第50話 王子

「おにい、起きて、おーきーてー! 遅刻するよ。起きないと、漫画とかでよく見る体の上に乗っちゃうやつやるよ?」

「………オハヨウゴザイマス」

「やっと起きた。もうおねえ言っちゃったよ?」

「すまん…寝てた」

「知ってる」


完全に美冬ちゃんとの通話中に寝落ちしたな。それにしても昨日の夜は色々あったな…


「早く着替えて降りてきてよ。私も遅刻しちゃう」

「先に食べてていいぞ」

「やだ。おにいと食べる」

「じゃあ後で着替える。お兄ちゃんのせいで歩美が遅刻したら、お兄ちゃん失格だ」


爆睡したせいか、美冬ちゃんの声に癒されすぎたか(?)知らないが、とにかく今は体軽い。


「…おにい、昨日の夜誰かと喋ってたでしょ。部屋も暗かったからゲームじゃないなら、電話だよね?」

「ああ、前に言ったご近所さんの女の子の未来ちゃんって子の、お姉ちゃんだ」

「あの子、お姉ちゃんいたの?」

「ああ、中学一年生らしい。で、その子と色々あったんだ。ほんとに色々…」

「…ふーん、じゃあは聞かない」


…そのうち美冬ちゃんが慣れてきたら歩美にも同じくらいの年代の子の話し相手として会わせようとちょっと思ってたし、また説明しよう。


「まぁ、また説明する…あと起こしちまったならすまん。もっと小さい声で話す」

「トイレ行きたくなって起きただけ…別に話すのはいいよ。私の事無視したりしたら起こるけど」

「無視なんて酷いことしない。したら殴ってくれ」

「殴らないよ。泣くけど」


殴られるより泣かれる方がダメージだ。俺の事をよくわかってる(?)

一緒に飯を食べて、着替えたあと家を出た。少し起きるのは遅れたがいつも通りの朝だ。

昨日の夜やんだと思ったら、今日も予報通り雨らしい。


「響雅くん、おはよう」

「おはようございます、和泉さん」

「二日連続雨、嫌になっちゃうわよね。むぎちゃん、さすがに2日連続お散歩行かないのは嫌らしいの」


犬用のかっぱを着たむぎちゃんがこちらを見ている。猫派だが犬もかわいい。


「かわいいっすね」

「そうでしょ? 触ってみる?」

「服越しにっすか?」

「そうしたら、響雅くん濡れちゃうでしょ? 首とかこちょこちょしてあげるといいわ」


腰を低くしてむぎちゃんの少し湿っている首をこちょこちょすると、気持ちよさそうにしている。


「ふふ、むぎちゃん良かったね」

「やっぱ動物っていいっすね。もふもふしたいっす」

「また今度うち来てみる? 好きなだけもふもふしていいわ」

「…ちょっと、考えときます」


もふりたい…是非もふもふしたい。

和泉さんの家に入るのは、結婚してるわけだしあんまり良くない気がしている。もちろん下心がある訳では無いが、誤解されないためにも夫さんの許可は必要だろう。


「いつでも来てくれていいから、遠慮もしないでね」

「はい、いってきます」


和泉さんに見送られ、歩いていると楓がいつものところで待っている。近づくと無言で傘を閉じ俺の傘に入った。


「おはよう」

「おはよう…おはようの前に入ってきてたけどな」

「昨日許可もらったし」


楓のためにスペースを開けてやると楓はそのスペースに体を寄せた。


「昨日の夜、自然な流れで家まで着いてきてもらってごめん」

「別にいいよ。どうせ送るつもりだったし、アイス食ったし」

「さすが優男。かっこいい(棒)」

「ありがとー(棒)」

「また会った時はよろしく」

「あんな時間一人で歩くな…」

「一人がダメならあんたのこと誘っていい? コンビニ行こーって」

「暇な時ならいつでもどうぞ」

「やったね。ちょい嬉しい」

「ちゃんと喜べ」

「……、わーい! ありがと、きょーが!」

「声でかいわ!」


周り視線を感じる。やめて頂きたい。


「あんたが喜べっつったんでしょ?」

「そうだけども…恥ずいからやめてくれ」

「何が?」

「普通に見られてるからだよ」


マジで楓は俺の困らせ方をよく知っている。敵に回したくは無い相手だ(?)。


「私とあんたが一緒にいると見られて恥ずかしいの?」

「一人でいても見られたら恥ずかしいって。俺、学級委員とか絶対やりたくないタイプだから」

「へー、私には関係ないね」

「そりゃそうだけども」


楓にからかわれながら歩いているといつの間にか昇降口に着いた。


「うい」

「肘でつつくな」

「ういうい、怒った?」

「怒ってねぇよ。そんなんで怒るほど器小さくねぇよ」

「ちょい」

「いてっ!」


デコピンされた。痛い。


「ばいばーい♪」


そして去っていった。朝から元気で楽しそうなやつだ…


「わぁ、キョーサンきぐーデースね」


と思ったら今度は入れ替わるようにソフィが目の前を通った。珍しい偶然もあるもんだ。


「おう、おはよー」

「キョーサン、ついでにはなしがあるデース。ついてくるデース」

「え?」


手を無理やり取られるとぐいっと引っ張られた。そのまま流されるようにソフィについて行く…


「どうしたんだよ。なんか怒ってる?」

「ちがいマースよ。ぶかつのことデース」

「…あー、なるほど」


オセロ同好会…ではなくオセロ部は、基本的にメッセージグループにて、部長である静谷先輩がいつ活動するを適当なタイミングで宣言し、それに残り2人(俺とソフィ)が行けるか行けないかを返信、全員が行けるなら活動する、という感じ…なのだが、

何故か今週、月曜活動したあと一度もメッセージがない。俺は先輩が普通に忙しいだけとか思っていたが、ソフィは違うらしい。


「だからちょくせつ、あいにいくデース」

「理由をメッセージで聞けばいいんじゃね?」

「…ちょくせつのが、かくじつデース」

「確かにそうか。時間もあるし行くか」


そのまま手を引かれ、先輩のいる3年の教室の階へ。教室の中を見ると生徒数は半分程度。先輩は友人らしき人と話していた。こちらには気づいていない。


「さぁ、キョーサン、たのむデース」

「え? 俺?」

「キョーサンは2ねん、せんぱいデース。だから、キョーサンデース(?)」

「よく分からんけど、わかった」


デカい声を出すのも嫌だし、知り合いもいないので仕方ないので教室内に一歩進んだ…


「静谷せ…」


「っ! あ、あいつは…もしやオセロ王子!?」

「何っ!? オセロ王子だと!?」

「あれが噂の!? あの、伝説の…」


「え?」


オセロ王子? 俺の事? 俺、もしかして有名人?


「あの、美人で男には話そうとしない、話しかけられても適当に流してすぐに会話を終わらせる、姫(?)と唯一普通に話し、さらには仲がいいという伝説の王子だ…」


先輩ってそんなに男苦手だったの? なんで俺には話してくれてるの? …卒業したオセロ部の先輩は女2、男2、その先輩とも話して…あれ? よく考えたらオセロ盤越しでしか隣合ってないし、あんまり話してなかった。もちろん俺も最低限しか静谷先輩とは話してない…

いつから俺と普通に話してくれるようになった? 先輩がいなくなって静谷部長になってから、おそらく部長として俺と話してくれるようになった。でも仲良くなったのは………あれか? 廃部にさせないように頑張った時だ。その時から、なんか距離縮んだ気がする。

とりあえず、Uターンして戻ってやっぱりソフィに行ってもらおう…


「なっ! き、響雅!? な、なぜここにいる?」


と思ったけどバレた。そりゃそうか。だって結構視線集まってるし、ざわついてるし、静谷先輩かわいいもんな(?)

下がることも出来ず、視線を感じながらも先輩の席の方へ向かった。

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