第7話 偶然か必然か運命か
鉄の剣での素振りを頑張っていた。素材は鉄のようだがなんとかふるうことが出来る。ちょっと気を抜くと直ぐに重さに持ってい空手転んでしまうが。
「ホントに剣は下手だのう。だが目だけは良いのー」
剣を振るだけで笑っちゃうくらいに軸がブレる。振りぬいた刃を切り返すだけで体がフラフラ。気を抜くと勢いを殺しきれずに腰がついてこない。
「うーん、圧倒的に
思わず出てしまうラノベ脳。
「えすてぃー……なんだって? 何を訳分からないことを言っておる。筋力も経験も知識も全部ダメ、肩にも力が入りすぎ。良いのは目だけだ」
何もそこまで言わなくても……ユピアと稽古すると自分の弱さが際立つ。
例えるなら小学生のサッカー。ワーっとみんなが一斉にボールを追いかける幼い攻撃。
「攻撃が単調すぎ。うまいのは避けることだけ」
神に与えられたのは目の良さなのか……素早さに自信があるユピアの攻撃を受けることも避けることも出来ている。
今まで引き立て役として生きてきた。これまでの人生にピッタリの能力かもしれない。勉強でも部活でも遊びにしても……か。特に❙
つまりだ。相手を
おっと危ない。
「本当にサクヤは避けるの
「もう、そんな何回も言わないでよー」
旅の中でユピアの特訓を受け続けた。
いつしかウルフレッドなら
「そうだ!」
ミヅキのピンチを救った『フリックバレット』を併用してはどうだろう。
空いている左手でフリックバレットが使えれば遠距離攻撃の手段になるじゃないか。避けるのが得意だから盾を持つよりイイぞ……なんかカッコいい!!
針を武器化しているうちに強度が増し軽量化されている。
この世界のことを知るほど良いものが生成できている気が……いや、今はそんな事よりも強くなることだけを考えよう。
「サクヤ、さっきから指で何を弾いておる」
「ああ、コレは僕が考えたフリックバレットって技なんだ。ギラを弾いて相手を怯ませたり……前にウルフレッドを倒したことがあったから使えるかなぁっと思って練習してたんだ」
「なぬ、ギラを弾いてウルフレッドを倒しただと、陽動したり投げつける者はおるが獣を倒すなんてありえんだろう」
ユピアは
「あそこにコブのついた木があるだろう。そこに向かってそのなんとかバレットを思いっきり
フリックバレットは硬貨に砂鉄を纏わせ強力な磁場を作り出し指を弾くと同時に磁場を反転させる技。なんでこんなことが出来るのかは分からないが……最大の力を使ってぇ……「弾く!」
ギラがコブを貫通。
「良し!」
「なにが良しだ、早く
「もう
ユピアは引っ張られたように素早くコブに顔を向ける……コブには硬貨と同じサイズの
「ギャー」
遠くから聞こえる潰されたカエルのような太い悲鳴。
「サクヤ、行くぞ!」
もしかしてさっきのフリックバレットが人に当たったんじゃないよな……ウルフレッドを倒したほどの技だ、人にケガさせてたら……いやいやそれどころか……死。悪い妄想しか頭に浮かばない。
距離にして30メートルほど奥に入ったところ。
目にしたのはラノベ系で良く見る貴族の馬車。3頭引きだろうか、2頭は❙
「いてーよー」
太った男が右腕を抑えながら苦痛の声をあげ、正装した初老の男が声を掛け続けていた。さっきの叫び声はこの太った男のものだろう。
「どうしたんだ、大丈夫か!」
ユピアが躊躇なく初老の男に話しかけた。
「はい、馬がいきなり倒れまして……」
倒れている馬はこめかみから体液を流して死んでいた。そこにはギラ硬貨大の孔。
ヤ……ヤバイ! 一気に血の気が引いた。顔が青くなっていく。頭がクラクラする。
「何があった。その馬の姿……普通とは思えぬが」
ユピアが声をあげた。
普通と違う? よく見ると明らかに他の2頭とは違う。額から湾曲した角が伸びて体毛は黒く変色……いや体毛というより装甲みたいだ。
太った男は右腕を抑えながら口を開いた。
「この馬の目が急に赤く光ったんだ。粘土のようにこんな姿に変わってな……森の奥へと走り出したんだ」
「目が光るなんておとぎ話じゃあるまいし」
ユピアの言葉に太った男は声を上げた。
「嘘じゃねぇ、急に暴走したんだ。そしたらこの場所で急に
ブランとしている右手を見せつける。どうやらポッキリと骨が折れてしまっているようだ。
「困りましたねぇ、2頭しかいませんが馬車は牽けそうですか」
「すまねぇ、こんな右手じゃあまともに走らせられん、応援を呼んだほうが早いかもしれねぇ」
「こんな所にいたらどんな獣が襲ってくるか分かりませんからねぇ」
馬車の扉が開き、一人の女性が出てきた。
「姫様、ここはどんな獣が襲ってくるか分かりません。中でお待ちください」
ユピアより少し背が大きいくらいだろうか、ピンク色の可愛らしい服装をした少女。ゆっくりと歩みよって丁寧に頭を下げた。
「シャンプ第2王女の『かのん』と申します。この度は危ないところを助けていただきましてありがとうございます」
いやいや、お姫様ってことはこの馬は王家の馬ってことじゃないか……いや、きっと偶然、偶然……たまたま通りがかっただけ。
「僕たちは偶然に通りがかっただけです、
「お姫様、わたしたちがなんとかします故、早く馬車にお戻り下さい」
「何を言ってますソウケイ、ラックが怪我をしているのに放っておけません」
かのんが
かのんがラックの患部に両手をかざすと、ぼやっとした緑の優しい光がラックの患部を優しく照らす。
天国にでもいるかのような恍惚の表情を浮かべるラック、わずかに
汗をかきはじめるかのん。一生懸命に癒そうとしているが光は弱まりラックの腕は垂れ下がったまま。
「わたくしでは力不足ですわ。あなた方、
ユピアは小さく「異空間収納の中にあるんだよ、ここじゃあ出せない。サクヤは持ってないのか」と耳打ちした。
バックの中に手を突っ込んで『回復薬』を念じるとポーションが吸い付いた。真っ赤な液体が入った瓶。
「これを使って下さい」
赤色の液体に不安を覚えたが長老を信じてポーションを手渡した。
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