉に日陰ちゃんは小さくうなづいた。
「でも…、私ってガサツで暴力的で…」
「…でも……が、…です」
「え?」
日陰ちゃんの小さな声をかなめは聞き返す。
俺は日陰ちゃんの言葉を代わりにかなめに伝えた。
「かなめは心が強いってさ…」
「そんな…」
無論、かなめにも悩みがあるし心が本当に強いかと言えば…。
でも、そうだとしても日陰ちゃんにとってかなめは憧れの存在であり…。
「…わかったわ。
よくわからないけど、絵のモデル引き受けてあげる
今すぐでもいいよ?」
「!!!」
そのかなめの言葉に日陰ちゃんは目を潤ませて笑う。
俺は心の中で日陰ちゃんを祝福した。
「そ…それじゃあ…」
日陰ちゃんはそう言って隣で黙って立っているゴリっちの方を向く。
「刈谷…お願い」
「了解いたしました。お嬢様」
ゴリっちはそう言って日陰ちゃんに頭を下げた。
-----
<せっかく手に入れた機会…>
<でも…私は結局…>
それから俺たちは学校近くの公園へと移動した。
そこでかなめの絵を描くためである。公園には無論他の無関係な人たちもいて…。
「こ…これは…、結構恥ずかしいね」
「…」
それまでとはうって変わって、無心で絵筆を振るう日陰ちゃん。
無関係な人々のギャラリーに囲まれ、かなめの方が顔を赤くしている。
(…すげえ。これが絵を描く時の日陰ちゃん)
俺は素直に驚く。その筆使いは繊細かつ大胆で、かなめの表情や姿…そして風景をキャンバスに写し込んでいく。
それは、もはや趣味の領域とは思えない神業であり…。
「…」
その時の日陰はそれまでとは全くの別人に見えた。
「お嬢様…」
不意に俺の隣に立っているゴリっちが呟き声をあげる。
そちらを見ると、なぜかゴリっちが悲痛な表情をしていた。
「…どうし…」
…と、俺が言いかけた時、日陰ちゃん筆が一瞬止まる。
眩しいものを見るかのような表情でキャンバスを眺めている。
そこには、いまだ色はないが、確かにかなめが風景と共に存在していた。
「出来たの?」
そう言ってかなめが日陰に聞く。
日陰は首を振って答える。
「色がまだですが…、大丈夫。
記憶しました…。
後はゆっくり家で描きます」
そう言って日陰は笑った。
その言葉を聞いて安心した表情でかなめはポーズをとるのをやめた。
「今日は…ありがとう…ございます」
日陰ちゃんはそう言って俺たちに頭を下げる。
かなめは嬉しそうに言う。
「お礼なんていいよ!
私たちは友達でしょ!」
「え?」
日陰ちゃんはそう言って驚きの表情を見せる。
かなめは笑顔で繰り返す。
「私と日陰ちゃんは友達!」
「…かなめ…さん」
少し目を潤ませながら日陰ちゃんは満面の笑みを作る。
次の瞬間には失われる笑顔を…。
「おや? コレは日陰サン?」
その声に日陰ちゃんがびくりと身を震わせた。
その顔は見る間に曇っていく。
「?」
何事かと俺が振り返ると、そこにイヤらしい笑顔を張り付けたイケメンが立っていた。
「日陰サン? こんなところで何を?
もう屋敷へ帰る時間デショう?
ワタシの未来の妻が、遊び歩くのは許しまセンよ?」
「私は…」
俺はそいつの聞き捨てならない言葉を聞き逃さなかった。
(未来の妻?)
日陰ちゃんはそのイケメンに見つめられると、蛇に睨まれた蛙のように縮こまって震える。
俺はそのただならぬ雰囲気に、そのイケメンを睨みつけた。
「さあ、ワタシが送っていきましょう」
そう言ってイケメンは日陰ちゃんの手首をつかんだ。
日陰ちゃんは「ひ」という小さな声をあげて震える。
俺は見ていられなかった。
「おい」
「?」
俺は日陰ちゃんの手首をつかんでいる手を掴もうとした。その時
「司郎!!!」
不意にかなめが叫ぶ。次の瞬間、俺は何者かに投げ飛ばされていた。
「…なんデスか?
この男?」
つまらないものを見つめる表情で俺を見下ろすイケメン。
その隣には屈強な黒服の男が立っていた。
「司郎!!」
俺を心配してかなめが走ってくる。
俺は唇から出た血をぬぐいつつ立ち上がった。
「こいつ…」
俺がそう言ってイケメンと黒服をにらみつけると、不意に他から声が響く。
「宗次郎様!! 申し訳ありません!!!!」
そこには顔を青くしたゴリっちがいた。
「なんデス? このモノたちは?
小汚い手で、ワタシの手を掴もうとしてきましたが?」
「それは…彼らは同じ学校の…」
ゴリっちが冷や汗を流しながらそう言うと、イケメンは心底蔑んだ表情で俺たちを見つめてきた。
「いけまセンね…、こんな下品な輩を日陰サンに近づけているのデスか?
貴方はそれでも日陰さんのボディガードなんデスか?」
「そ…それは…」
そのあまりの物言いに俺は声をあげる。
「おいゴリっち!
何こんな奴にへこへこしてるんだ!!」
「黙れ…小僧…」
ゴリっちがそう言って俺を睨む。俺は構わず声をあげる。
「日陰ちゃんが震えてるだろ!!
ゴリっちは日陰ちゃんを守るのが仕事じゃないのか?!」
「う…うるさい…」
ゴリっちが苦しげな表情で俺を睨む。
そんな姿を見たイケメンは、やれやれというふうにため息をつくと言い放ったのである。
「刈谷サン…その下品なガキをどうにかしなさい」
「!!!」
その言葉にゴリっちが一瞬言葉を失う。
そんな彼に再びイケメンが言葉を投げつける。
「まさか出来ないのデスか?
それじゃあ、ワタシも考えざるおえマセん…」
「やめて!!!!」
…不意にそれまで固まって震えていた日陰ちゃんが悲鳴に近い声をあげる。
その声を聴いたゴリっちは…、
「…小僧」
俺を苦しげな表情で睨みつけた。
「刈谷さん?!」
かなめが俺の前に立って俺を庇おうとする。しかし、
「すまない…」
その微かな声は、俺とかなめの耳にだけ聞こえた。
ドン!!!!
すさまじい衝撃がかなめを襲う。
かなめはゴリっちのタックルを受けて木の葉のように宙を舞った。
…そして、
「ゴリっち…お前…」
「見損なうなら…そうしろ…。
これは…」
俺は確かにその口から「お嬢様の為」という言葉を聞いた。
そして…
「いやあああああああ!!!!!」
俺はその日陰ちゃんの叫びを最後に気を失ったのである。
-----
「司郎…」
俺が意識を取り戻したとき、そうかなめがつぶやく声が聞こえた。
かなめの家の客室に寝かされている自分に気づく。
「!!! 日陰ちゃん!!!」
「…」
俺がそう叫んで身を起すと、苦しげな表情でかなめが俺を見た。
「ごめん…日陰ちゃんは、アイツに連れていかれた…」
「な!!」
かなめはうつむきながら言葉を紡ぐ。
「アイツ…
「支援?」
「最近、大月家は事業に失敗して、少なくない損失を出して…、それを支援しているのが安住財閥」
「それって…」
「うん…今大月家は、安住財閥の支援がないと潰れかねない…。
だから、彼らに…」
「頭が上がらなくて…」
俺はあのイケメンが口走った「未来の妻」という言葉を思い出す。
「日陰ちゃんは…まさか、あのイケメンと結婚させられるのか?」
「おそらく…。
あの後、あの男…」
その後のかなめの言葉を聞いて俺は唇を噛む。
日陰ちゃんはあのイケメン”宗次郎”と政略結婚させられるのだという。無論、家の存続のため…。
それは、本来は高校を卒業してからの予定だったが、今回の俺たちの事でイケメンがすぐにでも自分のものにすると言っているらしい。
その日時は…、
「もう始まってる?!!!」
「…」
かなめは悲痛な表情を俺に向ける。
俺は日陰ちゃんの震える表情を思い出す。
「かなめ…」
「私、止められなかった…。
力ずくでも止めようとしたとき、日陰ちゃんが…」
日陰ちゃんは「友達なら私の事を止めないでください」と言ったらしい。
自分は彼と結婚できるのがうれしいのだと…、涙を目に浮かべ、震える声で…。
「そんなの…」
それは、自分たちを守るためについた悲しいウソ。
それをかなめに言った日陰ちゃんの想いはどれほどだったのか?
「止めなきゃ…」
「司郎」
「こんなのダメだ!!」
「でも…」
いつになく力のないかなめに俺は叫ぶ。
「かなめ!!
お前日陰ちゃんの友達だろ!!!」
「…そうだよ」
「だったら…」
「去り際に刈谷さんが言ったのよ…」
俺はかなめの次の言葉に黙り込む。
「お前たちは、おそらくお嬢様を助けようとするかもしれん。
でも、後先考えず救ってその後はどうするつもりだ?
お嬢様を路頭に迷わせるつもりか?
…って」
「ゴリっち…」
ゴリっちは別に日陰ちゃんを不幸にしたいわけではなかった。
ただ、大月家がつぶれる事態になれば、日陰ちゃんは路頭に迷うことになる。
そんな不幸から守りたくて、あえてあのイケメンに従っていたのだ。
「…でも」
俺はそれでも強く空を睨む。
「俺は日陰ちゃんを助けにいく」
「それが、別の不幸を呼んでも?」
「ゴリっちの言いたいことはわかる。
でも…それは間違ってるよ…、だって」
その後の俺の言葉を聞いたかなめは強くうなづく。
「…司郎。助けるのはいいけど多分…」
「おそらく妨害がある…。ゴリっちも…」
俺たちは決意の表情でお互いを見る。
俺の―――。
第一の試練が幕を開けた―――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます