第7話 パンケーキ
「結構回ったけど他に行きたい店はあるか?」
「もう大丈夫。さっきのお店に売ってたブックカバーにする。本読むの好きって言ってたし、学校に持ってきてる時はお店でつけてくれる紙のやつ付けてるからいいかなと思って…いいと思う?」
「いいんじゃないか」
「じゃあブックカバーにする」
来た道を戻り目的の商品があるお店へと入った。本屋と隣接しており、文房具やちょっとした小物が置いてある。
「えーっと、これにしようかな。おにい、どうかな。これくらいなら学校とかでも使いやすいよね?」
革製でカバーの隅に小さくうさぎのシルエットが描かれている。
「いいと思うぞ」
「じゃあ買ってくる。レジちょっと混んでるから待ってて」
「わかった」
一旦手を離し歩美はレジの方へと向かった。待つ間、携帯で時間を確認すると丁度お昼時。ショッピングモール内の飲食店で何か食べて、歩美が他にどこか行きたいと言えばどこか行こう。
そういえばソシャゲのログボを貰ってなかったのでログボだけ受け取るとスマホをしまい、顔を上げた…すると本屋の方にいる誰かとバッチリ目が合った。あれは間違いない…同じ部活の静谷先輩だ。
「おにい、おまたせ。買えたよ」
近づこうとすふとちょうど歩美が戻ってきた。そして自然な流れで俺の手を取った。歩美が俺の手を取るのと同時に静谷先輩はくるりと体の向きを変えた。
「邪魔して悪い。じゃあな」
そう言って先輩はくるりと180度回転した。
「先輩! 待ってください」
どう考えても今のは、デート中に邪魔したら悪いから話しかけるのはやめておく。って意味だろ!
「先輩? ………あっ」
そして察した歩美も俺から手を離した。先輩は顔だけこちらを向いて言った。
「ど、どうした後輩。特に先輩に用なんてないだろ。さ、行った行った」
「ありまくりです」
「わ、悪いが私は急いで……」
「時間は取らせません」
「だから………はぁ、もういい」
先輩はこちらへ体を向けた。私服姿の静谷先輩は初めてなので新鮮だ。ちょっと顔が赤いのは何故だろうか。
「こ、こっちが気を使ってやってるのが分からないのか…」
と、歩美に聞こえないよう小声で言う先輩。
「先輩、この子は俺のいもうとです。兄妹仲良く買い物に来ただけです」
「…そ、そうだったのか。すまない、完全に…勘違いしていた」
危ない危ない。静谷先輩は変なウワサを広めるような人じゃないことはわかってるが、説明するに越したことはない。
「えっと、その、おにいが……兄がお世話になってます。いもうとの歩美って言います」
「私は静谷凛、響雅と同じ学校、部活に所属しているものだ。よろしく」
「よ、よろしくお願いします…」
謎の堅苦しい挨拶を終えると歩美は後ろに引っ込んだ。デート中だと勘違いされたせいで、何となく気まづい空気が流れている。
「…先輩は今日何しに来たんすか?」
無理矢理すぎるが話をふってみた。
「私は漫画を買いに来た。今日は新刊の発売日だからな」
先輩とは部活でしか関わっていないので、プライベートのこととかはあまり知らない。部活中は学校生活の話やソフィの住んでいた所の話が多い。
「俺も結構読みますよ。面白いっすよね。ちなみにどんなの読みます? 俺は結構色んなジャンル読みますけど、最近はラブコメが多いっすね」
「そうだな…私はあまり女っぽくないんだがバトル系が好きだ。特に超能力や異能力は大好きだな」
ってことは部活中の先輩のたまにある謎のしゃべり方は漫画に影響されてるってことか。なんかかわいいな。
「バトル漫画もいいっすね。見開きでドーンって必殺技出てくるシーンとかマジでアツいっすよね」
「響雅…お前わかってるじゃないか! ページをめくって見開きドーンが来ると鳥肌だ(?)。そして最近は電子書籍も多いが、やはり紙がいい…そしてページをめくるワクワクの中、見開きで現れる必殺技は本当に良い!」
「分かります! やっぱり紙っすよね」
かつてないレベルでテンションの高い先輩。
「っと…ついテンションが上がってしまったな。すまない。まだ語り合いたい所だが兄妹2人の時間を部外者の私が邪魔する訳にはいかない。響雅、次の部活動で会おう。じゃあな」
少し顔の赤い先輩はこちらに背を向けたあと軽く手を振って去っていった。歩美は時間を持て余していたのかスマホをいじっている。
「歩美、ごめんな。時間使っちまった」
「全然いいよ。気にしてない」
「ありがと。とりあえず飯でも食うか。歩美はなんか食べたいものとかある?」
「じゃあパンケーキがいい。ちょっと混んでるかもしれないけど」
「おう、じゃあそこで食べるか」
先輩と会って勘違いされたせいか、歩美はさっきよりほんの少しだけ俺から離れている。
本当は繋ぎたいのに気を使ってくれていると思ったので、手を歩美の方へ軽く出した。
「…また勘違いされちゃうよ?」
「気にするな…いや、歩美の中学の知り合いとかに勘違いされるのが嫌だってことなら無理に繋がなくていいけども」
「私は大丈夫だよ…おにいがいいなら全然繋いで欲しいけど。欲しいだけで全然しなくてもいいから」
「だからお兄ちゃんの前で遠慮するな」
少し強引に歩美の手を取った。
「うん、ありがと…」
「もっと素直に甘えてくれていいんだぞ。何があっても歩美の味方だし、何を言われても嫌いにならない」
「うん…私、学校とか同じ年齢くらいの子達なら大丈夫なんだけど、大人とか年上の人がいっぱいいる所にいるとちょっと怖いから」
詳しくは知らないが歩美は恋瑠璃家に来る前に少し嫌な思いをしたと聞いている。多分そのせいで大人、年上が少し怖いのだろう。
「えへへ、やっぱりおにいがおにいで良かった」
そのまま手を繋いで飲食店の並ぶエリアへ。目的の店は昼時が過ぎてもそこそこ混んでいる。少し待ってから店内に入った。店内もメニューもオシャレな感じで、客層も若い女性やカップルが多い。
「ブルーベリーのやつかいちごのやつ、どっちにしようかな…おにい、じゃんけんしよ。私が勝ったらいちごでおにいが勝ったらブルーベリーにする」
「おう、わかった。最初はグー……」
テンションの高い歩美。嬉しそうで良かった。じゃんけんの結果は歩美が勝った。
「私が勝ちだからいちごにしよっと。おにいはどれにする?」
「じゃあ俺がブルーベリーにしようかな」
注文を済ませ、パンケーキが出てくるまでの待ち時間、歩美と他愛もない話をしているとすぐに時間が過ぎた。つうちがきたのであ携帯を確認すると家族のメッセージのグループに俺たちの昼飯が必要かというメッセージが来ていた。
「おまたせしました。こちら……」
丁度頼んでいたものが来た。目の前には結構ボリュームのあるパンケーキが置かれた。そしてやはりオシャレだ。
「おにい、こっち向いて」
「ん? どうした?」
カシャッ
と、携帯のカメラの音がした。写真を撮られたようだ。しかも携帯の通知が来たと思ったら家族のグループに今撮った写真が貼られた。パンケーキと俺の顔が写っている。
「なんでそんな急に撮るんだよ」
「今更だけどお昼ご飯いらないよって送っただけだよ。じゃあ次ちゃんと撮るね」
ニッコニコの歩美がカメラをこちらに向けている…
「こっち向いて笑って」
「こ、これでいいか?」
精一杯の作り笑いに控えめなピースサインをすると、歩美は俺の写真を撮った。
「いい写真撮れた。おにいとの思い出」
歩美が嬉々として見せてくれたスマホの画面には、笑顔でピースサインをしている俺が写っている。
「…これ、スマホの壁紙にしようかな」
「やめとけ。友達にブラコンってことバレるぞ…あと、早く食べよう。時間が経つと不味くなるかもしれないしな」
「そうだね。じゃあ、この写真は大事にする…えへへ、またコレクションが増えた」
「…ま、まぁ好きにしてくれ。とりあえず食べるか」
「うん!」
もちろん歩美のスマホの写真フォルダを見る機会なんてない。もしかしたら中は凄いことになってるかもしれない。
「えへへ、美味しい…あっ、おにいの一口ちょうだい。私のも一口あげるから」
「あーんってした方がいいか?」
「さすがにここでやるのは恥ずかしいからいいよ…」
周りの目が多いからな。さすがにか。
無理にする必要も無いので2人仲良く話しながらパンケーキを食べた。
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