第74話 お返し
「響雅くんと普通に一緒に歩いてるのなんか変な感じだなぁ」
「いつも酔っ払ってますからね」
「…帰り道にセクハラじみた事を言ってる気がする。ごめん」
「気にしなくていいっすよ。白永さんから意図的に悪意を持って触られたことすらないんすから」
「そう? それなら良かった…」
ほっと胸を撫で下ろす白永さん。やっぱり白永さんってめちゃくちゃ真面目でいい人に見える。こういう性格だから職場で断りきれずに仕事押し付けられたり、真に受けすぎて落ち込んだりしてるのかな…
「白永さんって真面目っすね」
「そうかな…お酒に酔って高校生に介護されてるのは真面目とは言えない気がするけど」
「その時くらい気抜けばいいじゃないっすか。白永さんの仕事のこととか、一番知ってるの多分僕ですからね」
「…あっ、そっか。私響雅くんにいっつも愚痴聞かせて…うぅ、情けない」
「だから落ち込まないでくださいよ。もう今更僕の前でカッコつける必要ないっすよ」
「うっ、胸に棘が刺さる感覚…一応年上なんだけどなぁ」
「でも仕事頑張ってる話とか聞いて参考になりますし、尊敬はしてますよ」
「響雅くん…また泣けてくる」
「な、泣かないでくださいよ」
「ごめんね…響雅くんがあまりにも優しすぎて」
「と、とりあえずそこの公園のベンチで休みましょう。そんな泣かなくても大丈夫っすよ。白永さんだって優しくて気遣いできて、真面目で立派な方じゃないっすか」
「うぅ…ごめんね…」
酒飲んで酔っ払ってる時は褒めて褒めて頭撫でてー、なのにシラフだと褒められて泣くって。大人って大変なんだな。
一旦公園のベンチに座り、白永さんが落ち着くまで待った。
「落ち着きました?」
「うん、ありがとう…なんで泣いちゃうんだろ。疲れてるのかな」
「大丈夫っすか? 家で一人で泣いてたりしてないっすか」
「だ、大丈夫大丈夫! …最近褒められるとか優しくされてなかったからかな? 心配してくれなくてもいいよ」
白永さんは頬をかきなぎら控えめに笑った。
「響雅くんの前だと油断しちゃってダメだな。いつもは泣かないからね?」
「…」
うぉぉぉ! なんか心配だぁ。実は強がってるだけで家で一人で泣いてたりするんじゃないか? そんなことないか? だとしてもなんでか凄い心配なんですけどぉ!
「どうしたの? 私もう元気になったら大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。私響雅くんに心配されてばっかりだね。もっと頼りになるお姉さんにならないとね、今更だけど!」
「俺は今まで通りの白永さんでいいですよ。そっちの方が慣れてますから」
「あはは、じゃあ次会う時はまたいっぱい褒めて、頭撫でてもらおうかな」
「いいですよ。でも飲みすぎだけは気をつけてくださいよ」
「…そこは気をつける。ちゃんと響雅くん心配させずに帰れるくらいにしておきます」
「ふふ、そうっすね」
「何、笑ってるのー? …」
「白永さんも笑っちゃってるじゃないっすか」
白永さんは立ち上がると伸びをした。
「じゃあそろそろ帰ろっか。響雅くんの帰りが遅くなっちゃったら大変」
「そうですね。帰りましょう」
「付き合わせちゃったし、ジュースでも奢るね。また機会があったらちゃんとお返しするから」
「全然気にしないでくださいよ。こっちは仕事ですから」
「いつも送ってくれてるのは仕事じゃないし、今日だって着いてきてくれたでしょ? 遠慮しないでいいよ。とにかく今日はジュース奢るね」
正直ありがたい。今日はめっちゃ喋ったので喉が渇いている。自販機でジュースを買ってもらうと歩き始めた。
「ありがとうございます」
「こんなんじゃ足りないから絶対もっと良いお返しするね」
「これだけで十分ですよ」
「響雅くんが何を言っても、絶対どこかでお礼するんだから。これからも迷惑かけるわけだし」
「本当に白永さんは真面目っすね」
「これは真面目とかじゃなくて恩返し」
「それはこのジュースで十分っす」
「じゃあ貢ぐ」
完全にホストじゃねーか。
「貢いでも貢がなくても俺は変わらないっすよ。それに店以外で会いたかったら連絡してくれれば行きますよ」
「流石に連絡してまで会おうとはしないよ。響雅くん高校生でしょ? 遊んだり勉強したり、恋したりで忙しいはずだから。邪魔はできない」
「じゃあ、お酒に潰れて歩けなくなったら呼んでください」
「あはは、何それ。そんなことにはならないよ」
「例えばの話ですよ」
なんか心配なんだよなぁ。真面目だし、いつも疲れてる印象だし精神的にやられちゃったりしてそうで怖い。
「本当、響雅くんといると楽しいね。いつの間にか家の前まで来ちゃった」
「帰ってお酒とか飲まないでくださいよ」
「飲まないよー。お風呂入ってすぐ寝る。明日も仕事だからね」
「仕事頑張ってくださいね。俺ももうすぐ期末テストなんで…あっ、期末テストあるんでバイトしばらく居ないかもしれないっす」
「ちょっと残念…でも私のせいで赤点なんて取っちゃったらダメだから大丈夫。私も仕事頑張るから響雅くんもテスト頑張ってね」
「仕事の愚痴全部聞くんで任せてください」
「あはは、やっぱ私かっこ悪いなぁ、年上なのに。じゃあね響雅くん。今日も楽しかった」
白永さんは笑顔で手を振った。
「また話そうね、響雅くん。本当いつもありがと」
「白永さんも仕事頑張ってくださいね」
「うん、お互いがんばろー!」
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