第5話 義妹とショッピング

テケテンテンテンテンテンテン♪ テンテケテンテケテンテン♪…


「…ん」


スマホにデフォルトで着いているアラーム音、時間を確認すると8時5分。カーテンを開けると雲ひとつない快晴だ。

二度寝したい気持ちをグッとこらえ、一階に降りると洗面所に姉ちゃんがいた。


「きょーがおはよう。えっ? すごい早起き」

「まぁな」


着替えて外出準備万全の姉ちゃん。察するに朝からバイトみたいだ。


「朝ごはん食べる? 今なら時間あるし作ってあげちゃうけど」

「おん、ありがと」


姉ちゃんはキッチンに行くと朝食の準備を始めた。母さんは多分ごみ捨てか買い物に出ている。父さんと歩美はまだ起きてないようだ。


「あっ、そういえばさっききょーが宛に荷物届いてたよ。段ボールで。玄関置いてあるから持ってって」

「あー、ありがと」


朝イチって言ってたけど朝イチすぎだろ…

美容師さんに選んだ貰った例の服である。本当に朝イチで届きやがった。


「ちなみに何買ったの?」

「服」

「へー、珍しいね。きょーががネットで服買うなんて」


俺の服はだいたい友達と買い物に行った時に買うか、あまりにも着る服ないと母親が買ってくる。しかも俺はシンプルな服しか選ばない、ネットで服買うなんて考えすらないような人間だ。


「髪も整えて、服も買うなんて…やっぱり彼女か」

「うるせぇよ。いいだろ別に」

「ま、いいけどね」


ニコニコしている姉ちゃん。

ダンボールをそそくさと部屋に運び入れ、中身を確認してみる。シンプルと言えばシンプルだが、美容師オシャレなひとが選んでくれたおかげがいい感じだ。何となく姉ちゃんに見られたくなかったので着替えるのは後にしよう。1階に降りてくるとソーセージを焼くいい匂いがする。


「トースト、ソーセージ、オムレツ、切っただけのキュウリ、食べたかったらヨーグルト。ちょうどいい朝ごはん完成」

「さすが姉ちゃん。バターだっけ?」

「うん、出しといて。ついでにお茶も」


8時起きが早起きと言えるかは知らんが、早起きは三文の徳とはよく言ったものだ。

姉ちゃんとニュースを見ながら少し話し、食べ終わる頃には9時前、姉ちゃんはもうバイトに行かなくてはならない時間らしい。


「じゃ、いってくるね」

「いってらっしゃい、バイト頑張れよ〜」


姉ちゃんを見送ると真っ直ぐ部屋へ。早速着替えてみた。


「…」


鏡を見る。劇的に変わった訳では無いが、いつも着ている服に比べれば圧倒的に良い。シンプルなクセにちょっと値段がお高くてビビったが頼んで正解だった。次は髪をセットしなくては…

本当はヘアアイロンとかあった方がいいらしいが、美容師さんに教えてもらったヘアワックスのみの簡単なセット。

教えられた通りまずドライヤー、次に適量のワックスをいい感じに髪に馴染ませる。そして整えればいい…のだが、


「…なんか違くね?」


上手くいかない。美容師さんがやってくれたみたいにならない。結構な時間髪を弄り回し、何もしないよりマシくらいにはなった。


「…あれ? おにい起きてる。おはよう」

「おはよう、歩美」


チラッとスマホで時間を確認すると9時半、どうやら髪を30分くらい触っていたらしい…しかも上手くできてない。

歩美は朝イチで髪もボサボサでぼけぼけしている。歩美はいつも俺より起きるのが早いので、こんな姿を見るのはなんだか新鮮だ。


「10時までは寝てると思ったのに…」

「残念、8時起きだ」

「おにいなのに早い……しかもよく見たら、すごい気合い入ってる!?」


歩美は俺のことをちゃんと認識した瞬間目をかっ開いた。確かに今の俺は過去一レベルで気合いの入った格好だ。


「私も勝負服…」

「デートじゃあるまいし気合い入れなくていいぞ」

「ダメだよ。おにいの隣に立って周りから…あの女、男と釣り合ってなくねww。とか思われたらおにいに申し訳ないから(?)」

「お、おう…」

「とりあえず朝ごはんは食べる。その後、時間かかるかもだけど待ってて!」

「おう…」


よく分からないが、歩美のスイッチをいれてしまったようだ。実の妹じゃないので、はたから見たら兄妹というより、付き合っていると見えるかもしれないがそこまで意識する必要はないだろうに…


約30分後…


「おまたせ…」


歩美がリビングに来た。整った髪に、きれいめワンピース、それにショルダーバックを持っている。

…女の子のエスコートの練習、今待ち合わせ場所に来たという想定で考えてみよう。ポジティブ、明るく笑顔、言葉遣い、褒める。あんまやりすぎてキモがられないようにさりげなくだ。


「全然大丈夫だ。よく似合ってる」

「ありがと。じゃあ行こ」


外に出ると最寄りのバス停へ向かう。目的地のショッピングモールまでは車以外ならバスで行くのが一番楽だ。


「あら、響雅くんに歩美ちゃん。おはよう…もうこんにちはかしら」

「和泉さん、おはようございます? こんにちは?」

「おはようございます? こんにちは? …です」


和泉さんの家の前を通ると、買い物帰りの和泉さんと出会った。そういえば昨日クッキーをくれると言われていたのに、朝会えなかった。


「歩美ちゃんと会うのは久しぶりね。今日は二人でお出かけ?」

「はい、そうです」

「仲がいいわね。それに今日の響雅くんなんだかかっこいいわね」

「…浮気は良くないですよ」

「歩美? 和泉さんはそんなこと思ってないぞ」


ちょっと失礼なことを言う歩美。


「ふふ、別に響雅くんにそんな感情抱いてないわよ。あっ、そうそう。クッキー渡さないとね。ちょっと待ってて…」


和泉さんは小走りで家に入ると口をリボンみたいな紐で縛った透明な袋に入ったクッキーを持ってきた。シンプルなバタークッキーだ。


「はい、どうぞ。あんまりないけど歩美ちゃんと一緒に食べて」

「…あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

「また感想聞かせてね。あんまり邪魔しても悪いからもう行くわ。いってらっしゃい」


クッキーを受け取ると和泉さんと別れた。何故か歩美は機嫌が悪そうだ。


「…歩美、どうした?」

「いや、既婚者なのに他の男に手を出そうなんて…しかも私といういもうとの前で」

「和泉さん、そんなつもりないと思うぞ…ほぼ毎朝あうからちょっと仲良いだけだ」


思春期だからかな? そういうことにすごい敏感だ。


「だとしてもわざわざ手作りのクッキー持ってくるなんてやりすぎだよ」

「このクッキーは和泉さんが夫さんのために作って、ついでにくれたものだから別に浮気とかそんなこと考えてないと思うけどな」


和泉さん清純な女性という言葉が似合うような人だし、ちゃんと夫さんを愛してると思う。


「それならいいけど。おにいがもしも仮に女の子に告白とかされても、お金目当てとか浮気しそうな人とか、既に他の人と付き合ってる人と既婚者とか、そういう人とは付き合っちゃダメだからね。ちゃんとおにいのことを思ってくれてる人じゃないと」

「そんなに心配?」

「当たり前だよ。おにい優しいし、なんか騙されやすそうだもん」


当たり前なんだ。それならとりあえず彼女は作りたいが、ノリと勢いに任せず歩美に心配させないような彼女を作ろう。そもそも作れるかわからんけど。


「それになんかかっこよくなっちゃったから、作ろうと思えば彼女なんてすぐ作れちゃいそうだし」

「安心しろ(?)。多分そんな上手くいかない」

「もし出来たらちゃんと私に言ってよ。気を使うから」

「わかった。出来たらちゃんと報告する。そんなこと言ってる歩美は彼氏作らないのか?」

「…わかんない?」


少し歩美と話してみた感じ、あんまり彼氏を作ることに関心ないみたいだ。


「クッキー食べる?」

「食べるよ?」


その後特に何事もなく、バスに乗って、ショッピングモールへ向かった。

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