第46話 酔っぱらいと高校生

「あっ、やっときたー、マイダーリン」

「七原さん、酔っ払ってます?」


バイト先に着くと、先に来ていた七原さんか謎のテンションで話しかけてきた。


「答え合わせしないの? どっちの好きか」

「…気にはなりますけどね。結果はなんとなくわかってますけど」


平静を装っているが、若干気になっている俺。どうせ結果は友達と言われて終わりなのは分かりきっている。


「正解は…友達、、、」

「はいはい分かってましたよ」


ほらな。結局俺には脈ナシ…


「…以上。正解は友達以上でしたー。ってことは? 私は恋瑠璃のこと好きでーす」

「…ん?」


あれ? おかしいな。最近の俺モテすぎてね?


「あっ、でも恋人とかじゃないよ? まぁ、多分あれよね。友達以上恋人未満的な? 恋瑠璃はさ、友達とは違うんだけど、恋人でもないんだよ。まぁ、なんだろう。弟にしたい(?)」

「あんた、とんでもねぇこと口走ってますね」


これはモテてるじゃなくて、弄ばれてるの間違いだな。うん。


「ってことで、ちょっとだけでいいからさぁ、試しに弟っぽくしてみてよ」

「いや、弟らしいことってなんすか」

「とりあえずお姉ちゃん呼びしてみよっか」

「嫌っすね」


俺の姉ちゃんは以下略…(シスコン)


「なんで? 恥ずかしいから? いいじゃん、、ねぇ、ねぇ〜」


俺の肩を掴んで揺さぶってくる七原さん。そして全力で目を背ける俺。


「きょーがー、私の弟になって私の言うこと聞いてよー。一緒にお酒飲んで愚痴聞いてよー、彼女いないならいいでしょ?」

「俺未成年っすよ…あと、彼女いないならいい理論はなんすか?」

「大丈夫、意外とみんな飲んでるし、彼女いないなら好き勝手できるから(大丈夫じゃない)。ねぇ、きょーがー」

「…酒は飲まないっすよ」


こういうノリで大学生の未成年は飲まされるんだな…俺高校生だけど。


「んー、じゃあわかった。私の家来て。普通に一人暮らしだからさぁ、泊まりでもなんでもいいからさ。ほら、お姉ちゃんとお泊まり会、テンション上がっちゃうねぇ」

「それ飲まされるやつじゃないっすか?」

「飲んだ私の話し相手になってくれればいいからさぁ。白永さんのおかげで酔っぱらいの扱いには慣れてるでしょ? いい感じに酔っ払ってぇ、優しいきょーがに、優しくされたいなぁ」

「…なんで俺なんすか?」

「好きだから」


この人の考えてること分からん。


「ねぇ、いいじゃん。私、寄ってくる男はいてもみーんな下心しかないカス共だし、女は女で愚痴ばっかで面倒だからさぁ…でもきょーがは、下心なくて純粋な優しさだと思うからさ、知らんけど。しかも顔が好み」


偏見やばいのと俺への評価高いな。


「わかんないっすよ? 実は俺が…」

「ここのバイト、私が初めて来た時、先輩だったきょーがが私に色んなこと優しく教えてくれたよねぇ。ミスしたら励ましてくれたし、困ってたら助けてくれたし」


年齢的には七原さんが先輩だが、バイト歴的には俺が先輩だ。最初は七原さんも俺に対して敬語だったが、1ヶ月くらいで敬語は消えた。


「だから、私の家来て話し相手になって。なんにも考えずに飲んで、いい感じに酔っ払って休みたいー。明日私誕生日ー、親友とかいないから家帰って祝ってくれる人いないー」


これはあれだ。多分、誕生日祝って欲しいって恥ずかしくて言えなかったから色々誤魔化したやつだ! そうだったとしたらかわいいな!


「…わ、わかりましたよ…俺でよければ相手になります」

「じゃあ明日、6時くらいに迎えに行くから」

「土曜は用事あるんで、夜には帰りますからね」

「じゃあ帰りも車で送ってあげるからギリギリまでね」

「酒飲むつもりですよね? 飲酒運転はさすがにまずいっすよ」

「確かにそうだねぇ…ま、そんなに拘束するつもりもないし、飲んだら寝ちゃうだろうからそんなに遅くならないと思う」


断ったりしたらさすがに可哀想だし、心做しかいつもより言葉が優しい気もする。

プレゼントとか買った方がいいんかな。女子大生の喜ぶプレゼントってなんだ? 女には花を渡しておけば喜ぶ。と言っていた父の言葉を信じるか?


「まぁ、遅くなりそうだったら意地でも帰るんでそこんとこは頼みます」

「酔った私をベッドに横にしてくれれば多分寝るから、ベッドまで持ってって」

「俺力ないっすよ」

「知ってる。ついでに度胸とかもないよね。運動神経もないんだっけ? あるのは優しさと私好みの顔だけだね」

「色々余計っすよ」

「誕生日だから許してちょ」


誕生日じゃなくても許してるけどな。


「あっ、そろそろ時間だね。白永さんに優しくしてあげたら、明日はその分私に優しくしてねー、

「別に白永さんだけに優しくしてるつもりはないっすよ」

「頭撫でてたのに?」

「頼まれたからやっただけです」

「へー。頼んだらなんでもやってくれるんだ」

「…やらないっすよ?」

「覚えとくねー」


そう言って七原さんは表へと出ていった。

なんか俺の事下の名前で呼んできたり、呼ばなかったり。相変わらずよく分からん。

そして特に何も無く、いつも通り時間が過ぎ客が入り始めると白永さんも来た。


「響雅くんだ♪」

「らーさーせー、いつものでいいすか?」

「お願いします…ふふ、やっぱり響雅くんがいると嬉しいなぁ」


と、嬉しそうな白永さん。若干目の下にクマができてるのが気になる所だ。


「寝不足ですか?」

「心配してくれるなんて優しい…最近色々あってあんまり寝れなくてね。でも今日は響雅くんと会えたし、いい感じにお酒も飲んでぐっすり眠れるはず」

「俺が安眠剤になるなら良かったっす。で、こちらがいつものです」

「ありがとー♪」


俺はジュースを持たされ、いつも通り乾杯。そして時間が経つと白永さんに酒が回る…


「きょーくん行かないでぇ…きょーくんいっちゃったら、やーよ? きょーくんいないと、仕事できないなくなっちゃって、るよ?」


呂律回ってなすぎる。

うん、お仕事大変だったんだろうな(他人事)


「俺は目の前にいますよ」

「いなぁく、なっちゃたら、らめらよ…わたしね、おしごとがんばってるんにね、おこられてもんくれぇ、しぉれでもぉ、きょーくんにぃ、がんばったよーっね、いわれひゃくて、がんばったんらぁよ? …おさけないよぉ、おかわりー!」


なんか今日の白永さん過去一レベルで酔ってないか?


「明日もお仕事あると思いますし、やめといた方がいいんじゃないすか?」

「あしたはゆーきゅーなのですぅ。だから、いっぱい、のんでぇ、いいんれすぅ」

「急性アルコール中毒とかなったらアレなんで水も飲んでくださいね」

「じゃあきょーくんおみずのませてぇ」

「…どうやってっすか?」

「…? わかんにゃい」

「とりあえず水渡しときますね」

「はーい♪」


水を渡すと白永さんはそれを両手で持った。


「んー、…………っん。ぜんぶのんらぁよ。きょーくんらなでなでーして、ほーめーてぇ♪ 」

「…よ、よしよーし」

「んー♪ きょーくんしゅきー。しゅきしゅき〜♪ ぎゅーしたいー♪」


やっぱり酔っぱらいって怖いな。何言い出すかわからん。これで記憶消えてるなんてこともあると考えると、今は酒なんて飲みたくないと思える。


「でもぉ、ぎゅーしたら、きょーくんにきらわれひゃうのぉやーから、しないよぉ。きょーくんはぁ、こーんなわたしのわがままいっぱいきいてくれりゅからぁ、わがままいっちゃらめらの」


しかし、ちゃんと自制出来てる…なんて偉いんだ白永さん、酔っ払ったことないから知らんけど。


「偉いっすね〜。偉いんで、もう飲むのやめた方がいいと思いますよ」

「なんれぇ?」

「いつもより明らかに飲みすぎてるからですよ」

「んー、きょーくんがいうなら、やめるぅ…そのかわり、いっしょにかえろーね?」

「わかってますよ」

「ねー♪」


言われた通りもうお酒は飲まずに水と料理を食べながら、嬉しそうに話す白永さん。酔っ払ってるせいで7割くらい何言ってるかよく分からない。

話していると、そろそろバイトも終わる時間だ。


「もうそろそろ時間っすね」

「もう帰るのぉ? じゃあ一緒に帰ろうねー♪」

「ちょっと待っててください」


裏に戻り、更衣室に入った。制服に着替えようとすると、めっちゃ普通に更衣室に七原さんが入ってきた。


「うぃーっす」

「うぃーっすじゃなくて…俺、めっちゃ着替え中っすよ」

「いや、なんだろうなぁ」

「なんすか?」

「やっぱいいや。よく考えたら今言わなくていいや」

「ほんとになんすか?」

「なんでもないよぉだ」


そう言って出ていった。何がしたいかわからん。

着替えると、待っていた白永さんと店を後にした。

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