第7話二次元変換枠(ダンボール製)
「ほら、こっちこっち、こっから入るんや。パスを渡しとくけん無くさんようにな?」
ヴァイスリッター氏に渡されたヴィッパーなるPASSを大事に胸元に抱き締める。
勇者の冒険にトコトコついて行く邪悪バイザー神官は、終始無言のままヴァイスリッター氏の背後にぴったりと張り付いて行く。
背後から超人的なエルフ嗅覚でアネゴのスメルをクンカクンカする変態的えるしぃちゃん、近未来SFなバイザーを上にあげると涎を垂らし恍惚とした表情の駄エルフが拝めるであろう。
ヴァイスリッター氏の服装は夏らしい挑発的なへそ出しタンクトップにケツの割れ目がチラリと窺えるハレンチジーンズを履いているのだ。のだッ!!(二回目)
今日の気温はとても高くアネゴのボインな谷間に流れて行く官能的な汗が超えちちである。
会場内に入場するとムワリと熱気のようなものを感じる。まだ、開場すらしていないのだがオス×メス、オス×オス、メス×メスの激しいぶつかり合いの様な、戦いの感情が感じ取れる。
――戦場だ。
十人十色の百花繚乱なドロドロに猛る性癖の主張の場がここなのだろう。
「ほれ、ウチがだしとる同人誌や、開場するまでに読んだらいいで」
出会ってから全くと言っていいほど言語を発していないえるしぃちゃん、ポイッと渡された同人誌なる書物の表紙に掛かれている題名を読んでみる。
『神聖★傲慢ツンツンハイエルフ触手調教わからせ物語~クソ雑魚ナメクジなえるふちゃんをめっこめこにしちゃうゾ』
――カヒュッ。
呼吸が一瞬止まりそろりとヴァイスリッター氏の顔を窺う。その綺麗な瞳の中にはドロリとした得体の知れないものが見えた――気がした。
『わ、わわわわ、我、わからせられちゃうッ!?』
聞こえない程の小声で内なる邪悪様がビクビクと弱音を吐いてしまう。
怯えている感情がばれてしまったのかニチャリと邪悪に笑うヴァイスリッター氏がえるしぃちゃんの耳元の側にまでやってくるとボソリと呟いた。
「安心しい。現実で手ぇ出すような変態ちゃうで? ――同意があれば、どうなるかわからんけどな」
そう言うとヴァイスリッター氏は販売する為のテーブルで様々な準備をし始めてしまった。待機所の様な所に置いてあるパイプ椅子にフラフラと座り、借りてきた猫のようにおりこうさんに待つハイなエルフなのであった。
◇
この会場に来るまでに朝食を取っておらず、差し入れに飲み物やごはんの世話などそれはそれは丁寧にえるしぃちゃんのお世話を焼きまくった。
緊張しとるんやろ? と言われ肩を揉まれ。お腹すいとるやろ? と言われるとヘルメットをいつの間にか外され『はい、あーんするんやで?』とべったべったに甘やかされ。貧乏生活辛かったやろ? と言いながらあまーいクッキーで餌付けをされた。
そんな事をボイン美女にされてしまったえるしぃちゃんは心を全開でオープンドアしてしまい。伝説的な快挙である人間との通常の会話ができるようにまでなってしまったのだ。
爺さん婆さん達は異世界でも会話できていたのでえるしぃちゃん的にはノーカウントなのだ。
ちなみにヘルメットを外した瞬間に神聖空気が会場内に漂ってしまい、邪悪な性癖力が澄んだ空気によって祓われてしまい、次回のコミケで作家の書く同人誌の作風にリビドーが足りないと購入者にクレームが入るようになってしまった。
ヴァイスリッターが執筆、編集、販売を全て行っているサークル『エルフスキー』は売り子であるえるしぃちゃんと二人だけだ。
えるしぃちゃんは知らないが【えるしぃちゃんねる】は現在登録者数が九十万人を突破しており、盗撮ではあるがツブヤイターにもえるしぃちゃんの御尊顔が無断アップされてしまっている。
ツブヤイタートレンドランキングでも夏コミのワードと共に上位を独占し、#生えるしぃ、#実在系エルフ、#神聖エルフ帝国、などのタグが横行している。
ヴァイスリッターも自身のツブヤイターで、えるしぃとのツーショットを自身のアカウントに投稿しており、イイヨ! の数が百万を超えるバスり方をしている。
よっこいせ、とえるしぃになんかボロッちいダンボールの枠が手渡される。
「! そ、それはッ! 二次元変換枠!(ダンボール製)」
「どや? パパッと空き箱で作った一品やで? これでえるしぃちゃんも生配信の様にノリノリでコミュ強を名乗れるんやない?」
ごそごそと自身の顔が収まるようにダンボール枠を構えてみる。
枠の大きさはちょっと大きなえちちなポスターサイズでとっても持ちやすい。試しにいつものように配信開始のセリフを実演し始める。
「こんえるしぃ~、リアル系Vチュ―バー【えるしぃ】だよ~。人よりちょっと承認欲求高めな年齢十八のハイなエルフだぞ☆ただいま東京ビックリサイトの会場にやってきてるよ~、ズッコンバッコン性癖がぶつかり合う戦いの空気を感じるよっ!」
いつもの調子でトークを開始してしまい神聖で耳に残る美声が会場内に響き渡る。
えるしぃちゃんがやってきている事を分かっている会場内のファンや、一目見て崇拝の感情を抱いている人間達は黙々と販売の準備をしていたのだ。
そんな静かな環境にいつも見ているリスナーたちが感激しないわけがない、むしろその場でチャンネル登録をしながらえるしぃちゃんの御尊顔を拝んですらいるのだ。
――オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォォ!!!!
爆発した。歓喜の大爆発だ。老若男女問わず叫び、喜び、腕を天に突き上げ勝利のポーズを取った。
東京ビックリサイトの入り口で今か今かと開場を待っている変態紳士共は会場内から聞こえて来る怒号に怯えてしまう。それほどの熱量が周囲に広がってしまう。
会場内の全ての視線を集めてしまったえるしぃちゃん、だけれど配信者モードに切り替わってしまってるつよつよエルフはピクリとも動じない。むしろ、もっと褒め給えと傲慢にも思っていた。
「ん~? 超絶可愛いかしこいつよつよエルフなえるしぃちゃんを褒め讃えるには熱量が足りないんじゃない? ほれ、ほれ、ちやほやしてくれてもいいんだぞ?」
『フォォォォォオオ!』
『さいつよかわいいえるしぃちゃん!』
『きゃわわ! きゃわわ!』
『非実在系エルフは存在していたんだ……』
『電気代払わせて下さい』
『ご尊顔を拝ませてください』
『わからせ』
『超かわいい超かしこい超エルフちゃん』
信仰パワーが会場に溢れ始めるとえるしぃちゃんが調子に乗り始めた。ダンボール枠のお陰で慈愛も殺戮も表層には出ておらず、ポンコツ女神モードとなっていた。
「ふんふんふん! わたし超気分がいい! 出血特別ビックリ大サービス!」
――ぱぁんぱぁんぱぁんっ!
柏手を数回打ち鳴らしたえるしぃちゃん、煌々と光の膜が会場内に広がっていく。
「うんうんうん、商売繁盛、恋愛成就、無病息災の加護を会場内の人間全てに与えたぞいっ!! 開場まであと少し、パパッと販売して美味しいごはんを食べるんだぞ」
そう宣言すると会場内の臣下たちはてきぱきと作業に戻っていった。
ダンボール枠を膝に構えたままのえるしぃちゃんはニコニコとヴァイスリッターにドヤ顔を披露した。
「えるしぃちゃんのドヤ顔、全力で歪ませてわからせたくなってしまうやん」
「ひぃっ!!」
ヴァイスリッターにわからせられるかわりに同人誌へのえるしぃサインを頼まれ、キュッキュッとマジックペンでサインを書く内職を始めるクソ雑魚エルフなのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます