第49話 こぴょ

「ただいま」


帰る頃には11時前。

白永さん、楓を家に送り届けたらので、いつもより遅い時間になってしまった。


「遅い、心配した、おかえり!」


誰よりも先に歩美が勢いよく出てきた。それも分かりやすく単語で伝えたいことを伝えてくれた。


「すまんすまん、バイト帰りに酔っぱらいの面倒を見たり楓に会ったりしてな…」

「なんでもいいけど遅い。ちゃんとおにいの顔見てからじゃないと寝れない(?)」

「それは大袈裟だろ…でもすまん。連絡とかしとけば良かったな」

「ほんとだよ。おねえ、ソファで寝ちゃったもん」


リビングに行くと姉ちゃんがソファで眠っていた。風呂上がりっぽく、ぽかぽかしている。


「歩美も寝なくていいのか?」

「おにいが遅かったからねない。おにいが寝るまでの一緒に話す」

「風呂入りたいんだけど」

「…そ、その時はおねえの所いる。でも、ご飯の時は一緒にいる」


…今日は美冬ちゃんの通話もあるし、歩美もわがままモードになっちゃってるから一瞬で風呂出よう。

ということで、10分弱で風呂をあがった。


「ふぅ…短い湯だったぜ」

「あっ、はやいね。私ご飯あっためとくね」

「ありがとう、じゃあおにいちゃんは髪乾かしてる」


いつもより雑めに髪を乾かし、リビングへ戻ると温められた夕飯がテーブルに並んでいる。


「きょーがおかえり…」

「ただいま姉ちゃん」


寝起きでボケボケしてる姉ちゃんが抱きついてきた。


「もうちょっと早く帰ってきなよ。あゆみが心配してた。お風呂上がりはあったかい(?)」

「気をつけるよ」

「おやすみー」

「おやすみ…」


そして流れるように2階へ消えていった。さすが姉ちゃんだ(?)。


「…おにい、私もおやすみのハグとしてもらうからね」


と、横から歩美が声をかけてきた。


「はいはい、分かったよ」


飯を食べながら、話しかけてくる歩美。内容は学校のこととか、今日遅くなった経緯とかである。


「そのバイト先の女の先輩と二人で誕生日会やるの?」

「多分」

「…絶対その人おにいのこと狙ってるよ。気をつけて(?)」

「お、おう…」

「おにいはかっこよくて優しいから、女の子と二人きりになったらみんなおにいのこと好きになっちゃうの…でも、1番おにいのこと好きなのは私だからね。家族でいもうとだから」


恋人にはしない的なこと言われたし大丈夫だろ。七原さんとはバイトだけの付き合いとはいえ、白永さんのせい(おかげ)で俺のことは性格含めかなり知られている。

今更俺の新しい一面を知って好きになりました。なんてないだろ。


「ご馳走様」

「片付け手伝う。終わったらハグして、おやすみね」


机の上を綺麗にすると、歩美は俺の前に立った。


「えへへ、おやすみ♪」

「おやすみ、歩美」

「お〜や〜す〜み〜♪」


少しして顔を話すと歩美はホクホクした顔で去っていった。かわいい。

少しして部屋に戻り、スマホが鳴ったと思ったら0時になった瞬間、美冬ちゃんから連絡が来た。

いつでもいいと来たので、寝る準備をして速攻で電話をかけると1コール目で出た。


『こんばんわ、お疲れ様です…先輩』


控えめで小さな、聞いていて眠れそうな落ち着いた囁き声だ。


「遅くなってごめんな」

『ぜ、全然大丈夫…先輩の声、聞けるだけで嬉しい。あんまり大きい声で喋れないから聞きにくいかもしれない』

「ちゃんと聞こえてるから大丈夫だ。俺の声は聞こえる?」

『聞こえる。イヤホンつけてるけど、先輩が近くにいるみたいで嬉しい…』


ちなみに俺はスピーカーだ。

美冬ちゃんの方からはゴソゴソと音がするので、ベッドの上だろう。


「確かに、目を閉じて妄想全開でいけば目の前にいるようなもんだな………うん」


言い切った後に気づいた。結構気持ち悪い事言ってる…やべぇ、引かれたかな…


『…目の前に、先輩。そ、それだと緊張しちゃうから、その妄想はやめる…寝れなくなる』

「よく考えたら添い寝だしな………っぁ…」


またいらん事言ってもぉたぁ!

やっぱ疲れて思考停止してるわ。いらんこと話すな俺。


『…そ、それも寝れなくなる』

「なんかすまん…夜だからか思考停止してる」

『それなら通話切って、早く寝て。私と話さなくてもいい』

「いや、美冬ちゃんの声、落ち着いてて聞きやすいから、通話してる方が逆に寝やすいまである。すぐ寝落ちしちゃうだろうけど」


赤ちゃんの時、母親の声を聞いて安心する現象(?)に似ている気がする。聞いてて眠くなるような優しい声だ。


『わかった…私の声で先輩を眠らせてあげれるなら、このままにする。でも、眠たくなったらすぐ寝て。通話、切っとく』

「ありがと。ちなみにもう既にちょっと眠い」

『じゃあもっと眠くなるように、私が眠くなること言う…なんて言えばいい?』

「じゃあ、早口言葉でも言ってみるか(思考停止)。かえるぴょこぴょこぬこぴょこぴょ……ぬ?」

『ふふ、最後こぴょになってた。こぴょこぴょになっちゃう』


美冬ちゃんが小さく笑った。かわいい。


『次私がやる……かえるこぴょ…かえるぴょここぴょ…かえるぴょこ、ぴょこみこぴょ……先輩のせいでこぴょになっちゃう…』

「面白いし、かわいいかよ」


頑張ってこぴょこぴょ間違えて言ってんの想像するとかわいいな。


『…か、かわいい? …………あ、あり、がとう』

「かわいいから、ぴょこじゃなくてこぴょで全部言ってみて(思考停止)」

『う、うん…かえるこぴょこぴょみこぴょこぴょあわせてこぴょぴょっ…』

「あわせてこぴょぴょ?」

『こぴょぴょになった…早口言葉難しい』


女の子に早口言葉やらせるとかわいい説あるな。この後も少し早口言葉で遊んだあと、何故か話題がこぴょに帰ってきた。


「じゃあ俺こぴょ語で喋るわ(思考停止)」

『え? 何それ…』

「こぴょ、こぴょぴょ? こぴょーん」

『…え? ………じゃあ私もこぴょ語使う(?)。…こぴょ、こぴょ〜…こぴょん』

「こぴょぴょ。こぴょぴょいのぴょい」

『こぴょっ、こぴょぴょぴょん?』

「こぴょー? こぴょいやっさー」

『こぴょい?こぴょこぴょん?』

「ホー、ホケキョ(小声迫真)」

『全然こぴょじゃない。ホーホケキョは田舎で聞こえるやつ』

「ウグイスだったっけ? …それにしても我ながら意味不明だった」

『うん、意味わからなかった…でも、ちょっと楽しかった。耳がこぴょこぴょした(?)』

「なんだそれ。まぁでもこういう頭悪い会話も楽しいからな」

『…それに先輩の声いっぱい聞けた』

「俺も美冬ちゃんのこぴょこぴょいっぱい聞けた。ウィンウィンだな(?)」


おかげでいい感じに眠たい。美冬ちゃんのおかげで心がこぴょぴょするんじゃ〜(?)


『…先輩、そろそろ眠たい?』

「よくお気づきで」

『声が眠たそう。眠たかったら寝て…私も今日はよく寝れそう』

「そうだな…こぴょ」

『またこぴょになってるこぴょ。先輩ねむこぴょ?』

「語尾がこぴょになってるぞ」

『私も眠くなってきたから、こぴょになった…先輩、疲れてるのに話してくれてありがとう』

「気にすんな…こっちもおかげで寝れそうだ…」

『うん…』



……………………



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