第8話もうかりまっか?

 東京ビックリサイトにて夏コミイベントが開催された。


 会場内に雪崩のように変態の紳士淑女がドドドドッと入場していく、各々目的のサークルの同人誌であったりグッズであったり目の色を変えて駆け出していく。


 今回の夏コミで突発的に発生したイベント――えるしぃちゃんサイン入りわからせ本限定五百部、一冊税込み二千円という強気な価格。


 さらに、ヴァイスリッター氏の『生活費を稼ぐんや、グヒヒヒ』と言う口車にホイホイのったえるしぃちゃんは、インスタントカメラによる撮影に直筆サイン入り千円ポッキリという素敵な企画を立てた。もちろん、近づくこともおさわりも現金である。


 もちろん、開場内にいる臣下であるスタッフさんをヴァイスリッターがパシらせてインスタントカメラのネガを大量に購入して来てもらっている。買い物へ向かうよう交渉する際に、えるしぃちゃんが顔の汗を拭いた安物のハンカチという神聖な気を纏ったブツが進呈されている。


 ダンボール枠の中で冷や汗を掻きながら一生懸命撮影会とサインを書く姿は庇護欲を感じさせるハイなエルフである、本人は『はわわ、この枠を外した瞬間死んでまう』と戦々恐々である。


 ちなみに、二次元変換枠(ダンボール製)はしっかりとした硬質なポール二本で挟み込み、頑丈に強化した為綺麗なお手々が空くようになった。まぁ、撮影した際に直筆サインを書くためにヴァイスリッターが企んだともいう。


 実際、ヴァイスリッターに邪な気持ちは一切なく、えるしぃちゃんの私生活を哀れみ、世話焼きな母性が大爆発した結果こうしたお金儲けの商売を考え出したのである。


「エルフわからせ本は完売やで~!! あとは、ネガの残っている限り本物のえるしぃちゃんが指定したポーズをとった上に直筆サイン入りや!! 収益化停止したえるしぃちゃんの極貧生活をみんなで支えるチャンスや!」


 ヴァイスリッターの発言に共感し日頃から溜まっていたリスナー達の投げ銭欲が爆発する。えるしぃリスナーの異体同心な統率力とお行儀の良さでキッチリと出口まで続く大行列が出来上がった。


「ふぉぉぉぉおおぉぉぉお! わたし、大人気。ふぉぉぉお! ふおぉぉおぉ!」


 あまりにも、ちやほやされすぎてえるしぃちゃんの感情メーターが限界突破。語彙力崩壊の危機である。


「サービスでちょっとおまけの占いをしちゃう」


 トンデモ爆弾発言投下である。


 この発言にヴァイスリッター氏もリスナー同志たちも固まった。


 列に並び直筆サイン入り写真をヴァイスリッターが渡す際にポンポン助言を行っていく。今回の占い道具は会場で販売されていたVチューバー商品である『ポロライブ』のトレーディングカードである。


 テーブルに並べられたキラキラカードをシャッフルし素早く占っていく。傍からみても上下に反転しているカードが置かれていたり、カードの説明に『しゅっぱぁ~つ』『どぉも↑どぉも↑』と書かれいるだけで一ミリも占いに関係ないのだ。


「ふんふんふん、ネクタイの色をピンクに変えよ、いずれ分かる」

「ん゛!? 娘ちゃんが鬱屈としておる。家族でしっかり話し合うと良い」

「ふむ……憑いておる。――ほれ、肩が軽くなったろう? 職場の空気が悪いようじゃ」

「おんしはいずれ大成する。自身の一念を貫き通すと良い。自信を持つことじゃ」

「あまり言いたくはないが浮気されておる。愛というものは難しいの。落ち着いて話をすると良い、結果はどうなるか知らぬがおんしは善き人じゃ、胸を誇れ」

「事業を起こそうとしておるな。時期尚早じゃ時を待て」

「む? 母親に病の影があるな、病院に行くと良い」


 素早くサインを済ませるとドンドンお客さんを捌いて行く、その際の占い結果を聞き涙を流す者や、スッキリする者、落ち込むが希望を抱く者。えるしぃちゃんの本質である【導く者】が本領発揮している。


「!! おぬし、急いで帰れ! 家族の危機じゃ! ほれッ! 道を開けぃッ!!」


 中には急いで帰宅する事によって家族の死に目に間に合ったケースもあった。


 その話はツブヤイターに感謝の言葉と共に投稿され、えるしぃちゃん教入信者が増える事となる。

 

 ヴァイスリッター氏が持ち込んだ高性能ノートPCから、現在の会場での様子がえるしぃちゃんチャンネルで生放送されている。


 コメントを読むことはできないが会場に来れないリスナー達は大満足の様子だ。


 ちなみに、あやしい占い師モードになっている、えるしぃちゃんは爺婆口調に変化していることに気付いていません。


 千円ポッキリで生写真に直筆サイン入りおまけにドンビキするくらい得する占いコーナーは大人気。お昼過ぎにはインスタントカメラのネガが品切れとなってしまいえるしぃちゃんとヴァイスリッター氏のイベントは終了となった。


 同時に人気のブースの商品が一通り売り切れになり、コスプレ会場へ人が自然と流れて行っている。えるしぃちゃんもえちちなコスプレイヤーの姿をスマホに納めたい欲望がムクムクと湧いてきている。


「あの、その、んーと、ヴァイスリッター氏?」


「おつかれさんえるしぃちゃん。どないしたん?」


 サイン入り撮影会が終わりあやしい神官ローブを羽織った姿のえるしぃちゃん。自身の口からえちちな写真が撮りたいですと黒髪美女であるヴァイスリッター氏にいうのはハードルが高いのであろう。


 自身の突発イベントのあれこれを手伝ってもらった上に甘やかしのうまい美女にえるしぃちゃんの好感度は天元突破である。


「コ、ココ、ココココ」


「ん~? はは~ん、エッチなコスプレイヤーの撮影がしたいんやな?」


「!!」


 なぜわかったの!? と、驚愕の表情をしているうえるしぃちゃん、その姿をニシシシシとヴァイスリッターが楽しそうに笑っている。


 サイコメトラーなのかっ!? と、えるしぃちゃんは思っているが、実はハイなエルフという種族は人の感情が読みやすい代わりに自身の感情の発露が周囲に伝わりやすいのである。これは、魔力や神聖力の操作性が優れている種族特有の特徴で喜怒哀楽といった感情の機微が自然と周りの魔力や気を操作してしまっているのであった。


 地球と言う世界でも特殊な能力を持っている人間はそこそこ存在しており、ヴァイスリッター氏の様な突出した美女や、カリスマ性の在る者、武芸者などが“空気を読む”という能力を持つ者だけがえるしぃちゃんの感情をハッキリと読み取れるのだ。


「ん~ほれ」


 えるしぃちゃんの顔面に作業を行ってそこそこ汗を掻いたボインな乳を押し付けた。色気たっぷり妖しさムンムンのスメルがえるしぃちゃんの脳ミソを破壊する。


「――キュプゥ」


 えるしぃちゃん(田中菊次郎三十五歳+三百年童貞処女)には刺激が余りにも強すぎた。汗を掻いてブラジャーがスケスケになった白いタンクトップが鼻血によって染められてしまう。ふにょりとえるしぃちゃんの頬で変形したボインに顔面を埋められたまま幸せそうな顔で逝く。


「あー、なんかごめん。えるしぃちゃんもスケベさんやんなぁ」


 割と身長がちんまい年齢不詳のエルフを抱っこしながら一緒に更衣室へ入っていくヴァイスリッター氏。着替えを行っている最中にえるしぃちゃんがもし目を覚ませば再び血の海になるであろう。







 目を覚ませば目の前には母なる象徴の神聖ボイン帝国の下乳、再び鼻血が炸裂しそうになるのを我慢する。


 どうやら着替えたヴァイスリッター氏にえるしぃちゃんは膝枕をされているようだ。


「ふわぁ……ここがヘヴンか……」


「ん? 起きたんか。ほら、あそこでコスプレイヤーの撮影会を行っているスペースやから一緒にいくか?」


 名残惜しくも膝枕か起き上がるとコクリと頷く、鼻血を噴き出し体調不良を装いヴァイスリッターに抱っこを強請るくらいには現金なクソエルフある。もちろん、バレているが。


 しかし、忘れかけているがコミュ障エルフはコンビニの店員と会話することが困難な程のヨワヨワエルフちゃんだ。撮影会の際には二次元変換枠(ダンボール製)があったことにより無事ではあったが、ぴったりとコアラの様にヴァイスリッター氏に抱き着いていないと邪悪な神気を撒き散らすことになってしまう。


 ツブヤイターやアウトスタグラムで露出している人気のコスプレイヤーや、人気ユアチューバーが人気取りの為にコスプレしたり、動画の撮影を行ったりもしている。


 背に抱っこされている状況であり、顔をヴァイスリッターの肩越しにコスプレイヤーの生足や、丸見えなおパンツ様を拝みながらふんふんと鼻息を荒くする。


「こら、長いお耳が当たってくすぐったいやん。それにしてもそのお耳どう見てもほんもんやんなぁ~、ま、えるしぃちゃんが何者でもウチは味方やからな?」


 おっとこ前なヴァイスリッターのセリフに内面おっさんであるえるしぃちゃんの心はキュンキュンしている。ちょっと頬を赤く染めながらどうやってえちちな撮影会に潜り込むかをIQ53のずのーが高速回転し始める。

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