第9話 手のひら返し

 4人パーティーとなって冒険すると思っていたのに……お役御免か。

 あれ? 昔にもパーティーに入れてもらえなかったことがあったような……凄まじいデジャブだ。


「ライン、そんなこと言うでない」


 やっぱりユピアは残った方が良いと思ってくれるのか。


「せめてシャンプまでは一緒で良かろう。方向は一緒なんだからな」


 持ち上げて落とすタイプ……やっぱりパーティーには入れてもらえないのね。


 小さな町なので宿も少ない。とれた部屋が二人部屋が2つだけ。

 当然だがユピアが一部屋使い、ラインとセッカと3人で一部屋使うことになった。


「俺達がお金ギラを出してやるからお前は床な」とラインに言われ敷布団もなく床に寝るはめに。ギラならたくさん持っているのに……とモヤモヤしていたが言い出せなかった。


 短い間だったけがユピアとの思い出がリフレイン、硬い寝床も相まってまったく眠れない。


「しょうがない、少しぶらぶらするか」


 家々から漏れている光だけで照らされる道はとても暗い。

 こぼれ落ちそうな満天の星空に心が弾む。星座を見つけてみるが知っている星座はひとつもなかった。

 広場のベンチで「あれはミヅキ座かな……こっちはユピア座みたいだ」なんて空想していた。

 

「ちょっと邪魔させてもらいますよ」

「セッカ……さん?」


 月光を背に立つ彼のオーラが凄まじい。


「あれ、寝てませんでした?」

「ユピア様の護衛ですからね、人の気配は分かりますよ」


 隣にどすんと座った。ずんぐりむっくりだと思っていたが近くで見ると全て筋肉、すごすぎる。


「セッカさんが来てしまったら護衛は大丈夫なんですか?」

「トイレに行くと言ってラインを起こしてきたので大丈夫です」


 ……と、言うことは部屋から出たのをセッカさんは気づいたがラインさんは気づかなかったってことだよな。


 セッカは両肘を両膝に乗せると夜空を見上げた。


現在いまは普通に話した方が信じてもらえるかな……私はラインの部下と言うことになっているが、本当は私の方が実力も身分も上なんだ。緊急時に都合よくて内緒にしているんだ」

「そうだったんですね。いろいろとあるんですねー……って身分があるって言うことは貴族とかそんなんですか?」

「ユピア様はこのバスリングの南東に位置するサクヤ王国の第3王女、れっきとしたお姫様なんだ」


 ユピアが姫か……その予想はあった。やっぱりかと言った感想しか出てこない。

 それにあのツンデレ口調は誰にでもできることじゃあないもんなー。


 それよりも同じ名前の国か……因縁みたいなものを感じるが、いくらラノベ脳をもってしても、単なる偶然にしか思えなかった。



■ ■ ■ ■


 翌日、ラインとセッカを加え北にあるシャンプに向かった。今までユピアとの楽しい旅路が噓のような孤独。

 ラインはユピアを退屈させないように一生懸命に話しかけ、セッカは時折ユピアを気遣う言葉をかけるが基本無口。周囲に気を巡らせていた。


 路を歩けば獣に襲われない。何事もなくシャンプの街並みが見えるところまで到着した時だった。


 別れの寂しさが実感となって襲ってくる。


「はぁー」


 大きな溜め息が漏れた。

 空を見上げるとセッカの昨晩の言葉が思い返された。


○。○。○。○。

「ユピア様は、君に何か感じるものがあったんだろう。あの人嫌いな姫が懐いた位だ」

人嫌い? 懐いた?(乾いた笑いを浮かべながら→) イジられてただけのような気もしますけど」

「そんな事はない。あの姫のことだ、ポロッと秘密を漏らしたんじゃないか。直感でも信用に値する人間には口が軽くなってしまう……聞かなかったことにしてやってくれ」

 

 異次元収納の話し……か?。


「なんで僕にこんな話しを?」

「さぁな。この先、君とまた人生が交わう時が来る気がしてな……敵としてか味方としてかは分からんが」

○。○。○。○。


 ユピアとラインはこの事実を知っているのだろうか。いろいろと考えてしまう。


「サクヤー、ここまでだね。私の目的が達成したらまた一緒にご飯でも食べるのだ」


 手を振るユピアの笑顔が眩しい。遠くではサムズアップするセッカの姿が見えた。ラインを先頭に街の奥へと消えていった。



「さーて、手紙をギルドに持っていくかなぁ」


 ジンも広かったがそれ以上に栄えた街並み。都会っぽさのせいか異世界感が強い。並ぶ店舗、屋台、どこを切り取ってもラノベでイメージした風景、アニメで見たような景色。


 ギルドに向って歩いていると寂しさなんか吹き飛んだ。漂ってくる良い匂いに心を惹かれ、楽しそうな大道芸に心を惹かれ、素晴らしい武具が並んだ陳列に心が惹かれる。


「すっごい楽しい!」


 何でも買えるという心の余裕、RPGで新しい街に到着した何倍も気分がいい。


 欲望に引っ張られ蛇行しながらギルドのある中央広場に向かった。到着した時には既に太陽が傾いていた。


 ギルドはかなりの広さで多くの人が掲示板を眺めている。

 複数人で指差して意見を出し合っているのはパーティーだろうか。

 ひとり考えながらメモをしたり荷物を見ながら依頼用紙を見ているのはソロ専かかもしれない。


 そういえばミヅキと一緒に依頼をこなしたんだよなぁ。

 頭に浮かんだのは怪我をしたミヅキと街を出るように言われた長老の言葉。


 カウンターに3人いる受付嬢が忙しそうに仕事を回していた。

 周囲の雑談に耳を傾けながら順番を待っていると左のせかせかした女性から呼ばれた。


「次の方どうぞ―」


 長老から受け取った手紙を見せようとバッグに手をつっこむと、矢継ぎ早に「依頼達成の報酬をお渡ししますのでギルドカードをご提出下さい」とせかされる。

 彼女はにこやかに顔を向けるとカードを早く出せと言わんばかりに手を上下させた。

 身分証代わりがな? とりあえず出しておくか……ギルドカードを手渡すと、彼女はサッと受け取って何かの機械にかざして首を傾げた。


「あのー、何も依頼を受けていないようですが?」

「ええ、依頼の報告に来たわけじゃないので」


 怪訝と不安が入り混じった表情で「なんの御用ですか?」と面倒くさそうな声。


「シャンプのギルドにこの手紙を渡すように言われて来ました」


 手紙を受けとった彼女は舐めるように宛先を探すが何も書かれていない。


忙しいので(厳しい声で→)いたずらは止めてもらえませんか」


 受付の叫びに周囲の視線を一気に浴びる。騒がしかったギルドが静まり返った。


「マリアナくん、ちょっと待ちたまえ」


 音を取り戻したのはマリアナの後ろで仕事をしていた中年の男性。慌てて彼女から手紙を取り上げた。


「こ、これは……。ちゃんと見定めないとダメじゃないか」


 畏怖とも恐怖ともとれる感情をマリアナにぶつけた。釈然としないマリアナは手紙を受け取ると何かに感づいたように手紙に目を向けた。


「あぁ、これは神子様の紋……」


 マリアナは慌てて立ち上がると大きく頭を下げた。


「大変失礼しました。こここ今回のご無礼に関してはご容赦くだ……ください……どうか、かっ家族、家族だけは……」


 事情を知らない周囲の目線が痛かった。

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