第2話

 学校から程近い場所に建つ三階建てのコーポラス、二階の角部屋がオレの部屋、六畳の居室がフローリングってのがいい感じでお気に入りだ。

 組み立て式のシングルベッドに小さなライティングデスク、型はちょっと古いけどノートパソコンもあるし中学二年のお正月にお年玉で買ったギター、高校生にしてはなかなか恵まれている方だと思う。とは言えモブキャラなオレのところに遊びに来るヤツなんていないし、もちろん彼女なんてのもいない。家賃も生活費も海外赴任してる親からの仕送りのみなので決して余裕があるわけではないけれど、それでもオレはこの生活に満足していた。


 それにしても今日はやけに気疲れした。オレは着替えもそこそこにベッドに横になるとカラオケパーティーのことを思い返していた。サプライズイベントってのが気になるけど、男女同数、長瀬が言うにはあの川角かわかどさんも来るらしい。もしかしたらオレにもワンチャンあるかもだ。

 川角かわかど若葉わかば、思えば入学式で彼女を目にして以来、クラスは違えどもオレは事あるごとにその姿を追っていた、ただ目で追うだけだけど。ところがこの春から同じクラスじゃないか、オレは内心喜んだ。とは言え彼女は陽キャのグループ、オレはモブ、だから相変わらず目で追うだけの日々だけど、だからこそ今度のイベントはちょっと楽しみかも知れない。

 そんなことをぼんやり考えているときだった、オレは背中に違和感を感じた。マットレスの中から押されているって言うか、そんな感じだ。その力はだんだんと強くなって来て、ついには幻聴まで聞こえ始めた。


「そろそろ気付けよ、いいかげん重いぜ」


 オレは部屋の中を見渡した。しかし誰もいない。もう一度耳を澄ませてみる。


「だから、早くどいてくれ、って」


 その声とともに背中を蹴られる衝撃にオレは思わずベッドから飛び降りた。


「な、なんだ!?」


 そう言いながら見下ろしたベッドには憮然とした顔でオレを睨みつける女の子がいた。濃紺のジャンパースカートに白いブラウス、胸元には臙脂えんじ色のリボンタイの姿は学校の制服だろうか、それとも出来損ないのメイド服だろうか、とにかく栗色のマッシュルームショートな女の子だ。


「重くて死ぬかと思ったよ、てかもう死んでるんだけどさ。でもまあ、とりあえずよろしくな、正宗まさむね


 今オレの目の前にはベッドの上で伸びをする女の子がいる……って、この子、どこから来たんだ?

 それになんでオレの名前まで知ってんだ?

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