5-3
舞台は夜。絢爛豪華なシャンデリアが大広間で踊る同級生達を照らす。
だがフィーネは片手に軽食を持って校舎外の
四阿に出てしまえば喧騒は小さくなり、暖かくなりつつある夜風がフィーネを癒す。
何故、1人で四阿に避難したのか。
事件を説明した後、チェンバレンに口酸っぱく「今日はもう問題を起こすな」と言われたからだ。
(そもそもパーティーに参加する気なかったしなぁ)
フィーネにとってその言い分は好都合であった。
これで正当にダンスに参加しなくてよくなったのだ。
だがフィーネは満足していた。
ティムの願い通り、パートナーとして参列してダンスも早々に踊った。
もちろんルカとも踊った。辺境伯の教育の一環なのか、ルカが男役を踊れたのは意外だった。
ルカからすればドレスさえ持ってなかったフィーネがダンスを踊れたことに驚いていたようだが。
(ティム様のダンスの練習相手になってたからだしね)
そんなティムやルカはそれぞれ同級生達に囲まれ、ダンスの申し込みを大量に受けている最中だ。
ティムは慣れているもので笑顔で踊っているがルカは良くも悪くも素直なので眉間に皺を寄せていた。
そして四阿に逃げた理由はもう一つある。
【フィーネ、飯は】
「あるよ。さすがに皆の前でご飯はできないからね」
【
持ってきたサンドイッチをノクスの口元に持っていく。
よほどお腹は空いていたようで、いつも優雅にゆっくりと食べるノクスも黙って勢い良く食べている。
椅子に腰をかけたフィーネは夜空を眺めた。
校長室から眺めた夜空は眩しく見えたのに、今はその眩しさが美しく見えた。
単純だな、と苦笑するが今はそれでいいとフィーネの心は穏やかだった。
「ねえノクス」
【なんだ?】
「…私、強い魔法使いになりたい。お父さんやお母さんのような優しくて強くて大切な人を守れるような…そんな魔法使いに」
【フィーネは充分強いと思うがな。ヘンドリクセンだって倒したじゃないか】
「ううん、あれは妖精達の力だよ。私は便乗しただけ…ノクスだって怪我させちゃったし」
【フィーネが作った薬で傷はもう癒えている。そもそも子供に叩きつけられるなんざ、蚊に刺されたようなものだ】
食事が終わったノクスはふっと鼻で笑った。
だが口周りに食べカスが着いているせいでいまいち締まらない。
するとノクスは立ち上がり、四阿の外に出て振り返った。
【フィーネ、今から夜の散歩をしようと思うが主もどうだ?】
「私は--」
やめておくよ。
いつもなら無意識に出ていた言葉だろう。
だが不思議なことに言葉が喉元で引っかかってしまった。
抱えていた膝を下ろし、結い上げた髪を解く。
このまま帰ってしまって手伝ってくれたルカが怒りそうだ。
チェンバレンにもルカにもティムにも怒られてしまうなら、少しくらい悪い子になってしまおう。
フィーネは慣れない靴を脱いで手に持ち、体を大きくしたノクスの背に乗る。
「行こうノクス!きっと今日の夜空は気持ちいいよ!」
【カッカッ! 良い! しっかり掴まっていろフィーネ!】
髪やドレスの裾が風に泳ぐ。
今までにない高揚感がフィーネを突き動かしていた。
「ねえノクス!」
【なんだ?】
「今は未来とか分からないし怖いけど、でも私たくさん頑張るよ! 失敗しても理想の未来に近づけなくても、そんなこと笑って進めるくらいに!そしたら大切なもの、守れるかな?」
【さあな、未来のことなんざ誰も知りえぬ。だが主が進み続ければその分だけ血肉になる。それが人間だ】
「っ…ふふっ、あははっ! 人間って難しいね!」
【それを主が言うのか? おかしな奴だ、カッカッ!】
少女と妖精の笑い声が星々が煌めく夜空にこだまする。
--遠い未来、黒の魔女は言った。パーティーを抜け出した夜は一番、胸が踊った、と。
---
「もう!フィーネったらどこに行ったのかしら!? また一緒に踊ろうと思ったのに! それに目を離したら誘拐とかされそうなのにあの子…!」
「大丈夫、ノクスと散歩してるみたい。僕達は待っていよう。あとチェンバレン先生にバレないように庇ってあげなくちゃね」
「……貴方って本当に過保護よね。使い魔が可哀想だわ。それにフィーネにとって毒よ」
「それでいいんだよ。君にはわからないだろうけど」
少年と少女は四阿からフィーネが翔けていったであろう空を眺めた。
「早く帰ってきておいで、フィーネ」
これはフィーネの知らない会話。
そして少年は己の黒い感情を隠すように微笑んだ。
『星が昇った日 終』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます