第11話 常識を超えた訓練

「まずは精神武器を出してもらおう」


 なんという無茶振り、武器を出せないことを知っているかのような仕打ち。


 それなら……。


 精神武器として取り出したハルの針、それを剣へと変化させた。

 とりあえずはこれでごまかそう。


「出しました」

「やっぱりか……」


 セレンは刃を手刀で叩き割る。乾いたパリンという音とともに真っ二つに折れてしまった。


「あぁ……」


 落ちた刃に目を落とす。


「それは精神武器ではないな。まったく心と繋がっていない」


 セレンは青く美しい鉱石を取り出した。


「もう一度剣を出してこれを切ってみろ」


 鉱石をテーブルに置いた。


「剣は折れちゃいましたが……」

「何本でも作れるんだろう」


 半分に折れた剣を地面に置くと新しい剣を作った。いつも通りハナの針を剣へと変化させる。


「やっぱりそうか……それでこの鉱石を斬ってみるんだ」

 

 この流れは青く光る伝説の鉱石を一刀両断するパターンか。

 大きく振りかぶって鉱石に斬りつけた。持てる全ての力を使って。


 抜けるような金属の音。火花を散らし耳に衝撃を運んだ。

 根元から折れた刃は折れたことに気づいていない。時間にして1秒未満、滑るように地面に落ちた。

 

「かったーい」


 遅れてきた振動が両手に伝わり痺れを巻き起こす。

 手首を強く握りしめ痺れる手を抑え込むと幾分が痺れが和いだ。


「これはミスリルだ。この鉱石に触れて丸くなるようにイメージしてみなさい」


 痺れる手を抑えミスリルに触れる。

 不思議な感覚……余計な考えを振り払い『丸くなれー』と強く念じた。


 ミスリルは反応したかのように波打った。いびつながらも球体へと変化していく……球体には遠く及ばないが原型とは違う形に変形した。


「これなんの手品ですか?」

「世界のことわりとは違う能力を持っているようだ。手にした素材の形を変える能力スキルだな」

「え、なんの冗談ですか……」 


 いやいやいや、思ったとおりに形を変えられるなんて……昔読んだことあるラノベみたいな能力だ。


「君が取り出した精神武器が証拠だ。さっき触れたミスリルの感触を思い出して剣を作ってみなさい」


 胸の前で宙空を握る。手の中に感じるハルの針、言われた通りミスリルをイメージした剣を作り出した。

 形状は同じだが刃が青く光っている。セレンは折れた刃を拾い上げると「これを切って見ろ」と前に突き出した。


「やってみます!」


 力いっぱい剣を振り下ろした。

 刃に触れた瞬間に軽い抵抗を感じたが、ミスリルの刃が鉄の刃を真っ二つにした。


「え、ええー」


 叫んだ。叫び声を際立たせるように落ちた刃の響音がBGMとなって響いた。


「君は、接触した素材をデータとして溜め置く能力があるようだ。そのデータを使えばどんな素材にも変形できる。その能力をベースにした万能素材が君の精神武器と言うわけだ」


「ハナの針が……」


 胸の前で手を握ると収まる小さな針。


「しかもその精神武器は、質量までも無視する恐ろしいもののようだ」


 セレンは色々と教えてくれた。

──

 素材の特性を理解すれば別の素材に特製だけを付与することが出来るかもしれないとか、複数の素材を何らかの形で組み合わせることもできそうだとか……。

──


 難しすぎて理解できない。


「そうだ、フリックバレットはどう思いますか?」


 思い切って聞いてみた。何の能力がベースとなって何でギラが見えないのかはセレンにも分からなかった。


「あまり目立つことはするな。特殊な能力があっても実力が伴わなければ出る杭として打たれるだけだ。素材を学び自分の力を高めることだな」

「分かりました。出来る限り僕の能力は隠すようにします」

「それでは、君の剣術訓練を始めよう……そうだな、あまり時間も(つぶやくように→)かけられんし荒っぽいがダメだったらそれまでか……」


 あのー、しっかりとヤバそうな言葉が聞こえてますけど……。

 心の叫びが届くはずもなく、セレンは左手に灰黒色かいこくしょくの靄を作り出すと地面に叩きつけた。


 広がる灰黒色の靄。ん? 昔同じようなものを見たような気がする。思い浮かぶのは光輝と結衣、そして黒塗りの女性。

 周囲は黒く塗り潰されセレンの美しい髪や鎧までもがモノクロとなった。


「よし、それでは稽古をする前に魔法力を体に纏いなさい」

「魔法力を纏う? ですか」

「そうだ、チキュウジンの話しによると気を出して体を纏うようにすると言っていたぞ」


 ──え、チキュウ人。


「セレンさんはチキュウのことを知っているんですか? もし知っていたら教えて下さい。


 セレンはフゥーと大きく息を吐きだすと、呆れたように口を開いた。


「そんなことよりこの空間は時間が進まない。代償として15分も閉じ込められると完全に石化するペナルティーがある」


 石? 石化? 石ってストーン? そういえば前に夫婦で石になったゲームをプレイした記憶があったな……混乱しすぎて関係ないアホなことばかりが頭の中を駆け巡ってしまう。


「ほらほら早く魔法力を纏わないと石になるぞ」


 マジですか……なんだか急に体が重くなったような……


「動きにくそうにしてるがまだ何も変わってないからな」


 思いこみって怖い。

 今は言われた通りにやるしかない。


 男子は某アニメに影響されて『気を集めてエネルギー波を撃つぞ!』と主人公を真似るアレ。気を集めていると次第にもやもやしたものを皮膚に感じ、子供心にこれが大きくなればいつかはエネルギー波が撃てるようになるものだと信じていた。


「いいかサクヤ、私のことは師匠と呼べ」


 厳しい口調のセレン。


「この結界の中では魔法力を纏う意識を持ち続けるんだ。どんなに薄くてもいい、ほんの少しの魔法力で石化を阻害できるからな」


「ちょっとどういう……」

「問答無用」 ──一気に飛びかかってくるセレン。眉間に刃が吸い寄せられチクリとする。


「うわぁ」


 薄皮1枚で刃が止まった。あまりのスピードに反応すら出来ない。

 目だけは良いって言われたのに反応すらできないなんて……セレンさんの強さが段違いなのかそれとも……弱すぎるのか……いや、両方なのだろう。


 調子に乗っていたんだろう。ウルフレッドを倒し、偶然とは言え魔獣と呼ばれる生き物まで倒した。


「まだ半分の力も出していないぞ。もう少し落としてやるからしっかり受けるんだ」


 セレンの攻撃、今度は辛うじて見える……ミスリルの剣で彼女の刃を受けていく。


「よし!」

「ほらほら、自信をつけるのは良いが首辺りが石化してきてるぞ」

「うわぁ」


 慌てて後ずさり首に手が伸びる。

 そこにあるのは薄皮のような石の感触。恐怖から一心不乱に剥がそうとするが、瘡蓋かさぶたを剥がしたような激痛を感じるだけ。


「ほら、魔法力を当てないとどんどん広がっていくぞ」


 慌てて首元に魔法力を当てた。見る見るうちに石化が解ける。

 複数のことを同時にやるなんて難しいにも程がある。心が折れてしまいそう。


 セレンは泣き言なんて一切聞かずただひたすら厳しい訓練を課すのであった。


 


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