第27話 ぷっと いっと おん しぇるふ

 シモフリここからリュウコウまで徒歩で4日、討伐隊の募集締切が7日後だから……まだ余裕はあるな。


「ラクナシア、リュウコウまで狩りをしながら向かおう。獣を倒して食料を調達しながら戦いに慣れていくんだ」


 奴隷商エリファスの──『生きる術を身につけさせなさい』──という言葉を思い返した。


「はい! 私の両親は村の戦士だったんです。食料を獲ってきてくれました……少しだけ戦いを教えてもらったこともあります」


 えっ! ラクナシアは狩りの経験者……もしかして物凄く強かったりして。

 それなら教えてもらう立場? ……ラクナシアからかぁ……なんか恥ずかしいなぁ……いやいや命が懸かってるんだ戦力は高いほうが良いに決まってる。


「ご主人様、どうしましたか?」


「い、いや……狩りの計画を考えていたんだ。あ、そうだっ。ラクナシアの精神武器ってどんなの?」

「……せーしんぶき……ですか?」


 柔らかそうな頬を指でプニプニ突きながら首を傾げるラクナシア。


 それっぽく見せるために、ハナの針をミスリルソードに変化させた……ズルだけはバレないように。


「うわぁ……なにもないところからけんがでましたぁ」


 驚きの表情、ぐるぐると大きく手を回して後ずさった。


「自分の中に隠されている武器のことだよ」


 聞きかじったことを教えるのは恥ずかしい。詳しいことまでは分からないし。


「持ってない……です」


 ガックリ頭を落として落ち込むラクナシア。


「これを使っていいよ」


 取り出した剣をラクナシアに渡した。背中に鞘を取り付けけると、「わぁ、パパも背中に剣をつけてたんです。一緒だー」と喜んだ。


「じゃあ最初は鞘に剣を納めてみようか」


 少し短めにしたがまだちょっと長い、何度も背鞘に刃を納めようとするがスカってばかり。


「イタッ」


 鞘を外して首や背中を刺してしまうことも……ジゲンフォーから取り出したポーションで回復させつつ何度も練習をした。

 

 それにしてもポーションは怖い。即効性がありすぎて体にどんなアプローチをして治しているのか想像もつかない。

 前にラックさんの骨折まで瞬時に治してしたし……強力な薬にはそれ相応の副作用がありそうだけど……まー誰かに聞いても『そういうもの』って言われるんだろうなー。


 パチン── 


「おー、ラクナシアうまい!」

「えへへー」


 総練習時間は2時間、使ったポーションは5本。どんな状態からでも鞘に納められるまでに成長した。


「もう完璧だね。僕もそんなに早く出来なかったよ」


 ごめんなさい、嘘を付きました……やったことないしそんな器用なことできません。針に戻せば自然に消滅するから精神武器のようにズルして消しています。


 何があるか分からないから念のため佩剣(腰に下げる)はいけんしたほうが良さそうだ。そのためには納刀の練習をしないと……もちろんラクナシアの居ないところで。



 まだまだラクナシアと心の距離を感じる。普通に接してもらいたいがどうしてもダメ。それでも46時中一緒にいるおかげか、なんとなく本音がチラリと見える瞬間を感じられるようになったのは嬉しかった。


「そろそろ実践訓練だね。あの獣を何匹か狩ったらお昼にしよう」


 対象は食用肉アルミラージ、頭にこぶのあるウサギだ。ある程度の強さがあれば倒せる食糧の定番らしい。事前にちゃんと調べておいたのだ。


「たぁー↑」


 剣をブンブン振り回すラクナシア。当たる気配すらない。

 両親に戦いを教えてもらったというのは何だったんだろう……あ、「ラクナシアー、ちゃんと相手の動きを見るんだよー」


 アルミラージはおちょくっているのか飛び回っては追いつくのを待っている。ニヤリとでもしているよう。


「やぁー↑!」


 がむしゃらに走って追いかけるラクナシアの姿に……「可愛い」と呟く。頑張る健気な姿に見惚れてしまい思わず口から漏れてしまった。


 ──僕はロリコンじゃない僕はロリコンじゃない


 念仏のように必死に唱えた。


 心の葛藤に気づくことなくラクナシアは剣をブンブン振りながら追いかけまわしていた。


「今ならいける」


 逃げようとするアルミラージにフリックバレットを打ち込んで動きを止める。格好の的となったアルミラージは成す術もなく切断された。


 ボフンと煙が広がりポトリと落ちる兎肉。


「やったー」


 ラクナシアは周りを気にすることなく両手を挙げて跳ねまくった。ふわふわ揺れる耳、フリフリゆれる尻尾。


「ラクナシアー!」


 あまりの嬉しさから一気に駆け寄った。

 ビクンと体がこわばるラクナシア。


「あ……ごめん……なさい」


 しょぼーんとさせてしまった。


「違う。褒めようと思ったんだ。いい動きだった、どんどん倒して肉をゲットすれば焼肉パーティーが出来るぞ」


 褒めていくスタイル。人を育てるときは褒めてたほうが良いと学校の先生も言っていた。


「は……はい」

「少しづつでいいからさっきのようにはしゃいでくれると嬉しいな」


「//////」


 顔に赤い斜線が引かれたようにラクナシアは真っ赤になってうつむいた。


 □ ■ □ ■ □


「随分と肉も集まったし、お肉パーティーにしようか」

「こんなにいっぱい食べきれません」

「残ったらまた後で食べよう」


 リリス長老からもらった炎媒介チャッカンファイアーで火を起してアルミラージにくを焼いていく。味付けはシモフリで買っておいた香辛料と調味料。香ばしい匂いが漂う中、焚き火を挟んで肉が焼けるのを待っていた。


「ラクナシア、僕は君を家族の元に届けたいと思っているんだ。居場所に心当たりがあったら教えてもらえるかい」


 怯えながら胸の上にある魔法紋を抑えるラクナシア。


「言いたくなかったらいいんだ。ただ何の情報もないと探しようがなくってさ」 

「……私の故郷は獣人の国マーサン。既に滅びました」


 マーサン……ウッドバーレンの南にある国のようだ。


「パパ……ママ……」、涙ぐむラクナシア、涙を堪えて一生懸命に言葉を絞り出した。そして一言、「異世界教……が」


 この言葉に余裕を無くしてしまった。強い口調で「異世界教がどうしたの? ラクナシア」……叫んでしまった。


「キャッ」


 頭を抱えて怯えるラクナシア。両親のこと故郷のこと……大きな声まで出して嫌な記憶を引っ張り出してしまった。自己嫌悪しかない。


「ごめんラクナシア、異世界教って聞いたらイライラしちゃって」

「村に異世界教を名乗る人が来たんです……。村長に異世界教の都市をマーサンに作らせて欲しいって……」

「都市を?」

「はい、私はあまり良くわからないのですが、断ったら次の日から魔物が押し寄せてくるようになったって村長がが言ってたんです」


 偶然なのか……この話しだけを聞くなら断られた腹いせに魔物を送り込んだと考えられる。しかし……人が魔物を操ることなんで出来るのか。


「私はパパとママに無理やりに乗せられて逃がされました。辿り着いた先で困っている私を保護してくれたのがエリファスさんなんです」

「村ってラクナシアのような獣人がたくさんいたの?」

「はい、いろんな種族がいました。でも今はどうなっているか……」


 結衣の件が終わったらマーサンに足を運んでみよう。でも魔物か……フリックバレットで馬の魔物を倒したのは偶然だしなぁ。


 いや! いつまでも人に頼ってばかりいられない。


 決意を胸に一歩踏み出した!!


「おねーさーん、カッコよくガッツポーズするのはいいけど、火の上に踏み出してますよー」


「え、あっ」


 肉を焼いている炎が、踏み出した一歩を焼いていた。


「うきゃー」


 慌てて足を持ち上げる……すでに炎が燃え移っていた。声の主は手の平をクルッと回すと水を出して炎を消した。

 

「ありがとう……君は?」

「ケアルナですー。助けてあげたお礼にそのお肉もらいますねぇー」


 頭には細長い葉っぱのようなアホ毛。翡翠ひすい色の髪が美しく輝くスタイルの良い女性がそこにいた。


 彼女は地面に巨大な葉っぱを敷くと座り込んで肉を食べ始めた。


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