第48話 ツンツン
「俺はただのバイト帰りだ。お前は?」
「コンビニ行きたいなと思って、コンビニ行ってた」
「こんな時間に?」
「だからあんたは親か。アイス食べたかったの」
確かに楓の手にはコンビニのビニール袋がある。
「何買ったん?」
「アイスの果実とパリム。ついでにジュース」
「へー、太るぞ」
「余計なお世話だっつーの」
近所に住んでるわけだし、会うこともあるよな。だとしてもすごい偶然だ。にしてもアイスいいなぁ…図々しいからくれなんて言わないけどな。
「…」
「…」
「………」
「………」
「……………」
「……………」
「なんか喋りなさいよ」
「バイトで疲れたし、別に話すことないだろ」
「お疲れ様。酔っぱらいの相手でしょ?」
「まぁな。時間外労働で家まで送ってやったわ」
「…え? その職場大丈夫?」
「別に通り道だし、そんな時間かからないからいいけどな。今日はかかったけど」
「あんたってお人好し過ぎない?」
「そうかもしれんが、別に嫌じゃないからいい」
「…嫌じゃないってことは、その酔っぱらい女でしょ」
なんか俺、女相手なら喜んでなんでもやるやつだとでも思われてる?
「…だったとしてなんだよ」
「もしかしてあんたホストまがいのことして、飲ませたりしてないでしょうね?」
心外である。むしろ飲み過ぎないよう止めてる。
「んなわけないだろ。あっちが勝手に飲んで、俺に頼んでくるんだよ。一緒に帰るだの、優しくしてだの」
「…へー」
「なんだその目は…俺もやりたくてやってねぇよ」
まるで俺が悪い人みたいに見てくる楓。無実を証明した方が良さそうだ。
「具体的に何してるの?」
「話聞いて全部肯定して、褒めてと言われたら褒めて、頭撫でてと言われたら撫でて、飲みすぎてたらもうやめた方がいいと注意して、一緒に帰るって言われたからバイト終わったタイミングで一緒に帰ってるだけだ」
「…個人的にその人にお金もらってる?」
「貰ってるわけないだろ。ただの常連さんだ」
「年齢は?」
「知らんけど二十前半くらいじゃないか?」
「…へー」
「だからなんだその目は…別に若くて女の人だからって酔っぱらったら面倒だぞ?」
「面倒だから頭撫でて褒めるの? 優しくするの?」
「…言い方は悪いがそうだよ。あといつも疲れててなんか可哀想だし」
「へー…」
「何がそんなに不満なんだよ」
何故だが機嫌が悪そうな楓。多分俺と白永さんの関係を不純だとても思っているのだろう。正直はたから見たらそう思われても仕方ないところはあるけどな。
「年上好きなんだ」
「おい、誰がそんなこと言った」
「じゃあ年下?」
「別に年齢とか気にしねぇよ」
なんなら俺は女の子なら大抵かわいいと思ってしまう都合のいい脳みそを持っているので、タイプとかは特にない。
「…あんたは、あれでしょ。大人しくてヲタクっぽい子が好きでしょ」
「それは月野のことを言ってるのか? 月野は面白いやつだから別に好きだけど、付き合ってるわけじゃないぞ?」
「時間の問題でしょ」
「確かにあの性格なら断られることはなさそうだけど、まだ俺に気を使ってるところあるし…ってか、まだ俺もわかんねぇんだよ、色々。俺なりの考えってものがあるんだ」
「…」
「…えっ? いたっ」
何故か肩をペチンと叩かれた。ちょっと痛い。
「何カッコつけてんの?」
「カッコつけてねぇよ。まぁでも、やっぱり男として女の子の前ではカッコつけていきたい…」
「…」
「いった…微妙にいたっ」
また叩いてきた。
「なんかムカつく」
「いいだろカッコつけて」
「私の前でカッコつける意味ある?」
「あるだろ。俺は女の子の前でもイケメンで…いたい痛い」
「あんたバカなの?」
「な、なんで?」
この世の男はほぼ全員女にモテたいと思ってるはず(偏見)。つまり、俺は何も間違ったことはしていない。
「その酔っぱらいのOL…だけに限らないけど、そうやっていい顔ばっかしてると勘違いされるからね? あっ、響雅くん私のこと好きなんだ♪ って思われるからね? 女ってのはね、ちょっと見てくれのいい男に優しくされただけでコロッと好きになっちゃうような生き物なんだから(偏見)」
「いや、モテたら嬉しいじゃんか」
「たぶらかしてるの間違いでしょ」
「いやいや。俺彼女いないし、告られたら全然首縦に振るぞ。だって男ってのはちょっと見てくれのいい女に優しくされただけでコロッと好きになっちゃうような生き物だから(偏見)。あと、俺は誰もたぶらかしてなんかないぞ」
友達として仲良くなろうとしてることをたぶらかしてると言われたらそれまでだけどな。
「………良くない。もしあんたに彼女が出来たとして、そのOLの子がどう思うの? あと月野さんも、月野さんなんて、あんたのこと絶対好きでしょ。暗くて友達もいないような子があんたみたいな…奴にいきなり優しくされたらそりゃもうね。少女漫画みたいなみたいな展開じゃない」
よくそんなこと思いつくものだ。でも俺が誰かと付き合って傷ついちゃうくらい好きなら、俺はその子と付き合うぞ。だってそれだけ俺の事好きってことだし。
「…んー、月野はさておき、しら…OLさんの方は多分祝福してくれるぞ」
「口で言ってることが全部ほんとじゃないからね…私が言いたいことは、モテすぎると困るってこと」
「って言われても、俺はどうすればいいんだ? 彼女欲しいよ?」
「…し、知らないわよそんなの」
「だよな」
楓の言ってることは大袈裟だ。そんな高校生が彼女作るために頑張ってるだけで他の人を傷つけるなんてことないだろ。もし俺が仮に誰かと付き合ってて、色んな女の子と仲良くしようとしてたらそれは良くないと思うが、彼女いないし関係ない。
「まぁ、とりあえずお前に言われたこと頭に入れとくわ。あと、家まで送ってく。夜に一人じゃ心細いだろ?」
「行きは一人で来たし、私そんなに子供じゃないんだけど。カッコつけてる?」
「つけてねぇよ。一応、出会ったわけだし男として家に送っていったあげなきゃいけないなと思っただけだ…嫌なら断ってくれ」
自分でもこういうとこがお人好しとか言われる原因なんだろうが、それでも気になっちゃうんだよな。
「…別にあんたが送っていきたいなら勝手にすれば」
「なんだそりゃ。まぁ断らないってことはお前も内心着いてきて欲しいってことだな。ツンデレってやつだな」
「うっさいわね。ってか、デレてないでしょ」
「じゃあツンツン? おでんじゃん(?)」
「1人で何言ってんの?」
「さぁ。自分でも分からん。やだー、楓ちゃんツンツーン(棒)」
「あんた疲れで脳みそバグってない? …アイス食べて頭冷やす?」
そう言いながら袋からアイスの果実を出してくれた。丸い形のアイスが何個か入ってるやつだ。
「いいのか? なんも出てこないぞ?」
「別にいいけど? それに全部あげる訳じゃないし」
楓は袋を開けると1つ球状のアイスを指でつまむと口に入れた。
「はい、口開けて」
「俺の口の中にストライクショットしようとしてる?」
「大丈夫大丈夫。うさぎの餌やりくらいの感じでいくから」
「…色々言いたいことはあるが分かったよ」
「ほい」
口を開けると優しく俺の口の中にアイスを入れた。冷たくて上手い。
「ちょっとは冷静になった?」
「俺はいつでも
「なるほど。もっと食べさせないとね」
「おい、アイスとかけてクー…」
「全然面白くないから口開けて」
嬉々として俺の口にアイスをぶち込む楓さん。楓なりに気を使ってるのか、遊んでるだけなのかは知らないが楽しそうならいいや。
「おい、俺の口の中に3玉ある。あと1個入れたら喋れん」
「じゃあ入れる」
「ひゅめひゃい(冷たい)」
「写真撮るね」
「…」
遊んでるだけだな。
「っん…あー、冷て。美味かったけど」
「見て。頭悪そう」
と、笑いながら撮った俺の写真を見せてくる楓。
「じゃあ俺もお前の写真撮るわ(?)」
「いいよーん♪」
カメラを向けると、めちゃくちゃいい笑顔でピースした。太陽みたいな笑顔だ。
「…クソ。いい笑顔だ」
「どういたしまして」
「この写真は印刷してお前の誕生日にポストに入れとくわ」
「何それ…嬉しくな」
「冗談だ」
結局、楓を家に送っていったあと家に帰った。
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