第69話 苦しゅうない

「ただいま。薬買ってきたよ。あと冷やすやつ」

「あざす〜」

「鍵空いてたけど誰か来たの? 楓ちゃん?」

「よくわかったな。そうだよ」

「やっぱり」


薬を飲んで、冷やすやつを貼って再び横になると、スマホを手に取った。お大事に。大丈夫? などの返信が来ている。


「着替えなくていい?」

「大丈夫」

「お姉ちゃんが寝るまで横にいた方がいい?」

「そこまでガキじゃねぇよ…言うても熱あるだけでそんなにキツくない。話す元気くらいあるよ。今からでも大学行っても俺は全然大丈夫」

「きょーがは変なところで見栄張ったり、傷つけないための優しい嘘みたいなの言うの知ってるから信じません。お姉ちゃんはどんな時でもかわいいかわいい弟の味方なのです(?)」

「別に見栄でも嘘でもない…寝てりゃ治ると思うし、姉ちゃんは自分のことやってくれ。課題とか」

「なんかあったらすぐ呼んでよ。水欲しいとかお腹空いたとかその程度のことでもいいから」

「わかった」


姉ちゃんは俺の額を触った後、頭をなでて部屋から出ていった。過保護な姉ちゃんだ。俺は幸せものだ(?)。

メッセージを返したところで、とりあえず眠くないがスマホを置いて目を閉じた。


「………」


あっ、そういえば朝からトイレ行ってねぇな。行こ。

ベッドから出て、一階のトイレへ向おうと部屋の扉を開けると、隣の部屋にいた姉ちゃんも部屋から出てきた。


「どうしたの? なんか飲みたくなった?」

「普通にトイレだ」

「ズボンとパンツちゃんと脱げる?」

「さすがに脱げるわ」


過保護すぎるだろ。



………………



いつの間にか眠っていたようでスマホで時間を確認すると夕方前になっていた。寝すぎだ。ついでに返信が来てなかった友達のメッセージとソシャゲのスタミナ回復の通知が来ている。

熱はまだありそうだが、マシになった気がする。起きた時よりさらに汗をかいていて少し気持ち悪い。効力の切れた冷やすやつを外し、体がダルいのは変わりないので、何となくスマホをポチポチしていると姉ちゃんが部屋に入ってきた。


「やっと起きた。調子よくなった?」

「まあまあ」

「なんか食べる? お腹ちょっとは空いたでしょ?」

「じゃあ食いたい」

「りんごかおかゆか、カップ麺とか家にあるものか。何にする? 持ってきてあげる」

「ならりんごか家にあるもで。姉ちゃんに手間かけさせるのも申し訳ない」

「なんて良い弟…元気だったら抱きしめてる(?)」


もし親がいなくなっても姉ちゃん、俺を養ってくれそうだ。このままだとヒモになっちまう(?)

姉ちゃんが部屋から出たところで、インターホンがなった。多分楓だろう。


「きょーが、楓ちゃん来たよ」

「多分プリントとか届けに来てくれたんだと思う」

「はいはーい」


朝と同じようにいつも通りの楓が部屋に入ってきた。


「治った?」

「良くはなった。ずっと寝てたからよ」

「そ、明日までには治してよね」

「この調子なら治るだろ」


いつも通り話してくれてるが、心配してくれてるみたいだ。


「入るよ?」

「どうした姉ちゃん」

「お茶持ってきた」


お盆の上にお茶とコップが2つ、うさぎのようにカットされたりんご乗っている。


「あざす」

「一人で食べれる? 食べれなかったら楓ちゃんに食べさせて貰ってね。あっ、良かったら楓ちゃんも食べていいよ」

「さすがに1人で食える」

「ありがとー、紗倉ちゃん」

「じゃ、ごゆっくりー」


机にお盆を置くと部屋から出ていった。


「残念。シスコンのきょーがくん、私がいなかったら紗倉ちゃんに食べさせて貰えたのに私のせいでなくなっちゃった」

「別に頼まねぇよ。一口目とかは姉ちゃんが食わせてきそうだけど…」

「紗倉ちゃん優しくて、あんたに甘いもんね」

紗倉姉ちゃんが姉ちゃんで良かったぜ」

「はいはい、良かったねー(棒)…それよりこれ食べないの?」

「食うよ。姉ちゃんが切ってくれたかわいいうさぎさんりんごだからな(?)」


机の上にあるりんごを取ろうとベッドから出ようとすると、出る前に楓が皿を持ってきてくれた。


「ベラベラ喋って元気そうだけど、一応病人なんだから」

「優しいな。お前が幼なじみでよかった(?)」

「そりゃどうも。そんなのいいから、早く食べる」


と、フォークに刺したりんごを俺に向ける楓。


「はい、あーん」

「食わせるんかい。ってか一切れ意外とデカいからあーんするのにむいてねぇぞ」

「じゃあ……っん」


楓は自分で半分くらい食べたりんごをまた俺のほうに向けた。


「はい」

「あー、ん……うん、りんご」

「まぁりんごだしね。まだ食べるでしょ?」


そう言ってまた一口かじったりんごを出した。


「別にそこまでしてくれなくても俺食えるぞ?」

「でもこっちのが楽でしょ? 私も楽しいし」

「何が楽しいんだよ。動物園気分か?」

「んー、餌付け」

「そんな事しなくても俺はそれなりにお前に懐いてるぞ(?)」

「なーにいってん、のっ」


推定6割くらいの力の微妙に痛いが優しさを感じるデコピンをしてきた。


「って…病人にデコピンすんな。痛くするな、優しく撫でろ(?)」

「はいはい、わかった」


と言って本当に頭を撫で始める楓。俺が病人だからかなんでも言うことを聞いてくれそうだ。


「苦しゅうない」

「あんた思ったより元気でしょ?……ってか、りんご食べに来たんじゃなくてプリントとか届けに来たんだった。ついでにあんたの友達からお菓子届けるよう頼まれてたんだった」


バッグからプリントと小袋に入ったお菓子を取り出した。お菓子は柊一が作ってくれたやつだ。


「あざす」

「じゃあ私そろそろ帰るから」

「色々ありがとなー」

「はいはい。明日までにはちゃんと治しなさいよー」


楓は軽く手を振って部屋を後にした。


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