第14話シリアス?(好きじゃないにゃあ)

「う~ん、うんうんうんうん。――う~む」


 幼い少女の体力を魔法で何とかした後、今後の対応方法にもの凄~く悩んでいる。


 異世界であればこの子を孤児院に連れて行き『国の宝だ。大事に育てよ』の一言でオールオッケーだったので問題はなかったのだが。現代社会には親権だの養育費だの法律だのとにかく面倒くさいに限る。


 児童相談所なるところの情報を調べてみても一時保護なる制度が書いてあったのだが……。


 ――そうだ。リスナーに聞けばいいじゃないか!!


 早速、ノートパソコンの電源を入れ配信を開始し始める。きっとリスナーと言う名の集合知ならば良い解決方法を導き出してくれるはず!







 小一時間程かけ、家賃が足りなくなり占いコーナーを開いた下りから、現在、幼い少女を保護するに至るまで、リスナーへの詳細な説明がようやく終了した。


 特に、少女の家庭環境と過ごしてきた生活環境にリスナー達の感情がジェットコースターのように乱高下し、コメント欄がとっても荒れていた。

 

 しかも、えるしぃちゃんの腕の中であったかいシーツを掛けられ、すやすやと眠る姿を見ているのだからなおさらである。


 少女の身体は栄養が足りておらず、頬がこけやつれているのだから。


 証拠として擦り切れボロボロになった無残なお洋服を見た瞬間に、リスナー達が母親の個人情報の特定に情報収集に走り、悪・即・斬の正義マンパワーを発揮している。

 

 それをあえて注意せず放置しているのは、殺意が芽生えるほど神聖存在が怒り狂っているからである。ちなみにわざとらしく、ポロッと母親の本名を暴露したのだからなおさらである。


 えるしぃちゃんが微笑みながら少女の頭を優しく撫でる姿は、肖像画で描かれているような慈愛の女神そのものなのであった。


「わたしが家賃を払えなくて家を追い出され、道端の雑草を焚火で煮て食べるのは問題ないんだけど、この子の生活や将来が掛かっていると思うとそうもいってられないからね~。明日になったら状況の説明の為にわたしが児童相談所か警察へ連絡するんだけど、この子の為に『誠実に』動いてくれたら嬉しいんだけどね?」


 『誠実に』のワードに強制力を持たせるほど、言葉を強く発音する。それほどにえるしぃちゃんは怒っているのだ。


:今回ばかりはふざけられないかな

:子供を捨てる何て信じられない。ましてや男の為になんて……

:里親になりたい人は、世の中には結構いそうな気がする

:これが毒親というやつか

:母子家庭の大変さは分かるけれどネグレクトはやっちゃいけない。わたしはお母さんに大事に育てられたって胸を張って言える

:状況が動くのは連絡を受けた公的な人が最短で調査をして一時保護を速やかに行う事かな?

:今の時間でも警察に連絡した方がいいのでは? えるしぃちゃんが誘拐したって母親に言われたら面倒だよ?


「うん? それなら警察さんに一応報告しておこうかな? この子の名前と住所は分かっているし。でも恐らくこのこのお家荒れて居そうなんだよね……」


 えるしぃちゃんが里親になることに問題は無いのだが、実際問題、お母さんなのに戸籍がお父さん問題でもある。養育できる環境かどうか詳細に調べられてしまうので恐らく里親になることは無理であると思っている。


 えるしぃちゃんが養って育てるよりも、経済状況がしっかりしており、子を切望している養父母の元で愛情を受けて育てられた方がこの子の為にも良いと判断している。


 配信を行いながら警察にネグレクトを受けているらしき子供を保護した旨と、自身の住所と連絡先を一応伝える。電話対応してくれた人が結構親切にどういう流れになるか教えてくれたので、えるしぃはすっごい助かったようだ。


「連絡終了~取り敢えず警察の人が確認の為にウチにの家にやって来るんだって。この子の住所と親の名前も伝えたから、親が見つからなかったら保護施設に預かられることになるね。この子を育てたい気持ちもあるけれど、やっぱり両親揃って愛情たっぷりな環境と経済的に余裕のある家庭で育てられて欲しいからね~」


:あ、せやな……

:ガスが止まるお家で子育ては……愛情はあるんだけどね……w

:笑っちゃいけないけど草

:子供に山菜取りをさせるのはちょっと

:野性的でアグレッシブな子に育ちそう

:毒親が引き取りに来ませんように

:悲しいけれど本当に愛してくれる義父母に育てられるといいね

:こんなにかわいい子なのに母親は……

:子育ては大変だと軽い気持ちでは言えないけどそれでも……ね


「森での生活もそこまで悪いものではないよ? それにもし、この子を引き取りにクソ母親がやって来たら――ちょっと、人間として生きていけなくしてやる自信がある、よ? だって一月近くも家に帰らずチャラ男とズッコンバッコンしているんだもん。そんなの許せる? ね゛ぇ!?」


 画面越しに闘神エルシィの気配が伝わりリスナー達は心の底から畏怖した。こいつなら絶対に“ヤル”という確信を持たせるには十分な気配であった。


:ドキドキしゅる。これが……恋?

:心療内科での受診をオヌヌメします

:[おお、神よ]

:うちの子になりにおいで~少女ちゃん

:話がスムーズに行く事を祈る

:ツブヤイターで毒親晒され始めてワロタ

:毒親が友人? から情報売られているわ

:場所の特定早すぎやん

:画像が加工されてウォンテッド扱いされとるわ


「実は母親の居る場所分かっているんだよね~。ちなみにどこかの大人のホテルね。だから、わたしはクソ親の情報が拡散されようが叩かれようが止めない。情状酌量の余地が全くないんだよね。そんな、おセックス代があるならこの子に美味しいご飯を食べさせて欲しいと思うんだけど。――それとこの子には幸せな家庭環境を引き寄せる加護を全力で与えたから、良い里親に当たるかどうかの心配しなくても良いと思う。実際、縁がありそうなご夫婦がリスナーに居そうだしね?」


 えるしぃちゃんの女神アイには、善良で沢山の愛情を注いでくれそうな優しそうな顔をした夫婦が見えている。こっそり夫婦と少女を良縁で繋ぎ、少女の母親との悪縁をぶった切るだけで問題は解決だ。


:まじか!? 超絶占い師が言うなら信憑性高い

:おお! ぜひ愛され幸せに育って欲しい

:ほんと、えるしぃちゃんと少女の寄り添いがてぇてぇな

:えるしぃまま……

:ままみを感じる

:バブゥ

:今日はとってもシリアスえるしぃちゃん


「あ、ドアがノックされてる。警察官がみたいだね、――うんしょっと」


:あ、まじで? それ被っちゃう?

:玄関開けたら即不審者

:まじかぁ

:ブレないえるしぃちゃん

:近未来SFバイザーヘルメットかぶるんかぃ!?

:たーいほされるで

:やめてぇええええぇえ

:おいおいおいおい


 警察官を出迎えるためにバイザーヘルメットを被り始めるえるしぃちゃん、だって、コミュ障クソ雑魚ナメクジエルフなんだもの。と、心の中で盛大に言い訳をする。


「話が長くなりそうだから配信をおわりま~す! あ、エンディングムービーや【えるしぃちゃんねる】のバナー画像を作成してくれたリスナーありがとう!! 次の配信の時にでも占ってあげるね! ば~いび~!!」


:まじか! 忘れられているかと思ったわ

:ひゃっほぉい! 三連単! 三連単!

:この貴重な権利を手に入れるのには安すぎる対価だぜぃ!

:それな、まじ貴重

:下手したら一攫千金に値する権利だよな

:えるしぃちゃんミカン箱で占いやってたのね……探しに行ったら会えるかな

:えるしぃちゃんの家賃の為にも、ぜひ占ってもらいたい

:開催場所希望!!

:ツブヤイター始めて欲しいな


 ――シュコォ。シュコォ。『うわ゛っびっくりした! ――子供を保護したと通報を受けたのですが』『ええ、この子なんですけど』


:配信きり忘れワロタ

:草

:そら、驚くわ

:えるしぃちゃーん。個人情報ばれるで!

:なんか、名前が出る時に規制音に変換されているんだけど

:うわ、まじだ。どんなシステムだよ

:きっと、これが魔法なんだね(純真な目)

:個人情報保護魔法w







 寂れた安っぽい内装の大人のホテルにてギャル男の腕の中に抱かれる、化粧が濃い保護された少女の母親がいた。


 ベタベタ引っ付くおばさんを面倒くさそうに顔を顰める男は――重たい女を拾ってしまったな。と、頭を抱えながらツブヤイターのトレンドランキングをチェックしていた。


 最近よくトレンドに上がっている【えるしぃちゃんねる】が気にはなってはいるものの未だに視聴はしていない。

 

 トレンドをチェックはするものの惑わされずに『俺はハヤリに流されない硬派な男なんだぜ』と、シャツの襟をビンビンに立たせデニムを半ケツが見えるほど下げるギャル汚ファッションをこよなく愛している。彼の履き潰したとんがりブーツからは凶悪なスメルが立ち昇っている。

 

 トレンドには、#捨て子、#ネグレクト、#毒親、#犯人はこいつだ、#えるしぃちゃんまじ聖母、#バブみ。と、どこか見た事がある女性の顔写真や高校の頃の卒業アルバムなどが晒されていた。


「はぁ!? な、何で俺の仕事場や住所が晒されているんだ!? 中学生の時の顔写真まで!!」


 数百万件もの投稿されている内容を把握しようを、画面をスクロールさせ流し見て行く。どうやら腕の中でバカ面を晒しながら寝て居る女が、育児放棄をして警察に捜索されているようだ。


 ――ピリリリリリリ。


 深夜にも関わらず男の電話には仕事先からの電話が掛かって来ていた、理由は言われずとも分かる。取り敢えず寝たふりをして通話には出ないが、不味い状況なのは馬鹿でも分かる。


「おいッ!! おきやがれ!!」


 腕にしがみ付く女を振り払い叩き起こす。頬を張る音が室内に何度も響くが暴力で女を屈服させ支配するのは男の常套手段だからだ。


「やめ、やめてぇ!? ど、どうしたの!! いきなり!」


 男は女の顎を掴み自らのスマホに表示されているツブヤイターの情報を無理やり読ませた。


「おまえ。ガキが居るんだってな。聞いてねぇぞ! おい!!」


「――だって、だって子供がいるって言ったらわたしを捨てるんでしょう!!」


 女性は開き直り反論する。しかし、その態度に男の低い沸点をぶち抜け暴力がエスカレートしていく。


「お前が! 育児放棄したせいで!! 俺の情報までも拡散されてしまっただろうが!! どうしてくれんだよ!!」


 殴り蹴られ、女性が血を流しても男は止まらない。さすがに命の危険を感じたのか女性はスマホから警察へ通話を繋げたままにする。


「助けてぇ! 助けてぇ!!」


「てめっ! 今更何言ってんだ!」


 かなり切迫した事態と判断した警察が十分後に大人のホテルへ数十人も突撃してきた。部屋の中には暴行を受けた女性が大量の血を流して倒れており、すぐさま救急搬送、暴力を振るっていた男性は殺人未遂の現行犯で逮捕された。


 えるしぃちゃんが警察に詳細な説明を伝えた際に、母親の名前まで出していた為、この暴力事件が発生した時、病院に搬送されていた女性が子供を捨てて酷いネグレクトしていた毒親であることが判明。


 事件現場が大人のホテルであった為、重傷を負っても一切同情されず、警察や病院関係者からは『天罰が下ったんだ』と冷たい眼差しで見下されていた。

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