第12話 遥かなるゆめうつつへ

「このフィールドにも慣れたようだな」

「何度も何度も何度も何度も石化しかければ流石にコツを掴みますよ」


 全身に魔法力を纏わせようと意識するから漏れが出てくる。頭や胴体、腕や足などを部品パーツとして捉えて順番に魔法力を回していくのがコツなの──。


「ぐはぁ……」


 思いっきり吹っ飛ばされた。

 あの細腕のどこにこんな力があるんだよ。どうやったらこんなスピードで動けるんだよ。


「魔法力に意識がいきすぎだ」


 一矢も報いられず、やられてばかりでネガティブになってしまう。それでも頑張るしかない。


 日々訓練を重ねていくと色々な変化が生じてくる。ずっと気持ちが悪かった灰黒色かいこくしょくの景色が気にならなってくる。

 しかしどうしてもダメなのが睡眠。これだけは無理。寝ながら魔法力に意識を向けるなんて出来るわけがない。それを「仕方がないなぁ」とセレンが助けてくれた。

 

 更に訓練は続く。

 剣の扱いに慣れてくると欲が出てフリックバレットも試してみたくなる。


「どうだ!」


 日頃の恨みきもちを込めて右足を狙った。一直線に突き進むギラを難なく剣先で受け止める。勢いが残っているギラは剣先に静止しているように留まった。


「これが、君の言っていたフリックバレットか。確かに見えなかったな」

「なんで見えないものを初見で防げるんですかぁ(語尾強く→)


 剣先のギラを取り上げるとギラを山なりで放り返した。緩やかに回転しながら飛んでくる──

「魔法力の流れを感じ、力の流れを感じればどんな技だろうと関係ない」

 ──カッコいい言葉セリフにキャッチを忘れギラは腹に当たって地面に落ちた。


 この世界に師匠を倒せる人はいるのだろうか。


「……でも長老たちには師匠でも太刀打ちできないって言ってよな」小声で呟く。

「そうだな。神子は4人いるが誰一人にもかなわないだろう。それにあの男……私を救ったあの男もか……」

「師匠を救った男……ですか?」

「気にするな。昔の話しだ……」


 師匠を救った男……謎だ。それにリリス長老が師匠を打ち破るイメージか全然湧かなかった。

 


▷ ▶ ▷ ▶


 訓練を始めてから半年は経っただろう。厳しい訓練とや特殊な指導を経て寝ながらでも魔法力を纏って石化を防げるまでになった。


 キッカケは思い付き。寝ながら魔法力をどう放出するかということに捉われていたが、逆転の発想、体に魔法力を保持しておくことでうまくいった。


「そろそろかな。私の足元程度にはなっただろうか」

「師匠、実はいっぱいいっぱいだったりしませんか」


 同じ時間を長く共有すれば心の距離はグッと近くなる。軽口も言えるようにまでなった。


「馬鹿いえ、試してみるか」


 セレンの姿が消えた。


「おふぅ」


 セレンの拳が顔面にヒット。大きく吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。


「これで6割くらいだ」

「恐ろしいですね。師匠のような人がゴロゴロいる世界なんて」

「私と対等に戦えるものなどそうはおらん。魔神まで復活していなければな」


 魔神って……それこそラノベやゲームの世界じゃないか。実力なんてモブから名無しのセリフのある兵士Aにランクアップした程度だぞ。


「師匠ならどんな相手が来ても楽勝ですよ!」

「前にも言ったが魔物が復活した。魔人魔物化した人間魔神闇落ちした神なんかもいるかもしれん。…………魔人ならなんとかなるかもしれんが魔神はどうかな」


 考え込むセレン、続けて口を開く。


「この世界に4人の神子がいることは知っているだろう」

「はい」

「リリス、ウタハ、ユニ、アカリの4人だ。この4人なら魔神を倒せるだろう」

リリス長老が……『戦わずの誓い』があるって」


 セレンは剣を鞘に収め椅子に座った。追うように対面に腰かける。


「ウタハは異世界教に神子の座を奪われてしまったがな」

「異世界教って、この世界に発展をもたらした都市じゃないんですか」

「同じなんだよ……」

「同じ?」


 思わず身を乗り出して聞き直してしまう。


「異世界教がユランダ・メシアの街を開いたのと魔物が現れるようになった時期がな」


 魔物が復活して魔人や魔神まで復活ってラノベで読むだけなら胸熱むねあつな展開なんだけど。


「じゃあ、魔物の復活は異世界教が元凶なんですか?」

「偶然かもしれんし違うかもしれん。その辺りをサクヤに調査して欲しいと思っている」

「ええ、僕が? 無理ですよそんな……」


 思わず身を引いてしまった。考えなしの行動に椅子が大きく傾いて後ろにひっくりかえった。


「サクヤは異世界教の人間だろう。しかも幹部クラスのな。今までの言動を見る限り異世界教にとって都合が悪い部分は記憶がいじられているようだな」

「僕が異世界教の人間? ……記憶がいじられている?」

 

 信じられない。一体なんで記憶がいじられているんだ……異世界教? そういえばこの世界に飛ばされる前に朧気おぼろげながら聞いたことがある気もする……。


「ウタハに聞いたことがあってな、新興国サクヤと同じ名前を口走るサクラという人間が迷い込んだという話をな。そのサクヤという人間はユランダ・メシアでは異世界への伝道師様と呼ばれていたそうだ」


 一体何がどうなってるんだ。そんなはずがない……ユピアを襲ったという異世界教に関わってる? 


「異世界教の……要職……」


 座り込んで頭を抱えてしまう。


「それを自分で確かめろと言う事だ。お前にとっても私にとっても悪い話しではなかろう」


 確かにそうだ。このまま迷っていてもらちがあかない。出来ることはやってみよう。

「あっ……ミヅキも……彼女も記憶を失っていた……僕と同じなのか」


「ああ、ウタハの聖人か。ジンでリリスと一緒にいたときは驚いたぞ。ウタハが失脚したことを考えると彼女もまた異世界教に何かをされたのかもしれないな」


「一体僕の過去に何があったんだ……分からない。いくら考えても分からない」


 頭を振っても首を振っても何も出てこない。


「仕方がない。そんなに気になるならお前の記憶を見せてやろう」

「ホントですか!?」

「見ない方が良かったと思うかもしれん。それでも何らかの助けになるかもしれん」


 異世界教との関係……一体どんな……。あたまの中にふと幼馴染たちの顔が浮かんだ。


「結衣、光輝、雫……そしてもう一人……」


 モヤモヤして出てこないがもう一人重要な人物がいたような気がする。


「ただしだ、私には神子程の力はないからな。せいぜい夢うつつ程度だ。過去の記憶から戻った時、夢のように忘れてしまうだろう。ひとつでも覚えて帰ってこい……それが良いことか悪いことかは──」

「──大丈夫です。ここまで来たら知りたい。一体僕に何があったのか……ひとつでも多くの引き出しを持って帰って来ます!!」


 過去を知りたい! 記憶を探ることを決意した。



──1章 異世界転移!? 完

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