第12話『あれ』

「次これ履いてみて♪ もしかしたら私の知らない可能性(?)があるかもしれない」

「…最初に選んでくれたやつが俺一番気に入ってるんだけど」

「いいじゃない。減るもんじゃないし」


服屋に言ったら着せ替え人形待ったなしだった…危なかったぜぇ…


「…うーん、やっぱ最初のが一番いいかな」

「ああ、俺も最初のが一番好きだ。何言われても最初のやつにしようと思ってたし」


シンプルで履きやすい、無難と言えば無難なデザインだ。先程楓が言っていたことは嘘では無いらしい。


「つまり私の目に狂いはなかったってことじゃん? 褒めていいよ」

「偉い!」

「褒めるの下手すぎない? ま、とりあえず買ってきな。で、思ったより時間いい感じだし昼ごはん食べに行こ」

「はいよ、買ってくるわ」


お値段1万弱。想像通りのお値段だ。店を出ると楓の元へ戻った。


「普通にフードコートでいい? なんか行きたい店とかある?」

「お前がフードコートでいいならそれでいいけど」


仮にデートだったとしたら昨日行ったパンケーキの店みたいなところに行った方がいいと思うが、楓の方からそう言われたのなら従おう。


「じゃあフードコートで」


フードコートは日曜の昼時ということもあり、人が多い。家族連れや学生で賑わっている。


「何食べる? 私はそこでいいけど」

「俺も同じで」


楓が指さしたのは某人気ハンバーガーチェーン店だ。俺も特に食べたいものがなかったので同じ店にすることにした。


「あんたってたしか、限定でいいのないならてりやきでドリンクは烏龍茶、理由はご飯食べてる時はお茶がいいから。お腹すいてる時はサイドメニューでチキンナゲット、ソースはマスタード派。だよね?」

「お前は、フィッシュバーガー好きでドリンクは果実系のやつ、限定のチョコパイとかあったらそれも頼むって感じだろ?」

「そだよ。よく知ってるね」

「お前もな…」


俺はてりやきのセットとチキンナゲット、楓はフィッシュバーガーのセットを頼んだ。混雑している中で何とか空いている席を見つけると向かいあわせで座った。


「ポテト出来たてじゃん♪ 美味しい〜」

「俺はこのポテトにマスタードをちょんちょんしてやるぜ」

「あっ、勝手に貰う」

「勝手に貰うな…別いいけどさ」


楓とはやっぱりこれくらいの距離感が丁度いい気がすると、飯を食べながら思った…


「食べたらストゥバ行かない? 限定飲みたい」

「あー、JK大好きストゥーバックスさんか」

「別に大人でも男でも飲むでしょ。なんならあんたも飲むでしょ」

「おう、飲むに決まってんだろ」

「どうせ抹茶ラテでしょ? たまには他の飲んでみたら?」


流石は楓さん。俺が抹茶好きなことも知ってるみたいだ。


「俺は基本的にオシャレカフェに行ったらコーヒーか抹茶ラテだからな」

「コーヒー? カフェラテじゃないの?」

「最近(昨日)コーヒーの美味さに気づいた」


というのは嘘で、コーヒーは飲めなくはないけど別に好きでもないって感じだ。豆とかの味の違いは絶対分からないと思う。


「へー、大人だね…って言われたいの?」

「ちげぇよ(大嘘)。普通に美味いだろ」

「私はガキだからわかんない。甘いが正義、フルーツの酸味も好きだけど」


昼食を終え、寄り道しながら少し歩いたあとストゥバに着いた。流石オシャレカフェだけあり並んでいる。


「あっ…」

「どうした?」

「いや、元クラスメートがいる…めちゃくちゃ目が合った!」

「楓じゃん! やっほー」

「…バレた」


流れるようにバレた。相手は俺の知らないやつ、しかも女だ。合計3人で皆キラキラしている。3人のうち1人がこちらへ近づいてきた…


「ちょっと久しぶり、隣にいるのは…オセロの人?」


あっ、やっぱり俺そういう認識なんだ。


「いや、こいつはおさな…」

「彼氏か!」

「ち、違うって! 幼なじみのきょーが。オセロ同好会の人」

「違うわい! オセロ同好会だ。そこ大事」

「はいはい、オセロ部同好会の人…ったく」


彼氏っていう言葉聞いて顔赤くしたぞ…やっぱり俺に気があるんじゃ…


「だいたいこいつが彼氏とかありえないから」


ありえなかったんですけどぉ! いいけど、いいけどさ…それでもそうやって口に出されるとちょっとショックだよね! うん!


「そうなの? なんで?」

「な、なんでって…まあ、その、あれ…あれ、だよ」


『あれ』ってなんだよ! 怖ぇよ! 俺ってさっきいい匂いって言われてたけど体臭やばい? 髪型実はダサい? 性格悪い! ぬあああああ!


「何が?」

「も、もういいでしょ。なんかでかい声で彼氏ってワード出されたせいで視線感じて嫌なんですけど!」

「あはは、ごめんごめん。じゃ、ばいばーい。また遊ぼうね〜」


そう言ってキラキラした女は去っていった。楓の顔が赤い。


「あっ、ごめん! なんか酷いこと言った気がするけど嘘だから…」

「いいっていいって、気にすんな」


『あれ』について言及したい…マジで『あれ』ってなんだよ。映画の結末より『あれ』の意味を知りたいよ。そしてそんなことよりも楓さん俺を傷つけたと思ってちょっと悲しそうな顔してるんですけど…


「俺だって知り合いにあんな急に来られたら焦るだろうしそんな気にすんな」

「ごめん、顔に出てた? ほんとに嘘だからね?」

「だからわかってるって。俺傷ついてねえから」


ま、ちょっと傷ついたけどね。気にしてるけど気にしてないよね(?)。


「お前がそんなふうにしょんぼりしてるとこっちも嫌だから元気だしてくれ。元気出さないとストゥバ奢るぞ(?)」

「えっ? 何それ? 意味わかんないんだけど。元気出さない方が得じゃん」

「じゃあなんでもいいから奢ってやる」

「ん? もっと意味わかんなくなった」

「靴を選んでくれたので楓さんに限定フラペチーノを奢りたいと思います」

「ありがと……やっぱりあんたって良い奴ね」


楓は小さく笑うと俺の前を歩き始めた。


「ラッキー♪」

「あっ、やっぱ奢りなしで」

「器ちっさ」

「冗談だ。奢る代わりにストゥバの正しい注文方法教えてくれ」


頼み方はもちろん何となくわかる。ただ何となくしか分からない。不安だ。


「なんで?」

「……恥かきたくないから」

「あんたおもしろwwww」

「笑うな! こっちは真面目に言ってんだよ」

「硬さと濃さと量を言えばいいんだよ」

「それ絶対家系ラーメンだろ。飲み物なのに硬さってなんだよ」

「軟水か硬水的な?」

「真面目に答えんな。腹立つ」


列に並んで待つこと数分、楓に限定のいちごのやつ俺は安定の抹茶ラテを頼むと店を出た。


「とりあえず写真を撮るから飲むのちょっと待って。ソイスタあげるから」

「顔はやめろよ。手もやめろよ。今どき特定なんて簡単にされるからな」

「顔映さないし、そもそもリア友とかリアルの知り合いしかいないから大丈夫」


手に待ったフラペチーノと抹茶ラテをいい感じに撮った。ソイスタは一応やってるがノリで友達フォローして終わりだ。


「じゃあ次、記念のツーショット」

「それは絶対イソスタあげんなよ? 知り合いしかいないとはいえ、一生残るネットの海に顔晒すのは勘弁だ」

「あげないよ、記念って言ってるでしょ。並んで、はいニコッって笑って♪」


なんだこいつかわいいかよ。

手を前に出して俺に密着するとパシャリとシャッター音がなった。


「あんた意外といい笑顔じゃん。もっと面白い顔しなさいよ」

「なんだよ面白い顔って」

「こーいうの」


楓のスマホの画面には朝登校中に撮られたであろう俺の顔の写真、しかもあくびしながらボケボケしていてなんとも間抜けな表情だ。


「いつの間に撮りやがったんだ。消せ」

「やだ」

「…いつかやり返してやるよ」

「やれるもんからやってみなさい、最も隙なんて見せないけどね。ふふん♪ 」


めっちゃご機嫌だ。顔にも態度にも出まくっている。


「まだ映画まで時間あるし服屋…」

「いや、行かなくていい(即答)」

「なんで? どうせ暇じゃん。それとも行きたいとこある?」

「……………ない」

「うん、じゃあ行こう♪」


…どうやら服屋に連行されるみたいだ。

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