第16話子供の未来と命の軽重(またかよシリアス)
「うんまぁ~い」
チンピラからの寄進されたおちんぎんを【たこ焼き八個入り五百円】を購入して社会へと還元する。
ちっさなお口の周りにはソースがべっとり付いているけれど、美味しいたこ焼きに夢中のえるしぃちゃんは全く気にしていない。
ハフッハフッハフッ、と。熱々まま口の中でタコがプリップリと踊り出す。外はカリッ中はトロッとしたグルメマスターを唸らせる至高の一品だ。
クールダウンにシュワシュワな麦茶をゴッキュゴッキュと一気に飲み干し、ガツンと来る喉越しを堪能する。ただいまのお時間は世間で言うおやつどきであり、公園のベンチでえるしぃちゃんはまったりと休憩をしている。
もう充分頑張ったんじゃないかと思ってはいるが、今後の生活費を考えると少しでも多く稼いでおきたいところ。
たこ焼きを食べ終わると歯の隙間にハマった青のりを爪楊枝でシーハーしながら、公園で遊んでいる幼児たちををぼんやりと眺めている。
異世界に居た頃でも、子供たちが楽しそうに遊んでいる姿を眺めるのが大好きであり、戦乱の世では沈んだ顔をした表情しか見ることができなかった。
だからこそ子供達が常に笑顔で居れる平和な現代社会は割と好きな方である。
こうした日常生活の何気ない幸せこそが、戦争を行っている時代ではかけがえのない大切なものなのだ。
「う~ん。平和っていいねぇ。娯楽を楽しめる文化最高。何事も“余裕”を持つことが大事ってことね」
独り言を呟く辺りが引きこもりの特徴なのだが、本人は全く気付いていない。異世界で国を守り導いていった慈愛の女神様は人間を慈しむ癖が取れずにいるようだ。
黒いぶかぶかでサイズの合っていないパーカーの裾から伸びる太ももが艶めかしく顔を出している。そのパーカーの下にはホットパンツを履いているのだが上着で隠され履いていないように見えるのがえるしぃちゃん的悩殺ポイントだ。
黒パーカーは田中菊次郎時代からの愛用品だが、エルフ的な自慢の生足が見えないのは世界の損失だと勝手に思い、デニムのホットパンツとニーソックスだけは通販で購入しているのだ。
ベンチの背もたれに身体の体重を預けて『ん、うぅんっ』と、艶っぽく伸びをする。
背後にある樹木の木漏れ日がえるしぃちゃんの顔を照らし、爽やかさと神聖さが醸し出してきている。
夏の終わり際の残暑が木陰で緩和されお昼寝には快適な気温となってしまっており、気持ちよさげにえるしぃちゃんがウトウトとしていると子供たちが遊んでいるゴムボールが見上げている顔面にダイレクトアタックした。
「へぶぅっ!! ――なんだぁっ!?」
いつぞやの駄菓子屋で目撃したジャリボーイとジャリガール達がしゅたたた、と。ボールを回収しにやって来た。ボケッとモンスターでいちゃいちゃ遊んでいたのを思い出し、甘ぁい青春にジェラシーを感じる小物エルフ。
「ふぬぬぬぬ!! おのれぇ! じゃりン子どもよ!! 我の超絶てくにっくを目に焼け付けるといいわ!」
嫉妬の余り闘神がチラリと漏れ出てきちゃう。
ゴムボールを視線に入れず蹴り上げ、背面で踵を器用に使って
頭、右踵、頭、左踵――
右膝、左膝、頭上を越え、右踵、左踵――
ボールを蹴り上げる毎にバク宙を繰り返す――
最後にボールを天高く蹴り上げ、指一本で逆立ちをしながら足裏でボールを受け止め、最高にクールなポーズを決めた――
――おおおおおおッ!! ねぇちゃんすげぇえぇぇぇぇぇ!!
「ふぉふぉふぉふぉ!!(ドヤァ) とっても
子供達に賞賛されとってもご満悦の様子の闘神様。
子供たちの心をガッチリと掴んだえるしぃちゃんはキャッキャウフフと皆でかくれんぼをしたり、缶蹴りをしたりと公園中を走り回った。
お姉ちゃん凄い! お姉ちゃんカッコいい! と、ちやほやされ我を忘れて遊びまくった。子供たちが走り回って疲れていたので全員にジュースを奢ってあげたり、念願であったテュイッチのボケッとモンスターを一緒にプレイしたりも出来た。
けれど、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。夕方頃になると子供たちはお家に帰らないといけない時間になってしまった。
公園に設置されている手洗い場でお手々を綺麗に洗うと、寂しそうな様子で子供たちがえるしぃちゃんに声を掛けて来る。
「お姉ちゃん……。僕たちはもう帰るけど……また今度一緒に遊んであげるからね? この公園でよく遊んでいるから僕たちに声を掛けてね? 大丈夫! 僕たちはもう友達だから!! じゃあね~!!」
そういうとぶんぶんと力強く手を振りながら去って行った。――友達……か。(テュンク)
新しい出会いと新しい縁が繋がり、えるしぃちゃんの心はポカポカと温かくなった。子供たちが見えなくなるまでちいさな手をずっと、ずっと振っていた。
――だが。こう……なんじゃろうな……この、気持ちは。
「――遊んであげる。って我、そんな構って欲しそうなオーラを出していたじゃろうか……? 嬉しい……嬉しいんじゃよ? 我、三百三十五歳ぞ!?」
そうなのだ。実は子供達に最初から構って欲しそうなオーラ全開のお姉ちゃんだと見抜かれていたのだ。ちょっと、褒めるとでへへへと嬉しそうにしている姿を見て。
――僕たちが遊んで上げなきゃ!!(使命感) 小学校の先生は言っていた、寂しそうな子が居たら仲良くしてあげてね、と。
「まぁ、いっか。楽しかったし。心の清い友が出来てしまったなぁ。ふふふ、のびのびと育つのじゃよ?」
そう呟くと公園から出て帰路につく。空は薄暗く陽が落ち夕飯時となっている。
何か、何かを忘れているような気が――
――あ゛!
Mission リスタート いいかげんにせぇよ?(憤怒)
◇
涙目で周囲を見渡すが今の時間帯は健全なパパ達の帰宅時間であり、とっても人通りが多い。えるしぃちゃんみたいな若い子におちんぎんを渡す普通のパパ達はいないのだ(意味深)
黒いパーカーを深くかぶりバイザー付きヘルメットも装着している。
こうなったら……と、闇の住人が住まう繁華街の暗闇へ進んで行く。
気配遮断の魔法をゴリゴリに掛けマンションの屋上から屋上へと跳躍しながら進んで行く、最初は人ごみを見て超ビビリ倒していたけれどなんかダークヒーローっぽくてわたしカッコいいかも……。と、機嫌を持ち直していた。
眼下にはスケベそうな顔をしたおっさんに声を掛けているキャッチの兄ちゃんや、あやしいメイドカフェの女の子に腕を引っ張られたりしている。
都条例で客引きはアウトなのだがそんなの知った事かと闇の住人たちは逞しく生きている。
「どこかに悩んでいてわたしにおちんぎん弾んでくれる人はいないかなっと」
視覚内に“縁”を可視化させるのだが欲望渦巻く繁華街では線で表示される縁が多すぎて視界が眩しさでクラクラしてくる。
「どれだけ悩める子が多いのやら――ここで占い屋をするのもありだねぇ。でも、人が多いからなぁ」
飯のタネを見つけるも自身の体質との話し合いになりそうだ。誰かを間に挟んで占い屋を開けばいけそうな気もするのだが……。
「ん? まずい――」
足元のコンクリートが軋む程屈み目標を見定めた、跳躍の瞬間に破片が飛び散り繁華街上空へ数秒ほど滞空する。
着地点の計算も済んでおり臓腑が浮かび上がる感覚に少しだけ顔を顰めた。
自由落下を開始して徐々にマンションの屋上が近づいて来た。
屋上から身を投げ出す瞬間の女性が視界内に捉えられた。身体を捻り着地点の微調整を行い――スーパーヒーロー着地。
ズンッと鈍い音が響き屋上のふちに立っていた女性が音のする方向へ振り返った。
「えっ? ――えっ? えぇ? ――――はぁッ!?」
えるしぃちゃんは決まったぜ、とニヒルに笑う。女性は空から怪しい人が降って来るという異常事態に混乱の境地に陥っているようだ。
『そこな人間よ。なぜに命を捨てようとしているのですか?』
身投げをしようとする人間を見ればすぐにでも助け、まず安全を確保する事から始めるのが普通であり人情であろう。
――だが。慈愛の女神はそれを良しとしないのだ。落ちるなら落ちろ。生きたくても生きれなかった人間を何千人、何万人と見てきているのだから。
餓死して死んだ子供も、戦争で故郷に恋人を残し無残に散った兵士も。
故に問わなければいけない。――なぜ貴様は命をそう
脳内に問いかけている事に多少混乱はしているものの、慈愛の女神の言葉は正確に伝わっているはずだ。
だからもう一度目の前に人間に問う。
『なぜ――軽々に命を捨てられるのかと。聞いているのが分からないのかッ!!』
苛立ちを少しでも緩和させる為に踏みしめた屋上のコンクリートが粉砕された。
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