第1話 廃坑への導き
「さあ、中にお入りください」
セバスターは杖へと重心を傾け、自身の曲がった背を僅かに反らせながら、案内してきた客二人に木製の扉を示した。この石造りの二階建ての建物は、かつて労働者たちの詰め所として機能していたものだ。その役目として
惑星テクトリウスでは銃の流通はあまりない。入植からおよそ三百年しか経っておらず、まともに銃器を生産できる工場が稼働していないためだ。他に優先すべき産業があるからである。
「では」
先に中へ入って行ったのは、二人の客のうちの一人で、少し垂れ気味の目をした大柄な男だった。ちらと見た目の奥には不敵な光が宿っているように見えたが、こんな場所に来るような男だ。それなりに場数を踏んできているのだろう。フードつきの上着であまり顔は見えないようにしているが、こういう場所を訪れる者にとっては、珍しいことではない。
男に続くのは、小柄な女だ。こちらは更にフードを深く被り、口元も衣で覆っているため、今は
二人が建物の中に入り、セバスターもそれに続く。背後で、表の男たちによって再び厚い扉が閉じられる音が聞こえた。
夕暮れ時なので、屋内は薄暗い。
中は
テーブルに置かれた唯一の光源であるランタンが、広間をぼんやりと照らしている。見渡せば、他の者は緩やかに広がった位置で立っていた。いずれも
ここは今、自分たちの根城だ。
公営だった鉱山が閉鎖されると、回収業者がこの山の権利を買い取った。
すぐに客人へと、近くに立っていた者が歩み寄ってきた。武器を渡すように
続いて、男がにやけた顔で両手を胸の高さに上げ、女の身体検査を始めようとする。が、フードの女が掌を相手に向け、それを拒否した。その手には、黒い
男が困ったように
代わりに、と客の二人が持ってきた荷物を預けようと申し出てきた。相手を信用するという意思表示のつもりなのかもしれない。それに明確な応えがないうちに、二人が武器の置かれた隅に歩き出し、しかし武器に届かない位置で、背負っていた荷物を下ろした。大柄の男は、片方の肩に担いでいた袋。女は両肩紐で背負っていたバッグだ。
そこで女がしゃがみ込んだ。置いたばかりの袋の口を開け、中から何かを取り出したのだ。それを見守っていたセバスターは、まさかと警戒して女を見つめた。周囲の気配から、男の何人かも、同様に警戒を強めたようだ。
そんな空気の中、女がしゃがんだまま振り返った。害意が無いことを示すように、取り出した物を掲げる。それは掌に乗せても空間が余るほどの小瓶だった。中に何が入っているのかは分からないが、少なくとも武器ではなさそうだ。
高まっていた緊張が緩和したことを感じながら、セバスターは女が立ち上がる
「こういう時は、自己紹介から始めた方がいいのか?」
大柄な男が発した声は、その体に似つかわしく野太い。
「いや、必要ない」
応じたのは、
「あんたたちも、俺たちも、互いに素性を知られたくはない。だろう? だったら、紹介なんざ嘘っぱちだ。分かりきった嘘ほどつまらねえ物はねえよな」
「そうね。お互い信用できるのはお金だけ。
そこで女が口を聞いた。
媚びを感じない高めの声だ。凛とした、それでいて柔らかさを感じさせる若い娘の声には、
「へっ。そんな形のないものじゃ通用しないぜ。金貨か銀貨でないとな」
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