第45話 優しい先輩
「…」
顔を真っ赤にして、泣きそうだ。こういう時、どう声をかけるのが正解なのだろうか、3秒考えて出た言葉が…
「大丈夫?」
である。もっと気の利いた事言えよ俺!
「うん………」
ここでまた3秒考えて出た言葉が…
「い、一旦落ち着こう…」
である。泣きそう子の扱い、分からない。だとしても気の利いた事言えよ俺ぇ!
「…私、なんで、お腹痛くなるんだろ………先輩、好きなのに…」
立ったまま下を向いて小さな声でそう言った。
「緊張してお腹痛くなる人っているからな。俺もたまに痛くなる。俺のこと好きなのに、美冬ちゃんが緊張しちゃうのは急に俺が家に来ちゃったからだと思うから、そこのベッドのぬいぐるみと同じくらいの認識でいい(?)」
「………うん…うん……わたし、なんにも、できない。おなか、こわす、し、がっこう、いけない、かぞく、とか、めいわく、かけてる。せんぱいも…だから、いっしょに、いちゃ、いけない、きがする…」
まずい! お腹を壊してしまったせいで美冬ちゃんの心が弱っている。メンタルケアしなければ(使命感)
「そういえば、俺、前美冬ちゃんも話した時に入れたアプリゲーのアルターエゴ結構進んだけど、この話の力を持ってる人達ってみんな、誰かを守るため、迷惑かけないため、上手く言えない、過去のトラウマ…みたいないろんな理由で一人で抱え込んじゃったり、自分の世界に閉じこもっちゃった人達が、とあるきっかけで決意してもう一人の自分と向き合う。そして乗り越える。乗り越えたらすげぇ力を手に入れる。その力で人の心を弄ぶような人とか、闇堕ちしちゃってる人を変えてあげるみたいな…ざっくりこんな感じだろ?」
闇堕ちしてる人というのはゲームだと、精神や感情のコントロールが上手くできず暴走して、主人公の持つ特殊な力で行ける歪んだ現実世界、簡単に言えば裏世界的なところで化け物になるみたいな設定がありその化け物を倒すというのが力を持つ主人公とその仲間の目的だ。
「うん…」
「それで言ったら今の美冬ちゃんはもう一人の自分と向き合ってるって所だ。アルターエゴにでてくる人たちも最初は自分と向き合わずに逃げてた。現実でもそうだ。自分から目を逸らし続けてるやつなんていくらでもいる。でも美冬ちゃんは違うだろ? ちゃんと向き合ってるんだ。だからなんにもできてないわけない。むしろ頑張ってる。俺はもちろんだが、家族のみんなも頑張ってる美冬ちゃんを応援してくれてると思うぞ…だから、俺と一緒でいいし、迷惑なんて思わない(早口長文)」
「…全然、できてない。一人じゃ、家、出れない。歳近い子、近くにいると、心臓が、キュッって、なって、足、震える、お腹、痛くなる…」
泣きそうだ。可哀想だ。安心させてあげたい…出来るだけ近くにいてあげようと思い、美冬ちゃんの前に立った。
「一人で家から出れないし、歳近い子と話せないけど、ちゃんと1人で外に出て学校に行きたいって思ってて、しかもちょっとでも慣れるために行動してるじゃないか。出来てなくてもやろうとしてる。俺はちゃんとその頑張りを見てる」
「…っ、っぅ……せんぱい…」
「俺はここにいるし、今はぬいぐるみだ(?)。我慢、しなくていい」
今にも泣き出しそうな美冬ちゃんを安心させるように軽く背中をさすると、
「…っ、せんぱいっ、せんぱい……」
なんと、美冬ちゃんが抱きついてきた。なんてこった、いきなりこられたせいですっげぇ顔熱い。相手は身長低めの中学一年生。高校生の俺が言うのもなんだが、子供だ。でも緊張する。
「だ、大丈夫だぁ↑。俺がそばにいる」
若干、雰囲気をぶち壊すように声が上ずってしまった。大丈夫…俺はソフィを抱いたことある。抱きしめられたなら、軽く俺も抱き返す。ってか、女の子に抱かれながらほかの女のハグ思い出す俺、普通に最低じゃね?…(急に冷静)
「うぅ……っぅ…」
結構強い力で抱きしめてくる美冬ちゃん。顔も見えないし、静かだが泣いている。そして少し震えている。
数分後、美冬ちゃんはゆっくりと俺から手と体をを離した。顔はほんのり赤く、涙の跡が残っている。
「…ごめん、先輩。ちょっと、良くなった……」
目が合うと美冬ちゃんは赤い顔をさらに赤くした。
「勝手に、抱きつい、た…て、ごめん」
「別に気にするなって。俺ぬいぐるみだし(?)」
「気にする…私、なんかが、先輩に……泣いて、慰められられて、抱きついて…恥ずかしい、所、いっぱい、見られちゃった」
またちょっとだけ泣きそうになっている美冬ちゃん。もしかしたらめっちゃ泣き虫なのかもしれない。もしかしなくても泣き虫だな(自己完結)
「せんぱい、やさしすぎ…わたしなんかに」
「美冬ちゃんはもっと自分を褒めた方がいい。自己肯定感上げてけ。自分に甘く、人にも甘く。俺はそういう生き方してる。例えば…テスト赤点回避、昨日の俺頑張った! みたいな? …あっ、ちなみに俺は美冬ちゃんに甘くしてる訳じゃないからな。美冬ちゃんはちゃんと頑張ってると思ってるから本心だ」
「…うん……うん、私、頑張ってる。がんばってる…」
「頑張ってるなら俺は、美冬ちゃんを褒めないといけないな」
頭を撫でてあげると美冬ちゃんは小さく笑った。
「先輩、私、頑張る…頑張る、から」
「ああ、頑張れ」
「うん…私のせいで、時間、少ないけど、話そ? 電話、より、一緒の方が、話したい…」
「そうだな」
「うん…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「せ、先輩…」
「どうした?」
「…えっと、頭、ずっと、撫でてる」
「美冬ちゃん、嬉しそうだから」
「……う、嬉しい、けど…このまま、だと…心臓、ドキドキで、上手く、話せない」
美冬ちゃん、どう考えても俺のこと好きだな。多分学校行くようになったら俺以外に好きな子とかちゃんと出来ると思うけど。なんか最近の俺、急にモテ始めてないか? 美容師さんに髪型だけでなく、オーラまで変えてもらった説ある(?)。
…待てよ。もし、俺に彼女が出来てしまったら美冬ちゃん、悲しむんじゃないか? かと言って、美冬ちゃんと付き合うなんてことも年齢的にも状況的にも無理。でも俺は彼女が欲しいという矛盾。…ん? というか仮に彼女が出来たとして、俺と美冬ちゃんの関係を彼女は認めてくれるのか? 年下で複雑な理由があるにしろ、頭撫でたりしちゃってるわけだしな…許されないな……っていうか俺酔っぱらいの相手とはいえ、白永さんの頭も撫でてるじゃねぇか! 家族以外の年下年上バッチリ撫でてるじゃねぇかよぉ! 彼女欲しいけど、出来たらできたで困る…俺、モテすぎて罪な男だぜ、とかいう馬鹿な考えはさておき俺はどうすればいい。彼女作んなカス。これが正解な気がするが、俺は彼女が欲しい。何も考えず甘えて、甘やかしてくれる彼女欲しい! この関係を許してくれる寛大な心を持った彼女を作るしかないのか?(長考)。
「…先輩、どうしたの? 考え事?」
「あ、ああ…すまん。ちょっとな」
「…ごめん。私が、迷惑かけたから」
「いやいや、美冬ちゃんはなんも悪くない。俺が勝手に考えてるだけだ」
「無理、しないで。も、もし、疲れてたら、ベッド、で、寝てもいい、から…話すより、先輩、バイト、だから、ちょっとでも、休んで」
「大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
それにさすがに人様の家に上がって、ベッドで寝るなんてことできないだろ。
「私、でも、肩もみとか、背中のマッサージとか、出来る、から、疲れてたら、言って?」
俺はおじいちゃんじゃねぇよ。と、ツッコミたい気持ちを抑えた。
「わかった。でも今は元気ありあまってるし、話したい気分だな…」
「うん、私も、話したい…あ、あと、先輩が、良かったら、で、いいから…写真、撮っていい?」
「そんなのお易い御用だ。じゃあ、自撮りあんま上手くないけど、俺のスマホで」
「私、は写らなくていい…写真写り悪いし」
「どうせなら一緒に撮ろうぜ。思い出として」
恥ずかしがる未来ちゃんを、インカメの画面にいい感じに入れた。身長差があるので俺はしゃがんだ。
「…」
予想通り表情の硬い美冬ちゃん。どうせなら笑顔にしてあげたい。
「美冬ちゃん…よしよーし♪」
「な、なんで、急に撫でる? 写真、は? ………撫でても、いい、けど」
やはりちょっと嬉しそうな顔。好機!
「美冬ちゃん、カメラ見て」
「ん?」
パシャッ、とシャッター音がなった。
カメラには美冬ちゃんの頭を撫でながら笑う俺と、ちょっとだけ恥ずかしそうだが、嬉しそうな美冬ちゃんが写っている。
「あっ…先輩、ずるい。恥ずかしい…」
「いい写真だな、送っとく…あと普通にホーム画面にしよ」
ロック画面にして誰かに見られたら面倒なのでホーム画面にしたぜ!
「…私も、する。自分が写ってるけど、先輩、いる……恥ずかしい、けど、嬉しかった…ありがとう」
美冬ちゃんの俺に対する好感度が高すぎるのは、未来ちゃんが話していたせいか、それとも俺が優しくしすぎてしまった可能性があるからか分からないが、美冬ちゃんが元気になってくれるならそれでいい。
バイトギリギリまで美冬ちゃんと話したあと、藤花家を後にした。
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