第9話異世界で成した事

【慈愛の女神】我らがエルシィ・エル・エーテリア様を讃えよ崇めよ喝采せよ【殺戮の闘神】


・エルシィ閣下の軌跡


・旧魔導歴八二三五年 


 旧エルフ領のアウローラ地方にて御生誕


・旧魔導歴八二三八年 


 齢僅か三歳にして大精霊を支配下に。エルフ集落では擁護派と排斥派へと分裂。暗殺騒動がたびたび巻き起こる。しかし、大精霊の加護により鎮静化する。集落を出奔し王都へ住居を移す。


・旧魔導歴八二三八年


 現代まで受け継がれ、脈々と進化する三種の神器 『レイ・ゾーコ』『セン・ターキ』『テ・レービ』を大発明される。当時の配信コンテンツは精霊を使役し演出する寸劇が主流であった。


 偉大なコンテンツの軌跡についてはこちらから→【笑っていいんじゃないテ・レービの初回放送はここから始まる~三百年を超える長寿番組~】


・旧魔導歴八二四三 


『ク・ルーマ』『バ・イーク』『ヒェリ』も同年に開発され、ホッコリア王国の発明大勲章を賜る。悲しい事に、のちに勃発する暴虐皇帝ヴァハネロスとの大戦争の引き金ともなる。

 

・旧魔導歴八二四一年


『ゴォレム』を開発する事により様々な生産活動の半自動化に成功。当時は雇用者、被雇用者間でトラブルが続出するも、閣下は多種多様のコンテンツを提供。実質、被雇用者が不足が深刻化すると賃金の上昇、経済の活性化が起こる。継続的な国家の超高度成長期へ突入する。


・旧魔導歴八二四八年


 王国中の土台作り(インフラ)の発展に多大なる貢献を認められ永年魔導伯爵としての位が与えられた。実質、侯爵の位と変わりなく【神の落とし子】【導きの神】【料理の神】とも呼ばれ始める。ちなみに、永年伯爵位を受領するまでに地方ごとの特産品で『ラ・ミーン』『お好み・ヤキ』『たこ・ヤキ』『そば・ヤキ』のレシピを作成された。


・旧魔導歴八二五七年


 発展し続けるホッコリア国内に暗雲が立ち込める。周辺国との紛争が発生、全方位からなる侵略戦争へ発展。閣下が軍勢を率いての初めての戦争で、超絶的な軍才を発揮。自軍の兵士五百人、そして周辺の連合軍が一万人という劣勢にも関わらず大勝利。詳細はこちら→【旧クヲン国紛争~天才軍師の罠百選~】


 しかし、多数の地域での紛争や略奪に閣下の軍勢が間に合わず。苦肉の策としてメイスを装備すると、単身で数千人もの敵国兵を撲殺し尽くしていく。後日、バーバリアン・ハイ・エルフという二つ名を得る。当時閣下はエルフ種族から嫌われており、エルフ種族の汚点として語り継がれる。決して友人のエルフに『やーい、おまえのかーちゃんバーバリアン!』と、言ってはいけない。


・旧魔導歴八二六七年


 十年にも及ぶ紛争、侵略が一時的に停戦する。しかし、周辺国を併呑していた大帝国ヴァーハンからホッコリア王国へ降伏勧告の使者が訪れた。その条件の中には【エルシィ・エル・エーテリアを皇帝ヴァハネロスの側妃とする】と、記載されており、当然ごとく国中の貴族や民衆、王族すら激怒する。


 大戦争の兆しが見えるも大国との戦力差を見れば敗戦確定。小国であったホッコリア王国。決意したエルシィは帝国の大軍勢の待つ旧ヘイオーン平原へ向かう。ホッコリア王国の軍が出撃準備中であったのだが、大将格の足を全てへし折り出撃を断念させた。


 当時の軍人達は小さな背中を涙ながら見送った、と切実に兵士の日記や軍事記録に綴られている。愛される閣下のお姿が克明に描かれている書籍はこちら→【殺戮の闘神~幼き姿に涙、優しきエルフは大業を自ら背負う~】




・再現記録/精霊アーカイブからの抽出 ※残酷な描写アリ 視聴に注意




 眼前に見えるは帝国が併呑した周辺国の大軍勢。暴虐皇帝ヴァハネロスは自国の兵士の損耗を嫌ったようで、周辺国の兵士は駒として使用される。平時のヘイオーン平原は牧歌的な雰囲気のするのどかな場所なのだが、ピリピリとした殺伐な闘争の熱が湧きあがっている。


 降伏勧告の内容に盛り込まれたエルシィ本人が平原へ到着すると、敵軍勢の中から帝国の使者が護衛の騎士たちと馬に乗ってやって来た。


「ほう、このガキが皇帝陛下が熱を上げている御執心のエルシィ・エル・エーテリアか……。まだ、十に満たないようにしか見えないのだが、描かれた人相と合っているな」 


 当時、エルシィの成長は止まっており、僅か百四十四センチ程(三十四歳)であった。


 髭を伸ばしたおっさん使者が顔を近づけると、エルシィの顎に触れ舐るように見定めてきた。貴族特有の品物を見るようなドロドロとした視線はエルシィを不快にさせる。


「こりゃ高値で売れそうなガキだな美術品としては特級品だ。――どうだ? 少しばかり儂に奉仕をするのならば好待遇で扱ってや――」


「ペッ!」


 汚い手で顎を触れられ、臭い息を吸わされたエルシィ。彼女の沸点はすでに限界を超えていた。吐き出した神聖エルフ唾液はおっさん使者の眼球に命中すると、一時的に失明させた。


「ガァッ――き、貴様ッ!!」


 周囲の護衛がおっさん使者を背後に下げると、数十もの槍の矛先をエルシィに向け威圧した。小さな子供エルフが大柄な甲冑騎士に囲まれるも、一切の怯えの表情も見せず。大胆不敵にもニヤリと笑みを零している。


 眼を覆いながらも小物であったおっさん使者は一生懸命イキる。


「儂の無礼を働けば貴様の国がどうなるか分かっているのだろうな!? ありとあらゆる拷問を試し、ホッコリア王国の民衆を我々帝国を繁栄に導く性奴隷や農奴として飼い慣らし、貴族や王族共から剥した人皮で豪勢にもカーペットを作ってやる! ふひひひぃ!! ――どぉーだ!? 怖いかぁ!? 恐ろしいかぁ?」


 エルシィは想像していた。


 開発した発明品を利用し、国を発展させる為に結成されたチームの同僚たちとの情熱。


 お米を作るためにあらゆる品種を掛け合わせ、共に土を被りながら田畑を耕した村長や村人たちのとの苦楽。


 孤児院を設立し学校教育に向けて語り合ったシスターたちとの未来への希望。


 ちんまい小生意気なハイエルフの話を真剣に聞いてくれ、発展する国の未来を語り合った王族たちとの親愛。


 街や村を散歩する度に『エルシィちゃん一緒に遊ぼう!』と、良く声を掛けてくれた片親しかいない幼い少女との友情。


 おまけで、自らの生まれであり、嫌われているエルフ種族。


「――――か」


「ん~うん? 理解したかぁ~い? ならば貴様がすることは分かっておろう? 儂の前に跪いてブーツを舐めると良い。ほれ、ほれ、ほれ!」


 エルシィの俯く姿に気を良くしてイキリ始めたおっさん使者。泥で汚れたブーツをエルシィに向ける。その表情は醜悪な愉悦の表情に満ちていた。


 様々な人間達との絆。共に築き上げてきた信頼という暖かい感情がエルシィの心を駆け巡る。


 そして、その優しい人々を蹂躙せんと悪鬼たる軍勢がやってきているのだ。


 許せぬ。許せぬ。許せぬ。許せぬ。許せぬ。許せぬ。許せぬ。許せぬ。――――決して、許してなるものか!!


「早くしろぉッ! クソガキめッ! 見せしめに近所のガキでも連れて来て拷問を始めてや――ケペッ」


 護衛の任務の妨げになる行動を何度も取っているイキリおっさん使者。目の前で、幼い少女へ取っている行動に自国の人間としても、騎士としても辟易していた。


 だが、俯き震えていた少女の本性はそんなものではなかったのだ。

 

 臓物や血液が周辺の騎士たちへ降り注いだ。


 瞬きよりも早い少女の凶行に、護衛の騎士たちは任務を遂行できなかった。すでにおっさん使者の胴体には致死に至る空洞が出来上がっていたからだ。


「――。――。――。――せぬ。許せぬ。許せぬ。断じて許せぬ!! ――ね。死ぃぃぃいいねぇぇぇぇええええぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」


 ――パァン!


 次の瞬間、おっさん使者の頭部が弾け飛び灰色の脳漿が飛び散った。高度な軍事訓練を施されている騎士たちは瞬時に戦闘行動に移るも――すでに遅い。


 騎士たちが抜剣した先には少女の姿は存在していない。視線を彷徨わせ敵へと変わった少女を探す。――いないッ!! どこだッ!?


 背後から砂利を踏みしめる音が聞こえた。騎士たちは反射的に振り返るも腹部に違和感を感じた。瞬間的に感じた熱と、何かが失われていく冷たさを――


 騎士たちが振り返ると探していた少女の姿を確認した。


 ――よくもやってくれたな!! と騎士たちはそう叫びながら切りかかろうとした。――だが、その思いは叶わない。


 数十名の騎士たちの胴体が真っ二つにわかたれており、ずるりと地面に音を立てて倒れていった。トクトクと血液が零れ、臓物が土に塗れていく。


 その場に立つ勝者は一人しかいなかった。


 指先の爪を鋭く伸ばし、振り抜いた手刀の構えをしたエルシィだけであった。


 手先には赤黒い血液の後が残っていた。非武装状態からの戦闘技術を現在開発している途中であったために返り血を浴びてしまっていた。


 綺麗な頬に着いた血化粧を服の袖でぬぐい取った。


 戦場の中心に立つその姿は美しくも血が似合う。


 その状況を見ていた大軍勢が動き出し、ただ一人立ち尽くしているエルシィを討ち取らんと号令をかけた。大地を踏み鳴らす軍勢の咆哮が少女を喰らい尽くさんと襲い掛かって来る


「――足りぬ、足りぬ! 我が友情、我が熱情、我が希望、我が愛情、そして――我が友を討つには数が足りぬわッ!! かかってこい悪鬼共ッ!! 我が愛する家族を討ち取らせぬ! 奪わせぬ!! 決して、決して我は屈しないッ! 死を覚悟して掛かって来るがいい! ――貴様らは一人として生かして帰さんッ!!」


 殴る。蹴る。引き裂く。潰す。引き千切る。踏みにじる。


 血が舞い。悲鳴が上がり。臓物が弾け飛ぶ。戦争とは決して綺麗なものではない。


 幾千もの屍の臓物や血液を頭からかぶり、透き通る肌や、美しいハイエルフの銀髪は赤黒く染まった。


 華奢な身体に浴びる血液は一切渇きを覚えず、腐臭を纏いながらも眼前の悪鬼共の眼球に貫き手を突き込んだ。


 掌底を胴体に炸裂させると後方の兵士共々粉砕し、発生した衝撃波で甚大な被害が出る。震脚を打ち鳴らし周囲の兵士が宙を舞うと、次の瞬間に『ボッ』という間抜けな音が聞こえた。連続で放たれた拳で身体を粉砕された音だ。すでに兵士達は人間の原型を残しておらず。血の雨が戦場では何度も、何度も降り注いだ。


 その姿を見た兵士達に動揺が走る。人間を超えた“何か”。この大軍勢の攻勢をたった一人で退ける強大さ。


「闘神……ッ! ――俺達は手を出しちゃいけねぇ存在に喧嘩を売っちまったん――」


 ――ゴッ。


 正拳突きを放ち終えたエルシィの拳の方向には、二十メートルもの抉られた大地が残っていた。あまりにもの強烈な拳圧で空間そのものを抉り取ったのだ。そこには屍も一切残らない。


「に、逃げろッ! 勝てるわけがね――」


 ポロリと兵士の頭が地面に転がった。首が落ちて噴水の様に血液が零れる死体の背後には、爪を伸ばした戦闘形態のエルシィがいた。


 軽やかなステップと共に首が沢山落ちて行く。


「生きて返さぬと言ったはずだ。――悪鬼共」


 それから生存者が存在しなくなるまで闘神の舞踏は続いた。後世にて、ヘイオーン平原は大量の血と臓物で染められた事からシュラ平原と改名された。


 暴虐皇帝ヴァハネロスを、エルシィ閣下が討ち取るまで五年の歳月を費やした。単身軍勢を撃破し続け、死者は数百万にも及んだ。


 この戦争にホッコリア王国の軍も参戦しようともエルシィ閣下は一切許可なされなかった。


 ――貴様らに死者を一人として許さぬ。これは命令である。愛しき我が民、我が子らを血に染めることは許さぬ。この戦争が終わるまで我は闘神となろうぞ。


・神聖エルシィ歴元年


 周辺国が閣下に降伏宣言するも、王族、貴族、有力商人を一人残らず駆逐され【殺戮の闘神】が恐怖の代名詞として語り継がれる。その後、ホッコリア王国が周辺国を併呑。王侯貴族たちは国名を神聖エルシィ帝国へと改名し暦も改めた。


 現在まで語り継がれ。数百年も続く我が国の大いなる繁栄はエルシィ大閣下の功績である。


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 閣下しゅんごい


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 何度見ても痺れるね


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 もうね、涙が溢れてテ・レービが見えねえよ。


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 バッカ。今の主流はス・マーホだろうが。でも大画面で見るのも良いと思う。


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 閣下は臣民みんなの嫁


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 バカッ! エルシィ様親衛隊に始末されるぞ!


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 発言には気を付けるがいい。我らの沸点の低さを舐めるでないぞ?


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 ヒェッ


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 タマヒュンしました


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 そういえば定期神勅放送が行われていないよな? エルシィ閣下のお姿が見れないのは寂しい。


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 そういえば神勅掲示板にも呟かれていないな


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 神勅映像の更新もストップしているみたいだぞ


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 ほんとだ、どうしたんだろ? 神聖騎士団は何してるんだ?


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 おい、辞めとけよ。処されるぞ。マジで。


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 【速報】エルシィ閣下が行方不明。神殿や王宮が大混乱。公式発表され大規模な捜索隊が編成される模様。直近で極大魔法が使用された形跡が発見される。


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 !


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 !!


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 !!!


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 なん……だと……!


・我ら神聖エルシィ帝国臣下


 閣下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


※お知らせ


 魔導精霊サーバーに大規模障害が発生。当面の復旧に目途が立っておりません。


 強い心を持ちエルシィ閣下の帰還を願いましょう。決して早まらず心穏やかに過ごして下さい。


 カウンセリング施設はこちら→【神聖慈愛大学病院公式ホームページ】

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