第47話 遅くて長い夜

「きょーちゃん、これ持ってけ」

「なんすかこれ」

「ただの水だ。白永さん、今日はいつもより酔ってるから帰り際に飲ませてやってくれ。うちからのサービスだ」

「分かりました」


店長からペットボトルに入った水を貰うと店を出た。予報では雨だったが、運良く降っていない。


「白永さん、大丈夫っすか?」

「大丈夫ー、だよぉ」


白永さんはと言えば、めちゃくちゃフラフラしている。さっきよりマシにはなった気はするが車とか来たら普通に危ない。


「…ねむくなってきちゃった」

「家帰ってから布団でゆっくり寝てください」

「ちゃんとおふとんでねれるかなぁ…がんばるねー」

「間違っても玄関とかで寝ちゃダメっすよ」

「だいじょうぶだよぉ。ソファでねちゃったらごめんねぇ、おしごとたいへんだねぇ、そうだねぇ、たいへんだったねぇ」

「オツカレサマデス」

「そだよぉ、つかれたよ。でもね、いまはね、つかれたよりたのしくて、うれしいよ〜、おっとっと〜♪」


と、転びそうになる白永さん。酒を知らない俺でも分かる。この人、今一人にさせちゃダメだ。


「肩貸しましょうか? それか水飲みます? というより飲んでください」

「おみず? ありがとね……………? これあかないよ?

きょーくんいじわるしたの? かたいよー」


未開封のペットボトルの蓋が開けれないらしい。


「俺が開けますよ…」

「わー、すごーい♪ きょーくん、ちからもちねぇ」

「どうぞ、飲んでください」

「のむぅ♪ ………っん、つめたくておいしい。んー…あっ、ちょっとこぼれちゃった…よってるのよくないね、おみずおいしいね」


元々ほんの少し透けていたシャツが濡れたせいでまあまあ綺麗に透けている…下着、ではなくインナーが見える。ただ胸らへんだけ透けてるせいでなんか、見ないほうがいい気がする。


「きょーくん、おかおあかいよ? きょーくんもおみずのむ?」

「いや、大丈夫っす…白永さんこそ大丈夫っすか? 大丈夫じゃなかったら肩貸しますよ」

「…そぉんなの、かたかしてぇっていったほうが、おとくだよぉ(?)。でもね、わたしね、あせとおさけくさいからぁ、やめたほうがいいね〜」

「気にしないっすけど」

「いいよぉ。せいふくおさけくさくなったら、よくないよー…このまんま、おもちかえりしちゃうよ?」


まともなこと言ってると思ったら、急にとんでもないこと言うから酒は怖い。


「高校生をお持ち帰りしたらやばいっすよ。あと俺明日学校っす」

「そっかぁ。がんばってね…がっこうってひどいよね。ゆーきゅーないもんね」

「仕事よりは楽っすよ」

「そんなことないよぉ。きょーくんもがんばってるよぉ。だから、きょーくんも、おさけのんだほうがいいよ?」

「未成年っす」

「じゃあ、おいしいものたべようね〜、おすすめは、おさけとやきとり〜」

「だから未成年っすよ」


思考停止している白永さんと話していると、いつのまにか白永さんの住む賃貸のアパートについた。


「きょうもありがとね。またあおうね♪」

「階段上がれます?」

「さすがにだいじょーぶだよぉ」


白永さんの部屋は二階。今は一人にしたら危ないくらいにはフラフラしている…怖いから部屋の前まで着いていこう。


「…やばそうなんでやっぱ部屋まで送りますよ」

「おもちかえり?」

「…違いますよ。心配なだけです」

「しんぱいなのぉ? なんで?」

「嫌なら断ってくれていいっすよ」

「ことわるわけないよぉ、ありがとー」


アパートの折り返しになっている階段。ここより先に俺は行ったことない。

白永さんのペースに合わせて隣を歩いた。


「っとと〜、あぶないねー」

「っと! 危ないっすよ…ちゃんと下見てください」


踏み外してふらついている。てすりをもってるし、よっぽど大丈夫だとは思うがそれでも見ていて怖い。


「こんな所で怪我しちゃったらしょーもないですよ。あと少しなんで頑張ってください」

「きょーくんいっぱいしんぱいしてくれるね。わたしのが、おねえさんなのにね」

「安心してください(?)。今まで一度もおねえさんらしい時なんてありませんでした」

「そぉ? えへへぇ、よかったぁ(良くない)」

「そうっすね」


おねえさんどころかデカい子供の面倒見てる感覚だ。

階段を上がって部屋の前へ無事送り届けることが出来た。スマホで時間を確認すると思ったより遅い時間になっていた。


「ありがとね、ごめんね、ねむいねー」

「ゆっくり休んでください」

「きょーくんもおやすみねー、それとー、すきだよー♪」

「…まぁ、俺もなんだかんだ白永さんのことは好きっすよ。たまに元気もらえるんで」


基本面倒だし、対応に困ることもあるが、俺の事好きとか言ってくれるの普通に嬉しいし、たまに面白くてかわいいから嫌いでは無い。

まぁ、酒飲んでなくて疲れてない正常(?)な、白永さんを俺は知らないので、正常で大人な白永さんを見たら好きになるかもしれない。


「ほんとー? うれしいねー♪ えへへぇ♪ すきー、すきぃ♪」

「いい笑顔っすね」

「うれしいからねぇー♪」


ニッコニコの笑顔、酒を飲む前の疲れて寝不足のストレス社会を生きるOLとは真逆の顔である。


「ここで喋っててもお隣さんに迷惑だと思いますし、俺も遅くなると家族に心配されるんでそろそろ行きますね」

「そうねぇ。ばいばーい、またあおうねーありがとねー」

「はい、また会いましょう」


白永さんが部屋の中に入ったことを確認すると、帰路に着いた。この時間なら補導はされないがさっさと帰ろう。

ふと携帯を見るとcoreさんと美冬ちゃんから連絡が来ていた。ゲームお誘いと通話のお誘いだ。

ギャルゲーで言ったらどっちの好感度をあげるかの選択肢である。


coreさんのメッセージ…

『いける?』

『バイトか?』

美冬ちゃんからのメッセージ…

『もし良かったら通話しませんか。アルバイトで疲れてたら大丈夫です。学校もあると思うので本当に無理とかしなくていいです』


寝落ち通話かゲーム。

帰ったら遅い時間になりそうだし、両方無理という可能性もある。まぁ強いて言うなら、今日約束したところだし美冬ちゃんを優先しよう。


coreさんへの返信…

『今日は遅くなりそうなんで無理そうっす。酔っぱらいの介護してました』

美冬ちゃんへの返信…

『バイトがいつもより終わるの遅くて、多分0時くらいになっちゃいそうだけどいいよ。俺がすぐ寝ちゃうかもだけど笑』


美冬ちゃんの既読が一瞬で着いた。驚きの速さだ。

『私はどうせ夜寝れないので、0時からでも全然嬉しいです。ありがとうございます』

次いでcoreさんからも返信が来た。

『おけおけ〜

ゆっくり休むか、彼女に膝枕でもして貰え〜』

…何だこの人。ツッコミ待ちか?


とりあえず2人にはスタンプで返信(coreさんのボケは華麗にスルー)をしておいて、再び家へと向かった。

飯食って風呂はいって、寝落ち通話…これはもういい眠りに着くしかない。


「…あっ」

「…?」


ソシャゲをポチポチしながら歩いていると、声が聞こえた。


「はい? …ん?」

「あんた、なんでこんな時間に?」

「それはこっちのセリフだ、楓」


時間は午後10時、ジャージ姿の楓がそこにいた。

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