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ルカ・ペリオン。

星を集めたような金色の髪はカールを描いており、桃のような頬が少し紅潮している。

大きな紅色の瞳は青ざめるフィーネを捉えていた。

そんな可憐な彼女と会って数十分しか経っていなかったがフィーネはもう家が恋しくなっていた。



「ねえ、お兄さんって炎関連の魔法が得意って聞いたんだけどアンタもそうなの?」

「ねえ、アンタの魔法刻印見せてよ!」

「ねえ、アンタの使い魔ってどんな子? 私は猫なんだけど」

「赤の魔女ってどんな人なの!?」



この次々と繰り出される質問の嵐だった。

しかも質問のほとんどがハロルドとナターリヤのことについてだ。

フィーネは眉に皺を寄せる暇なく、「ああ…」「はい…」「そうですね…」と力なく答えるしかなかった。

するとルカが痺れを切らしたのか、眉を釣りあげてベットから立ち上がった。



「ちょっと、私の話聞いてるの?」



荷解きと同居人の質問のことで思考が追いついてなかったフィーネはしまった、と息を呑む。

慌てて弁明しようとフィーネも立ち上がった瞬間、影の中に潜んでいた使い魔のクーシーことノクスが現れた。

恐らくフィーネが本能的に感じた危険に反応して現れたのだろう。

フィーネを守るようにルカの前で威嚇するがどうやらそれは逆効果だったようだ。



【フィーネに近づくな、人間】

「な、妖精!? しかもブラックドックじゃない! そんな奴を使い魔にしてるの?!」

【フィーネよ、この人間は敵か?】

「て、敵じゃないから! 私は大丈夫だから、下がってノクス!」



一応、フィーネの命令に従うがノクスはルカから少し身を引いて影に潜る気は無いようだ。

しかも警戒心は解いておらず、小さく唸り続けている。

威嚇されているルカはというと、状況を整理できてないようで困惑の色が強く出ていた。



(…困ったな)



魔法使いは大抵使い魔を使役している。

一般的には猫や梟などの動物が多い。

故に妖精を使い魔にする事例は多くは無いが無い訳では無い。むしろ稀である。

使い魔にする動物は契約する魔法使いにとって一番親しみのある動物になりやすいと言われている。

それは妖精も例外では無い。

フィーネは人生の大半を妖精と共に過ごしている。

事情があったとはいえ、動物を使役するより妖精を使い魔にするほうがフィーネにとって意思疎通がしやすいのだ。

ただ妖精犬とは言えど、ノクスは傍から見れば不吉を告げるブラックドックに見えてしまう。

ルカもまたブラックドックと勘違いして驚いているのだろう。



「あの、ノクスはブラックドックじゃなくてクーシーなの。色違いというか、事情があってブラックドックに見えちゃうけど」

「そうなのね…じゃなくて!私が敵ってどういうこと!?」

「えっと、それは…」

【ルカ・ペリオン。フィーネと話がしたいならまずうぬが自分のことを話すべきではないのか。聞いていれば主人の兄や親のことを無配慮に聞くだけ。随分と失礼だと思うが?】



ノクスのド正論がルカの顔色を困惑から再び怒りに変える。

どうやら思い当たるようで図星だったようだ。

フィーネは何とか2人を宥めようとするがめんどくさい事に2人共、頑固である。



「だ、だって…」

【だって、がなんだ?】

「友達作り方の本にこうすればいいって書いてたんだもん!!私、誰かと寮生活とかととと友達とか、わかんないんだもん!」

【ならばその本が間違っているのだな】

「本もそうだけど、憧れの天才魔法騎士の妹って聞いたら質問したくなるのも当たり前でしょ!?」



ルカは思いを吐くだけ吐いて声を上げて泣き出してしまった。

これにはフィーネもノクスを目を見開いて唖然としてしまう。

フィーネは慌てて座り込んで泣くルカに駆け寄る。

何かができるわけではないが、泣き止むのをただ待つよりも幾分かマシだろう。

だがノクスは変わらず、フィーネから離れようとはしなかった。

ルカの引き金を引いた原因だというのに。




「ごめんなさい、あなたを困らせたいわけじゃなくて。私、人と話すのが苦手で…」

「…私が怖いっていうわけじゃないのね?」

「怖い? 特に怖いとは思ってないよ。その、質問が多くて混乱しただけというか、色々あるというか…」

「……質問攻めしたのは謝るわ。確かに自分のこと話してないのに人のことを聞くのは無礼よね」



そうだな、という視線を送るノクスにフィーネは「ノクス」と呼んで釘を刺した。

さすがのノクスも諦めたのか、静かにフィーネの影の中に潜っていった。

だがノクスが止めてくれなければ初日から亀裂の入ったままになっていたのも事実。

フィーネは自分の影をそっと撫で「ありがとう、ノクス」と小さく囁いた。

ノクスに届いたようで影が一瞬だけ揺らぐ。

そして美少女を泣かせてしまったという罪悪感を抱えながらもフィーネは意を決して質問した。



「あの、ペリオンさん」

「ルカでいい。ペリオンって呼ばれるのは嫌なの」

「わ、わかった。ねえルカ、なんで私がハロルド・ブラックの妹って分かったの?」

「なんでって、1年生の間で話題になってるからよ。機関車に乗ってる時はその話題で持ち切りだったみたい。私はずっと一人でいたから誰が流したとか知らないけど」



酷い目眩がした。

できることなら荷物をまとめて家に帰りたくなったが、僅かに残った理性が青ざめたフィーネを止めた。

どうやらティムと馬車で揺られている間にとんでもない事になっていたようだ。



「まあ、冗談半分本気半分って感じ」

「でも何で皆、妹がいるって知ってるの?」

「フィーネってもしかして箱入り娘? 前に新聞の特集記事に載ってたわよ。そんなに大々的に取り上げてはなかったから見落としててもしょうがないわ。噂を流した奴も相当なファンみたいね」



目眩の次は頭痛である。

箱に篭もり気味で新聞を読むことも疎かにしていたツケが回ってきたのだろう。

ついにフィーネは遠い目で天井のシミを眺め始めた。

ヴォルタは気にするなと言ったが気にしない方が無理な話だ。

一体、同級生達は天才の妹に何を求めるというのだろうか。



「で、フィーネはハロルド様の妹で合ってるの?」

「ハ、ハロルド様って……まあ、うん、合ってる。でも誰にも言わないでほしいの。せめて初期試験までは」

「何で?」

「それは…多分、初期試験の結果を見れば分かるから」

「ふぅーん…フィーネって秘密が多いのね。でも私が黙ってても名前でバレるでしょ? それはどうするの?」



何も対策を考えずに乗り込んだフィーネではない。

この日、フィーネは何度目かのぎこちない笑みを浮かべた。

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