第8話 クレーンゲームは詐欺

「美味しかった。今度はおねえと3人で来たいな」

「そうだな。俺は大丈夫だけど、歩美は見ていきたい店とかあるか? 服とか、自分用の文房具とか」

「…うーん、特にないけどせっかくおにいと一緒なんだし、家に帰ってもやることないからもうちょっとここにいたいな」


俺もこのまま帰ったら家でcoreさんとゲームするくらいしかやることは無い。


「じゃあとりあえずゲーセンにでも向かってみるか」

「うん。あっ、あと先に言っておくけど私パンケーキのお金はちゃんと払うからね。ずっとおにいに甘えっぱなしはダメだから」

「別に気にしなくても……」

「私が払うって言ってるからいいの。おにいに甘えるのがクセになっちゃったら大人になれないかもしれないし(?)」


会計時、しれっと全額払おうと思ったが、結局あとからきっちりお金を渡された。歩美がそこまで言うのなら無理に貰わないのも違う気がしたのでちゃんと貰った。

手を繋いで少し歩き、そこそこ大きいゲーセンに着いた。ゲーセンに行こうとは言ったものの俺も歩美もあまり来ないので特に目当てのものもない。とりあえず歩き回ってみることにした。


「あんまり来ないけどたまに来ると楽しいね。たまに来るからじゃなくて、おにいといるからかな?」

「お兄ちゃんは歩美といると楽しいぞ」

「そう? えへへ、私も」


もはや会話が恋人だが、いもうとだ。ブラコンのいもうとだ。めちゃくちゃブラコンのいもうとだ。


「ゲームセンターの景品って、お店側が調整してるから取れないんだよね? 酷い商売だよね」

「歩美? もしかしたら取れないやつとかもごく稀にあるかもしれないけど基本取れるからな?」


そうやって冷静に営業妨害グレーゾーンくらいの発言をするのは良くない…


「それにクレーンゲームはやってる時楽しいし、運が良ければ100円で取れたりするから悪いことばかりじゃないぞ」

「そうなのかな…クラスの男の子が5000円ドブに捨てたって言って笑ってたけど、5000円分楽しめたのかな」

「それは、まぁ……人によるだろうな」


歩美は大人になってもギャンブルとかに沼ることは無さそうだ。


「だから私の中でクレーンゲームは裕福な人のための遊びだと思ってる」


かと言って、ゲームセンターの楽しみを知らないというのも友達と遊ぶ時とか良くないかもしれない。ここは兄として俺が教えなくては(謎の使命感)


「そんなことないぞ。よし、兄ちゃんがなんかとってやるよ」

「え? 大丈夫?」


大丈夫? ってなんだよ…


「兄ちゃんにまかせろ。一応クレーンゲームで景品とったことあるからな。欲しいものとかあったりするか?」

「じゃあ…あのぬいぐるみとか欲しいかも」


歩美が指さした方向には太った丸い鳥のような大きめのぬいぐるみ。掴んで落とすタイプのやつだ。こういう機械はだいたい確率でアームの力が強くなるので運が良ければすぐとれる。


「今、フリマで調べたらだいたい本当かはわからないけど未使用で3000円くらいだから、3000円以上使ったら負けだね」

「そ、そういうのはあんまり調べなくていいと思うぞ?」


歩美大丈夫かな。友達といる時とか興ざめなこと言ったりしてないよな…ちょっと心配だ。


「そういうこと考えずにとりあえず100円突っ込んでだな…」


100円玉を入れてアームを動かす。そして筐体を横から見ながら位置を微調整。とりあえずタグとか狙わず、掴んでみる…


「おにい上手いね、ちゃんと掴めてるよ!」


掴んで上まで持っていったはいいもののすぐに落ちた。


「あー、今明らかに弱くなった…」

「さすがに100円じゃ無理だよな。さて気を取り直してもう一回…歩美もやってみるか?」

「じゃあやってみる。どうせとれないと思うけど」

「…まだ分からないぞ?」


ボタンを押して俺と同じようにアームを動かしている。


「えっと、もうちょっと奥…ここ!」


結構楽しそうだ。降りたアームは少しズレていて上手く掴めそうで掴めていない…と、思ったら奇跡って思えるくらい綺麗にタグに引っかかった。


「おにい! なんか引っかかった! よわよわアーム関係ない!」

「おお! すごいな!」


絶妙なバランスを保って獲得の穴の上まで行くとアームが開いた瞬間、綺麗に穴へ落ちた。

歩美のテンションが上がっていて楽しそうだ。両手でぬいぐるみ抱き抱えてニコニコしている。


「えへへ、とれちゃった」

「良かったな」

「うん! でも私は騙されないよ。これはビギナーズラックだから」

「しっかりしてんな…」


これ以降、歩美がクレーンゲームをプレイするかはさておき楽しさは教えられた気がする。


「あれ? キョーサンデースか?」

「…? その声は?」


振り返るときょとんとした顔をしたソフィがいた。まさか同じところで同じ同好会ぶかつの2人と会うとは。


「やっばりそうデース! こんなところで、きぐーデース!」


相変わらず元気なソフィ。静谷先輩と同じように私服姿を見るのは初めてなので新鮮だ。


「おにい…この人は?」

「同じ同好会で、後輩の留学生のソフィーアさんだ」

「ソフィでいいデースよ。アナタは……キョーサンのガールフレンド?」


やっぱり勘違いされた。説明しようとすると、俺より先に歩美が口を開いた。


「の、ノー! ち、違います…いもうと、リトルシスター? の歩美です」

「ニホンゴでダイジョブデースよ。アユチャン!」

「あ、ありがとうございます…ソフィさん」

「リトルシスターデーシたか。サンはいらないデース。そのままか、チャンでいいデース」

「ソフィ、ちゃん?」

「そうデース!」


コミュ力おばけのソフィに圧倒されている歩美。俺も初めてあった時はこんな感じだった気がする。


「ソフィはよくここに来るのか?」

「きマースよ。ワタシはおとゲーがすきデースからね」

「はえー、音ゲーとかやるのか」

「なので、ひとりがおおいデース」


まさかのゲーセン、しかも音ゲー好きとは意外だった。静谷先輩に引き続き、新しい一面を知れた。


「ふたりはかいものデースか? ふくろもってマース」

「そんなところだ。ソフィは今から音ゲーやるのか?」

「そうデースね。ふたりはどうするデースか?」

「適当にゲーセンを歩いてた所だ」

「ほほぉ、そうデーシたか。それならいっしょになにかしマースか?」


俺としては特にやること決まってなかったし、ソフィはおもしろ元気可愛いので歓迎だ。しかし、今は歩美もいる。


「歩美、どうする?」

「全然いいよ。ソフィちゃん、元気で優しそうで怖くないもん」

「わかった。ソフィ、じゃあちょっとだけど一緒に回るか」

「おとげーは、はじめてむずかしいのでやらないデースけど、ちがうゲームでしょーぶデース! アユチャンしょーぶデース!」


初対面の相手に勝負を仕掛けるとか戦闘狂かよ…目と目があったらバトルって感じなのだろうか。


「私? …うん、いいよ」

「しょーりしたほうがキョーサンから、ごほーびデース!」

「え? なんで?」

「おにいからのご褒美…うん、おにいからのご褒美」

「あ、歩美?」


自然に俺がご褒美を渡す流れができた。何をすればいいんだ…


「おお、アユチャンやるきデースね…まずは、アレでしょーぶデース!」

「望むところだよ! おにい、私勝つから!」

「お、おう…」


こうして初対面2人の対戦が始まった。


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