第6話 ペアマグカップ

ショッピングモールに着いた。地元にある唯一にして最強のショッピングモール。休日なので人が多い。


「歩美、はぐれないように気をつけろよ」

「携帯あるし大丈夫」


ここで相手が彼女ならしれっと手を繋げるな。よし!(謎の確認)


「そういえばどんなものプレゼントするかは決めてあるのか?」

「逆にどんなもの渡せばいいと思う?」


それ兄ちゃんに聞くの間違ってると思うぞ。

…と言いたいところだが、それは求めている回答では無い。ちゃんと考えろ俺。


「そうだな、無難なものなら文房具がいいんじゃないか? ちょっといいシャーペンとかペンケースとか、他にはプレゼントあげる子の趣味にあったもの。例えば…アニメ好きならアニメキャラのキーホルダーとか?」

「なるほど…うーん、どうしよう」

「とりあえず色々見て回った決めよう。時間なら沢山あるし、急いで決める必要も無い」

「そうだね。じゃあ行こ、おにい」


とにかくそれっぽい店に入りまくり、値段を見つつ色々見て回った。


「お客様、こちらのマグカップなんてどうですか? 彼氏さんと一緒に」

「え!? えっと…」

「僕、兄ですよ」

「あっ! そうでしたか。でも兄妹でペアマグカップもいいと思いますよ」


と、こんな感じで予想通りと言えば予想通りだが、行く店も相まって結構店員さんにカップルと勘違いされた。

…それにしてもマグカップか。そういえば最近、歩美はよくカフェオレ飲んでるし、たまには兄らしいことした方がいいのだろうか。そして俺はこの気にブラックを美味しく飲める男になってやろうか(?)。彼女とカフェに入って、カフェオレとか飲むより、ブラック美味しく飲んでた方がかっこよく見えそうだし(個人の感想)。


「妹さんはどうですか?」

「あっ、えっと…大丈夫なので」


思ったよりグイグイくる店員にビビっている歩美。ここは助けなくては。というかもう買おう。

迷惑そうにしている歩美を見て、店員さんは笑顔で去っていった。


「歩美、最近勉強する時とかカフェオレ飲んでるだろ?」

「え? うん、そうだけど…」

「じゃあせっかくだし買うか。俺も丁度(数十秒前)マグカップ欲しかったところだし、これ…」


いや待て! 兄ちゃんとペアが嫌だと思われるリスクを考えていなかった!


「おにいとペア?」


おっと、これはまずい…


「ま、まぁ…そうなるな」


完全シスコン認定されてキモがられるかもしれない。いや、別に歩美のことは普通に好きだからシスコンではあるけど、いやそうじゃなくて、歩美がそれなりに俺の事を好きなのは知っているがキモがられる可能性がある……クソ、お兄ちゃんらしいこととか考えなきゃ良かった。それか先に確認取れば良かった。歩美の言動にマグカップ欲しいなんて過去一度もなかったし、そんな雰囲気も出てなかった。ってか、それ以前の問題だし…あー、どうしよう。って今更考えても意味ないのになんでこんな色々考えちゃってるんだ俺ぇ!


「うん、いいよ。マグカップはかわいいの欲しいなとか思ってたから」

「そ、そうか! じゃあ選ぶか」


良かった…あんま気にしてないみたいだ。思春期なのもあって最悪気持ち悪いとか言われかねない状況だったので本当に危なかった。


「おねえとはお揃いのリボンとか買ったことあったけど、おにいとお揃いで買うの初めてだから嬉しいかも」


なんなら喜んでくれてた…


「どんな柄のやつにする? 結構いっぱいあるけど」

「歩美の好きなやつでいいぞ」

「それじゃダメ。おにいと一緒に選ぶ」


そこそこ悩んだ結果、片方が青色、片方が赤色で黒い猫のシルエットの入ったものにした。いい感じに合わせると猫が向き合っているように見えるというものだ。そして持ち手は半分にしたハートっぽい形になっている。


「…よし、じゃあこれにするか」

「うん」


歩美の顔がちょっと赤い。多分俺もだ。理由は簡単、明らかにカップルや新婚さんが持ってるそうなものだからだ。


「お会計5280円になります。紙袋をお付けすると10円かかりますがどうされますか?」

「紙袋もお願いします」

「では紙袋の分も合わせて、5290円になります」


結構高いな。だが余裕で払える。一応何かあった時のために現金2万円持って来ておいて正解だった。


「5300円お預かりします。こちらお釣りとレシートです」


レジにいたニコニコの店員さんからは間違いなく俺らがカップルに見えているだろう。店を出ると、歩美は自分の財布を取り出した。何をしようとしたのかすぐにわかった。


「これはお兄ちゃんからのプレゼントだ。プリンのお礼だと思ってくれ」

「え? でも値段が全然釣り合ってない」

「そんなこと気にするな。たまにはお兄ちゃんらしいことさせてくれ」

「…ありがと。大切に使うね。えへへ♪」


そう言ってニコリと笑った。まだほんのり顔が赤い。


「…ねぇ、おにい、一つだけわがまま言っていい?」

「なんでも言ってくれていいぞ」

「じゃあ、もしおにいに彼女さんができてもペアのマグカップは買わないでね。もし彼女さんにプレゼントされちゃったらしょうがないけど…どうせならできるだけ長く一緒に使いたいから」


かわいいお願いだった。思っていた以上に気に入ってくれてるみたいだ………って言うか今の発言、俺のこと結構好きなんじゃないか!? 俺の彼女はいもうとです。みたいな展開になる可能性あるのか?


「そうだな…ずっと大切に使おう」

「うん! 約束だよ」


歩美は俺の事どう思ってるのか聞いてみよう。やりすぎると変な空気になりかねないうえに、関係が崩れる可能性もある。


「それにしてもそんなに喜ぶなんて、歩美は俺のこと大好きなんだな」


軽く煽るようにそう言ってみる。すると歩美は顔を少し赤くした。これは俺の事好きだ(確信)


「そ、そんなの当たり前だよ。私おにいのこともおねえのことも大好きなんだもん。全然ブラコンだし、シスコンだし…おねえに褒められたり頭撫でられたら嬉しいし………き、今日だって、私もう中学生で、おにいは男の子だからダメかなって思ってたけど、昔みたいに手繋いで欲しいな…とか思っちゃってたし…このマグカップもホントのホントに嬉しかった……私何言ってるの!?」


と、話終わる頃には顔が真っ赤だ。まったくかわいいいもうとである。


「わ、悪い!? …私がおにいとおねえのこと大好きなこと」


あっ、開き直った。


「悪いどころかむしろ嬉しいだろ。ってか知ってたし…俺だって歩美のこと好きなわけだし、たとえば手繋いでって言われたら喜んで繋いでやる」


家にいる時は基本おとなしい、たまにちょっと甘えてくるようなところあるけど。おにいのことは、好きだよ?…くらいのテンション感だと思っていたが、姉ちゃんを超える勢いのブラコンだった。


「…でも中学生にもなっておにいに昔みたいにぎゅって手握って欲しいとか恥ずかしくて言えないもん」


言っちゃってるやんけ…手繋ぎたかったのか。


「歩美が家に来たばっかりの時のことか。あの時は俺も兄ちゃんみたいなことしないといけないと思って色々しようとしてた気がする…で、手繋ぐ?」

「そうそう、おにいなんか頑張ってた気が…って、え!? 手繋ぐの? 人がいっぱいいるし、私いもうとだよ? ……いいの? 知り合いとかいたら勘違いされちゃうよ?」


遅れて飛んできたリアクション。かわいいかよ。

そんなのちょっと説明すればなんとでもなるだろう。それに俺にいもうとがいることは割と周りのヤツ知ってるし、わかってくれてるはずだ。


「気にするな。兄妹仲いいねって言われて終わりだ…歩美が学校でからかわれそうだから嫌だって言うなら別に無理しなくていいけど…」

「ううん、せっかくだし繋ぐ」


歩美がゆっくり出した手を取った。歩美がこちらをじっと見ている…ちょっと恥ずかしい。


「おにい、変わらないね。なんか面白い」


歩美がクスクスと笑っている。


「何がだよ…」

「昔、よくおねえとおにいが手を繋いでくれてた時、おねえのほう見るとニコって笑ってくれるの。でもおにいの方見るといつもちょっと顔を赤くして私から目をそらすの。今も赤くなった」


何となく覚えてる。何も言わずにじっと見られるとどうしていいか分からずにあたふたした後、目をそらしていた気がする。

今でもそうだ。男相手には何したいんだよとツッコミを入れ、女相手だと兄妹姉弟でさえ、つい顔が赤くなって目をそらしてしまう。そもそも無言で見つめてくるやつなんてそうそういないので別に珍しい反応でもないと思う。


「それにしてもおにいと手繋ぐの久しぶりだね。なんか昔に戻ったみたい」

「歩美は昔に比べて大きくなったけどな」

「何それ。おにいなのに親みたいなこと言ってる。それにおにいも大きくなってるし」


また歩美はクスクスと笑った。マグカップを買い、手を繋いでるおかげか先程より楽しそうな歩美と引き続きショッピングモールを歩いた。

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