第4話まっさーじでおこづかいゲット(もっと寄越せ)
このクソエルフと駄菓子屋のババアとの戦いの因縁はそう――対して深くもない。
この世界に戻ってきた際に懐古厨であるエルフは駄菓子屋を懐かしんで来店し、たまたま目について購入した古いベーゴマに糸を巻けなくて四苦八苦していた。
すると、この婆さんはドヤ顔でベーゴマに糸を巻き始め、肉食動物が獲物を狩るような獰猛な挑発的な視線をコミュ障エルフに向けてきたのだ。
異世界でバチバチ戦闘を行ってきた地球に帰りたてエルフには、まだまだ闘争本能がバリバリに残っていた。
イキったババアをこの購入したベーゴマ(タカ)で、ぶちのめしてやんよ!! と、ゴーファイトッ!!
即落ちニコマの要領でボッコボッコに返り討ちにあった貧弱エルフは牙を抜かれ、駄菓子屋婆さんの肩や腰をもみもみの刑に処されたのであった。
ハイなエルフは天然のおハーブの様な神聖存在なので肩こり腰痛に効果テキメンッ! 味を占めた婆さんは貧弱エルフが駄菓子屋に来店する度にベーゴマでボッコボッコにするのであった。
ベーゴマには全高が低い程、敵の下に潜りこみ場外へ叩き出す効果が高いと言われており(エルフはにわかベーゴマ戦士)、歴戦のファイターである駄菓子屋婆さんには文字通り手も足も出ないのだ。
なぜ懲りずにベーゴマバトルを続けているかと言えば戦いに負けても残念賞として、うまいスティックを一本だけえるしぃちゃんに餌付けをしているからである。
マッサージ料金一時間(うまいスティック十円)で済んでおり、婆さんはとっても得をしているのである。
「かかってきな――――ボッコボコのボコにしてやんよ」
「フッ(おなかがすいて力が出ない)」
さすがに婆さん的にクソ生意気な小娘に悪いと思っているのか、勝利の賞品として五百円分の賞味期限間近の駄菓子がカゴにどっさりと用意されている(それでも婆さんは得をしています)
特別フィールドである一斗缶には白い布が張られており、両者ベーゴマに糸を巻いて投擲の構えを始めた。
ボロイ扇風機が婆さんにしか当たっておらず、えるしぃちゃんの神聖処女汗が地面にポタリと落ちた瞬間――戦い火蓋が切って落とされた。(ファイッ!!)
歴戦の猛者である婆さんは手首のスナップを生かして殺人的な回転を誇る
完璧な防御戦法が決まったと、にちゃりと汚い笑みを浮かべる。――だが。
「なんだってぇッ!」
ひぃぃん。
えるしぃちゃんの流麗な投擲フォームから生み出された、フィールドを破壊しかねない禁忌の技。
今は亡き婆さんの旦那であるベーゴマジジイの産み出した禁忌の技――絶殺・
えるしぃちゃんのベーゴマは常に傾きながら超高速回転しており、婆さんの旋風・城塞を展開しているベーゴマの下にフィールドを破壊しながら強引に潜り込む。
ギギギギィッ!! と、強固な城塞を無理やり破壊し――ひっくり返した。
生命力を失った婆さんのベーゴマは敗北者に相応しく頭を垂れ地に倒れ伏した。
「フッ(なんか勝っちゃった、駄菓子モロたわ)」
なぜ勝利をえるしぃちゃんが掴むことが出来たのかというと、空腹が原因で完全脱力した手首の高速スナップから繰り出される、ボトム・トップ・ボトムの異世界戦士たる戦闘経験が生かされたのだ。
ベーゴマをおもちゃと侮り戦士として戦っていなかったのだが、飢餓感が増すことで本能である戦士としての闘争本能が、ベーゴマと言う武器に反映されてしまった事も勝利の要因となっている。
異世界戦士えるしぃちゃんは神聖存在として崇められるまでに
唖然としている婆さんを肴にしながら勝利の科学調味料と合成着色料の塊であるうまいスティックを
まぁ、ちょっと、タダで駄菓子を貰うのに罪悪感を感じる小物ハイエルフは、スナックのカスを婆さんの肩に落としながら小さな撫で肩を優しくもみもみし始める。
いじわる婆さんもなんだかんだとこうしてアホみたいな事に付き合ってくれるハイなエルフであるえるしぃちゃんの事は大好きなのであった。
◇
小一時間程マッサージが終わると曲がった腰がシャッキリと真っすぐになった婆さんがコミュ障ハイエルフに話しかける。――の前に、自らの肩に降り積もったスナックカスを払い落としてクソエルフの頭をバチコンと叩く。
「あんたぁッ! 行儀よく食いんさい! ――たくっ、あんた今、素寒貧なんだろう? 集会所の爺さん婆さんのマッサージするなら多少食い繋げるぐらいの給料を出すよ」
「ま?(マジかよ婆さん。気でも狂ったのか? ボケるにはまだ早いと思うんだ――あいたッ!)」
ベチコンと再びポンコツエルフの頭が引っぱたかれる。絶対にサイコメトラーだろこの婆さん。
「年がら年中ゲートボールとユアチューブ視聴しか趣味の無い爺さん婆さん達だ。今から連絡入れるから集会所に行くよッ! ――駄菓子屋はウチの娘が店番をやってるから問題ないよ」
「(すげえ、この婆さん一言も喋ってないのにわたしとの会話が成立してやがる。これが――フ〇ミチキ下さい)」
「あんたは顔に出すぎなんだよ! バカタレッ! フ〇ミチキは売ってないよ!」
「(わたしの顔はフ〇ミチキ顔なんだ)」
ヅカヅカと歩幅は小さいがパワフルに地を踏みしめ歩いて行く婆さんが集会所へ向かっていく。その背後を足音も立てずにエルフはアサシン的にトコトコと付いて行く。
ホイホイと婆さんについて行った不用心なエルフは昭和時代に建てられたであろう平屋の集会所へ婆さんと一緒に入っていく。
カラララと戸を開いた瞬間に集まる複数の強者の視線。
「(なん――だと。この爺さん婆さん達から歴戦の闘気が感じられる……駄菓子屋の婆さんといいこいつらただものじゃねぇ)」
ぱーりぃぴーぽーにはビクビクするえるしぃちゃんだが、こうした戦場の空気を漂わせている戦士に対して一切怖気づかない。むしろ、バーバリアン的思考に切り替わり戦闘形態へと移行していく。
サツ・バツ、とした空気の中、駄菓子屋の婆さんが殺気を出している爺さんの頭を引っ叩くと場の空気を切り替えるためにえるしぃちゃんを紹介し始める。
「――たくっ! 剣術ジジイ! あんたはいい歳こいて何してんだい!! それと、この生意気そうな小娘が凄腕のマッサージ師なんだよ。ちょいと揉むだけで曲がった腰も上がらない腕もシャッキリポンになっちまうんだよ」
「ああ、最近腰が酷く痛くてね。――お嬢さんにお願いしようかな?」
高齢にも関わらずはち切れんばかりの筋肉の鎧を纏う爺さん。腰をトントンと叩きながら丁寧な口調でそう主張する。軍人の様な雰囲気を纏い質実剛健という言葉がとても似合う人物だ。
「ヘタクソだったら一円も払わんぞ、儂は」
ガリガリに頬がこけたミイラの様な陰険そうなジジイ。負の怨念が形を持ち存在しているかのような人間だ。
「あらあら、若い娘さん……? ――本当に若いのかしら? なんだか私達と同じ気配を感じるわね……」
若い頃はさぞかしモテたであろう綺麗な年齢の取り方をしたお婆さんだ。紅茶とスコーンを嗜む姿が誰よりも似合いそうだ。しかし、隠しきれない外道である忍びの腐臭が漂ってきている。
「そこの嬢ちゃんがタダもんじゃねえのは分かる。こいつぁ戦時中だったら武将の素質を持つ大器だな!! ――今度、ウチの剣術道場に来なッ!」
細身の身体をしているが体から発せられる剣気が達人のソレだ。頬に大きな刀傷を負ってはいるが勲章とでも思っていそうだ。
「すっ(えるしぃです。マッサージ? するからおこづかい下さい。――っと、あぶねえ、剣術家っぽい爺さんの殺人圏内に足を踏み込む所だったわ)」
おそらく抜刀術の類であろう殺気の籠った殺人圏を展開したままの爺さんいた。それに気付きギリギリの射程範囲外で自らの歩を止める。
歩行用の補助杖を膝に乗せているだけのように見えるが、どうやら刀身を納めている仕込み刀のようだ。――現代社会の後期高齢者は化け物だらけか。
「ほう? お前さん随分と
「わたしも娘さんの背後に回ることができないねぇ……。忍びの気質もありそうね」
「いや、儂は
「そこまでにするといい、お嬢さんが困ってしまうだろう?」
この、爺さん婆さん達の言っている事は的中している。えるしぃちゃんは戦士としても、暗殺者としても、呪術師としてもプロ中のプロであるのだ。
「はいはい、あんたらマッサージをしに来たって言ってるんだ、
「一番血の気の濃い喧嘩屋の駄菓子婆さん何言ってんだ? 何人のハグレ者を始末してきたと思ってん――」
――シュカッ。
呪い屋らしき爺さんの顎先を喧嘩屋婆さんの高速パンチが掠る、その瞬間爺さんは白目を剥いて気絶した。
一人のジジイを沈めた駄菓子屋、もとい喧嘩屋婆さんが何事もなかったように仕切り出す。
「――身体にガタが来てる剣術の爺からマッサージを受けな! それと仕込みは床に置いときな」
そう言われた剣術の爺は渋々床の上に仕込み刀を置いた。
「しゃあねえか、嬢ちゃんがマッサージして俺の身体がピンシャンしたら――死合おうぜ」
歳の割には綺麗に生え揃っている歯をむき出しにして獣のように獰猛に笑う爺。
「(歳考えろ爺。――まぁ、ちょっとだけわたしの本気を見せてやるか)」
集会所内の爺婆は順番を勝手に決めて行く。
報酬の相談はしておらず、爺婆どもを満足させれば年金をがっぽり毟り取れるだろうと心の中に野望を抱く陰険クソエルフ。
床に座布団を数枚敷いてマッサージを開始する。
だが、ちょっとだけであろうと本気を出そうと意識してしまった瞬間、銀眼であったえるしぃちゃんの虹彩が金色へと変化していき。マッサージを開始する手が神々しく光り輝き始めた。
◇
昼前から始めたちょっと本気なえるしぃ流マッサージは夕方前には終了した。神々しさを感じさせる真剣な表情のえるしぃちゃんに慄きつつ、鍛え抜かれた胆力で爺さん婆さんは耐え抜いた。
集会所内の空気は深淵に佇む女神の様な神聖な雰囲気が漂い“そこにいる”だけで崇め奉り、自然と跪きたくなるような感覚に陥りそうになる。
「(――このお嬢さんは戦時にも存在した軍神を上回っているようですね。もしかすると本当に存在する現人神なのかもしれませんね)」
「(あらあら、娘さんから注がれた生命力の様な“気”は、内気功に系譜を連ねているのかもしれないわ……。わたしの肌が数十歳若返っているわ!!)」
「(かー、初見でこいつはちっとも底を見せていなかったんだ。こいつが殺人圏を展開する必要すらねえ、殺りあったら俺が気づく間もなく切られて死んでいたな。――これが、闘神ってやつなのかもしんねえな)」
「(儂の呪いがちっとも通じる気がしないね。しかも、蓄えていた呪が全部解放されちまった。商売あがったりだよ)」
「あんた、わたしのマッサージの時に手抜きしてるんじゃないよ!?」
「えぇ……(だって、こんな雰囲気になっちゃうじゃん? ちょっと本気出して二、三十歳若返っちゃったんだからいいじゃんっ!)」
今まで駄菓子屋の婆さんに行っていたマッサージには、神聖な気が漏れないよう調整していたので手抜きだと言いがかりを付けられていた。
「ふん……。まぁいい感じのマッサージだったから許してやるさね。ほれ、あんた達さっさとこの小娘になけなしの年金を払いなッ!」
えるしぃちゃんはちょっと頑張って疲れたので、忍びっぽい上品な婆さんが淹れた暖かい緑茶と和菓子をげっ歯類の如く食い尽くしている。
各々のカバンやバックからお財布取りに行く。そして、順番にえるしぃちゃんへとお札のハイエリートであるゆきっちーを数枚づつ手渡していった。
一人頭数万円、合計で二十一万円ものおこづかいを手に入れてしまう。
「ファッ!? なんでぇ!? いいの!?」
手にした大金に驚きすぎるあまり、言葉に出して返事をすることが出来ていた。
「嬢ちゃん――儂らはみんな世間からハグレた奴らでな、特別な“何か”を感じ取ることが出来る連中なんだ。あんまし高い金額を出したつもりはねえが――今後、俺らの身内に何かがあった時にちょっと助けて欲しいっつーお願いへの手付金だ」
「そうなのよ? わたし達の年老いた高齢者からしたら孫が可愛いくてね。“癒し”のできる高位存在なんて人生で初めて会ったの。どうか年寄りの願いをちょっとだけでも聞いてくれると嬉しいわ」
剣術の爺と忍びの婆がしみじみと語り始めた。高位存在には我らの願い何ぞ受けるメリットは全くないだろう、と懇願するように。
だがしかし!! 承認欲求強めの現金なハイエルフは生活費が出たことによりニッコニコで安請け合いをするつもりのようだ。
今すぐにでも大声で『オケマルゥッ!!』と叫び散らしたい気持ちだ。
「儂の溜め込んでいた呪が解放されて内臓まで新品みたいになっちまった。呪い屋の業と思って受け入れてたんだがなぁ、なんだかスッキリ清々しちまったよ」
しんみりとした空気を老人達は出しているが。えるしぃちゃん的には『追加料金を頂けるなら定期的にでもマッサージしますぜ? グヘヘ』と内心涎を垂らしまくっている。
呪い屋の内臓は腐りかけていたので念入りに治療を施したのだ。そのおかげか一番おこづかいの金額が高かったのは呪い屋の爺さんである。
だが、だてに数百年も神聖存在をやっていない。ちょっと気合を入れたマッサージで女神スイッチが切り替わったままなのだ。
しんみりとしたこの場の空気に答えるように、えるしぃちゃんの元の虹彩に戻っていた銀眼が、輝く金眼に切り替わり膨大な神気が集会所内だけに渦巻く。
『「良き――本当に良き縁と、良き人生を歩んで来たのですね。
ニッコリと人たらしの女神が爺さんと婆さん達へ微笑む。
その笑顔は好意、尊敬、崇拝、を通り越す。
けれども曲がりになりにも神に“友人”で居てくれと言われたんだ。爺さん婆さん達は歯を食いしばり、崇拝の感情を掻き消していく。
『「!! ――ふふふふ。嬉しいわ! 嬉しいわ! あなた達を虐めたいわけではないの。本当よ? もっとお話しをしたいのだけれど……もっと、あなた達が元気になってからね? では……」』
――パァン。
神聖な空気を散らすようにエルシィが強烈な音を立て柏手を打った。その瞬間いつもの古びた集会所の空気へと戻っていく。
大量の冷や汗を掻いた爺さん婆さんはゆっくりとえるしぃちゃんに近づくと――バチコンと頭をひっ叩いて行く。
「あいたぁッ! 酷いッ! 最近の老人共は若者を大切にしないッ! だからおこづかいもっとくれ!(はよ寄越せ)」
駄菓子屋の婆さんがえるしぃちゃんの顔を見てから盛大な溜息を吐いた。
「まぁ、遠慮が無くなったのはいいことなのかねぇ……」
やれやれと、重い腰を上げて老人達は各々の自宅に帰って行った、駄菓子屋婆さんに置いて行かれそうになったえるしぃちゃんは一緒に集会所の施錠を行うと、ニッコニコでガスの支払い伝票を握りしめ、銀行へ振込手続きをしに行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます