第43話 私の家に来てください

「じゃ、また明日」

「はい。また明日です」


放課後、月野と別れると直斗と柊壱の元へ向かった。理由は呼ばれたからだ。


「おい、あれで付き合ってねぇとかマジかよ」

「早く告りなよ」

「まぁ待て、お前ら…月野は小動物みたいなもん(?)だから驚かせると逃げる」

「じゃあ、いつ告るんだよ」

「とりあえず、俺は土曜日に月野と名古屋に行く」

「は!? おまっ、ちょっ! ぅえ! キモっ!(?)」

「お前のリアクションのがキモイわ」

「えぇ? はぁあ!? うぇぇぇ!?」


うるさすぎる直斗を静かにした後、そしてどうやって行くことになったか、告白とかしないのか、今どんな感じか等々説明した。


「カクカクシカジカ…なわけだ」

「なるほど…僕も適当にアプリゲーム始めようかな」

「理由が意味不明かつ、不純すぎだろ。ゲームに謝れ」

「ごめんなさい。はい謝った」

「誠意が足りん。ま、とにかく、告るなら最速でも土曜日の名古屋が終わったあとだ」

「チキってると思ったけけど、それは俺が月野のことあんまり知らないからなんだな…お前の月野小動物トーク(?)を聞いて納得しちまった」


月野小動物トークとは、いきなり告っても月野だから(?)困らせてしまい、関係が崩れる可能性があるといったものである。


「いやぁ、楓ちゃんとデートして、義妹ちゃんとデートして、部活で実質デートで、月野とデートか」

「デートじゃねぇよ。勘違いすんな」

「きょーちゃんが勘違いしてるかもね」


…まぁたしかに実質デートやんみたいな瞬間あったけども。


「今後に期待だな。頑張れきょーちゃん、彼女できたらからかってやる」

「はいはい頑張るよ」


2人と別れると真っ直ぐ家へ向かった。今日はバイトだが時間がある…七原さん、そういや俺の事好きって言ってたな…でも俺には月野がいる。ま、どうせ男として好きじゃないだろうから考えなくていいや。


「あっ! いた! きょーくーん!」

「ん?」


この声は…


「未来ちゃん? こんな雨の中で、なんでこんなところに?」

「きょーくん探してた。学校終わる時間知ってたから」


ランドセルを背負っている未来ちゃんが、嬉しいに近づいてきた。なんともまぁかわいらしい子だ。


「部活とかあると遅くなっちゃうから、もし公園以外で会う時は美冬ちゃんの携帯から連絡してね。こんな雨の中会えなかったら風邪ひいちゃうよ?」

「会えたから大丈夫。それで、きょーくんは今から暇ですか?」


バイトまでの時間暇っちゃ暇だ。しかし、今日は雨。雨の中公園なんて行けないし、かと言って未来ちゃんと二人でどこか店に入るのは色んな意味でマズイ気がする。


「暇だけど、今日は雨だから…」

「暇だったら、私の家に来てください!」

「…」


…そんなことが許されるのか? 未来ちゃんとの関係は友達に近いものだが、年齢差問題。そして家にいるであろう美冬ちゃんは思春期の女の子だ。


「知らない人を家にあげるのは良くないよ?」

「きょーくんは知らない人じゃなくて、知ってるお兄さんだから大丈夫。お姉ちゃんが会いたいけど、電話し過ぎるのは良くないからって言って結局電話しないの」

「まぁ、美冬ちゃんは遠慮しまくっちゃうからな」

「あとね、お姉ちゃんはきょーくんに褒めて欲しそうだった。きょーくんはいっぱい褒めてくれるから好き、みたいなこと部屋で一人で言ってたよ。だからきょーくんはお姉ちゃんを褒めてあげて」


一人で部屋で言っていたことが未来ちゃんの耳に入ってしまったことは美冬ちゃんに言わないようにしておこう。

それより本当に行ってもいいのだろうか…


「わかった…それより、本当に俺が未来ちゃんの家に行ってもいいのか?」

「大丈夫だよ。家のみんなきょーくんが、高校生で、遊んでくれて、優しいってことも知ってるよ」


まさか家に来るなんて親御さんも思ってないだろうな。…まぁ、とりあえずお邪魔してみるか。文句言われたらそれまでってことで。


「じゃあ行こうかな」

「やったー! きょーくん大好きー!」


未来ちゃんはそう言って嬉しそうに笑った。純粋かわいい天使かよ。


「じゃあ案内する。着いてきて」

「わかった」


未来ちゃんは歩き始めた。未来ちゃんの身長は俺の肘より上あたり、そのせいで近すぎると未来ちゃんの傘が俺の肩に当たりそうになる。


「きょーくんって大きいね。何センチ? 私は4月に測った時身長が124.3センチで、体重が23.1キロだった」


小学2年生って感じの身長と体重だ。


「俺は170センチくらいだ。体重は…なんだっけな50なんたらくらい?」

「えーっと、45….7? 45.7センチも違う。定規3本くらい違う。いいなぁ」

「未来ちゃんもすぐ大きくなるよ」

「傘さしててもきょーくんの顔が見えるくらい大きくなりたいな。傘があると見えづらい」


未来ちゃんは背伸びをしながら俺を見上げるように見てきた。


「いつになったらきょーくんの顔見えるんだろ。背伸びしても足りない」

「多分すぐ見えるようになるよ。中学生になる頃には多分150センチくらいにはなってると思うから」

「お姉ちゃんは中学生だけど150センチないよ? ちゃんと測ってないから分からないけど、140ちょっとくらいしかないって言ってた」


あんまり意識してなかったけど、そう言われると美冬ちゃんは年に対して身長低いな。


「…個人差はあるけどな」

「じゃあ私がお姉ちゃんより大きくなることもある?」

「あるんじゃない?」

「そうしたら私がお姉ちゃんのお姉ちゃん?」

「それは変わらないな。身長が違っても美冬ちゃんがお姉ちゃんで未来ちゃんが妹だ」

「例えば、きょーくんが私と結婚したらきょーくんはお姉ちゃんの義弟になる?」

「なるんじゃないか?」

「じゃあきょーくんがお姉ちゃんと結婚したら義兄ちゃん?」

「そうなるな」

「へー」


何の話だよ。


「それだったらきょーくんにはおにいちゃんになって欲しいから、お姉ちゃんと結婚して欲しいな」

「残念だけど、俺のいもうとは世界に一人しかいないからその願いは叶わない(シスコン)」

「じゃあ私と結婚しておとうとだね(?)」

「確かにそうなるな(?)」


未来ちゃんと会話して歩くこと数分、藤花と書かれた表札のある家の前についた。特にツッコミどころのない普通の家だ。


「ただいまー、きょーくんも入って」


家にあげてもらうと、玄関へ未来ちゃんの母親らしき人が来た。


「おかえり……? そこの方は?」

「きょーくん」

「あー! あの、きょーくん。きょーくんね! こんにちは。いつも未来と遊んでくれてありがとうございます」


なんだか楽しそうなお母様。娘がいきなり高校生男子連れてきてこのリアクション。謎だ。


「こんにちは…えーっと、大丈夫っすか? 俺みたいな高校生が未来ちゃんと関わってかつ、家に上げられてかつ、美冬ちゃんとお話させてもらっちゃって…」


普通だったら、ロリコンの変な男子高校生に家の娘が…とか思われてそうだ。


「ぜんっぜん大丈夫。最初は大丈夫かなと思ったけど、未来の話聞いてるとただのすっごく良い人だったから。ほら、早く靴脱いで上がって」

「は、はい。ありがとうございます」

「今日は美冬に会いに来てくれたの? 2階の部屋にいると思うから、未来、案内してあげて」

「うん」

「え?」


そんな家に入れてもらってノータイムで思春期の娘の部屋に案内すんの?


「大丈夫っすか? 俺のせいで思春期の美冬ちゃんに悪影響とか…」

「大丈夫。美冬、きょーくんのことかなり信頼してるから。それに変なことするような人に見えないし。美冬、きょーくんと話してからまたちょっと元気になったの」

「そ、そうすか」

「ってことで早く行っちゃって。後でお菓子持っていくから」

「あ、あざまーす…」


想像していた以上に歓迎され困惑しつつも未来ちゃんの案内で、美冬ちゃんの部屋へ向かった。


「お姉ちゃん! きょーくんきたよー!」

「……っ!」


ガタン!


大きな物音が聞こえた。


「…た、大丈夫?」

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