第3話 ③ 何気ない日常
「おかえり、晩御飯は冷蔵庫にあるからチンして食べてね。あれ? 傘は持ってかなかったの?」
家に入ると母さんが出迎えてくれた。
「…やべ、学校に忘れた」
予報は雨だったのに降らなかったのですっかり忘れてた。
「ちゃんと持って帰ってきなよ」
「はいはい。飯何?」
「肉じゃが」
リビングへ行くと、父さんがソファでダラダラしていた。姉ちゃんは風呂、歩美は多分部屋だ。先に風呂に入りたかったが仕方ない。飯を食べることにした。
「きょーが、最近バイトどうだ?」
「どうって何?」
「店の雰囲気とかこんな客がいるとか、暇だから話してくれ」
と、テレビを眺めながら聞いてくる。話を聞くつもりは無さそうだ。
「会社帰りの人たち。俺は常連さんの相手してる」
なので適当に返した。
「へー…ふぁあ、明日も仕事だし寝るか」
「おやすみ」
全然聞いてないっぽいが仕事で疲れてるだろうし別にいい。ソシャゲのデイリーを雑にこなしながら、飯を食べ進める。
「おかえり、きょーが」
「あっ、おにい。おかえり」
「ただいま」
食べ終わる頃にちょうど風呂上がりの姉ちゃんと、2階からいもうとの歩美が降りてきた。
「冷蔵庫にプリンあるからおにいとおねえ食べていいよ。抹茶のと普通のあるから」
「歩美が買ってきてくれたの?」
「うん、クラスの子が美味しいって言ってたから気になって買ってきた」
「ありがと。姉ちゃんもまたなんか買ってくるね」
姉ちゃんは笑顔で礼を言うと冷蔵庫を開けた。歩美は俺の隣に座った。
「きょうがー、普通か抹茶どっちがいい?」
「どっちでもいい」
「じゃあ私が抹茶で」
嬉しそうに両手にプリンとスプーンを持って俺の対面へ座った。瓶に入ってる美味しそうなプリンだ。
「はい、きょーがの」
「ありがと」
ほんとうは先に風呂に入りたかったが、持ってこられてしまった。それに隣に歩美もいる。それなら仕方ない。先に食べよう。
「歩美は何味食べたの?」
「私はチョコ。おかあさんはいちごで、おとうさんは紫芋」
「へー、そっちも美味しそう。また今度はお姉ちゃんも買ってこようかな。どこのお店?」
「駅の近くにあるところ」
「ああ、あそこのあの店か。抹茶、ひと口食べる?」
「じゃあ食べる」
姉ちゃんが歩美にあーんさせてプリンを一口食べさせた。
「っん、美味しい」
「きょーがも食べてみる? もちろんそっちも一口貰うけど」
「それ姉ちゃんが食べたいだけだろ? 別にいいけど」
まだ開けてないプリンを開けて、姉ちゃんに差し出した。
「あれ? 姉ちゃんのこと嫌いになっちゃった?」
「…そんなんじゃないって。はいはい、あーん」
姉ちゃんは機嫌がいいとこんな感じだ。子供扱いとかしてくる。今は機嫌がいいし、歩美にやったので流れ的に俺もってやつだ。
「やっぱり普通のも美味しいね。じゃあ次、姉ちゃんの番、あーん」
思った通り笑顔の姉ちゃんのあーんが来た。
「美味い。普通のも……そりゃ美味い」
濃厚なプリンがバイトで疲れた体に染みる。甘い物を食べると幸せな気持ちになる。
「歩美、一口食べるか? 普通のも美味いぞ」
「じゃあ貰う」
「きょーが、ちゃんとあーんってしてよ?」
この流れで歩美に食べさせないのは兄では無い(?)。俺だって空気は読む。姉ちゃんはと言えばニコニコしながらこっちを見ている。
「…姉ちゃん機嫌いいな。はい、歩美。あーん」
「っん…ありがと。美味しい♪」
「仲良いねぇ」
ふと目線を歩美の方にやると話しかけてきた。
「ねぇねぇ、おにいって週末暇? おねえはレポートがあって行けないらしいんど、どう?」
「んっ? 土曜なら暇だけど、何するんだ?」
「友達の誕生日にサプライズでプレゼント渡したいと思うんだけど、決められないからおにいにも選ぶの手伝って欲しいなと思って」
「そういう事か、いいぞ。お兄ちゃんにまかせろ」
「ありがと、おにい」
歩美は嬉しそうにニコリと笑った。思わずシスコンになってしまいそうな笑顔だ。いや、もうシスコンか。
「おっ、ちゃんときょーががお兄ちゃんしてる」
「いつもしてないみたいな言い方やめろ」
「おにいはいつも私のおにいちゃんだよ。もちろんおねえも私のおねえちゃん」
歩美が家に来たのは今からだいたい10年くらい前で、昔から俺と姉ちゃんには心を開いてくれている。両親が亡くなってしまい、親戚からまた親戚…と色々あり、遠い親戚の恋瑠璃家に来たって感じだ。
「きょーがから見て姉ちゃんはお姉ちゃんしてると思う?」
「おん」
「どんなところが?」
「弁当作ってくれるところ」
「美味しい?」
「美味しい」
「ありがと♪」
「なんだこれ」
「きょーがは姉ちゃんのこと大好きなんだ〜」
「別に好きだけど?」
週末、土曜は義妹の歩美と買い物日曜は幼なじみの楓と映画。珍しく予定が埋まった。
「じゃあ俺風呂入るから。歩美、プリンありがと」
「うん、土曜日忘れないでよ?」
「分かってるよ」
風呂は既に俺が最後だ。風呂から上がると部屋へと向かった。ゲームの電源を入れ、フレンド欄を確認するとcoreさんがオンラインになっている。ヘッドセットの準備をしていると、coreさんから招待が届いた。
「kyo、バイトおつかれ」
「coreさんも一日おつかれ、とりあえず一戦カジュアル行きますか」
「おっけー」
いつもこんな感じでぬるっと始まる。
「はいー! 運だけヘッショ!」
「kyoの仇はとる」
「まかせたcoreさん、俺は高台のスナ野郎を殺す」
でかい声を出すと家族に迷惑なのはわかってるが、つい声が出てしまう。少し時間が経って、
「kyo、学校生活どう?」
「別に普通っすね。可もなく不可もなく、平凡な学生生活ですよ。coreさんこそどうっすか? 彼氏出来ました?」
「こんな時間にゲームしてる時点お察しだろ?」
「あーね」
coreさんも何歳かは知らないが多分学生だ。そして声低め。どこに住んでるかももちろん知らない。
「kyoこそどうなの? 話聞いてると女友達多そうだけど」
「友達はいますけど彼女はいないっすよ…ってか話しましたっけ?」
「部活、幼なじみ、クラスメート、バイト先とか色々話してた」
「ちゃんと話聞いてるんすね」
「人として当然」
詳しく言ったことは無いが、こんなやつがいて……みたいな話はした覚えがある気がする。
「というかさ、kyoって彼女作る気あったんだ」
「そりゃあ欲しいっすよ。俺も甘酸っぱい恋したいっすよ」
「私とするか?」
「どこに住んでるかも分からない、顔も知らないんすよ? もしかして出会い厨っすか?」
オフ会開こうとか男の俺から安易に言うの良くない気がするし、そもそも住んでる場所離れてたら会うの大変だ。
「冗談。ってかさ、本気で彼女作りたかったら、ちょっとオシャレしてみるとか、思いきって二人きりでどっか行こうって誘ってみるとかしてみたら? もうしてるなら知らんけど。どうせ学生だし、付き合えるのなら付き合いたい、相手はある程度誰でもいいみたいなやつ?」
その通りだ。そこそこ女友達がいて言い方は悪いかもしれないが、特別好きなやつもいない。なんにも分からないが、とにかく誰かと付き合ってみたい。それくらいの感覚だ。
「ま、そうだけど…俺が変なこと言って友達っていう関係崩れるの嫌だなと思ってるんすよ」
「だから、どっか行こうって誘って探り入れればいいんじゃない? すぐに告白じゃなくて、何となく聞いてみるみたいな」
「…なるほど?」
よく考えたら、俺からなにか誘うことは少ないし2人きりで遊ぶというのも楓以外にない。そうやって2人きりになればワンチャンあるかもしれない。
「例えば私を誘うならこのゲームのモデルになった紛争地いかない? とか」
「それは違う気がします」
「ま、とにかく適当誘ってみたら? 知らんけど」
「…そうっすね、意識してみます」
彼女が欲しいというのは事実、明日からは意識してみよう…まずは身の回り、ちょっといい洗顔とか美容院に行こう。明日、本気で準備する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます