第73話 いつもと違う酔っ払い
「おっすー、恋瑠璃ー」
「あっ、七原さん…」
「んー? なんか疲れてる?」
バイト先に着くと七原さんが先に来ていた。
「ちょっと色々会ったんで」
向かってる時に学校の連中に色々聞かれたからな。誤解は解いたつもりだがどうだろう。どっちにしろ夏休みに入ればみんな忘れるはずだ。
「というか記憶ぼんやりしてるんだけど、私ってきょーがに告白とかされた?」
「してないっすよ…キスされましたけど」
「そこは記憶ある。いや〜、きょーががイケメンすぎて」
「別に怒ったりはしてないっすけど、マジでビビりましたよ…死ぬかと思った」
「まぁ私美人だしね」
自己肯定感が高くて結構。思い出すとやばいな…
「まーた顔赤くしちゃって。私だって結構恥ずかしかったんだからなー」
「じゃあなんでしたんすか」
「その場のノリと勢い」
「酒って怖いっすね」
「外見だけじゃなくて中身まで良くなったら付き合って貰うからねぇ」
煽ってんのかガチなのかわからん…
でもキスまでされてんだよな。意外と告ったら行ける? でも今誰かと付き合ってるとかなったら本当にクズ扱いされちまう。今は慎重な行動を…
「そんなぼーっとしてるとまた唇奪っちゃうよ?」
「…っ!」
「なーんてねー。早く着替えなよー」
七原さんは俺の唇を指で撫でると出ていった。心臓がいくつあっても足りない…
いつも通り仕事が始まり、やっぱりあの人が来た。
「響雅くん…」
「お疲れ様です白永さん、いつものでいいすか?」
「ううん、今はいいや」
何!? あの白永さんが飲まない!? 何かあったのか?
白永さんはいつもの席に座った。周りのお客さんや店員側も心配そうだ。
「前、飲みすぎて響雅くんに迷惑かけちゃったから…ごめんね」
「なーんだそんなことっすか。全然気にしてないんでいいっすよ」
「そんなことって。私結構反省しててあの日からお酒のでないんだから」
「マジすか?」
「ほんとだ。白永さん、きょーちゃんいない時に一回店に来たんだがきょーちゃんが次いつ来るか聞いて、飯だけ食って帰ったんだぜ?」
そんなに重く考えてたなんて…もしかして白永さんって真面目な方!?
「連絡先持ってるけどちゃんと、直接謝りたくて…本当にごめんね」
「だからいいっすよ。俺白永さんに不快感を覚えたことなんてないんで」
全くないかと言われれば酔っ払っだし(?)もちろん違うが、ほぼないも同然だ。
「…よく考えたらいつも、疲れとお酒のせいで、褒めて〜とか頭撫でて〜とか、高校生相手にみっともない所を…」
小さな声でそういうと顔を赤くした。何を今更って感じだ。
「それだけ俺を信頼して、頼ってくれるって思ったら全然いいっすよ」
「うぅ…なんか泣けてきた」
「泣かないでくださいよ」
「そんなこと言われても嬉しくて…」
「そうだなぁ、なんか俺も泣けてきたぜぇ」
「風花ちゃん、白永さんにねぎま出してやってくれ。俺からの奢りだ」
なんかテーブルのおっさん達まで泣いてるよ。歳食うと涙脆くなるって本当なんだな。
「おじさん達もありがとー、私なんかを励ましてくれて」
「何言ってんだ。白永さんがいるとこっちも楽しいんだ」
「はいねぎま。あとはお酒いる?」
七原さんがねぎまを持ってきてくれた。
「風花ちゃんもありがと。大丈夫。今日は水かジュースにする。お酒なしで響雅くんと話してみたいから…でも次からは飲む」
「はーい。だってさ、恋瑠璃」
白永さんは俺の方を向くと、涙のあとが残った顔で笑った。
「なんか心配させちゃってごめんね。なんか私謝ってばっかり、あはは」
いつもと違う白永さん。どうも調子が狂う。
「響雅くんのおかげで私は元気でいられるんだから。ちょっと重いかな?」
「そうですね。僕が高校卒業か、もし大学行ってこのバイト続けるなら大学卒業した後、辞めにくくなっちゃいますよ」
「じゃあいさぎく辞められるように、私も響雅くんがいなくても元気でいられるようにするね。私は気にするけど、響雅くんが私を気にする必要なんてないんだから」
「その言い方はなんかずるいっすよ。頼られてるなら応えたくなるのが俺なんすから」
「ダメダメ。私の相手なんて仕事中だけでいいの…仕事終わりも送って貰ってるけど」
そんなホストみたいな感じでいいのか?
「いつも私の話聞いてもらってばっかりだから、話してくれるなら響雅くんの事とか聞いてみたいな」
「別に面白くないっすよ」
「面白くなくてもいいよ。趣味とか昨日食べたご飯の話とかでもいいからさ」
「…趣味はゲームとか、ですかね」
「ゲームかぁ。わたしも昔やってたな。仕事始めてからは完全にやめちゃったけど。どんなのやってるの?」
「スマホでやったりネットでやったり」
結局酒は飲まずに飯だけでずっと話していた。
こんなことを言うのはなんだが、今まで話した誰よりも話していて楽しかった気がする。よく笑ってくれて、話をちゃんと聞いてちゃんと答えてくれる。話題の振り方や繋げ方も上手くてお互いずっと話していられた。
「もうこんな時間。私はお酒が好きって言うより響雅くんといるのが好きなのかもね。もちろん、お酒も好きだけどね、あはは」
「ってことはここにこればお酒も飲めて僕とも話せて、最高じゃないっすか」
「そうだよ。だからここが好きなの…じゃあそろそろ帰ろうかな。今日もありがとね響雅くん」
丁度俺も終わる時間だ。時間ちょうどに帰るってことは今日は白永さん酔ってないから送っていかなくていいって事だろう…
「ありゃ、白永さん今日はきょーちゃんと帰らないのか?」
「今日は飲んでないから心配ないでしょ?…今更って感じだけど、あんまり迷惑かけられないし」
なんかそれはそれで寂しい…気がする。
「あっ、あと今日はお釣りいりません。いつもちょっと安くしてくれてるの知ってるんですから」
「お得意さんにはちょっと安くしてんだよ。そこのおっさん達もな」
「そうだったのか!? 知らなかった」
「…気づいてねぇみたいだけど」
「それでも払います。じゃあ響雅くんの指名料(?)ってことで」
「だってよきょーちゃん。今月の給料ちょっと増やしてやるよ」
実質白永さんからのお小遣い…ガチで紐になっちまうよ(?)
「えー、恋瑠璃だけずるーい」
「風花ちゃんはおっさん達から貰いな」
「いいぞー。おっさん達がお小遣いやるよ。負けてもらってるみたいだし、風花ちゃんには世話になってる」
「ありがとおっさーん。焼き鳥サービスしちゃう」
「おい、結局店が損するじゃねーか」
「誤差誤差♪」
本当に賑やかな職場だ。
「じゃ、私はこれで。またね、響雅くん」
「…いや、ちょっと待ってて貰っていいですか?」
「どうしたの?」
「俺も一緒に帰ります」
あっ、俺何言ってんだ。白永さん帰るって言ってるのに逆に俺が迷惑かけちまってる…
「いいよ。一緒に帰ろ。あはは、嬉しいな」
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