第24話 違いの分かる奴隷商(自称)
「ご飯食べたらシモフリに出発しよ」
サナンの働く食堂で朝食を摂った。
気まずくて声をかけられず。彼女も同じなのか声をかけてくることはなかった。しかしプレートのオムレツが1枚多く乗っていたのは心ばかりの気遣いだったのかもしれない。
ウォットからシモフリまでは徒歩で約半日、入国審査で足止めを食らった多くの人がフルマラソンでも始まったかのように一斉に出発した。
「この世界って乗り物を使う人をあんまり見ないなぁ……」
「それは路が安全だからだよ。急いでいる時だけレンタルを使うといい。生き物は管理が大変だし維持費もかかるからね」
呟きに通りすがりのお兄さんが教えてくれた。
しっかりしているもんだ……実際に馬車やひよりむが沢山走っていたら道が糞まみれになって大変だろうなぁ。なんてどうしょうもないことを考えながら旅路を急いだ。
修練で身体機能が大幅に強化されたのか体が軽い。2時間程度でシモフリに到着した。
入り口で異世界教のことを聞かれたときは『またかー』と焦ったが短時間確認された程度で済んだ。
所々で異世界教が邪教だという言葉を聞くが、異世界教が作ったというギルドカードの利便性だけはしっかり享受しているようだ。
街では色々な店を回った。セレンの言いつけを守って武具を強化できる鉱石を探した。棚に並ぶ鉱石を選んで鍛冶師に加工をお願いするシステムのようだ。高価なのはシルバーやゴールドしかなかった。
ミスリルにような希少品は置いておらず、あったとしても腕のいい職人にお願いしなければならないのだと教えてくれた。
そう考えるとイメージするだけで形を変化させる能力はチートだよなぁ……と視線を上げるとなんの店か分からない看板を見つけた。
「なんだあれ」
ベッドや剣など絵柄を見れば大抵は何の店だか分かるが、力こぶを出した人間に目つきの悪い犬?らしきものが描かれた看板がかかっている。
テント素材で作られた巨大な店からは獣の鳴き声が聞こえる。ペットショップか?
ひらひらする入り口を払って中にはいるとでかでかと目玉商品と書かれたポップが目に入った。値段は500,000に大きく✕がつけられ250,000に直されている。
思わず短く叫んだ。檻の中に入っているのはウルフレッド、少し小ぶりだが何度もみかけた獣……思わず後退した。
「いらっしゃい」
潰れたような低い声の男。見た目は成金の猛獣使い。
「あの──」
「このウルフレッドはお買い得ですよ。既に調教も済んでいるのでしっかり主人を見分けます。盗人程度なら舌を巻いて逃げ出しますよ。お嬢さんは可愛いからナンパされて困ってるでしょう。それも今日まで、お勧めです」
言葉を遮られ、男の弾丸トークが始まった。この後10分以上のメリットが語られた。
「ここはペットショップじゃないんですか?」
「そうですねぇ……ある意味ペットショップですね」
「ペットってかわいいとかかっこいいとか育てたいとか……そんなのじゃないんですか」
男は考え込むとポンっと手を叩いた。
「ああ、お客さんはそっちが好みなんですね。ハッハッハ、流石はお金持ち感漂う気品ある女性だと思ったんですよ。こちらへどうぞ」
後ろに回り込み背中をポンポンしてくる。そのまま押し出されるように奥へと連れられた。
通路には見たこともない四足歩行の獣がずらっと並ぶ。
「ここら辺は家の番をさせる獣ゾーンですね」
更に奥には所狭しと男たちが牢に閉じ込められている。
「ど、奴隷? 何で奴隷なんか……」
「借金を返せなかったり税金を払えなかったりして強制労働行きとなった人たちを私が買い取った訳です。国の承認を得ていますから安心して下さい」
更に奥には男女が分かれて牢に入れられている。
「ここは執事やメイド、娼婦や彼氏彼女などいろいろな意味で人生のお供ゾーンです。レンタルと購入がありますのでご希望に合わせてご利用できます。あ、強制的な性交は犯罪ですから。お望みでしたらそういう人を選んでください」
「それって……」
「お嬢さんは男性と女性どちらがお好みですか? 年齢関係なく隠れた趣味を持った人って案外多いんですよーそれぞれ条件が異なりますのでご要望に合わせてご相談下さい」
そして更に奥、店の一番奥まった所に男の子や女の子が1つ1つの牢に入れられている。
「ここがお嬢さんご希望の可愛い子ゾーンです」
いや、まさか人間とは……10歳前後だろうか。
「てっきりペットと言ったら犬とか猫かと思っていました」
「ああ、そういうのがお好みなんですね。あまり取り揃えは良くないですがこちらにおります」
案内された牢にはかわいらしい女の子。良く見ると頭にはふさふさした耳、ふわふわした尻尾。
「この子なんてどうでしょう。今ならお安くしておきますよ」
手もみしながら
い……いや……ペットじゃないじゃん。それどころか女の子。それ
に……
「この子尻尾と耳があるけど……」
男の表情が変わった。
「いい加減にしなさい。いくらあなたが可愛いお客さんでもね、文句ばっかり言っていつまでも人をおちょくってるんじゃないわよ。まさかここまで案内させてハイ、サヨウナラーなんてことはしないわよねぇ」
ものすごい形相で睨みつけている……。
「えっと……
女性の容姿をフルに使って演技してみた。
「いいわよ、ちょうどこの子は全然売れないから捨てようと思っていたの。今まで置いておいた費用を回収するために使える部分を抜き取ろうかしらぁ」
ニタリとする男。この顔はヤバイ……悪意の塊のようだ。でも奴隷なんて……でもこの子が可愛そう……感情と倫理が頭をグルグル巡る。
そうだ! お金には余裕があるから買って親元に届けてあげよう!
「分かりました。買います!」
「あらぁ、値段も聞かないで決めちゃって良かったのかしらぁ。意思表示はもらったからキャンセルするならキャンセル料を払ってもらうわよぉ。それに支払えなかったらあなたもペットとしてこの牢に入ってもらうからね」
えっ、そんな話しは聞いてない。残金は約55億ギラある。流石にどれだけふっかけられてもなんとかなるだろう……。
「い、いくらですか」。ゴクリと
男は指を1本立てる。
「い……1億ギラ……?」
男が首を振る……10億か……まさか100億……なんかもうなにが正しくて何が間違っているのかすら分からない。
「1,000
1,000
「たった1万ギラ1,000個でいいんですよぉ、お安いでしょぉ」
「あ、あぁ、1,000万ギラですか」
単位を間違えたようだ。恥ずかしい……この時は気づいていなかった、買うか買わないかという思考が、買えるか買えないかに変えられていたことに。
「はぁ、良かったぁ」
支払いに手を伸ばした。いつのまにか女言葉に変わっていた男は、エアーマネーを受け取るように手を伸ばす。
残高から1000万ギラが減った。
「毎度ありー。それじゃあお互いの血を交じわせて主従契約を締結するわね」
奴隷商は小さなポーチから、丁寧に包装されたナイフと紙を取り出した。
牢の奥に座る女の子を呼びよせ、鉄柵越しに親指を小さく切った。
滲み出した血液、そのまま手に持った紙に押すと、手を取られ同じ様に親指を切って滲んだ血液を紙に押し付けた。
「それではふたりの主従関係をこの契約書に則って遂行するものとする」
男は紙を放り投げると青い炎と共に燃え散った。
「いたっ/キャッ」
僕と女の子の短い叫び声がハモった。
「いやー、獣人は人から嫌われるからねー、売れて良かったよ」
「
「やっぱりあの営業トークは使えるなぁ、酷いことするぞって言えばみんなイチコロね」
「えっ、営業トーク?」
「当たり前でしょ。この子たちは私の大事な商品なの。傷一つ付けてないし食事だって普通の奴隷以上に食べさせているのよ。私を品質の悪い物を高く売りつけるような悪徳商人と一緒にしないでよ、商売は長い目でみなくっちゃうまくいかないの」
「えっと……」
「あなたもそう思うでしょ。
この男、話しが長い……さっき痛みが走った胸の上を見ると、小さな赤い魔法陣が描かれていた。
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