第8話 お役御免
赤い液体の入った瓶を見たカノンが驚いた。
「あなたは一体何者ですか、このポーションはギラで何とかなるような代物ではないんですよ」
「ちょっとサクヤ、それはどうやって手に入れたのだ。これは──」
「もらいものだから気にしないで下さい。ラックさんも辛そうだし早く使ってあげて」
苦痛を訴えるラックに「これを使って下さい」と手渡した。
「い、いやしかし対価が……それに姫様が癒してくれているのに……」
「対価なんかいりません」
蓋を開けて無理やり左手に持たせた。
チラリとかのんに目線を向けるラック、黙って頷く。
「ありがとう。使わせてもらうよ」
一気に喉に流し込むラックを見ていると一抹の不安を覚えた。
反応から凄い薬だということは分かる、でも考えてみれば赤い液体ですよ、それに飲んだだけで回復どころか骨折まで治すなんて怖すぎる。
ラックの表情が柔らかくなっていく……「治ったぞー」と右手を振り回して叫んだ。
胸を撫でおろすソウケイ、本当に良かったと感情を表に出すカノン。
「助かったよ、ありがとうな。よーしこれで城に帰れるぞ。姫様、ソウケイさん。予定より大分遅れちまったから飛ばすぞ」
ラックは元気よく立ち上がりフンフン言いながら馬車の準備を始めた。
「サクヤ様、危ないところを助けていただきありがとうございます。今は何もお礼が出来ませんがシャンプに寄った際には必ず城まで来てください」
彼女の手に両手が包まれる。ほんわかした優しい笑顔に目が離せない、五感のすべてに幸せを感じ、気品あるお姫様の一挙一投足に見入ってしまった。
「おいサクヤ、お姫様たちはもう行ってしまったぞ。いつまで顔を赤くしてるんだ」
ユピアの声に現実に引き戻された。
「お前良くあんな回復薬持ってたな。よっぽどの術士じゃないと作れないポーションだぞ」
「反応から凄いポーションってことは分かってたけど……さすがはリリス長老からもらったものだけはあるよ」
風のごとく疾さ。今までの特訓でも見せたことがないスピード。
「リリリリリリス様だとー。
ユピアの表情は推しを見つめる女子そのもの。よっぽど長老に憧れているのだろう。口調もめちゃめちゃだ。
この後も長老の私物をしつこくよこせと言われつつ、首都シャンプに向かって歩き始めたのだった。
■ ■ ■ ■
「サクヤ、フリックバレットを使う時は加減しろよ」
ユピアが思いっ切り撃てって言ったんじゃないか。
モヤモヤを振り払うように1ギラ硬貨を弾いた。
「よっしゃ、100発100中だな」
「ギラの無駄遣いはダメ。お金は大切にしないとバチがあたるぞ」
確かにその通り、残高がおかしなことになっているから金銭感覚が狂ったのかも。
「そうだね。気をつけるよ」
首をかしげるユピア、なにやら指にセットした硬貨と着弾した木を見比べている。
「サクヤ、もう一回ゆっくーりあの木を狙って撃ってみろ」
さっきと言ってることが違うぞ。まあ気が済むなら……力を抑えて1ギラを弾いた。
ギラは音もなく枝に向かい狙い通りにヒット。枝は大きく揺れて葉を落とした。
「やっぱりだ。お前が弾いたギラの軌道が見えん」
当たった枝を指差すユピア。
「どういうこと?」
「おかしいと思ったぞ、残像すら見えんのはありえんからな……弾いてから着弾するまで消えてるんだ」
「僕には普通に見えてるけど」
「まあ、どういう理屈かは解らんから注意しろよ。わらわの異空間収納と同じで見えない物にアンテナをビンビン立てている者がおるからの」
なんか怖い。心の不安が一気に膨らむ。慌ててギラを収納した。
「と、とりあえず早くシャンプに向かおう」
「その前に、シャワで補給をするぞ」
──補給の町シャワ 補給所として多くの冒険者で賑わう小さな町に到着した。
「一泊してからシャンプに向かうぞ」
相変わらずこの世界の夕焼は美しい。何回見ても周囲の風景に彩りを与える夕日に感動を覚える。しかし今は花より団子。
ユピアが強く希望するので一直線に食堂へ向かった。小さな町なせいか食事ができる場所は兼酒場ばかりでとても騒がしかった。
「やっぱりお店で食べるお肉は美味しいぞ。職人ごとにこだわりポイントが…… (うんちく)……」
肉について語りだすユピア、そんな❙
「ユピアは何のためにリュウコウに向かっているの?」
ピタリと食べる手が止まる。
「…………おねーさん、この骨付き肉をもう一つー」
何度聞いてもはぐらかされてしまう。そんな時は決まって無言。
聞かなきゃ良いのだがどうも気になってしまう。
気まずい雰囲気を緩和してくれた店内の雑音がわずらわしく感じ始めた頃……。
「ユピア様、やっと見つけました」
すらっとした男とずんぐりむっくり体型の男がいきなりユピアの両端に座った。
「ライン、セッカ……なんでここが分かったのだ」
「お嬢、いきなり居なくなったらリュウコウに助けを求めに行ったとしか思えんでしょう」
「その通りです、ラインとふたりでホイスを抜け出してきました」
「そんなことしたらお前たち……」
ずいぶん深刻そうな話しをしている。余計なことは言わないように小さくなっていた。
仲良さそうに話すユピアにモヤモヤした何かを感じてコップに何度も手を伸ばす。
「おいサクヤ。こいつらはラインとセッカだ。わらわのボディーガッドだぞ」
高い位置から感じるラインの視線。あきらかにユピアとの状況をよく思っていないのが良く分かる。
「朔弥です。ユピアとは──」
「ユピアだとー、様をつけろ様を!」
興奮したラインはテーブルを強く叩いて立ち上がった。その顔は親の❙
「ラインうるさい、いいんだよそれで……ごめんなサクヤ、ラインは沸点が低いんだ……今度邪魔をしたらクビだぞ、分かったか」
睨みつけるユピア、セッカは「いつものことだ」と小さく呟き黙々と肉を食べた。
「セ・ッ・カ・ー、よくもわらわの肉を食べたなー、それがどういうことか分かっているよなー」
必死に取り返そうとするユピア、「勘弁してくだせい、ここまでまともなものを食べて来なかったんですー」と懇願しているが、巨大な肉がついている骨をがっちりと掴んで離さなかった。
「あ、あの……ユピアさん。そろそろ目的を教えていただいてもよろしいでしょうか」
セッカから肉をもぎとったユピアは満足げに口を開いた。
「内緒だ。事情を話すことはできん」
そうか……ユピアはどこかのお姫様でひとり旅をしていたんだ。そこでひとり目を見つけ、ここでふたりが仲間となる。良くある4人パーティーになるのか!
それなら何のジョブを担えば良いのだろう。これからジョブチェンジとかしたりして……妄想は膨らむ。
「サクヤと言ったな。どうもお嬢は考えなしに行動する癖があってな、容姿のせいもあって絡まれ易いんだ。回避するためにお前を引き入れたんだな」
ユピアは確か14歳って言っていた。確かに中学生くらいの女子が一人歩きしてたら怖い。
「ユピア様はもう大丈夫だ、俺達がキチンとリュウコウまで送り届けるからお前は自分の旅を続けてくれ」
ハンマーで頭を殴られたような衝撃の言葉だった。
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