第20話 完全にチート能力です、ありがとうございました
「ぜい……ッ! はぁ……ッ! こ、これで全員助けただろ……ッ!?」
けっこう疲れていた。
いや、これマジで疲れるぞ……?
どうやら力を使うと、何かしら体力を使うようだ。
もしかしてMP的なものを消費しているのか……?
なんかよく分からないけど……なんだろう、ホントにしんどいんだけど。
「た、大変ですッ!」
またモブ騎士が走ってきた。
今度は何だよ!?
「どうやらドラゴンは二匹いる模様です! どちらも中型級で、現在もう一匹の方がミルカ様たちに襲いかかっているとのことです!」
「ええ!? ミルカたちが襲われてる!?」
くそう! 次から次へと何なんだ!
いや、でもあの二人はフェアリーだ。なら、案外自分たちで何とかしてしまうのでは……?
そう思ったけど、すぐに安心はできないと思い直した。
……ミルカはまだ本調子じゃない。相当疲れているはずだ。シーレだって似たようなものだろう。やはり放ってはおけない。
モブ騎士たちは、新たな情報に大きくどよめいていた。
「そ、そんな……中型級が二匹同時に、だと……?」
「わ、我々ではどうしようもないぞ」
「さすがにミルカ様とシーレ様のお二人でも、中型級を一度に二匹というのは……」
「せめて、あそこにいる一匹を我々で何とかできれば――」
みなが頭上を見上げた。
さっきまで火の玉をまき散らしていたドラゴンが、凶悪な双眸で僕らを見下ろしていた。
それはまるで、為す術もない哀れな人間たちを睥睨しているようにも見えた。
……くそ、あんなのがもう一匹いるのかよ。
すぐにでもミルカたちのところへ行かないといけない。でも、あれを放置していけばこっちはこっちでモブ騎士たちがまた死にかけるだろう。
あれこれ考えた結果、結論は一つしかなかった。
ようするに……まずはあのでっかいトカゲを始末していかなきゃならない、ということだ。
「く、いったい我々はどうすれば……」
「……僕に任せてください」
「え?」
みなが途方に暮れている中、僕はドラゴンに立ち向かうように前に進み出た。
近くにいたおじさん騎士が目を剥いて僕を見た。
「き、危険です! ドラゴンに殺されてしまいますぞ!?」
「大丈夫です。それより、みなさんは下がっていてください」
「し、しかし――」
「大丈夫です。僕は聖女ですから。それよりも、みなさんは自分の命を守ることを優先してください。あなたたちが一人でも死ぬということは、僕の命が奪われることと同じことですから」※文字通りの意味です
にこり、と僕はみんなに聖女スマイルを向けた。
いちおう笑顔で言ってはいるが、要約すると『邪魔だから下がってろカスども』である。
こんなモブたちでも、一人でも死ねば僕はその時点でアウトなのだ。ぶっちゃけいるだけ邪魔だ。マジで。ちなみに僕は心の闇ゲージが増えれば増えるほど、笑顔が輝くという仕様になっている。。
「せ、聖女様……」
騎士のおじさんが驚いた顔でこちらを見ていた。明らかに崇拝の対象を見るような視線になっているが、今はそれを気にしている場合ではない。
僕はそれに背中を向け、ドラゴンを見上げた。
……さて、とりあえずどうするか。
それらしく前に出てきたはいいけど……ドラゴンは城の上だ。ここからじゃ手が届かない。
僕もミルカやシーレみたいな遠距離攻撃の魔法が使えればいいんだけど……どうやればあんなことできるんだろう? 呪文でも唱えればいいのか?
(呪文は特に必要ないぜ。必要なのはただ一つ――お前の〝想像力〟だけだ)
急に〝声〟がした。
間違いなくニグレドの声だ。
こ、こいつ、また脳内に直接!?
周囲にあいつの姿はない。恐らく、どこか安全なところで隠れて、この様子を楽しんで見ているのだろう。
本当なら返事するのもイヤなんだけど……くそ、仕方ない。
(……想像力? どういうこと?)
(そのままの意味だよ。だいたい、これまで魔法を発動させるのに呪文なんて使ったか?これも同じだよ。必要なのは心に思い描くことだ。オレ様の持つ深淵の力は、お前ら人間から見れば万能の力だからな。お前らが想像する程度のものなら、だいたいは形になる)
(深淵の力って……なんかいかにも悪の力って感じだけど、そんな力使ったら聖女じゃないってすぐバレるでしょ?)
(さっきも言っただろうが。純粋な〝力〟にはそもそも善も悪もねえ。それを決めているのはテメェら人間の価値観だ。まぁ、そのテメェらの価値観で例えるとするなら……ようは〝力〟ってのは金さ。金さえありゃ何でもできるだろう? 金には綺麗も汚いもねえ。金は金さ。分かるか?)
(ああ……なるほどね。よく分かったよ)
実にしっくりとくる説明だった。
……なるほど。力とはすなわち金か。金こそパワー理論は異世界でも通用するようだ。
そうだな。金には汚いも綺麗もない。金は金だ。金さえあれば何でもできる。逆に言えば、金がなければ何も出来ない。ないやつは、飢えて死ぬだけだ。
……心に思い描く、か。
確かに、治癒の魔法みたいなものを使った時も、特に呪文は唱えていない。あいつが言ったように、ただ傷が治るように頭の中で念じただけだ。傷が治るようなイメージを、心に思い描いただけである。
あのドラゴンを倒すには遠距離攻撃しかない。
なら、こっちも火の玉みたいなのを発射しようかとも思ったけど……ドラゴン相手に火の玉って効かなさそうだよな。他に何か、ドラゴンを倒せそうな攻撃方法はないものか。
考えていると、ふとモブ騎士の一人が持っている弓矢が目に入った。
その瞬間、しっくりとくるイメージが浮かんできた。
……そうか。弓矢か。光り輝く矢を発射するなんてのはどうだろう。いかにも聖女っぽいし、ドラゴンにも効果がありそうじゃないか?
(頭にイメージが浮かんだがら、ひたすらそれを思い浮かべろ。こういうのが欲しい、と心から願うんだ)
まるでチュートリアルのようにニグレドの声が聞こえてきた。
こういうものが欲しい――そう心に思い描くと、まるでそれに応えるかのように、僕の目の前に光が集まってきた。
そのまま、言われるがまま、光をイメージ通りに具現化していく。
「まずい!? ドラゴンが動くぞ!?」
何かを察知したのか、ドラゴンが急に動いた。
身を乗り出し、猛るように咆哮すると、大きな翼を広げて、さっきのなんて目じゃないくらい大きな火の玉を発射した。
だが、その時にはもう、光は僕のイメージ通りの形になっていた。
それは僕が思い描いた通りの、光り輝く光の弓だった。
……ほ、本当にそれっぽいものが出来上がった。
呆然とそれを眺めていると、再びニグレドの声が響いた。
(さぁ、欲しい物は得られた。後はそれを使うだけだ。それはもう、すでにお前が望むままの形になっているはずだ)
光の弓を手に取って、ツルの部分をつまんだ。すると、同じように光り輝く矢が勝手に現れた。僕が矢をイメージしたからだろう。
悩んでいる暇はない。
僕は弓を構え、すぐに矢を発射した。
ズドンッ!!
という凄まじい勢いで矢が飛び出した。
え? と思った時には、放たれた光の矢はありえないほどの速さで一直線にドラゴンに向かって飛翔していた。冗談抜きでミサイルみたいな勢いだった。
ドラゴンには避ける暇さえなかったことだろう。
光り輝く矢は巨大な火の玉をあっさり消し飛ばした。
それでもまったく威力が衰えぬまま直進し、次の瞬間にはドラゴンの大きな身体をごっそり抉ってしまっていた。
身体をごっそり削られたドラゴンは断末魔を上げることもなくゆっくりと傾き――そして、そのまま光の粒子になってサラサラと霧散してしまった。
その様子を、僕は呆然と見ていた。
「……」
え、えぇ……?
なに、いまの威力……?
普通に兵器みたいな威力だった。そんなものが自分の手で放たれたのだ。ドラゴンを倒したという達成感よりも、むしろ困惑の方が大きかった。
こわ!? この弓こわ!?
つい怖くなって弓から手を離してしまった。弓はすぐに光となって消えてしまった。
「す、すごい!? ドラゴンが一撃で消し飛んだぞ!?」
「ま、まさしくこのお方こそ聖女様だ!」
「聖女様がご降臨なされたのだ!」
「聖女様だ! みんな、このお方が新しい聖女様だ!」
だが、周囲は僕を置いてけぼりにして勝手に盛り上がっていた。それはあの議会の間で生じた異様な熱気とほとんど同じだった。完全に奇跡のカーニバル開幕状態だ。
「みなの者、膝をつけ!」
「え? あの、ちょっと?」
おじさんの号令が響き渡ると、周囲の騎士達が全員、いきなり僕に向かって片膝を突いた。
いかにも偉そうな感じのおじさんが一人、僕の前に進み出てきて同じように膝を突いた。
「あなた様こそまさしく聖女様に相違ありません! 我々に何なりとご命令を!」
「……え、えーと、命令していいの?」
「はっ!」
ええと、命令しろと言われてもな……? 何を命令すればいいんだ……?
少し考えてから、すぐにハッとした。
そ、そうだ! ここのドラゴンは始末できたんだし、今はとにかく、すぐにでもミルカたちを助けにいかなくては!
じゃないと――僕の命が危ないッ! 切実にッ!
「じゃ、じゃあ……僕をミルカさんたちのところまで案内してください!」
「御意! みなの者! 聖女様をミルカ様たちのところまでご案内するのだ!」
僕はモブ騎士の人たちと一緒にお城へと駆け込んだ。
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